第13話 必殺技
第一回編集(2022/12/4)
誤字脱字の修正、文章の修正、文章の追加、ふりがなの追加、言い回しなど編集しました。
――這いつくばる。
実際にしたことがありますか?
私、中村正は二度ほど経験があります。
食中毒に合い地獄の腹痛を味わった時。
開いている扉に気づかず眉間の下、鼻の上部を扉の角にぶつけた時。どちらも悶絶した思い出です。
そして、苦しみもなく、足掻いても動けない拘束でのソレを、屈辱というのだと三度目にして初めて知りました。
それはそれとして、圧倒的楽勝ムードから逆転までは早かった。
俺が走り出すよりも早く、皮膚に浮かび上がる文字の数々。
率直の感想は、いつの間に!
気がつく事ができない拘束術に、その場に転がった。
だけど、俺だって馬鹿じゃない。すでに解除方法は知っている文字による拘束術に対してすぐさま対抗した。
ただ、一度目と違い文字は破壊できなかった。
とりあえず、何かが違う。
……それしかわからない。
考えるだけ無駄だと知りつつも現状を整理しておく。
地べたに転がり、指一本動かせない。
額を地面につけ、源素を放出しても拘束が強くなるばかりだった。
「(くそっ、歯がゆいっ!)」
「一度目は表面に接着、二度目は浸透」
後頭部から聞こえるミヨの声。
いれずみタトゥーシールのような表面の文字とは違い、身体に入り込んでいる。
それが俺に理解できたミヨの能力の神髄。今までの脳筋による源素の使い方では、内部に刻まれた文字の拘束は解くことができない。
「源素の使い方、うまかったり下手だったり不思議な子」
拘束をされてから色々な手段を講じた。『封源の輪』での経験を駆使し、体内に潜む文字に対して源素を送り込み……、
「(内部の文字の破壊って、どうするん?)」
『封源の輪』とは決定的に違う部分。
源素の影響を受けている部分を、変換していたのに対して、体内の文字はそこに文字が書かれているだけ。
感じ取れるのは、読めはせずとも書かれている単語の文字。文字そのものに源素は感じ取れない。
解除方法の可能性が頭を駆け巡るが、出来る事が徐々に失敗という形で消えていく。
ふいに校内放送の一文が頭をよぎる。
『――生死は問わない』
緊張と焦りが俺の心臓をたたき始める。
焦れば焦るだけ、脳が働かなくなる――だけど、こういった事もある程度の年齢になれば経験済みだ。
深く深く深呼吸を一度する。
息を吐き切り、全身の力を抜いた。
この時、俺の中で色々な思いが脳裏を目まぐるしく廻る。
そして、俺の中で何かが解放された。
この世界では不思議なチカラ『源素』が存在し、それを各々の個性や能力などを通して術とし、敷いては必殺技となる。
だとしたら、俺にもそれは可能である。
そして、それを思いついた時、自然と笑みがこぼれた。
「これが俺の必殺技――」
これが俺、中村正の新骨頂――奥義の一つともいえる。
全身脱力状態で瞼すら重くなる。
必殺技を口にする必要があるならば、恥ずかしながら言わせていただこう!
「必殺っ――」
俺の掛け声にミヨは驚いた様子でバックステップを踏む。
「――っ⁉ まだ何かできる⁉」
源素の残量から戦線離脱していたアミラも、残りを全て使ってでもそれを防ごうと再び戦闘に踏み込んでくる。
「くっ、援護しますわっ!」
だが、何をするよりも早く俺の必殺技がお披露目になった。
「【必殺――現実逃避っ!】」
「……………………ん?」
「…………何がおきましたの?」
まだ二人は気づいていない。
元々、意識しないと俺の源素は体外に出ない。だから、レナ達のような常に周りに気を張っている存在達には返って警戒されてしまう。
だからこそ、冒険者の三人に教えられ、身体の周りに出る微弱な源素を、周りに溶け込むように無意識下の中でもできるようにした。
だが、今はもう、微弱な源素の量も全てが俺の中に戻っている。
つまり、これは――、
完全なる無防備。
まな板のコイ。
あきらめの境地。
全てを運に任せて誰か助けに来てという願い!
それが、【現実逃避】。
「(…………気づかれたら死ぬな、いやっ、死ぬね!)」
いや、ホントに誰か助けてください……。
今月、来月、再来月は更新頻度が落ちるかと思われます。
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