第19話 定期報告
2023/4/18
誤字脱字、文章編集、ルビ振りを行いました。
ナナカミラが初めてナカムラタダシに、焼き払った虫達の死骸の処理を命令したその日。
定期報告の為にシンの住処まで赴いていた。
「どうゆうことだ?」
訪問早々、開口一番、そう尋ねられたシンは、
「なんだいきなり?」
思い当たる節がないシンは当然疑問の声を上げる。
「源素の話しだ」
「あー、」と声を出すが、なにをそんなにぷりぷりと怒りを露わにしているのかまでは分からない。
それでも、定期報告をし始める。
「前にも話したと思うが、回復という手段はうまくいかなかった。しかし、自然源素のコントロールは想像していた形ではなかった中々うまくいっている方だろう」
「それだっ」
「だから、一体なんだというのだ」
「自然源素のコントロールが出来ているということだけでも想定外だったんだ! それが、なぜあそこまでできるようになっている! 加えて、なぜそれを報告しなかった!」
徐々に声を荒げるナナカミラだったが、
「何を言っておるんだ? 報告してただろう」
「あそこまで出来るようになっているとは聞いていない!」
「ん?」と、シンはお互いに何かすれ違いが起きているような錯覚に陥る。
そして、思い当たることを確認するように尋ねた。
「お前さん、タダシとどれくらい会話を交わしておる?」
「何を?」
「もっと単純に尋ねようか。タダシに現在の訓練状況を聞いたことは?」
「そんなものお前の報告だけで――」
シンはため息を吐いた。
「もっと尋ねようか? タダシの訓練の成果をなぜ、今まで確認しなかった?」
「必要なかったからだ」
「必要になっとるだろうが」
「それはお前がっ――」
「何か勘違いしとらんか? 私のは所詮報告にすぎん。細部の変化や状況の対応は、お前さんがやっているのだろう。だとしたら、報告と一致しているのかも含めて確認するべきなのではないか? なにより、単純な話、同居しているのだから、会話ぐらいせんか」
そこまで言われるとナナカミラは押し黙るしかなかった。
報告はあくまで報告であり、その為の確認はナナカミラがするべきだった。
なぜなら、他にそれをやる人間がいない。
なにより、シンはそれを人間生活の当たり前の中で行っていると思っていたからだ。
それこそ、報告ではない、本人の口から自然の会話の中で聞きだせる。
「……そうか。私の落ち度だな」
「馬鹿かお前さんは?」
呆れたようにシンがそういうと、
「なんだと」
素直に失態を詫びたというのに、その言い草にナナカミラの目つきが変わる。
「私はこの件を引き受けるにあたって、お前さんに尋ねたな? なぜそのような子供を監視するのかと? すると、お前さんはこう答えた。『ジャンオル・レナンに近づくためだと』」
「それがどうした?」というナナカミラの表情は先ほどと変わらない。
「ジャンオル・レナンに近づくための手段として、ナカムラタダシという人間を知ろうとするのに、距離をとってどうするんだ?」
なにも言い返せない怒りの表情は、今まで通りの無表情に変わる。
「元『影』といってもまだまだ若造だな」
そう言うとわっはっはと笑って見せる。
それでいてシンは『影』という役割を完璧にこなしてきた代償だとも思っていた。
『影』であるかぎり、任務遂行の為に色々な訓練を受ける。
その中には日常のふるまい方なども含まれた。
本来であれば、それは自然な形で行われなければならないが、ナナカミラの場合知識として覚えてしまったのだ。
だから、先人の者としてタダシに向ける同じ視線で応えた。
「タダシと話してみろ」
異世界人という不思議な存在がどんな影響を受け取れるのか。
「そうすれば、レナン様に考えに近づけると?」
まだ、何かが変わる可能性は見えない。
それでも、きっかけは生まれる。
それでどうなかも定かではないけれど。
「さぁな」
そして、それは誰にもわからない。
「思案はしよう」
重々しくなった空気に静かな時間が過ぎる。
そんな空気の中でも、ナナカミラには確かめなければいけない話はまだあった。
「奴に関して尋ねておきたい事がまだある」
まるで、それは自分にはわからないと言いたげだった。
「お前から見てあいつはどう見えている」
なんとも抽象的な質問だった。
それにシンは、少し唸る。
「難しい質問だな」
「一言で言い」
それがどれだけ難しいかと再び唸るシンだったが、一応の答えは持っていた。
「平和ボケの中でも、ひと際優しい男だ」
「そうか」とそれだけ返したナナカミラの表情からは何も読み取れなくなった。
おそらく、理解できなかっただろう、と思うついでに、思い出したようにシンは付け加えた。
「おそらくだが、今行っているそちらの訓練。必要になるだろうが、お前さんが期待している所には立たないと思うぞ」
「才能がないと?」
「ない」
はっきりと言った。
「だが、死ぬ寸前、もしくはそこまで追い込まれたその瞬間ならば、奴も力を振るわなければならなくなる。それこそ、人の命を奪ってでもな」
その時になれば、自ずと訓練が生きる。
そうナナカミラは結論付けていた。
「どうだろうな。そこに他人が含まれない限り、あやつは舞台にも立たない気がするが」
「そんな人間はいない。いるとすれば、何もせず、何も得なかった人間だけだ」
きっと間違いではないのだろう。
「そうならない事を祈るだけだな」
きっとその時が来るまで、その答えはでない。
もう尋ねる事もなくなったナナカミラは、シンの住処を後にする。
残されたシンは、弟子となったタダシの事を考えていた。
「死にさえしなければそれでよい」
もう遠い昔、一人の友人を重ね。
古い友人を想う。
おそらく、今月最後のUPになります。
以後、よろしくお願いいたします。




