第12話 師匠の能力
2023/4/18
誤字脱字、文章編集、ルビ振りを行いました。
「成長が見えん」
新しい生活は、日々変化が起きやすい。
自然源素のコントロールを始めてから数日が経ち、いつものように過ごしていたら、突然、シンにそう言われた。
「そう言われても、そんな簡単に成長できるもんじゃないでしょ?」
これが数か月とか、数年単位で言われるなら理解できる。
それがたかが数日で言われたんじゃ、たまったもんじゃない。
「いや、語弊があったな。成長というよりは変化といった方がいいかもしれん」
どゆこと?
「事実を理解してもらおう。おそらくだが、お前さんは初めからそれぐらいはできたのであろう」
どゆこと?
「お前さんが、自然源素のコントロールを初めて行ってから、そこに変化が起きておらん。試しに、今集めている源素を大きくしてみろ」
そう言われても、と思うけど、やる事は頭では理解できた。
一応、言われたことを意識しながらいつも通りイメージの中だけで源素を集めてみる。
「どう?」
どこから、納得したようにシンは変化がないことを教えてくれる。
「イメージと実際起きている事の差異か……」
「差異?」
仮説だと前置きしてから、シンの説明が始まった。
「そもそもだが、自然源素のコントロールというものは原理や推論のなかでは誰でも出来るとされてきた。しかし、その根本、やり方が誰にも解明できずにいる。だからこそ、尋ねよう。お前さんはそれをどう行っている?」
「どうもこうも見えないから、適当に、こう感覚で――」
「そう、それがこの世界で誰にも成しえなかったやり方だった。しかし、お前さんは源素を可視化できなくなり、それ以上の発展に留まっている」
「えー、でもそれって矛盾じゃない? 元々シンのところに来たのって源素をまた使えるようにするためだったわけでしょ? その原因がわからないから自然源素の……、ってちょっとまった、誰もできない事を俺にやらせようとしたの? 無茶苦茶じゃない?」
「厳密には違う。まぁ、期待もしていたが。元は、自然源素のコントロールをやらせようとしたわけではない。この世界で源素を扱う場合、だいたいは幼少期に源素を感じられることから始める。その際、自身の源素を感じるとき、自然源素も感じることができる。その手順を追っただけの事。しかし、お前さんはそれを集め、凝集し、顕現させた。だから、方向を変えたに過ぎない」
説明されればされるほど、すごいことなのかもと思う反面、見えない、感じられない、俺ができることは誰でも出来る精神から、複雑な気持ちになる。
「理想は自然源素の取り込みから、本来の源素を扱えるようになることだったが、それも憶測からくる試しだった」
「結構実験的要素多いよね?」
「仕方なかろう。お前さんに起きていることはイレギュラーすぎるのだ」
そう言われても存在がイレギュラーな身からしてみれば、どうすることもできない。
「さて、そこで質問だ」
「はいはい、どうぞ」
修行の最中時折混ぜられる会話。
だいたいは、俺の世界の話しで、どうやらシンが出会った異世界人の事を知りたいがために聞いてくる。
シンの反応から、その異世界人が俺と同じ世界から来たものかは判断ができなかった。
それでも、シンはその話を楽しそうに聴いている節がある。
それは思い出に浸っているだけなのか、別の理由かはわからない。
どんな理由であれ、俺も元の世界の事を聞いてもらえることが、うれしいと知った。
今回はどんな話をしようかと思っていたのだけど、
「なぜ私はここにいる?」
どうやら、違ったようだった。
それにしても今更な質問をしてくる。
「いや、だから、俺の源素を元に戻す為に――」
言い終わるや否や、
目の前に自然源素が広がった。
「えっ⁉」
突然の源素の回復、使えるようになった。
――そう思った。
「私の源素をお前さんの色に合わせ目に集めている」
これは俺が、身体強化を目に集めていたやり方であり、他人の源素を回復したときにも行っていた事だ。
「……シンが俺の師匠になった本当の理由」
「これはある種の者だけが出来る源素のコントロールだ。誰も彼もできるわけではない」
アイミが源素を使って石化をできるように、種族によって源素でできることは変わってくる。
「私には色々な血が混ざっているからな」
忌まわしき末裔の血によって、与えられた能力。
それをシンがどう思っているかはわからない。
ただ、そんなことよりも、俺は純粋に思ったことを口にした。
「いや、あんたがチート持ちかい!」
そんな回答にシンは目を丸くした。
「くく、くははははははははははははっ!」
シンは額に手を当てながら顔を隠して大笑いした。
「いやいや、普通、異世界人がチート能力を持つって相場は決まってるんだよ。なのに、俺は制限付きみたいな感じなのに、それはズルだって!」
心底そう思う。
尚もシンは笑い続けながら、
「そうか、ズルか」
涙を流しながら、
「この汚れた血が」
俺はその涙を流す意味を知らず、
「経緯がどうであれ、流れてるものなんておんなじだっつの」
ただただ、恨めしそうに言ってやった。
「本当にお前さんらには笑わせられる」
そう言い、
「ならば、このズルを最大限生かしてもらおう」
なぜかやる気全開になった。
「テンション高くなるのも怖いんだが」
それすなわち、やることが大変になる。
「いいか、よく聞け」
はいはいと返事をしつつ、覚悟を決める。
「お前さんが自然源素を効率よく吸収できない理由、それは自然源素の粒子の一つ一つにも色がある。当然、それを全て吸収できるわけがない。ならば効率よく回復に回すならば、全ての色を自身の源素に合わせるしかない。しかし、それが今のお前さんにはできない。ならば、出来ることをやれ」
見えるようになってからも、俺の源素はうんともすんとも変化が起きない。
代わりに、自然源素を掌に集めやすくなった。
見えない中でも出来ていた源素の塊がこんな感じだったのかと理解し、それを大きくしてみる。
――進展。
それにシンは頷く。
もっと大きくしろってことね。
集まっていく源素は風船が膨らむように肥大していく。
だが、サッカーボールくらいの大きさになると、次第に維持が出来なくなってくる。
ありとあらゆるところに穴が開くように、抜けていってしまう。
「圧縮だ」
簡単に言ってくるが、俺には源素がただ見えているだけで、色までは見えない。
風船に穴が開いた箇所を埋めるにも、同じ色の源素でフタを閉める必要がある。
しかし、自然源素の色を変更することもできない俺にはどうしたらいいのか、わからない。
無理やり、どうにかフタをしてやろうとナニかをしたんだろう。
突然、源素の塊が耐えきれなくなり破裂した。
「ぐあっ」
その衝撃に吹き飛ばされて転がった。
「はぁはぁ――」
失敗と集中にどっと疲れた。
「これは、いかんな」
「い、一発成功なんて求めないでよ」
落胆の声に文句も言いたくなる。
しかし、シンの言葉の意味は違った。
「源素の集まりに餌と勘違いした魔獣が寄ってきてしもうた」
倒れた体をがばっと起こし、
「どどど、どうする!」
冒険者に同行するようになって、数多く目撃する獣たちに動揺は隠さない。
「仮にも冒険者だろう?」
「見習い以前だよ」
「なるほどな、カミラが言っていたことも一理あるようだな」
俺の情報共有をしているようだけど、どことなく不吉な予感がする。
「どれ、我が家を荒らされてもかなわん。追っ払ってくるか」
「そうしてー」
できるなら、慌てる必要もない。
「一つ尋ねるが、冒険者の仕事は?」
「近々、またダンジョンに潜るのに準備をするらしいから、俺は休み」
荷物持ち見習いに出来ることは少ないのだ。
「そうか、まぁ、頑張れ」
励ましかな?
「まぁ、ほどほどにね」
そんな軽口は、二度と出来なくなる――。
この時の俺は、それを知らなかったんだ。
変則ですが、この時間にUP。
お約束はしませんが、明日もUpできたらしたいと思います。
2023/1/31、8話を追加したので、話数がずれました。




