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異世界だろうとのんびりと  作者: ダルマ787
ーーーーーーーーーーーーーーーーー 第一巻 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
10/243

第10話 第二の人生

2021/1/23 読み直し(一回目)編集しました。

2021/3/17 誤字脱字、ルビ振り追加、文章追加、台詞の言い回し変更など、編集しました。

早朝から乾燥した丸太が切られていた。


「さてさてどうするか」


一心不乱に家の材料をそろえていくアイミは、俺の家(三角屋根が地面に置いてあるだけ)を見て、やはり木造の温かみある家を建築することを提案してきた。

それに関しては、好きにやってくれ、と適当に返事をして街へ行く方法を考えなければいけなかった。


俺一人で考えれば特に普段通りで構わない。

しかし、今回はアイミも連れて行かなければいけない。

そういった時、アイミはなんで? といった表情で首を傾げた。


アイミからすれば、認識から少し離れたのかもしれないが、ふとした瞬間に石化されていたら、こちらとしてはたまったものではないのだ。

つまり、アイミの情報から、対石化に関してのアイテムを入手したいということだ。


なおさら一人でもいいのではと言われたが、ほんとこいつ考える気ないなと思う。

そのアイテムが、俺が装着する物にしろ、アイミ自身が装着する物にしろ、その場で確認しなければならない。

なぜって、街に入るたびに金がかかるのだ。


だとしたら二人分とはいえ、一回で済ませたい。


「う~ん」


そして、悩ましいことがもう一つあった。


むしろそちらの方が問題なのだ。


「禍々しい気配ってどう見るんだろ?」

「さぁ?」


丸太を切りながら、他人事のように張本人が言う。


「目で見えるもんなのか?」

「少なくとも私は見たことないかな?」


「感じ取るものなの……アイミって、人との交流ありましたっけ?」

「む、それは失礼だよ! 数人はいるよ!」


今までの人生で数人て、こいつ俺よりコミュニケーション能力ないだろ。


「街には冒険者ギルドがあるし……」


それにあの時の冒険者がいる可能性の方が高い。

この辺で一番大きい街はあそこしかないからだ。


「ふぅー」


丸太がのこぎりによって半分ぐらい切られたところで、アイミが何かを始めようとした。


「えーと、物体を強化させるイメージで、源素を流し込む」


先日、見せた枝の成長強化をのこぎりに加えてみるようだった。


落とし穴を掘ったり、罠を作る時にそういうことをやったと、説明はしていた。

実際、それができれば、丸太なんて豆腐を切るよりも簡単に切れるだろう。


「イメージイメージ」


アイミが集中している中で、俺はある一つの過程を試してみることにした。


「(身体能力向上って全身を強くしていた。じゃあ、特定の部位だけを集中的に向上させたら、禍々しい気配ってのを視認できないだろうか、)」


苦戦しているアイミを余所に、


「ものは試しだ」


俺は慣れた身体能力向上を目にだけ集中して行ってみることにする。

目に力を入れると言葉にしてみると案外要領がつかめない。寄り目になったり、瞼を強く閉じてしまったりと、失敗が続く。


「力を入れるのとは違うか」


よくよく考えてみたら視覚に関しての向上はしたことがある。

ただ、あれは、視力であり、見えない物を見えるような意識はしていなかった。


それならば、


「あの時は、漠然と魔力が体を覆うようなイメージで」


とりあえず、頭で考えるのを止め、ただ漠然とアイミをじっと眺めてみることにする。


………………。


意識から風景が消えアイミの姿だけが残る。


次第にアイミの身体を模るように、周りに黒い気配が――


「はぁっ⁉」


爆発的に漏れ出した。


どこかの戦闘民族のようにアイミからこぼれ出す気配はとてつもなく禍々しい。

これを冒険者が確認、もしくは感じ取れるとしたら、剣を向けるのも頷ける。

そして、その張本人は今も呑気にのこぎりと格闘していた。


「アイミ、フードを取ってこっちを見ろ」


思わず、そう言ってしまったのは、新しくできた事を内心でほくそ笑んでいたからだ。


実験。


好奇心が、思考よりも早く動き出す。


「集中していたのに……」


こちらの見えている景色とは違うその声色に、俺の額からは一筋の汗が流れた。


「じゃあ、いくよ」


黒い気配の中、平然と立つ少女はフードを外してこちらに視線をよこした。


――その瞬間だった。


まるで視線からビームを出す様に禍々しい黒い気配が、俺に襲い掛かる。


――死ぬ。


そう脳裏を掠めた瞬間、後から思えば防衛本能だろう。

俺は全力で自身の源素をアイミの姿を借りるように、外へと放出した。


自分の源素が白く見える分、分かりやすくアイミの源素とぶつかり合う。


「すごいっ、どうやってるのっ、石化してないよ!」


呑気に喜んでいるアイミと違ってこっちは、命がけだ。


次第に、俺の源素が黒い気配に覆われていく。


まずいっまずいっまずい!


「めめめめめ、目を隠せっぇええええええええええええええええええ!」


叫ぶ以外で他に何も思い浮かばない。


「???」


首を傾げながらアイミが目を瞑った。


すると、飼い主の元へ帰るように黒い気配が俺の傍から離れて行った。


腰を抜かした俺は、信じられない一幕にただただ呆然とするしかない。


「化け物じゃねぇか」

「……ひどいっ」


傷ついたようで、しゅんと落ち込でしまう。


「はは、さすがに女の子に化け物とは言いすぎだった――とは俺は思わないからなっ! 落ち込んだくらいで許されたと思うなよっ!」


自分でも無茶苦茶な事を言っているとは思う。

ただテンパった口は留まることを知らなかった。


「ここにいるなら、コントロールできるようにしろっ!」

「え……、」


どこか不思議な反応をアイミが見せる。


「…………できるようになったら、ずっといてもいいのかな」


小さく呟かれた言葉は俺には届かなかった。


それを余所に、変化があった。


「あれ、」


これは、まさか……。


「目を開くなよ、化け物」


むっとした表情のアイミに近づいて顔を覗き込む。


「ふむ、問題は解決したな」


テンパって気付くのが遅くなったが、アイミが目を瞑ってから気配が見えなくなっている。

つまり、禍々しい気配はアイミが目を開けている間にしか漏れていないようだった。


「あ、タダシ、まだチューは早い年頃だよ。私だってまだ――」

「ぐはっ」


突然、中身二十八歳の心にクリティカルヒットのダメージが負わされた。


「……あ、あれ? どうしたの……? じょ、冗談……」

「まだ、俺十歳でいいんだよね……十歳……。やり直しのタイムリミットまで十八年あるんだ。今度こそ……しくしくしく」


元二十八歳派遣社員、独身男性。


最終異性交流、幼稚園年長さん遠足での手つなぎ。


――完。


「良くわからないけど、ごめんね」

「…………ここにはいろんな種族がいるだ、……一人くらい……」


淡い希望を胸に第二の人生は、始まったばかり……。


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