表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界だろうとのんびりと  作者: ダルマ787
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー第四巻ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
104/243

第8話 戦う意思

第一回編集(2022/12/3)

誤字脱字の修正、文章の修正、文章の追加、ふりがなの追加、言い回しなど編集しました。

館内放送が流れた後の事。


とある一室に二人の女性がいた。

一人は放送の主であったイェールの秘書、皺ひとつないスーツに身を包み、目元を眼鏡で飾り、さらにはスタイルの良さから男性なら目を釘付けにするであろう、モデル・ミツナ。

もう一人は、校内案内で一緒にいたアイミであった。


ミツナとアイミが離れたのは数分程、その短い間にきっちりと仕事をこなし、再びアイミの前に現れたミツナは流石という他ない。


待たせた部屋に戻るなり、当然アイミは詰め寄ってきた。


「なんで、なんなんですか⁉ どうしてタダシまで‼」


アイミが言っているのは当然、剣を盗み出した犯人の中にタダシまで含まれていることだ。


ミツナは眼鏡をくいっと上げ、


「そうですね。あなたはもうこの学園の生徒ですし、話をしてもいいでしょう」


何を? という不思議な表情を作るアイミは身構える。


「原種について、どこまで知っていますか?」


なぜ、このタイミングでとアイミは思う。


「原種。過去魔王がいたとされる時代、その配下の魂が現代にまで残り、暴れまわるといわれています。その力はあまりに強大で扱いに困り、世界を滅ぼすほどとまで。そして、その原種の力を受け継いでしまった者を『スピーシー』と呼びます」


「スピーシー……」


「過去、スピーシーと呼ばれ現認された数はおおよそ三十七名。現在はそのうちの七名ですが、あなたが現認されれば八名になります。そして、その数と原種の種類までが一般的に知られている原種の情報です」


「それだけ……、でも」


ミツナはその一室の窓まで行くと、慌ただしく訓練場にかける生徒達を眺める。


「新しい波の三人があなたに気づいたのは、あの子たちが優秀だったからでしょう。この学園は決められた卒業年というのが決まっていませんし、あの子たちも三年と比較的短い期間でここを卒業しました。それでも、あなたに聞くまでなんの原種かまでは、憶測の域だったはずです。過去に現れた原種の中には同じ種族の者もいましたし、新しく現認されたりと、その力を見ない限りは判断できません」


「ゴーゴン……」


「過去にゴーゴンの原種もいましたが、遠い過去です」


アイミは自身が望まない力に悩まされ苦しまされ続けている。

今もなお、その力に翻弄され、この力がなんなのかもっと知りたいとさえ思う。

でもと、アイミは思う。

その呪縛から解放してくれたのは紛れもないタダシであり、今は自分のことよりもわけもわからない事に巻き込まれているタダシを救いたい。


「そんなことは、今は――」


それでも、ミツナは話を進める。


「原種の扱いは知っていますか? 冒険者では討伐対象であったり、ある国では実験体にされたなど、どこまでが真実なのかわからない、噂話がいくつも存在します」


「だから、そんなことっ――」


「ただ、事実として、原種の持ち主が平穏な時を過ごしているという話はされたことがありません」


その瞬間、アイミは悪寒に襲われる。


「十数年前、公に原種の持ち主が討伐されたのは誰しもが知っている事実。理解できますか? 公にされているその人物を除いて原種が他に七名もいるのに、その情報のほとんどが一切明かされていないんですよ」


アイミは恐怖で、両手で自分を抱きしめるようにかたかたと震えだす。


「おそらくとしか言えませんが、生きてはいるでしょう」


恐怖に襲われながらもアイミは聞いてしまう。


「どうして、わかるんですか?」


ミツナの瞳がまっすぐアイミを見つめる。


「原種を保有していると名乗る国が五か国存在しています。それはなぜか?」


アイミの脳裏にネガティブな想像があふれ出す。


噂話は本当に噂話なのか。


「予想と想像の話にはなりますが、理由の一つとして軍事力の利用。他には―――」


と、そこまで言ったミツナは瞳に涙を溜め、震えるか弱い少女の姿を見るとその先は言い出せなかった。

そこから、先は事実でも真実でもない。

奇しくも、情報がないことで、ミツナはそれ以上を伝える必要がなかった。


きっと、それ以上はアイミ自身がこれから身をもって知っていくことになる。


「ごめんなさい。でも言いたかったのはそれだけではないんです」


きっと、タダシに出会う前のアイミでは崩れ落ちていただろう。

だが、今アイミを支えているものは確かに存在している。

だから、恐怖に襲われ、涙を溜めた瞳でもその奥には強く輝くものがある。


「原種の七名のうち一人だけ、原種の力を宿し、逃げ回っている者がいます」


ここからはあまり公にしないように、と前置きし、


「その者は原種の力を使いこなしている」


その言葉に、アイミはこの学園にきた理由の一つを思い出す。


一つは、弱かった自分を強くする為、もう一つが原種の力を知る為だった。


「クラナディアさんはそれを知っていて、あなたをここによこしたのでしょう」


そうだ、とアイミは師匠と呼べる存在が与えてくれた道を見つめなおす。


「ご存じの通り、国ではありませんが、一国の力を有した聖騎士団国家(セントクロス)は聖騎士を育てる機関です。ですから、例えあなたが原種の持ち主であろうと、ここの生徒である以上、あなたの身は保証します。国と称さないのはイェール様と属している国の王がご友人だからだけですし、それにクラナディアさんとも縁が切れるのはこちらとしてもごにょごにょ」


最後の方は濁しながら言い放ちアイミの耳には届かない。


それはそれとして、と付け足し、ミツナはようやく本題を話し始めた。


「問題なのは彼です。自称異世界人」


入園試験で明かされたナカムラタダシという少年の正体。


「嘘であれ本当でその事実が知れ渡ればこの学園に各国の王たちが押し寄せてきてしまいます」

しかし、自称異世界人は詐欺師という形で少なからず存在が認知されているはず。


「問題なのが推薦人である――」


「レナさん……」


コクリとミツナが頷くと彼女らしからぬため息交じりの表情をつくり、ぽつぽつと話し始める。


「彼女が異世界人だと認めていると情報が流れてしまえば、何が起こるか想像もできません。なにせ、異世界人なんてものを確認する方法がないっ、初代勇者以降確認されていない存在なのですから」


「それならっ、レナさんに言って――」


「彼女と過ごして嘘を吐けるように思いますか?」


アイミの脳裏に数か月の思い出が蘇る。


「それにあの試験の途中で木の精霊が口に出していますが、それ以前に我々はあの子の口から聞いています。あの時のクラナディアさんの慌てぶりを思うと不憫でなりませんでしたよ」


確かにジャンオル・レナンという人物は口数こそ少ないまでも嘘を吐くような人間ではない。

意志が伝わりにくいという部分が多々あるが、聞かれれば事実を素直に答えるだろう。


そうなると、隠すという部分では無理があるだろう。


ふと、アイミは気が付いた。


「ちょっと待ってください! じゃあ、初めからタダシを入園させる気がなかったってことですか⁉ それに犯人の仲間じゃないっていうのも!」


「落ち着いてください。入園に関してはレナさんの推薦という事もあって、イェール様が真摯に向き合っての判断です。証拠にはなりませんが、アスコルさんも初めは反対していた割に、最後の方は乗り気になっていました。それに、あなたがどう思うかはわかりませんが、彼自身この学園で学ぼうとする意志が感じられませんでした」


「それは……」


元々のきっかけは、レナとアンに出会ったことで始まった。

そこでアイミは聖騎士団国家に興味を抱いたが、タダシの方はといえば色々あった末、無理やりな理由と遊びが失敗したことへの償いのような形でしかなかった。


その無理やりな理由がうやむやになれば、きっとタダシはここにいる理由を失う。


「(ううん、違う。きっとタダシは私の付き添いという理由も持っている。だとしら……)」


「次に犯人扱いに関してですが、それはあなたが関与しています」


「え、どうして私がタダシを……」


だが、それとタダシが犯人は使いされる理由が結びつかない。


「根本的な事を言えば、タイミングだけで彼を犯人の仲間と判断するならば、あなたも疑われる位置にいます」


そう、だからアイミは納得がいかずミツナに食って掛かったのだ。


「仮に、彼がこの学園に残らないといえばあなたはどうしますか?」


「それなら私は、タダシと――」


「何のために?」


ずっとわかっているはずだった。


「今度はタダシを私が――」


「あなたは彼より強いのですか?」


今のアイミでは文字通り足手まといでしかない。


タダシは戦いを望んでいない。

だから、何かあれば全力で逃げだす。

その時、アイミはついていけるのか。


「ですので、彼との力量の差を確認してみてください」


タダシと離れた少しの月日の間ですら、アイミはそれを日に日に感じていた。


元々タダシは、山の中で暮らし、そこから移動することなんてなかった。

それが、アイミと出会ったことで変化した。


それを罪と思い、恩を返すという名目で、少しでも役に立てるならとアイミはずっと一緒にいようとした。


でも、タダシはそれを望んでいない。


「(それどころか、私の意思を考え、突き放してくれる)」


だから、レナさんとアンさんへの同行を進めてくれた。


「(タダシは優しいから)」


それにずっと甘え続けてはいけない。


「ごめんね、タダシ。でも、これを最後のわがままにするから」


きっと、この瞬間もタダシに甘えているのだろう。


それでも、前に進むため一人の少女は意思を持つ。


ナカムラタダシと戦う意思を。


今回はとても長くなってしまいました。

話の都合上、区切るには中途半端になりそうなので、ご勘弁を。

(といいながら、書き進まなくて途中で話を区切ってUPしたことがあるやつが何を言ってんだというお話ですが)

そんな言い訳ついでに、長くなってしまった手前あまりルビ振りをしていませんので、読めない漢字があるなどあれば対応させていただきます。

特殊な読みに関してはルビ振りしたつもりですが、忘れがあればそれなんかも教えていただければ幸いです。


そんなこんなで、今後ともお付き合いよろしくお願いいたします!

新しく評価、登録してくれた方ありがとうございます!

登録してくれ続けている方、ウルトラ感謝です!!


次のUPはいつになるかわかりません!!!

では、また!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ