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異世界だろうとのんびりと  作者: ダルマ787
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー第五巻ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
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第18話 黒い悪夢

2023/4/18

誤字脱字、文章編集、ルビ振りを行いました。

これはいかん、俺の食事が遠のく気配がする。


「訓練中でーす」


誤魔化せ、ただでさえ、隙間時間は少ないのだ。

これ以上、余計なことを増やしてはならない。


そう思っていたのだが、


「そうですね、話しには聞いていましたが、まだ私も見ていないですね」


おおっ、後に、食事の後にしてくれぇえええええええええっ!


そんな心の叫びも空しく。


「成果を見せていただきましょう」


止まったナナさんの足は、体ごとこちらに振り返り、玄関は後ろになった。


完全に訓練の続きが始まったのだ。


「な、なんだよ、そんな目で見るな」


恨めしくメダを見た所でもうすでに手遅れ、俺は泣きそうになりながら、説明に入るしかなくなった。


「源素を集めることは前にできたことで、今はそれをたくさん集められるようにしてます」


諦めたら話は早い。


俺は両手を前に掲げる。


「あ、俺には見えないので感想教えてくださいね」


集めた源素は、源素切れの状態の俺はシンの影響化にいないと見ることが出来ない。

だから、源素訓練の判断は他人に委ねる他ない。


「じゃあ、初めまーす」


シンとの訓練同様、俺は言葉にできない感覚だけで自然源素を集め始める。


その際、集中力を高めるために目を瞑り余計な情報は入ってこない様にすることが多くなった。

それをなぜかと聞かれれば、見て大きくするのにも限界が来たからだ。

最終的な結果は、シンが見てくれて、後から聞けば同じになってからは、このスタイルに落ち着いている。


辺りに静けさが漂う。


「…………」


それがどれくらい経った頃か、あまりの静けさに返って集中力が切れた。


「いーや、無反応!」


そう言い目を開けた先に待っていたのは、口を開いたままの三人と、これまた今まで見た事のない表情で目を見開くナナさんの姿だった。


「え、どういう反応?」


ハッと正気に戻ったようナナさんが尋ねてくる。


「これを知っているのは、ここにいる面々だけですか?」


集中力が切れても、一応は手の上に源素を集めているつもりではいる。


「あー、大きさはどれくらい?」


「フットシシの子供くらいだ」


いや、わからん!


「このくらいの大きさです」


リーダーに代わってルピネスが胸元で円を描くジェスチャーで教えてくれる。


「そのサイズなら今いるメンツだけ」


(とい)にそう答えると、ナナさんの表情が強張る。


「その言い方ですと、他で披露したと?」


頬の上を引きつけながらどこか怒りを感じる。


そして、俺の代わりにメダが答えた。


「ギルドで披露してるはずだ」


その瞬間、ぞわっとした寒気が四人を襲う。


驚いた拍子に集めていたと思われる源素も霧散してしまった。


「あなたはどうやら目立ちたいようですね」


そう言い近づいてくると胸倉を掴まれた。


そこからは、『風の行方』のメンバーには聞こえない様に配慮はされているものの、怒りが込められる。


「貴様が冒険者に紛れ込んでいる理由を理解しているのか?」


「ぐぇ、そ、それは、勇者の剣を折った俺を探し始めるだろうから、隠れる為に……」


「それなのに、誰も成しえていない自然源素のコントロールを披露したと?」


胸倉の力がさらに強くなり首が締まっていく。


「そ、そんな、こと言われても、その時、知らなかったし、」


そう言うと、胸倉は離された。


「常識がないのは知っていたが……。シンの奴、ちゃんと説明しなかったな。っち、失態だな」


情報の共有をしっかりしなかったシンに悪態をつき、なにやら自身を戒める言葉を呟くと、視線は『風の行方』のメンバーに向けられた。


「こいつらを消せば、揉み消せるか」


溢れ出る殺気に今までの訓練とは違う恐怖が三人を襲う。


「ね、姉さん……?」


「い、一体何が……?」


「ど、どうなされたんですか?」


あまりの恐怖にカルトア、メダ、ルピネスが立ち上がることもできない。


不穏な空気が辺りを支配し、これが『影』として生きてきたウォータリー・ナナカミラの本来の姿なのかと思わされた時、不意に俺は一つの疑問を口にした。


「あれ? それって困るの俺だけなんじゃ?」


何に対して怒られているのか考えている内に出てきた疑問。


「……は?」


殺気に困惑が混ざる。


「いや、だから、そうなったら、そうなったで、困るの俺だけだから、別に、ねぇ」


改めてナナさんが何かを考え始める。


そして、


「私が何のために――」


「……監視?」


そもそも、ナナさんが俺に着いてきた理由は、勇者の剣を破壊した俺の監視に他ならないはずだ。

イェールの恩情とも言える今の状況は、他の被害を出さない為。

だとしたら、俺の存在というか、居場所がバレたとしても、その害を被るのは俺なわけで、


「問題ないのでは?」


殺気が完全に消える。


代わりに深い、とても深いため息がナナさんから漏れた。


「…………もういい。だが、これ以上人前でそれを見せるな」


何かを諦めたようにそう指示された。


「了解です」


火に油を注がないようにその提案をすぐに飲み、事なきを得る。


そして、


「そこの三人、このことは口外無用です。よろしいですね」


否定はさせない言い草で、三人もコクコクと素早い返答を返した。


「もう結構で…………」


そう言い終わる途中で、ナナさんの視線が草木のある方へ向けられる。


そして、俺の顔を見るや再び明後日の方へと向く。


これはいわゆる二度見というやつではないだろうか。


だけど、なんでこのタイミングで変な仕草をするのか、俺は首を傾げて同じ方向を眺めてみる。

あるのは、家の敷居を囲む石でできた外壁に、生い茂った草や木が植えられている。

少し離れた町から離れている分、その草木はいい目くらましになっているくらいの、どこもへんな所はない。

至って普通の風景だ。


「……ん?」


ふと、何か黒い点が数点現れた気がする。


気がすると思ったのは、ほんの小さい点に見えたからだ。


「わ、私は食事の準備に入りますっ」


慌てた様子で、家の中へと向かっていってしまう。


ナナさんの様子に誰も気にしてはいなかった。

ただ一人、ナナさんに惚れたメダだけが、あの恐怖の後だというのに、


「姉さんの食事を食える⁉」


そう発言した。


ナナさんは立ち止まることなく一度振り向くと、


「あるわけないでしょうっ」


そう言って、玄関の扉は冷たく閉ざされた。


慌てている割に、きっちり言う事は言うんだな。


「変なの」


そう笑みを浮かべた俺だったのだが、それはすぐに凍り付いた。


さっきまで敷地の外にあった黒い点が複数現れている。


「なっ⁉」


それも徐々に大きさも数も増えている。


そして、俺は気が付いた。


俺の自然源素はナナさんの怒りによって霧散した。

それがどういう形で消えたかはわからない。

でも、それがシンの洞窟と同じように破裂する形だった場合――シンは何と言っていたか?


『源素の集まりに餌と勘違いした魔獣が寄ってきてしもうた』


源素は生ける者全てが持っている。


それ詰まるところ、


「虫の餌にもなりうるってことっ!」


まるで、俺の叫びを合図と受け取るように昆虫が集合体となって作る黒い霧がぶわっと出現した。


「きっもぉおおおおおおおおおおおおおお‼」


一人事態を把握した俺はナナさんの足取りを本気で追いかける。


昆虫の大群との距離は残り僅か、そんな時ナナさんが走る俺を中に入れる為に扉を開けてくれた。

飛び込むように家の中にダイブ。


「残念だ……、私ができる事はもう何もない」


そう言って玄関の扉をカチリと施錠した。


ナナさんは、間に合うものは入れるつもりがあったようだ。


そんな俺とは違い、圧倒的に気が付くのが遅れた『風の行方』。


「ひぃやぁああああああああああああああああああああああああああああああああああっ‼」

「ぎぃゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああっ‼」

「――あsdfghjklッッッ⁉」


黒い悪夢の犠牲者の悲鳴が家の外で木霊した。


「南無三」


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