第9話 過大評価
第一回編集(2022/12/3)
誤字脱字の修正、文章の修正、文章の追加、ふりがなの追加、言い回しなど編集しました。
源素の消費と暴走への抵抗から息を切らしているアイミは、石蛇が集まった塊の山を眺め続ける。
それは、勝利に優越を感じているわけではない。
今まで何度でもタダシは石の中から脱出を成功させている。
だから、一瞬たりとも油断はしない。
「(でも、)」
とアイミは思う。
タダシと離れた期間、クラナディアの下で行われた訓練の中心は、暴走のコントロール。
それは暴走を起こさない為の物ではなく。
暴走した状態でも意識を保てるための訓練だった。
今はまだ完全ではない。
だから試す時は場所、周りの状況を考えなければならない。
それにアルとの戦闘では無理やり暴走の直前まで進んだ。
成功と失敗、何度も繰り返し、見えてきた一筋の道。
その一端は、これまでとは質が違う。
結着が着いたと思っている二人がアイミに近づいてくる。
「あっけないものですわね」
アミラは髪を払いながら、まだ余裕があるといわんばかりに炎を掌から噴出させる。
「壊された文字が戻らない。新しく書き足さないといけない」
どうやら、文字そのものは本から使用しているようで、不満そうな表情を浮かべるミヨは無造作に開いたページにペンを走らせる。
次第にアミラがミヨに愚痴を零し始め、時間が流れていくのをアイミも感じ初める。
勝ったとは思わない、でも捕まえることができる程度にはタダシとの差はそれほど離れてはいない。
――本当に?
ふいに、レナの顔が脳裏を掠める。
この程度だったら、なぜレナはタダシの興味を持った?
そもそもレナはタダシの力に興味を持ったわけではない。
それでも、クラナディアとの戦闘の話をアイミは聞いている。
じゃあ、なぜ?
「ふふ」
考えるまでもない答えに、アイミの頬が緩む。
源素の残りの量は少ない。
だとしたら、頼るべきは初対面でいきなりパーティーを組んでいる二人。
「まだ終わってない」
やはりというべきか、二人は優秀だ。
ミヨとアミラはアイミの声にすぐさま気を引き締め、臨戦態勢を整えた。
だが、状況はすぐに変化は起きない。
数秒、十数秒、いつまでも起きない変化にしびれを切らしたのはアミラの方だ。
「一体何に警戒しているんですの?」
タダシの事を説明するには時間が足りなすぎる。
タダシを知っている人なら簡単だった、タダシだから、が使えない。
どう説明するか悩む。
タダシの良いところ?
変な所、変わったところ?
どんな行動をする?
そんな考え方をする?
どれを説明すればこの後のタダシの行動を予測できる?
なにより、アイミ自身タダシの事をどれだけ知っている?
異世界人。
大きく区分してしまえばそれだけの事。
でも世間一般にしられているそれは、勇者か、詐欺師。
タダシはどちらにも当てはまらない。
そして、気づいた。
タダシの事をもっと知りたい。
その瞬間、アイミの頬が猛烈に熱を帯びた。
それと同時、優秀だからこそ、
「先手必勝」
ミヨの声で状況は動き出す。
「なるほどですわ」
何をしようとするのかアイミも理解する。
芽生えた感情を振り払い、今は為すべきことをするためにアイミは前を向く。
「お願い」
それを合図に、アミラの炎が石の塊と化したタダシがいる場所を燃やし尽くす。
「タダシはこんなんじゃ、負けないよね」
タダシが聞いたら、きっとこう言うだろう。
過大評価です。




