第10話 冒険者のお仕事
2023/4/17
誤字脱字、文章編集、ルビ振りを行いました。
「…‥‥おい。……おいっ!」
メダの声にはっと現実に戻される。
「え……はっ、はい!」
ついつい修行の癖でトリップ癖がついてしまった。
戻された現実では、あははと愛想笑いをしているルピネスがいる。
どうやら、何か俺に声を掛けてくれたみたいだったが、無視してしまったようだ。
「す、すいません! 何ですか⁉」
慌てて聞き直すと、
「えーと、答えられなかったらいいんですが、誰に教えてもらったのですか?」
その質問にリーダーとメダの視線も集まる。
「自然源素ですか?」
慌てた分、分かりきったことを尋ねてしまった。
「他に何かあんのかよ」
「ですよねー」
メダって言い方がきついんだよなー、と思いつつもお世話になっているし、反論するには怖すぎる。
「っち」
そうは言っても、なんだかんだ周りに気を配っている所が垣間見れ、苦手というほどではなかったりする。
「知り合いの知人です」
詳細にシンの事を話していいものか、この世界で初めてファンタジーらしい姿の存在を明かしていいのか疑問に思って遠回しの言い方をしておいた。
「あれ、知り合いがいるのかい?」
言い方というよりも、知り合いがいることにリーダーに驚かれた。
「はい、この町のえーとあっち側の家に住まわせてもらっているので」
方角がよくわからないので指をさして方向を示した。
「まさか、あの美人のメイドさんがいる家か⁉」
何に食い付いてきたのか、メイドナナカミラは有名になりつつあるらしい。
「リーダー……」
「おいおい」
だが、リーダーの食い付きぶりに女性陣の冷たい視線が突き刺さる。
「あ、いや、噂がね、噂が」
温厚なリーダーも立派な男だった。
リーダーの言っていることは理解できるし、見た目と違って鬼の教育係の印象が強い俺は適当に聞き流しつつ、
「これで合ってますか?」
「それは毒草だ、馬鹿」
しっかりと薬草採取を間違える。
「さすがに売れないか」
ぽいっと毒草を投げ捨て、仕事モードになった俺は人見知りを微塵も見せずに質問をして見せる。
なぜ、人見知りが発動しないのかだって、それは単純なことだ。
分からない事は訊かないと、後から怒られるからだ。確かに俺は人との会話が苦手で、会話の種をもっていない。
だが、しかし、仕事に関しての質問だったら、ただ尋ねればいいだけなのだ。
「薬草ってどれくらいで買い取ってもらえるんですか?」
日常会話でなければ、話しの種は浮かぶ。
「念のたにに言っておくが、お前じゃ売れないからな」
「えっ」
稼ぐ手段を一つでも多く知っておこうと思った矢先に辛い事実を突きつけられる。
絶望に満ちた俺の表情に、助け船を出したのはリーダーだった。
「あくまで、冒険者の依頼の場合ってことだよ。冒険者として依頼でのクエストは薬草の買取値段も含めた報酬なのと、冒険者の報酬はあくまで冒険者としてしか受け取ることができない」
「あー」
確かにそれなら納得できる。
でも、リーダーの言い方だと薬草の買い手は他にもいるという事になる。
「直接売買は、薬局や研究者なんかが行っていたりするけど」
「なんとっ!」
それなら、俺でもやっていける。
「頭を使え馬鹿。だったら、どうして冒険者に依頼があがってくるんだ?」
「た、確かに」
希望は一瞬で消え去る。
「冒険者に依頼がくるような薬草は危険な地帯でしか取れないモノ、数の総量が多いものばっかりだ。直接売買ってのは、一つでも多く欲しいって依頼主が適当に集めているだけだ。それに値段が張るような薬草は、そもそも偶然でしか手に入れられないモノがほとんどで、大半は小銭程度にしかならない」
「まぁ、そうだね。生活する為に薬草採取だけでは無理だろう。だから、薬草採取は新人冒険者が足りない金の補填に受けることがほとんどだ」
つまり、俺が冒険者になれた時の為に、経験として今回受けてくれたという事なんだろう。
有難いはありがたいけど、そもそも俺冒険者になりたいわけではない。
むしろ出来る事ならなりたくないまである。
じゃあ、どうして、こうなっているかと言われれば、身を隠す為。
勇者の剣を壊してしまった代償で追われる身となった俺は、冒険者という組織に紛れ込むことで存在をうやむやにしている。
聖騎士と冒険者の仲が悪いという点を突いたのだ。
もちろん、俺の案ではない。
主悪の根源はどこぞの学園長、そして監視役に名乗りを上げたナナさん。
加えて、最低限鍛えろと、無理やり今の状況に陥っている。
「最悪金を稼ぐ方法さえあれば、逃げ出されるのに」
愚痴を零しても、聖騎士側の人間に見つかれば逃げる手段もない。
だから、俺は今を生きる為に指示に従っている。
「薬草の依頼って量が多ければ報酬上がるんですか?」
受け入れたからには、しっかりとやる地味にまじめな俺はやる気を見せる。
なぜなら、ダンジョンに入ったりすると、役立たずだった。
でも、これなら俺にでも出来る。せめて役に立てるところでは役に立っておきたいという小心者の心得。
「ははは、今回の依頼は規定数分以上の買取もしてくれているよ。少ないけど、タダシにも分け前が出せるよう、頑張ろう」
本当にリーダーはいい人だ。ダンジョンでのクエストも俺は何もしていないどころか、足を引っ張っていた。それなのに少なくても、報酬を分けてくれる。
なんというお人よし、本当に冒険者にしておくのは勿体ない。
でも人生は人それぞれの事情で動いている。それは自分自身にも当てはまっているから、冒険者になった理由は尋ねたりはしない。
余計な事を考えるのをやめて、仕事に集中しよう。
「よっしゃあ、やったんで!」
報酬の為に言ったわけではなかったのだが、
「頑張れ頑張れ」
「頑張りましょう」
リーダーとルピネスは静かに微笑み、
「貧乏になるわけだ」
メダはパーティーの行き先を憂いていた。
明けましておめでとうございます!
2023年に入りました。
今後ともよろしくお願いいたします!
2023/1/31、8話を追加したので、話数がずれました。




