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異世界だろうとのんびりと  作者: ダルマ787
ーーーーーーーーーーーーーーーーー 第一巻 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
14/243

第14話 100パーセントのピッチング

2021/1/23 読み直し(一回目)編集しました。

2021/3/17 誤字脱字、ルビ振り追加、文章追加、台詞の言い回し変更など、編集しました。

ジオラルは二人と離れて行動し始めて真っ先にやってきたのは、防具屋だった。


「いらっしゃーい」


やる気のない声で迎えられ、店員らしき男はカウンターの奥で立つ事すらしない。

大きいとはいえ、しょせん田舎街の店員などそんなものだろうと、ジオラルは気にした様子もない。

新装備が整えば運がいいぐらいの気持ちで、店内を物色し、すぐにあきらめた様子で店員へと近づいた。


「石化に関するアイテムはなにがある?」


テトラの予想に反してジオラルは対ゴーゴン戦をきちんと考えていた。

厳密に言えば、情報収集なんて面倒なことはしたくなかったため、やることがこれしか思いつかなかっただけだった。


「石化? この辺にコカトリスなんて出ませんよ」


その返答に感情はなく、一応店員としの接客。


「でたら、騒ぎになってるだろ」


馬鹿馬鹿しいと思っていても理解してもらおうとは初めから思っていないジオラルは、適当にあしらい、次の返答を待つ。


「たしかあったはずですけど、出すのに時間かかりますよ。売れませんし、倉庫の奥の方だったと」

「頼む」


「わかりました」


店員もそもそもの興味はないのだろう。

深く理由までは聞かずに店の裏へと消えて行った。


「あるだけマシだな」


元より、対策の一つとして用意する程度の認識。

なければないで、テトラの【神の御慈悲】のみで対策を練るつもりだった。


だから、のんびりと店内を再び物色し始め、店員の帰りをまった。


待っている間、冒険者が数人訪れては先日の一件で驚かれ、こそこそ隠れながら買い物をしていく。

そのたびに店員が対応するから時間が掛かった。


「お待たせしました」


店員は相変わらず感情のないまま、どうやら見つけてきたようだった。


「いくつかあったので、順番に出しますね」

「ああ、頼む」


待たされたものの怒りは湧いてこない。

もとより、時間つぶしに近い上に、客としてきた冒険者の反応見て楽しんでいた。


「ええと、まずは『石化の布きれ』」

「石化の布きれ……?」


「説明いります?」


初めて聞くアイテムにジオラルは?マークを浮かべる。

まさかこれは、まがい物を売りつけようとされているとまで疑った。


だが、世のアイテムを全て知っているかと言われれば、ジオラルに自信はない。

なにせジオラルが暮らしてきた街は、都会といえる発展した街だ。

商品は最新な物や、誰もが知っている有名なものの方が多い。

冒険者になりいろいろな街で新たな知識や特産物、地方ならではのアイテムなんてのも存在していた。


「うーん……、じゃあ使い方と効果も頼む」


とりあえず、購入さえしなければいいわけで、聞くだけ聞くことにしてみる。


「使い方は石化した箇所に巻くだけです。名前は布きれですが、包帯ですね。それえで石化を治せます」


ジオラルは想像してみる。

石化が体の一か所ならばそれでいい。

しかし、包帯が巻けない箇所や、そもそも一人では巻けない場合はどうするのか?


「腕が使えなくなった場合はどうするんだ?」


純粋な質問だった。


「さぁ?」

「…………」


ジオラルは混乱した。


おそらく店員は嘘をついていない。

ジオラルは直感で感じる。

きっとテトラやカルバンあたりなら、店員は商品として入荷した際の説明をただ読み上げているだけなのだと辿り着くのだろうが、ジオラルにはそこまで考えない。


だが、そのジオラルの直感はテトラやカルバンの察し能力をはるかに上回り、人よりすぐれた探査能力へと変貌を遂げる。


そして、その能力は街のどこかでゴーゴン族の一人の少女が目を開けた時に発揮された。


「――ッッッ⁉」


とっさに出来事にテーブルを叩き振り返る。

その拍子に店員は驚き、手から零れ落ちた包帯がコロコロと転がっていった。


「うわっ、ほどけるっほどけるっ」


商品の後始末を面倒に思う店員が初めて感情を表に出しているのを余所に、ジオラルは外へと意識を集中した。


「この街にいる……!」


予想外の出来事に行動は早かった。


「ちょっ、お客さんっ」


もはや一つの商品で後の商品の物が知れる。


「いらねぇっ」


たった一つの言葉を残し外へと飛び出した。


禍々しい気配はまだ消えていない。

だが突然現れた気配がどこでまた消えるか分からない。

だからジオラルは人の目を気にせず、建物の壁を次から次へと蹴飛ばし屋根へと上がると、屋根伝いで移動を開始した。


「近いっ!」


下の方で騒ぎになっているのはお構いなし、しかしそれを良しとしない者が呼び止めた。


「ジオラルっ!」


その騒ぎに偶然近くにいたカルバンだった。


そして、ちょうどそのタイミングで禍々しい気配がぷつんと途絶える。


「くそっ」


悪態吐くジオラルの場所までカルバンが精霊の力を借り浮遊してやってきた。


「なんなんだっ、この騒ぎはっ」


街で唯一の高ランカーが表だって騒ぎを起こせば街には混乱が起きる。

ジオラルがBランク冒険者だと姿を見ただけで判断できる者は多くはないが、それも人伝いで広がっていくだろう。


「ぐへっ」


とにかく、一刻も早く事態を納めなければならない。

カルバンは説明を求める前にジオラルの首根っこを摑まえて、道端へと下ろした。


幸い、まだ騒ぎは街を飛び交う少年程度で済んでいる。


次第に姿、恰好で、ちらほら冒険者という単語が飛び交い始めて問題が大きくなるかと思われたが、


「冒険者のいざこざか」

「若いからな力が有れば、やりたくなるか」

「都会だとあれが普通らしいぞ」

「人騒がせな移動だな」


急な仲間の登場と、乱暴な扱いで地面に下ろされたことで、ジオラルはひっくり返った無様な恰好。

その姿で勝手な解釈がされていく。


ほどなくして、街の住民は呆れた様子で散りはじめた。


「ふぅ、」


元が平和な環境なのだろう。


良いのか悪いのか危機感を抱く事態にはならなかった。


「なんであんな目立つ事を」


カルバンは今更、ジオラルの行動に怒りは覚えない。

こんなこと昔からよくあることで、一緒に怒られたのは一つ二つではないのだ。


なので、ジオラルの行動にはすでに悟りの境地を開いている。


「何があったんだ?」


ジオラルが立ち上がるのを待ちながら、落ち着いた様子で事の経緯を尋ねた。


「ゴーゴンがこの街にいる」

「――ッ⁉」


ことの事態にカルバンに衝撃が走った。

なぜ、このタイミングで街に下りてきたのか、考えれば、自分たちの存在がいるのは想像の中にあったはずだ。


「今は?」


ジオラルの探知能力に疑いはない。


「消えたな」

「気配を消しながら何かをしようとしているのか……この街で」


頭脳担当のカルバンの登場によって、ジオラルから焦りが消える。


「僕たちがいるのを承知の上で何かをするつもりなのか……、だとしたら……。いや、止そう。不測の事態が起きてもそれに対応できないのでは意味がない。何が起きてもすぐに動けるようにしよう」


「ああ、――っ⁉」


すると、再びジオラルが何かを感じ取った。


「ゴーゴン?」

「ああ、さっきよりも気配が小さいが、間違いない」


「わかった。僕はテトラと合流して装備を整える。ジオラルはそのまま、ゴーゴンを追跡して」

「わかった」


「それと、街の中にいる間は手を出さないように、被害が増える。それに装備がない状態だということを忘れないように」


「ああ、だけど、何かしようとしたら止めるぞ」


「それは仕方がない。連絡用に電虫(でんちゅう)を震わせて、コールは一つで街の中を追跡、二つで街の外の追跡、合流が必要なら三つ、そしたら電虫を離す」


番電虫(つがいでんちゅう)

冒険者の緊急連絡手段と用いられる昆虫。

片方を振動させると、番も振動する。

そしてどんなに離れていても二匹は必ず行動を共にする性質を持つ。

おまけに、片方が死ぬともう片方も絶命し、値段が安い。


「了解」

「装備の準備は整えとく」


背中合わせになった両者は走り出す。


ジオラルは再び、壁を蹴って屋根上に――ゴンッ。


カルバンは、野球ボールくらいの石をジオラルの頭めがけて投擲した。


殺虫剤を掛けられた虫のようにジオラルは地面に落下する。


「やると思った。それは禁止だ」


慣れた手つきのピッチングは、過去百パーセントの命中率を誇っていた。


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