第11話 鮮血の爪&異変&お説教
2023/4/18
誤字脱字、文章編集、ルビ振りを行いました。
冒険者『鮮血の爪』は全部で九名のメンバーで構成されている全員がCランク冒険者。
そして、ギルドで『風の行方』を笑ったパーティーでもある。
その『鮮血の爪』は三人という少数でダンジョンへとクエスト目的で潜っていた。
クエストの難易度は下から三番目のEランク。ダンジョン『調査』だったこともあり、報酬や内容から人数を減らしてきていた。
「フンっ」
『鮮血の爪』のリーダーであり、男性ファイターのハーヴェスは筋肉隆々の剛腕から振り下ろされる斧型の武器で、ダンジョンの魔獣を真っ二つに切り裂く。
「雑魚ばかりだな」
討伐はあくまで調査の邪魔になるものばかりで、積極的に狩っているわけではない。
「ここまでガザミ三匹に、カミツキアリが十匹程度。遭遇率は低、特に異常なしと」
シーフの役職を担っている青年のエゴイスは、今回は報告書の書記も担っている。
皺だらけの紙に殴り書きして、
「どうする? 真面目に最下層まで行く感じ?」
大して金にもならないクエストに時間を掛けたくない雰囲気が漂う。
「今回はキープダンジョンの調査なのだろう? 攻略対象でもないなら、深くまで戻る必要はないと思うが」
シーフのエゴイスを後押しするように、付け足したのは精霊師のコナカミだった。
「今は何階層だ?」
「えー、五階?」
「合っている」
ハーヴェスは斧を肩から腰まで巻いているベルトへと掛ける。
「半分近くまできて異常なしか……、何か違和感などは?」
「ねぇ」
「思い当たることはないな」
少し考えたのち、
「調査としては十分か。ならば帰還しよう。しかし、帰り道も念のため、異常がないか、確認しておこう」
「見た目に合わずに、まっじめ」
「それぐらいは許容しよう」
時間にして数時間、クエストの難易度からしても上々の結果だといえる。
ダンジョンは帰るところまでもがクエストと言われている。
だが、このダンジョンはキープダンジョンと呼ばれる、ダンジョンの中でもヒトが生活する上で役に立つと分類され、比較的安全とされている。
だから、帰り道エゴイスの無駄話から、『風の行方』の話になった。
「リーダーがD級、残りの二人がC級の冒険者」
コナカミが事実だけを言い。
「そっ。それも、エルフ族と修道女」
『鮮血の爪』には女性がいないパーティーだけあってエゴイスの注目は、主に異性に対してだった。
「問題はそこじゃねぇよ」
リーダーのハーヴェスは不機嫌そうに論点が違う部分を指摘する。
「お人よしが冒険者? そんな奴が冒険者を名乗るから、冒険者は下に見られるんだ。聖騎士が駄目なら、冒険者。簡単に金を稼ぐなら冒険者。世の中じゃそう思われている。だがな、冒険者がそんな甘っちょろい職業じゃねえんだよ」
おー、こわっ、と軽口をきくエゴイスは冒険者の事となると熱くなるハーヴェスを笑いながら、もう一人の部外者に焦点を移す。
「そんな、熱いリーダーから見て、あのガキはどう思う?」
にやにやと分かりきっている質問をした。
「ふざけんな、あんなのが冒険者になれるわけがねぇだろ!」
源素の気配が感じられない欠陥品であり、金を稼ぐためだけに冒険者ギルドを訪れた少年。
冒険者の試験では逃げ回った挙句に、自身からギブアップ宣言をした、冒険者を舐め切った少年。
「まぁ、冒険者になる大半は金を稼ぐ為ってのは間違いではない」
コナカミがハーヴェストを宥め、
「事情はあるんだろう。あんな状態だ、親は見捨て、生きていくうえでの考えならば納得がいく」
ただ、それだけではハーヴェストは納得しない。
「それなら、それで命を落とそうと構やしねぇ。だがな、自分から投げ出すようなタマが生業にできるほど冒険者は甘くはねぇんだよ!」
それには、二人も同意した。
「なんにしろさ。どうするつもりなんだろうな。『風の行方』のリーダーは?」
「同情では、どうすることもできないだろうな」
「冒険者が情けや同情で生き抜けるかよ」
結局の所、別のパーティーでの出来事で、何が起きようと知ったことではない。
冒険者同士が力を合わせるにしても、これに関しては話が違う。
「なるようになるさ」
「ならなくね」
エゴイスは結果が見えた結末に笑う。
すると、
「⁉」
ハーヴェスが突然何かの気配を感じ取り、足を止めた。
そして、
「索敵」
遅れてコナカミが後方に向かって索敵を展開した。
範囲で言うなら、五十メートルほどを通路に向かって伸ばす。
洞窟のように直線で伸びた通路に行う索敵は壁の中までは通らないが、それで十分だろう。
そして、その結果は、
「何もいないが?」
魔獣はおろか、小動物の気配まで感じ取れなかった。
そこまで細かく情報としては伝えなかったコナカミだったが、脅威がないことに警戒はされることはない。
「ん? そうか、何かがこちらを見ているような気がしたんだが」
「おいおい、怒りで曇ったのか? あ、もしかして、ハーヴェスに怒りが反射したんじゃねぇの?」
「そんなわけがないだろう」
「気のせいならそれでいい。さっさと行こう」
無駄話はそこまでで、三人はいつものようにダンジョンを後にした。
『鮮血の爪』が立ち去ったダンジョンの深層部、異変は起きていた。
本来いるべきではない存在がそこにいた。
辺りには、ダンジョンの魔獣が死体となって転がり、いくつかは食い散らかされている。
傷だらけになった体を癒す為、気配を殺し、その存在はさらに深く餌を求めて移動を開始する。
『鮮血の爪』のリーダー、ハーヴェスが感じ取った気配は気のせいではない。
しかし、あまりに離れていた為気が付くことができなかった。
それがお互いにとって幸運かどうかは分からない。
それでも、間違いなく異変は起きていた。
その頃、薬草採取を終えてギルドに納品しに来た『風の行方』は、気の強いギルド嬢にお説教を喰らっていた。
「こんなに採ってきてどうするんですか! まさか、自生ができないほど採取してきたわけじゃないですよね!」
薬草は基本的に自生している。採取はほどほどに残すことで、定期的に同じ場所で採取できるようにするのが基本である。
もちろん、そんな冒険者の基礎の基礎を『風の行方』が知らないわけではない。
そうなると、
「すいません」
張り切りすぎて夢中になって採るだけ取った馬鹿者は、小さくなって謝ることしかできない。
しかし、冒険者でもない人間、それも子供相手に怒るわけにはいかないギルド嬢はその責任者に文句を言うしかない。
監督不行き届きだと。
事実、ある程度の採取を終えたリーダーカルトア、メダ、ルピネスは残りの採取をタダシに任せて、今後のパーティー方針の話しに夢中になり、タダシを放ったからしにした。
なので、いつもなら言い返すであろうメダですら体を小さくし、大人しくお説教の餌食になっていた。
当然、あとで怒涛の如くタダシは怒られるのだが。
「すいません……」
タダシは、口癖になりそうになるほど、言い続けるのだった。
2023/1/31、8話を追加したので、話数がずれました。




