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異世界だろうとのんびりと  作者: ダルマ787
ーーーーーーーーーーーーーーーーー 第一巻 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
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第1話 気の向くまま

2021/1/23 読み直し(一回目)編集しました。

2021/3/17 誤字脱字、ルビ振り追加、文章追加、台詞の言い回し変更など、編集しました。


数多くの野菜や果物が入った荷台がガタガタと揺れる。

それが返って悪路を超えてきたのだと実感させてくれた。

最低限舗装されているだけ、人の手が入っている証拠。獣道なんかと比べれば平坦だと思える。


「はは、見えてきた」


のんびり向かってきたけれど、いつでも街が見えてくるのはうれしいものだ。


雲一つない晴天の下にそびえたつドデカい柱に門、害するものから守るための壁がこの一つの街の大きさを物語る。

相変わらず、入門するために長蛇の列を作っていた。それだけで、この街が栄えているのが伝わる。


「また一段と長いなぁ」

「ほんとだねぇ」

「ははは」


荷台を止め、その上に腰を押しつかせながら、列の前に並ぶ老夫婦と何気ない会話をしつつその時を待つ。

ただのんびりと焦りなどない。穏やかな日々だった。

それからどれくらい時間が経った頃か、ようやく自分の順番がやってきた。

先に入っていく老夫婦に頭を下げられ、手を振って見送ると、髭を生やしたガサツな印象の門兵がため息を吐き見下ろしてくる。


「こんにちは」


「あのなぁ、何度も言うが、商業ギルドでも、冒険者ギルドでも登録したらどうだ、ボウズ(・・・)?」


このやり取りも何度しただろうか、だから()も同じように返す。


「商人じゃないですし、冒険者にはなりたくないのでお断りします」

「なら、せめて――」

「先輩、何度言っても無駄ですよ。子供のくせに頑固者だから」


そう言い、駐屯所のような小さな小屋から一人の若い門兵がやってきた。

こちらは最初の門兵と違って小奇麗な印象を受ける。


「はい。入門証、それと入門料は三万ガイアになるよ」

「いつもどうも、でもいいんですか入門審査」


身分証を持たない者は入門審査が存在している。

それには、とてつもない時間がかかり、最悪二、三日かかることもある。

かくいう俺も最初の頃は長いこと外で待たされた。


「ははは、そう思うなら――」

「そう思うならっ、せめてこの街の住人登録を済ませろ!」

「そんな無茶な……」


今度は髭を生やした先輩門兵が割って入った。


それに苦笑いを見せながら、チラリと後ろの列を見る。


身分を証明できない者が街の住民になるのは中々に難しい問題がある。

それを一兵がいくら子供だからと言って軽々しく発言してはならない。

それを列に並ぶ人々に聞かれるのはあまりいいものではない。だから、最初は、商人や冒険者を口にしたのだ。


「僕は養子にはなりませんよ」


そう冗談めかして人が聞こえるように大きめ声で発言する。

もちろん馬鹿にしたわけじゃない。

この不用意な一言を種に、いちゃもんをつけている輩はどこにでも存在するのだ。

それを子供との冗談のやりとりという一幕を作っておけば、いちゃもんをつける方が損をする。

その構図を作っただけなのだが。


「な、てめっ! だれが種無しだ! 相手がいないだけだからなっ!」


顔を真っ赤にしながら失言が飛び出した。


すると、列からこぼれ出る笑いや、同情、心配の声がちらほらと広がっていく。


「せ、先輩……」

「……あ」


今度は茹でダコの完成である。


「うるせぇっっっ、さっさと行きやがれぇえええええええ!」

「はははは、またね」


「二度とくるなぁああああああああああああああああああああああ!」


それは無茶な注文だ。

出る時も通るのだから。


そんな一幕がありながら、露店が広がる繁華街へとやってきた。


街の一番大きな繁華街だけあって活気がすごい。

それぞれの専門店が声を出し、通り過ぎる客に自慢の商品を売り込んでいる。

そんな中、荷台を引っ張りどう見ても客に見えない俺はとある店を探していた。


「ええと」

「おーい、ぼうず」


するとこっちに気付いた一人のハゲ頭の髭面店主が手を振っている。


「よかったすぐに見つかって」


店の形はみな似たり寄ったりで、売っているものか、店主自体を見つけなければいけなかったので、見つけてもらって助かった。


「いやー待ってたぜ、お前んとこの野菜はすごい人気があってな」

「へぇ、そうなんですか」


「お前、他人事みたいにって、まいいや。見せてくれ」


荷台を止め掛けていた布をめくる。

そこにはみずみずしく新鮮な野菜や果物がきれいに詰められていた。


「お、今回は果物もあるのか、いいねぇ」

「陳列手伝います」


「おお、っとその前に取り置き分二か所分寄せといてくれ」

「取り置き?」


「だから言ったろ、お前んとこの人気があるって」

「ふ~ん」


思わず出してしまった興味がない素振りに、ハゲ頭の髭面店主は頭を掻きながら、


「とうの本人がこれだもんな。自信なくしちまうぜ、うちの野菜なんて取り置き注文なんてされたことねぇぜ」


何とか誤魔化しながら、純粋な気持ちも伝える。


「でも、僕の所のは不定期で毎日は卸せませんよ」


基本的に街に野菜を売りに来るのは、決まった理由の時だけだ。

そんな安定しない中で取り置き注文をするなんてリスクの方がある気がする。


「そのへんは心配しなくていいぜ。先方にもそれは納得したうえで受けてる。まぁ、実際次があるかもわからないって説明付きでな」


それなら、この店に被害も出ないだろうから問題はないか。


「それじゃあ、後は任せてもいいですか?」

「おお、いいぜ。また本か?」


「はい」

「がはは、俺には理解できねぇぜ、本なんかに金を使う理由がな」


そう、これがこの街の野菜を売る時の理由だ。別に読書家というわけでもない、残念なことに、俺はこの世界の読み書きができなかった。

その為、勉強の資料が足りないと感じたら街に降りてくるのだ。


だから、商業ギルドに登録やら、冒険者になるなんてもってのほか、面倒な事、危ない事、リスクのあることは一切やらない。

よって知り合いも最低限、面倒が起きない程度の人間づき合いしかしないのだ。


ダメ人間というなら言うがいい。


異世界放浪者が誰もが冒険を夢見たり、旅人になりありとあらゆる土地に足を運ぶなんて思うなよ!

そう我こそは、ビビり体質の緊張しい、人見知りの人付き合い激悪、都合のいい時だけ猫を被るカメレオン男、元の世界で二十八歳派遣社員、独身、童貞、友人、二、三人の超一般人。

見た目はなぜか十歳くらいの子供姿のままこの世界にやってきた、悪いことだけするなと言われ育った男。


「それが中村正、それが俺だ!」


こうして、中村正の冒険は幕を開けることをしない……はず。


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