第23話 なにをすれば
第一回編集(2022/12/4)
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「おらぁああ!」
アルの気合の乗った拳が空を切る。
突然のレベルアップにアレクは一瞬、驚いた様子だったが、それ以上はない。
生徒達から放たれる光弾を消しながら、一つ増えたアルの攻撃に対処する。
「それは、あまりいい成長の仕方ではないね」
残念そうに評価を下し、アルに対しては攻撃を命中させる。
「ぐっ」
まるで叱るように与えた攻撃ですら、生徒の光弾の軌道を曲げアルに当てただけ、自身の力すら使わない。
「まだまだぁあああああああ!」
急激なレベルアップに、防御力も上がっている。
衝撃も気にせず、そのまま次の攻撃につなげた。
「風よ舞い散れ【風千華】ッ‼」
風の刃が花びら散るようにアレクを覆い、一斉に襲い掛かる。
加えて、
「標的は一つに絞りなさいっ!」
アルの参戦に混乱が生じそうになるのを抑えたのは、裏で繋がっているミヨとアミラだった。
そこに桃色短髪少女が即座に生徒達を纏める。
それで、標的はアレク一択になった。
アルの包囲、そこに生徒たちの魔法の光弾が追撃される。
「これは……」
初めてアレクに苦々しい表情を作らせた。
言ってしまえば、ごり押しに近い攻撃だが、アルのレベルアップに加え、生徒たちの完璧なタイミングによる、追撃に能力を使わざるを得ないと判断させた。
それに気が付いたのはアル一人。
「ヤバイっ!」
単なる防御ではない。
アルは急いで、風の刃を放った。
「光よりも早いのですか?」
そんな声と共に、アル、聖騎士団国家の生徒達の目の前は真っ白に視界を奪われた。
風の刃と魔法の光弾は光の中に吸収されるかのうように、消失する。
そして、
「役目は果たしました。しばらく寝ていてください」
初めての攻撃。
それを誰も知覚できた者はいなかった。
一仕事を終えた俺は、アルに声援を送ってどこか腰を下ろせる所を見渡してみる。
だが、残念、戦場と化した憩いの場所で座れるような安全地帯は存在していなかった。
というかすぐに逃げられるような態勢を取っていないといけない。
そんなことをしているうちに、空が明るく照らされる。
太陽の光を上塗りするその光は、無数に分かれ、標的を攻撃した。
その寸前、俺は見た。
アレクの拳が握りしめられ、一瞬の怒り。
「イラついてらっしゃる」
アレクの標的は俺であり、そのほかは学園長との約束事。長く続いたそれを終わらせにかかった。
怒りの原因の一つはレベルアップしたアル。
それを手加減したままでは消耗が激しくなる。
だから、最良の判断をしたのだ。
アルから白い煙が上がりながら、崩れ落ちる。
「おいおい」
同じ国の人間だからなのか、近くにいたからなのか、反則的な成長を遂げたからなのか、気を失うほどのダメージを負ったアルは倒れている。
そこまでするかと思うのは、事の次第を理解したからだろう。
文句の一つでも言ってやろうと向けた視線の先に、俺の危機管理が久しぶりに鼓動を跳ね上げた。
「ようやく、あなたの番ですね」
――条件反射。
戦う意思などない。
それでも、俺は咄嗟にレベル3まで源素を上げる。
アレクが俺を指さしている。
そんな事を思った次の瞬間――、俺の身体は数メートル先まで吹き飛んでいた。
「――いづッ」
何をされたのかわからない。
「さぁ、あなたを教えてください」
圧倒的な力の差。
こんな状態で、俺は……。
「何をすればいいんだよ」
答えを求めた思考は真っ白な白紙を描いていた。




