第32話 終戦処理
第一回編集(2022/12/4)
誤字脱字の修正、文章の修正、文章の追加、ふりがなの追加、言い回しなど編集しました。
全てが終わってベッドでひと眠りとはいかなかった。
だからといって、二転三転のどんでん返しがあるわけでもない。
ただの終戦処理というか後処理だった。
都合のいいタイミングで、イェールとフェノール、ミツナさんが登場した。
それと同時に展開されていたバリアの壁が消失。
それがきっかけで終わりを告げ、気力のみで動いていた生徒たちは崩れ落ちた。
きっと学園長の登場で安堵したのだろうが、まだ明かされていない事実を明かされたらどうなるのやら。
まぁ、それも俺には関係し、どうでもいい。
そうこうしていうちに、今までどこにいたのか、現れた教師を従えたフェノールが倒れた生徒達の対応に当たる。
それを呆然と眺めていると、
「お疲れさまでした」
それは隣に座るアレクに言ったものなのか、それとも俺に言った労いなのか、にっこりと最初に会った時の優しい微笑みを浮かべるイェールが傍までやってきた。その後ろに、美人秘書が佇む。
「座ったままの非礼をお許しください」
もはや俺に対してのネタばらしはないようで、当たり前のようにアレクはイェールに本来の対応で頭を下げる。
「お気になさらず、とてもいいものを拝見させていただきました」
ふふふと、イェールは満足そうな表情だ。
「で、目的は達成されたんで?」
一応、利用されることに納得はしたけども、何の了承もなく人を泥棒扱い。
少なからず俺の言葉には棘が含まれる。
そんなこと気にした様子もなく、
「ええ、概ねそうですね。これでレナンさんとの約束も果たせそうです」
「約束?」
「ええ、長期的な依頼を受けていただく代わりに、あなたをここの生徒にする約束です」
「………………」
…………ん?
「理解してなさそうなので、代わりに私が説明いたします」
出番だと言わんばかりに、美人秘書ことミツナさんが会話に混ざってくる。
「ナカムラタダシさん、あなたはレナンさんの推薦になった時点で、この学園の生徒になることが確約されています」
「ん? でも試験やりましたよね?」
それも二度だ。
二度目にはおまけの生徒の育成なんてものまでついてきて、その所為で俺は泥棒役まで押し付けられた。
「あれ? ちょっとまって」
レナンに依頼を頼む代わりに俺がここの生徒になる?
そんな約束事が俺の知らないところで交わされていたとしたら、俺は試験を受けずとも合格していた?
「レナンだけ特別? アイミも試験を……あれ?」
「あのお二方の推薦です。断るという選択肢は最初からありません。当然、あのお二人の信頼があってのことですが」
ますます意味が分からない。
「一度目の試験は実力測定です」
「…………実力がなくても?」
混乱が質問の内容を混濁させる。
「横から失礼。タダシ君にわかりやすく言えば、あのレナン氏の推薦です。仮にイェール様の意思で学園に入れなかったとしたら、レナン氏の推薦という肩書を持った少年をどの国家も放置しないでしょう。さらにいえば、そのまま所属フリーのレナン氏を抱き込める可能性まである」
アレクの説明で、俺はようやく利用されていたという部分の勘違いに気が付いた。
「……ついでじゃないのかよ」
俺は、一度目の試験に落ちて、そのついでにこの学園の生徒達の成長を促すことに利用されたと思っていた。
しかし、実際は最初から生徒の成長の為だけに、試験という名の餌にされたのだ。
「やられた……」
大の字に倒れこんだ先に広がる大空。
あまりに広い世界に怒りすら湧いてこない。
「ついでに説明しますと、アイミさんに関しては原種の力をみる必要もありました」
そうなると、俺もこれからこの学園の生徒になっていく。
悩みもしたが基本的にその場の流れに従う性格の俺はきっと、この空気に流される優柔不断を持っている。
この場にはいないアイミは、どう思うだろう。
お別れ感を出した流れからの、実は残ることになりましたって話したら。
そこまで考えたら、再び考えてしまった。
「ん~、どうしよう」
俺の存在はアイミにとって妨げになる可能性を秘めている。
思い上がりかもしれないけど、大人な俺は人様の成長の阻害になりたくないと考える。
そこに、
「ご心配なく、それは私たちの役目です」
どこまで読み切っているのか、イェールが俺の考えを見透かしたように口添えしてくれた。
さんざん利用してくれたが、教育者であり、俺の実年齢を考慮しても年上の存在。
はなから勝てるわけがなかった。
「まぁ、いいかー」
今更学生に戻るのもあれだが、この世界の読み書きくらいはできるようになりたいし、それくらいに時間を使うには、若返っている。
「なにより、タダシさん、あなたはここでの基礎中の基礎から学んでいただけなければいけません。なので、ほとんど教員とマンツーマンで過ごすことになりますよ」
「……はは」
つまり、アイミと同じ土俵でお勉強なんてできるわけがないと。
「まぁ、そんなのはどうでもいいんだけど。あ、一つだけ前もって言っておきますけど、俺聖騎士を目指す気はないですよ」
空気が悪くなるかもしれないと知りつつも、それだけは知っておいてもらわないと困る。
ところが、
「期待していません」
あれ?
「ここは本音でお伝えしておきましょう。あなたとアイミさんがこの学園にいてもらうのは、一つは打算です」
「レナとアンさんか?」
「ええ」
散々振り回されてきた存在のすごさはもう十分に理解した。
「そして、もう一つは、原種と異世界人」
「え⁉」
まさか異世界人という言葉で俺が驚かされると思っていなかった。
寝転がった起こし尋ねた。
「信じるの⁉ だって、ここでは詐欺師扱いなんじゃ……?」
「そうですね。一般的にはそうですけど、私は見分けられますよ」
ふふふ、と笑っているけど、異世界人で見分ける方法があるのか?
そう思っている俺の想像を超える回答が返ってきた。
「もう大分昔にはなってしまいますけど、私は会ったことがありますからね」
「「「⁉」」」
それに驚いたのは俺だけではなかった。
「会ったことがある……?」
「……初耳です」
「マジか……」
そうなると当然気になることが出てくる。
「その人は?」
「もう亡くなられています」
そういったイェールの表情が初めて暗い影を落とす。
しかし、それもすぐになくなり、
「少し誤魔化してしまいましたね。その異世界人の青年と私とその仲間たちは共に旅をしたことがあるんです」
その旅の目的が俺はすぐに理解する。
「帰れなかったんですか?」
一年という月日で諦めざるをえなかった一つの結論。
「結果的には」
「方法は?」
「わかりません」
「そうですか」
期待はしていない。
一度諦めた時点でその可能性を考える事もなくなっていた。
だから、今更落ち込んだりもしない。
「同じ境遇のよしみで墓参りくらいした方がいいのかな?」
ふと思わず、そんな事を言うと、
「ふっ、あははははははははっ」
初めてイェールの屈託ない笑い声が響きわたる。
それに一番驚いていたのはミツナさんだった。
今までこういった感情を見せたことがなかったのだろう。
笑い涙を指で拭きながらイェールは、
「ふふ、これは本当に予想外です。本当にあなたたちは私の予想を上回るのが上手ですね」
いや、そんな笑いのツボ俺は知らん。
「そうですね、いずれ行ってみてください。きっと喜びますよ」
なんとなく、虚を突かれて悩みがうやむやにされて気もしないでもないが、どんな形であれ一矢報いたのであればヨシとしよう。
そんな俺が内心で一つの勝利を勝手に掴んでいると、何か思いついたようにイェールが空間に手を翳した。
「これは、この世界のアイテムの一つです」
ざっくり言えば空間にしまえるアイテムBOXのようなものだろうか。
翳した空間が白く輝きその中から一本の剣が引き出された。
「うわー、超便利」
本当に色々あるんだな異世界、と思いながら、内心でアイテムBOXくれないかなと思っていた。
そんなもの欲しそうな表情を読み取られたのか、
「そっちではありませんよ」
ミツナさんに釘を刺された。
「お墓参りのついでというわけではありませんが、これもまた異世界人の所有物【ダモクレス】です。これも何かの縁でしょう、ご覧になってみてください」
異世界人であり、初代勇者でもあった人物の所有物。そして、今回のキモにもなった伝説の剣が俺の目の前に差し出された。
アレクはそれに敬意を示すように右手を胸に当て、頭を下げる。
ところが、俺の感想はというと、どこまで行っても剣でしかなかった。
いや、むしろ、銃より剣派の俺としてはテンションが上がってはいた。
だが、その剣が特別なものというよりも、剣であるという事実にだけだった。
差し出されたのだから、触ってはいいのだろうと、腕を伸ばし【ダモクレス】を受け取った。
鞘から取り出し、ずっしりと伝わる重さ、昔買ってもらった遊園地でのおもちゃの剣とは違う、りっぱな剣である。
「うん、すごい」
だから感想が幼稚だった。
それのいため息交じりでミツナさんの呆れ顔がとても心苦しい。
内心では興味を失ってきている。
この後はどうすればいいんだろう。
とりあえず、なんとなく素振りくらいした方がいいんだろうか。
そう思い、背丈に合わない長さと重さに負けそうで身体能力を向上させた。
―――。
その瞬間だった。
「なんだ?」
なにか、違和感が俺の腕を伝って流れ込んできた。
その様子に誰も気が付いていない。
「どうかしましたか?」
「あ、いや」
どう説明したらいいかもわからず、何か起きる前に返してしまおうと剣を鞘にしまおうとした。
慣れない手つきで剣先が鞘の入り口に軽くぶつかる。
その途端、
―ポキン。
剣が根元から折れた。
そして、地面に落ちた途端、砕け散った。
それはそれは、無残に、粉々に、原形を留めないほど砕け散った。
俺の手には柄と鍔だけが残る。
全員の視線が元剣だった物体に集まる。
しばらく誰も声を発しない。
何が起きたのか分かる者などいなかったのだから。
俺の信念は悪いことをしないことだ。
でも、これは事故であって、俺の所為ではないと言い張りたい。
「あ、え、あ、ど、え、」
でも動揺を隠せない中で、しどろもどろになる俺にイェールは困った表情でたった一言だけいった。
「予想できるわけがない」
本日夕方に第四巻、最終話をUP予定です。
活動報告は時間がある時に書くとしまして、興味のある方は覗いてみてください。




