Day...1 私
「なに?なに見てるの?」
気温は34℃。汗だくになって帰ってきた私は冷蔵庫から麦茶を取り出し、コップに注ぎ飲み干した。
ソファーに座っていた兄と視線がかち合う。
「熱中症とか大丈夫か?」
「そうならないように今飲んでるんだけど」
それもそうか。と読んでいた本を閉じ、私に洗いたてのタオルをかけてくる。
「ちょっと!シャワーもまだなのに」
「だって。また出かけるでしょ?」
ふわっと冷気が流れてくる。
開けられた冷蔵庫はどちらかというとスカスカで、さぁ買い物行こうかと言いたげな表情を浮かべた兄がにこにことしている。
「今日はどうしようか?」
楽しそうに献立を考える兄。
世話焼き心配性の郁也お兄ちゃん。
感情という感情がすぐに顔に出てしまう。
「なんでもいいよ」
「あー!分かってないなぁ!なんでもいいが一番困るんだぞ」
「どうせ私が作るんだし」
冷蔵庫を閉めて身なりを整えるために洗面所へ向かう。
「うわ、びっくりした」
とてもその言動通りとは言えない弟が歯ブラシをくわえながら私をぼーっと見ている。
「あ、ごめん」
「別に」
弟の蒼くんは感情がよく分からない。分かるけど分からない。
今だって驚いたと言いながらただこちらを見ていただけだ。
分かりやすい兄と分かりにくい弟。
「なにか欲しいものある?」
洗面台の位置を換わってもらい、身だしなみを整えながら聞くと5秒くらい固まる。
「いいよ。なんか欲しかったら帰りに買ってくるし」
「そう。じゃあちょっと行ってくるね、そっちもバイト頑張って」
「おー」
洗面所から出て来た私を玄関で兄が待っている。
チラッと弟を見るとだるそうな顔をしながら歯磨きを続けている。
目が合うと手を振ってくる。
仲はいい方だと思う。
いいとは思うのだけど、たまにギクシャクしたりもする普通の関係。
でもそれはとても普通で普通ではないと気づくのはまだ先のお話。