第18話 提案
第一回編集(2022/12/4)
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聖騎士団国家の生徒数約五八〇〇名。
その中でも聖騎士になれるのは良くても五〇〇名前後、だいたいは貴族出身だったり、生まれながらにして源素の質、量ともに優れた者が選ばれる。
その選別は色々あるらしいが、基本はスカウトが主になる。
そして、その中には聖騎士団国家に所属する生徒もいるとか。
まぁ、何が言いたいかというと、底辺でも優秀というエリート校だということだ。
「いやっ。いやっ、いっ、やぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!」
そんな聖騎士候補生の大人数から、俺は今全力で逃げ回っている。
どうしてこうなったかといえば、少し時間を遡る必要がある。
「提案?」
ミヨの疑問に俺は安堵を覚えた。
当然、さっきまで争っていた当人が目の前に戻ってきたら同じ結末を辿る可能性を秘めていたからだ。
だが、しかし、そうはならなかったのだから、俺の言葉は通じるという事だ。
「君たちの目的は?」
少しまどろっこしいが、話は順序だてたほうがいい。
「そんなこと決まってますわ」
さも当然のようにアミラが言ってくるが、その強い口調に俺は少しだけ、ほんの少しだけビクついた。
「な、なんですの……?」
いや、怖いのよ。賭けに勝ったと思ってはいるけど、相手次第でその心は変わると思うわけで。
「い、いや、なんでも、あは、あはははは」
この俺の態度も良くない。その心は何かのきっかけで変化が起きうる。
まぁ、誤魔化し笑いは癖の一つだから、簡単には直せない。
「安心していい。どのみち、私達に戦うだけの源素は残り少ない」
それは疲れた様子の二人から感じてはいた。
そうは言ってもねぇ、性格ですして。
「ん、じゃあ、話を戻させてもらって」
そんな事を言っていてもしょうがないので、本題へは移る。
「【ダモクレス】の奪還。それが私達の目的」
求めていた回答を頂いたので、話の流れはスムーズにいくはずだ。
「そうだよね、でだ。俺はその犯人ではない」
そう言うと返ってくる言葉は、
「それを信じろというのは無理がありますわ」
と、返ってくる。
その問答はお互いに理解しているからこそ、落ち着いた状況での会話が成り立っている。
「信じる信じないは、どっちでもいいとして、どのみち俺はそのなんとかって剣を持っていない。ついでに言えば、アル、あーえー、アルフォスー…………」
この世界に関わらず、俺は人の顔と名前を覚えるのが苦手だ。
まだ、漢字で書かれていれば文字を覚えることはできるから覚えやすいのだが、耳で聞き取っただけのアルのフルネームは記憶があやふやだ。
ま、カタカタっぽい名前だからどっちにしても覚えられなかったけど。
「アルフォナイン」
「そう、それ、アルもその件には関与していない。あ、一応ね、一応、これもどっちでもいいんだけど。俺たちの中でもそのなんとかって剣を盗んだのはアレク青年だと思ってる」
「アレク青年って……、あなたっ、今は聖騎士団国家の敵ですけど、一応聖騎士の中でも指折りのっ、……はぁ、いいですわ、今そんなことを言っても仕方ないですわ」
何か諦めたように大きな声を出したアミラだったけど、結局は静かに話を聞くことにしてくれた。
「それで?」
ミヨはミヨで端的にしか質問をしてこない。
本当に襲ってきたのがこの子たちでよかったと思いながら、本題を話始める。
「俺の立場からすれば、目的が一致してると思わない?」
「言いたいことは分かりましたわ」
「だから、私たちと手を組んで、アバレン・アレクを捕まえる?」
頭のいい子ってこういう時に本当に助かる。
「そ、どっちにしたって俺にしろ、アルにしろ捕まえた所で何も出てこないし、俺たちもアレク青年を見つけて剣を取り戻さないと、無実が晴れない。正直に言えば、あのバリアがなくならないと逃げることもできないし、それはここの学園長に話付けないといけないでしょってこと」
さらに正直に言えば俺を追いかけるのを止めていただいて、そちらでアレク青年を捕まえてくれれば、まで考えている、決して口には出さないけど。
「それは前提を信じればの話でしかありませんわ」
「まぁ、そうなんだけどさ、君たちが俺を追っかけても、俺は逃げるだけだし、それだと剣は戻らないよ」
「ですからっ、それはあなたの話を――」
「いいよ」
「え?」
「え? って、どうしてあなたまで驚くんですのっ!」
「いや、つい反射で」
「ああっ、もう! ミヨさん、それはどういうことですのっ⁉」
ミヨは俺の目をじっと見つめてくる。
逸らしちゃいけない、そう思っていたけど、人見知り発動! つい逸らしてしまう。
「君が言った通りだと思ったから」
そんな俺の人見知りを気にした様子もなく淡々とミヨが言う。
「それに少しだけ見えてきた」
何が? と俺とアミラの視線が合う。
「そ、そうですわね、確かに見えてきましたわ!」
み、見えてないやーつ……。
「情けない話だけと聞く?」
聞かない選択肢ねぇだろ。
「いま、いる生徒の中でアバレン・アレクに対抗できる生徒はきっといない」
まぁ、現学園一位が言うのならそうなのだろう。
「だったら、そこには新しい存在がいる」
速攻で俺は目を背ける。
「それに目的は勝つことじゃない。剣を取り戻す事」
「なるほどですわ、剣さえ取り返してしまえば、教員の方々、もしくはイェール様も動くことができますわ。そうなれば、一つの幕引きになりますわ」
ん、ちょっと意味わかんないけど、解決するなら任せる。
「でも、問題がある」
「そうですわね」
なんだろうと耳を傾ける。
「構図として、アバレン・アレク対ここの学園全生徒の形を作らないといけない」
想像したけど、地獄絵図だ。
その一部は俺とアルとで再現済み、それ以上の事をしなければいけないと?
「厳密には全員じゃなくてもいいんだろうけど、それって、集まる人との共通認識にしないといけないんだよね? そもそも、そんな人数で向かわないといけないほど、あのアレクって青年ヤバイの?」
「やばい?」
「やばい?」
懐かしの伝わらない言葉。
「危険とかそんな感じ」
不思議そうな顔をされたけど、説明はしたからそのまま流された。
「この世界の頂点に近い存在」
思わず吹き出しそうになる、異世界最強の存在。
「えっ? それって激やばじゃんか」
「げきやばじゃんか? です、わ?」
「…………?」
なんか、本当にごめんなさい。
「すごいとかそんな意味です、はい。ん、あれ、それじゃあ、アルも結構すごいの?」
よくよく考えてみれば、同僚だったはず。
そう考えてみると、アルには申し訳ないけど、何とかなりそうな気もしないわけじゃない。
「聖騎士という意味では、彼もすごい。ただ、別格」
抽象的だなぁ。
「じゃあ、レナと比べたら?」
俺の知り合いで比較対象が少ないために咄嗟に出た名前。
その一瞬、アミラとミヨの表情から感情が読み取れなくなった。
どことなく、嫌悪感、どことなく怒り、どことなく困惑、そんなものが入り混じった不思議な表情。
「あなた、レナン様とどういった関係ですの? そういえば、噂ではレナン様の推薦だと伺いましたわ」
様かぁー。なんとなく、しくじった気がした。
レナは憧れとか、尊敬とかそんなポジションだったのか、それをどこの馬の骨ともわからない子供の俺が、親しい呼び名で呼んだら気分も悪くなるだろう。
ただ、こればっかりは説明がしづらい。
簡単にいえば、話しの流れというか、そんな曖昧な感じだし、根本で言えば、俺というよりもアイミのとばっちりで俺はここにいる。
「知り合い?」
友人と言っていいのかすら怪しい関係だ。
「意味が分かりませんわ」
「ははは……」
俺もです。
「まぁ、それはアイミが起きた時にでも聞いてよ。今話すことじゃないし、説明が難しい」
はぐらかすわけでもないけど、これが真実だ。
「まぁ、いいですわ。それで、本題ですが、どうやって人を集めるおつもりですの?」
アレクの強さが抽象的なまま終わってしまったが、知ったところで大きくやることは変わらないだろう。
そう思って、尋ね直さなかった。
「一つ、思い当たる方法がある」
――そして、その方法で俺は、現在全力で走り続けているのでした。
スタートダッシュは順調なのですよ。。。
見捨てないでやってください。
では、引き続きよろしくお願いいたします!




