第4話 この世界の一端
第一回編集(2022/12/3)
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この世界には十二の勇者と十一の魔王がいた。
数が比例していない通り、二度勇者が魔王に勝てなかった歴史がある。
それと同時、勇者が使う【剣】が十三存在している。
勇者と魔王がいなくなった今、残ったのはその十三の【剣】。
そして、その【剣】は今もなお、勇者の源素を宿したまま十二の国が保有している。
「その内の一本、初代勇者の【剣・ダモクレス】が、ここにあるんだ」
アルの風魔法、厳密には源素による風の球体のバリアによって俺とアルは外からの攻撃から身を守られていた。
現在、俺たちはアレク青年の盗人行為により、聖騎士育成機関である聖騎士団国家の全生徒達によって攻撃を受けるという被害を被っていた。
事の発端の根がわからないどころか、盗まれた物の価値すらわからない俺は、その説明を外から聞こえる罵詈雑言の嵐とあらゆる攻撃の集中砲火の中聞いていた。
だが、その剣の価値の本質までは俺にはわからない。
「とりあえず、大切な物という印象だけは理解した」
「いや、全然じゃねぇか!」
そんなこと言われても、現状魔王がいないなら、それは必要なものとは思わない。
いや、少し違うか。
改めて考えなおしてみる。
魔王がどれほどの存在か今となってはわからないけど。
俺の知識の中での魔王像が絶対的な悪であるのならば、それを倒せるだけの剣。
そして、その力の矛先がいないのならば、人間の行動は異世界だろうと基本は同じだろう。
どの世界にも人間同士の争いは欲の中で存在している。
「権力争いの道具に使われたんじゃ、勇者も浮かばれないな」
人の命を守る為に使われたものが、その助けた命を奪う為に使われる。
「世知がらい世の中だ」
本当に悲しいことこの上ない。
世の心理を嘆いたのだが、アルはその解答が気に食わないようで呆れた様子で、まだ続きを話始める。
「言ってることは間違っていないが、【剣】の価値はそこじゃない」
「え、だって戦争の道具にされてるんじゃないの?」
「お、お前は本当に……なんなんだよ」
うわぁーと思う。
こういう時に言う台詞は封印したんだけど、この説明するのは基本的に面倒なのだ。
だから、久しぶりになった言葉を言うしかない。
俺は投げやりに、返ってくる反応を予想しながら言い放つ。
「自称異世界人でーす」
アルから深いため息が漏れる。
しかし、次に返ってきた言葉は俺の予想したものとは少し違っていた。
「期の精霊ドリアスがそんなことを言っていたのは覚えてるけど……、素直に受け止めていいのか俺にはわかんねぇな」
そりゃそうだろうと内心で俺も思う。
だいたい異世界人の大本は童話になっている勇者だったはずだ。
その大昔の存在は認知をされていても、実際目にしている世代はすでにいないんじゃないだろうか。
仮に異世界人がいたとして、すでにいない勇者と比べる方法が存在していない。
なにより、俺からすれば異世界人は勇者である必要すらない。おそらくそこがこの世界の人と考えている根っこが違う。
そもそも、俺の中では異世界人=勇者ではない。
いつの時代かは知らないけど、この世界に来てしまった異世界人は成り行きで魔王と戦い勇者となったと考えてしまう。
それは俺の元の世界での勇者像がいくつもお話として存在しているからだろう。
だからといって、俺の考えが正しいわけでもない。
なぜなら、異世界人が元の俺の世界から来たという保証すらないからだ。
そんなわけで、考えれば考えるだけ複雑化してしまうから、俺は異世界人そのものに興味を待たなくなった。
だって、異世界に来てしまったのが、俺だよ。
んでもって、今この世界はその後日談の後日談のさらに後日談なわけで、俺が考えなければいけないのは、ここでの平和な生活になるわけだ。
俺の存在に頭を働かせていると、今までアルの頭の上でふよふよと浮かんでいた、風の上位精霊シルフィが初めて俺の存在を口にした。
『勇者ではないけど、嘘はついていないと思うわよ。なぜかは知らないけどそいつから源素を感じられない。そんな奴この世界にいないもの』
「まぁ、精霊がいうなら……ん? 源素が感じられない?」
確か精霊は普通の人間とは寿命という概念が違う。
だから、アルは素直にシルフィの意見を聞き入れたが、その後の言葉に疑問が生じた。
「え、俺源素使えるよね」
そして、それは俺も同様に疑問を持った。
「お前も知らねぇのかよ!」
「しらんっ!」
余計に頭を抱えたアルに俺は胸を張って答えた。
『正確には、そいつとそいつが使っている源素に結びつきが感じられないのよ』
「どういうことだ?」
「どういうこと?」
『さぁ?』
答えは迷宮入りである。
するとアルは諦めたように舌打ちをした。
「まぁ、もういい。お前の事を考えるだけ無駄だという事だけ今は理解しておく」
俺としてはめちゃくちゃ気になるんですが……。
「今は、目の前の問題を片づけることに専念するべきだ」
「まぁ、確かに」
集中砲火を受けるその現場は、広い訓練場というだけの室内だ。入り口からはひっきりなしに聖騎士団国家の生徒が集まり続けている。
時間が経てば経つほど逃げ場がなくなっていく。
「んで、どうするのよ? アルの指示でこうなったけど、何かいい考えがあるんだよね?」
こうなる前にアルから「少し待て」という指示でこうなった。
その時間潰しと俺の無知加減に説明になったわけだけど。
「逃げるにしたって、イェールのシールドで外にはどのみち逃げられない。加えて、ここの生徒の数は、へたな街よりも人数が多い。だったら、この場で一気に戦力を減らしておかないと、アレクを見つけるにも見つけられない」
「え、戦うの?」
「そんなことしてたら源素が持たねぇよ」
「じゃあ、どうやって」
「そろそろ時間もなくなってきたから、一回しか説明しねぇぞ。まず、ここにいるやつら全員を気絶させる」
その方法を聞いたつもりだったんだけど、そこの説明はないのね。
「そのあと、ここから出る」
まぁいいかと、アルの説明を聞く。
「そのあとはアレクを見つけ出すしかない」
「まぁ、元凶はそこだしなぁ」
「んで、もってあいつをぶん殴る」
「はい?」
「どういう理由かは知らない。ただ、これが正しくないってことだけはわかってる。どんな理由があろうと、俺は俺の正しいと思う為に行動する」
決意はいいんだけど、果たして勇者の剣とやらを回収しただけで納得してもらえるのかは謎だ。
ただ、俺のかわいい脳みそちゃんでは他に代案が浮かばない。
「どっちにしても盗まれたもの取り返してから考えるか」
そんな気楽な端的思考を口にすると、アルの雰囲気が変わる。
「わかってないようだから、言っとくぞ」
なんだろうと首を傾げる。
「アレクは俺たちの国の中でも最強の座にいる。おそらく、お前が知っている中では、ジャンオル・レナンと同等かそれ以上だ。そんな奴から奪い返さなければいけないんだぞ」
思い出される長い金髪の美少女、この学園に来ることになったきっかけであり、小さな町での鬼ごっこですら、歯が立たなかった力量が測れない有名な少女。
その少女と同等かそれ以上。
「それって詰んでない?」
「だから、可能性のあるお前に話してるんだ」
「どういうこと?」
「可能性は未知だ」
「……ホワッツ?」
「何とかしろ」
なに言ってんのこの子?
「働けよ異世界人!」
それを最後、アルは手の中に風を引き寄せ始めた。
アルがしようとしていることを俺は知っている。
アルとアイミが戦った際、アイミを暴走に追い込んだ真空空間。
「俺は何もできんって!」
「喚いたって賽は投げられてんだ!」
「むちゃくちゃだ!」
今まで俺たちを守ってくれていた風のバリアがなくなる。
それと同時、呼吸ができなくなった生徒たちが一斉に倒れていく。
そんな中でも、
「っち、いやになるぜ、落ち目といえど、最低限耐える奴は揃ってやがる」
自身の力によってアルの真空を打破している生徒はいた。
「予想よりは多いが、充分だろ。アレクを見つけたら合図をしろよ!」
そう言い残し、アルは訓練場から飛び出していった。
取り残された俺に耐え残った生徒達の視線が集まる。
言い渡された役割に俺の心臓が緊張で鼓動を早め始めた。
「う、うそだよね……」
苦節二十八年、俺は重い十字架から逃げながら生きてきた。
つまりは、責任重大な事柄は背負ってこなかったという事だ。
「む、無理」
言葉にしてやるべきことはたったの一つ。
身体能力向上をMAXまで上げた。
「アるぅううううううううううううううううううううううううううう‼」
責任感がないわけではないからこそ、安心安全に逃げるために、提案者の後を追う。
「荷が重すぎるってぇええええええええええええええええええええええええっ‼」
こうして俺は背負った十字架を下すために訓練場から逃げだしたのだった。
四月に入りました。
学生さんは新しい学期にはいり、新社会人は初めての労働の方もいるでしょう。
そんな新しい春であっても私のペースは落ちるのです!
そんなこんなで、見捨てずにこの作品をよろしくお願いいます!!!




