第10話 確信した勝利
第一回編集(2022/12/3)
誤字脱字の修正、文章の修正、文章の追加、ふりがなの追加、言い回しなど編集しました。
胎児。
『哺乳類の母胎内で発育中の幼体。ヒトの場合は受胎後八週間以降をいう。民法では,母の胎内にあってまだ出生していない子をいう。損害賠償・相続・遺贈に関しては,すでに生まれたものとみなされる。』
そんな定義がネットに書いてありました。
そして、俺の恰好がまさに母体ではない石の中で完了しています。
逆子ですけどね。
しかし、アイミのレベルアップにさすがに焦った。
結果だけ見れば、石化は食い止められた。アイミと出会った頃と違い、黒い気配の源素に触れた個所は、俺の不思議なバリアを侵食し身体の内部まで石化を進行してきたのだ。
それは、源素のコントロールで押し返すことでなんとかなったものの、バリアそのものが絶対的チート力を持っていないという事実を知った。
「しかし、どうなってるんだろ」
今更ながら、何度と助けられたバリアの正体を俺は知らない。
このバリアの存在を知るときはいつも唐突な危機に襲われた時だ。
だとしたら、この力に関しても知ることが今後の課題になってきそうだ。
そうすれば、このバリアそのものを強化できれば何かと心強い。
「ま、そうはいってもね」
いつものごとく、すぐに答えが出るものでもなければ、ひらめきで解決できるものではないことは棚に上げておく。
そうなると、俺の行動は二番煎じの時間稼ぎ。
勝ったと思わせて、隙を見て逃げ出すことに限る。
だけど、石化の問題は依然と同じように、いずれくる酸素不足と外部の情報が得られないという事。
加えて、レベルアップしたアイミの石化の強度だ。
内部から壁をノックしてみてもあきらかに以前より硬くなっている。
石でできた母体の中には幾分かの空間はあるものの、膝は折りたたんでいるし、力は入りづらい。
意味もなく目をカっと見開いた。
「寝てる時の酸素消費量は少ないって聞いたことがある!」
態勢も態勢だけに再び睡魔の影が忍び寄ってきた。
だから、素直に生理現象に身を任せようと思う。
だって、俺寝る事大好きだもの。
カっと見開いた瞼が次第に重くなってくる。
この状況なんだかんだ言って、休むには最適なんじゃないだろうか。
起きたらどうしよう。
……起きたら、全部終わってないかなぁ。
…………そしたら、ご飯も食べたいなぁ。
お肉……、ステーキ……、バター……を乗せて……そう、こんがり……ウェルダンに……。
いい夢が見れそうだ、それに、なんだか体が温かくなってきた。
母体なんて想像したからだろうか。
なんて優しい空間なんだろうか。
そう、じりじり、じりじりと、身体が……、
「熱くないっ⁉」
今度は意味を持って目を見開いた。
真夏のプール際のコンクリートの感覚が衣服の上から伝わってくる。
「なにがっ、何でっ、何が起こってるの⁉」
脳裏に炎を操るアミラの姿が思い浮かぶ。
「炙り出す気かよ!」
よくよく考えたら俺の行動を予測できるアイミがいる。
「あはっ、知り合いってやーね」
って、冗談を言ってる場合じゃない!
こんがりウェルダンになるのが俺じゃないか!
「れれれれれれれれれれレベル3っ!」
言う必要のない身体能力向上でなりふり構わず石の母体を破壊して外に飛び出した。
飛び出した外には案の定、三人の姿がある。
そして、言ってやらなければいけない!
「鬼かお前らっ!」
アイミは疲れた様子で膝を付き、アミラは炎を出し続け下は火の海に、そしてもう一人は、
「チェックメイト」
カッコいいセリフを吐いた。
気づいた時には、周りに黒い斑点が俺を取り囲んでいる。
文字による捕縛術。
「【語禁束縛】」
俺の体に読めない同じ字が張り付いてくる。
「うぐっ」
貼りついた箇所が、強いシールを貼られたように動きを封じていく。
「全身芳一かよ……」
耳なし芳一ばりに全身が文字で埋め尽くされる。
だが、これは足に付けられたおもりの時と同じだ。
文字に含まれた源素を無理変えて破壊してやればいい。
「追撃」
それは、お互いに承知のようで、二方向からさらに攻撃が加えられる。
「タダシっ!」
呼ばれた声に思わず反応してしまい、その方向を見るとアイミの瞳を見てしまった。
捕縛のうえ体が石化し拘束された。
そのうえ、
「【炎層(レイア)】」
三十層の炎が俺を取り囲んだ。
これはもう、殺しにかかってると思うんだ。
「だぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
だから、叫ばずにはいられなった。
雄叫びと共に、全ての攻撃を弾き返した。
どうやったかなんてわからない。
とにかく源素を体外へ放出した。
そう俺にはマンガ脳という素晴らしい知識の数々が存在している。
つまりは、気合だ。
「付き合ってられるか!」
最初は、アイミの心情の変化と今後の未来のために親心に似た気持ちで頑張ろうとしたが、これ以上はキャパオーバーだ。
こんなこと続けていたら死んでしまう。
そもそも、本当に捕まえなければいけない相手がいるじゃないか。
「こらっ、アイミっ!」
お説教ついでに、その相手を思い出させてやろうとしたが、視線の先にいるアイミは源素を使い果たしたようで、倒れこんで意識を失っていた。
「ええっ、寝たいのはこっちなのにぃいい」
本当に世話が焼ける。
アイミの所に一瞬で移動し、身体に触れると源素を送り込んでおく。
「アレクって青年を先に捕まえなさいっ、それをアイミにも伝えるように!」
仕方ないから、残りの二人に言い放つ。
「ま――」
「ま――」
二人の静止に耳を傾けたりはしない。
「じゃ、がんばって」
この戦いは、本より俺を逃がすことに重点を置かなければいけない。
だから、拘束が失敗した時点で三人は考えなければいけなかった。
俺を逃がさない為の方法ではなく、理由を作るという事を。
いつの間にか塞がれていた出入り口の土壁もアイミが気絶したことで消え、炎の壁も風前の灯よろしく小さな焚火になっている。
逃げ道はすでに開放されていた。
そうなると、俺の身体能力レベル2だけでもう追い付ける存在はこの場にはいない。
だって、攻撃全部避けれているし、攻撃担当のアミラも息を切らし始めている。
元々、アルと戦っていた分だけ、その消耗は激しいだろう。
そうなると残っているのは、サポート専門のミヨだけ、それも力づくでなんとかなるなら、これは勝利を確信してもいい。
だから、その場から退散しようと、身体能力を駆使して飛び出した時だった。
ふと、俺の脳裏に違和感が駆け巡る。
アルが予想したアミラが学園一位というのは外れていた。
そして、その一位はミヨだった。
そして、ミヨはサポート専門? いや、サポートを行う人が一位になれないと思っているわけではない。
そもそも、順位の付け方なんて知らないわけで、そのものはどうでもいい。
問題は、どうして、俺はミヨがサポート専門だと思い込んだ?
「悔しいですわ。でも、任せてあげまさすわ」
アミラの敗北宣言に含まれる信頼の言葉。
敗北宣言は俺に向けられたものじゃない。
「うん。交代」
前線と後衛、どちらが優秀とは一概には言えない。
だが、単純に考えれば両方こなせるほうがもっと優秀だ。
「出入り口を塞ぐ必要はない」
消し飛ばしたはずの文字が再び俺の体に浮かび上がる。
「うっそ、まだ続くの⁉」
もう完全に終わったと思った俺の甘さが文字通り、文字が邪魔をする。
「【文章校正】」
文字が並びを変え、いくつかの単語が形成された。
俺はこの瞬間、理解した。
文字を張り付けるのは前段階、そこから文字を構成し意味を持たせるのがミヨの新骨頂なのだと。
「逃げれるなら、どうぞ」
そして、これが現聖騎士団国家学園一位の実力だという事を。




