第33話 行方
第一回編集(2022/12/4)
誤字脱字の修正、文章の修正、文章の追加、ふりがなの追加、言い回しなど編集しました。
先日の騒ぎから一転して、その雰囲気に合わせるように曇天の空模様だった。
薄暗い学園長室の椅子に腰かけるイェールと、その正面に立つ騎士姿のアレクは大きな机を挟んで今後について話し合っていた。
「こんなことになってしまい申し訳ありません」
「あなたに謝ってもらう事ではないですよ」
アレクは静かに胸に片手を当て、小さく頭を下げる。
元々は、勝手に訪問しイェールの作戦に組み込んでもらった。
その上であの事件、謝罪もしたくなる。
しかし、それもここまで、
「ひとまず、我々は取り急ぎ自国に帰還させていただきます。そして、この件に関して一切の口外、関与を否定させていただきます」
初代勇者の剣【ダモクレス】の破壊。歴史的に見ても大事件、その件から自分たちは無関係を貫くと言っている。
冷たく聞こえるが、この提案をしたのはイェールの方だ。
「ええ、お願いしますね」
世界にある勇者の剣は十三本、そのうち一本を除いては大帝国もしくは、国で管理しその所在を明らかにしている。
その為、【ダモクレス】が破壊されたという事実は隠し切れるものではない。
だとしたら、どんな形であれ、事実がどうであれ、他国であるアレクが勇者の剣が破壊された時、聖騎士団国家にいたという事実はない方がいい。
それはお互いにとってもだ。
「差し出がましいですが、あの場にいた何人かの生徒は事実を知ってしまっています。いかがされるおつもりですか?」
「ご心配なく、あの子たちは彼が逃げる際、彼に実に協力的でした。それをわざわざ公にはしないでしょう。それに、あの子たちの声はそこまで届くことはありません」
にっこりと微笑み、その手段や方法に関して触れはしない。当然、アレクも踏み込むこともなく、
「それを聞いて安心しました」
「ええ、それに本当に困ったことは、他にありますしね」
「と、おっしゃられますと?」
「あの子が返ってきたらになんて説明したらいいのやら」
誰の事かを察し、アレクは乾いた笑いで誤魔化すしかない。
「どちらにせよ、彼女の耳にも届くのでは?」
「それが、問題なんですよ。この件は世界で公にはされないでしょうけど、きっとあの子には彼の名前まで届くでしょう。興味のないことには関心を示さない分、興味を持ったことには熱心ですからね」
「うらやましい限りです」
「冗談ではないんですけどね」
「これは失礼しました」
一番の問題とされることが人とは違う事に、改めてアレクはイェールの存在の高さを実感する。
しかし、その時間にいつまでの浸っているわけにもいかない。
「貴重な時間ではありますが、我々はそろそろお暇させていただきます」
本来であれば、【ダモクレス】が壊れた時点でイェールは報告を済ませなければいけないところを、色々と誤魔化すための時間稼ぎをしている。
「あら、ごめんなさいね、最後の方は愚痴みたいになってしまって」
そして、その時間は長くはない。
「いえ、今回は私の我儘を通していただき、そして、最後までお手伝いできない事が心残りではありますが、この恩はいずれどこかで」
アレクが頭を下げ、身をひるがえしてこの学園から立ち去る。
そして、自国に戻ってからはこの数日の時間はなかったものになる。
つまり、聖騎士団国家の関係者はもちろん、ナカムラタダシとの接点もここで消える。
だからだろう、アレクは学園長室の扉の前で立ち止まり一度だけ尋ねた。
「あの選択でよかったのですか?」
すでに結論付けられたこと。
ナカムラタダシは聖騎士団国家の生徒にはなれなかった。
嘘と真実を織り交ぜたとしても、ナカムラタダシが聖騎士団国家では庇いきれない。
むしろ所属を聖騎士団国家にしてしまえば、災いは生徒達にも向けられる。
よって、犠牲は最小限、ナカムラタダシ一人に背負ってもらうしかなかった。
だとしても完全に見放したわけではない。
「ええ、彼には冒険者になっていただきます」
その選択がどういう意図なのか、それでもたった一つだけわかることがある。
タダシはきっと望んではいないということだった。
前回更新から時間がかかりました。
大変申し訳ございません。
そして、これにて第四巻が完結しました。
本当にここまでお付き合いいただいている方、ありがとうございます!
そして、残念ながらまだ続いてしまいます。
そんなこんなで、近日中には今後の予定やらなにやら、書かせていただきますので、興味のある方は覗いてみてください。
それでは、今後ともお付き合いよろしくお願いします!




