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魔竜の化身

さて、貴族の少女、フィーリナの護衛としてなんかノリで王都に向かうことを勝手に決めた俺、ビリーはエルフの少女(推定)ユズハを適当に言いくるめて旅に同行させることに成功した。

きっと愉しい旅になるだろうと意気揚々と進んでいた。

だがその結果、めちゃめちゃ後悔した。


「遠い! 遠すぎるでしょ王都! 大体ゲームでの移動時間なんてだれる原因になるもの普通はある程度省略するものじゃないの?! これまさか本気で二日かかるとか言わないわよね?! だとしたらユーザー舐めてるってレベルじゃないわよ?! ねえ!!」


 うるっせ。

 下半身直結の巣窟(出会い系サイト)にテメーの住所晒すぞ、クソアマ。


 そう、歩き始めておよそ五時間、とうとうユズハがキレ始めたのだ。

 いくら将来有望な玩具とはいえ、ここでストレスになるくらいなら捨てておくべきだったか。

 いや、まだ判断するのは早い。

こういう生きのいい奴を最後に落とすのはきっと想像以上に愉しめるはずだ。

 まあ、それに道が長いのは確かだ。

 何せ馬車で二日の距離を徒歩で歩くとなれば、その距離はなかなかのものだ。

 本気で勘弁願いたい。

 そこで俺は考えました。

 馬鹿正直に徒歩で移動する必要無くない? と。


「ちょい一旦落ちるから、護衛よろしく」


「え、ちょっ!」


 このゲームでのログアウトは危険がいっぱいだ。

 何せログインが現実で寝ている状態なら、ログアウトはゲーム上で寝ている状態だからだ。

 そう、このゲームではログアウト中に自キャラが死んでたなんて事件が普通に発生する。

 ログアウトする時は周囲の安全を確保して身を隠すか、神殿や祠で死んでもいい状態にしておく必要がある。

 今回の場合はそのどちらでもない方法、別のプレイヤーに護衛を頼むだ。

 ただこの方法は頼んだプレイヤーが裏切った場合、意味がない為に非推奨とされている。

 最も万が一の時は蘇生珠を使うだけだ。

 高々数万円程度の課金ならとっくに済ませてあるしな。

 それでも俺がログアウトしたのはもちろん目的があってのことだ。

 友人の一人にメールを入れる。

 多分今はあいつもゲーム中だろうから気が付かないだろうが、気が付いたらすぐに反応があるはずだ。

 送った内容はこうだ。


「俺、セフィロティア・オンライン始めたんだけど、お前何してんの? 早く馬車でも何でも便利な足持って馳せ参じろよ。俺の現在位置はゲーム内の南の方にあるアルメナ王国の王都から馬車で二日東に行った所だ。今日中に見つけられなかったら二度とお前なんぞ使わねぇから、頑張って探せ」


 メールも済んで、ついでにトイレと水分補給を済ませたら再びログインだ。


「ちょっと! 急にログアウトするのはやめてよ!」


「すまんすまん、ちょっとリア友に迎えを頼んだんだよ。歩くのもきついだろ? そいつなら多分乗り物くらいなら用意できるはずだからさ」


「え、そんな知り合い居るなら早く言ってよ」


 完全に便乗出来る前提で話してるが、まだお前も乗せるとは一言も言ってないがな。


「いや、俺もさっき思い出してな。出来る事なら使いたくはなかったんだが、立ってる奴は親でも使えって言うし、主に害がメインなんだから、こういう時くらい役立ってほしいという切実な思いっていうか」


 少々ややこしい話なのだが、まず前提として俺には兄弟姉妹の類はいない。

にも拘らず、何故か俺を兄と呼んで前世で兄妹同士だったとか恋人だったとか言ってストーキングしてくる自称魔竜の化身、ゴスロリ二十八歳独身のOLが隣に住んでる。

 顔はそこそこ良いが、厨二病全開の八歳年上からお兄ちゃんと呼ばれて盗撮盗聴されるのは精神衛生上かなり良くない。

 いつか奴から逃げ出してやると画策しているが、ふとした思い付きでアメリカに短期留学した時、ホームステイ先に着いた俺をホストファミリーと一緒に迎えて「あれ? お兄ちゃん、偶然だね?」なんて言ってくる奴をどうやったら出し抜けるのかは未だわからない。

 そんな奴だが俺にこのゲームを進めてきたのもこいつだ。

 まあ、それはいいとして今はどうやって王都にたどり着くかが重要だ。

 前に乗り物があると便利だと語っていたから奴は確実に移動手段を持っている。

 ならばそれを利用しない手は無いだろう。


『ビリー、調子が悪いのなら一旦休みましょう』


 フィーリナが心配そうに俺を見る。

 今まで会話を日本語でしていたから、フィーリナから見れば俺は唐突に気を失ってしばらく目を覚まさなかったということになる。

 これはしまった、ユズハなど放っておいてセフィロティア共通語で言えば、いや説明できないからダメか。

 それにフィーリナでは護衛にならないしな。


『大丈夫だ。少々こちらの世界から離れていただけだとも。友人に連絡をしていた』


『魔界ですか?』


 おう、まあ種族デーモンになってるしね、妥当な判断だわ。

しかもこの世界から見た現実世界の名前はクリフォティア。

となればあながち間違っても無い。


『そのようなものだよ。移動手段が欲しいので協力を要請した。少々変わり者ではあるが、優秀だよ』


 能力は優秀なんだよ。

だからこそ余計に質が悪いとも言うがね。

 まあ、別に人格的にも悪い奴ではない。

 ちょっと愛情表現が下手糞な残念美人といったところか。

 一応奴から逃げることを考えてはいるが、縁を切ろうとまでは思っていない。


「ちょっと、何話してるのよ。教えてよ」


「いい加減共通語くらい覚えろ。英語が出来ればあとはちょっと仏語と独語の単語程度だし、二、三時間集中すれば簡単だろ?」


「いや、そんなのあんただけよ。普通の人は出来ないから」


 ああ、こいつはやはり頭の出来が足りないのか……不憫だなぁ。


「そのむかつく眼差し止めなさい。今すぐに」


 比較的バカ寄りのやり取りで脳みそをリラックスしていると、突如として頭上に大きな影が現れ、日差しが遮られた。

 ふと見上げれば羽の生えた大きな黒い爬虫類、所謂ドラゴンがこちらをその鋭い眼で見ていた。


「へ? ちょ、なにこれ?! 強制イベント?! もう意味わかんないわよ!」


 隣でユズハがワタワタとみっともなく狼狽えているが、まだこのゲームの仕様を理解できないその頭の出来こそが俺には理解できない。

 はっきり言ってこのゲームにはイベントなどという上等なものは存在しない。

 プレイヤーが偶々見つけた何らかのトラブルを勝手にイベント扱いしているだけだ。

 つまり、こいつは偶然こちらに興味を持ったドラゴンか、プレイヤーの干渉によって動いているかのどちらかだ。

 そして、そのどちらの可能性が高いかは考えるまでもない事だ。


『フィーリナ、どうやら頼んでいた迎えが来たようだ』


『迎えとは、このドラゴン……なのですか?』


『まだわからんがおそらくはそうだろう。どれ、呼びかけてみるとしよう』


 どう考えてもこのタイミングで来るのは奴以外ありえないだろう。

 思った以上に早かったせいで若干引いたが、優秀な奴は嫌いではない。


「おーい、二十八歳独身処女―。いるなら返事しろー」


「それをお前が言うのか、兄上よ。貴様が我が依り代を嫁にもらえば年齢以外は解決する問題ぞ?」


 ドラゴンの背から聞こえてくるのは、聞きなれすぎるほど聞いた声だ。

 そして、その声の主はドラゴンの背から飛び降りてきた。

 その姿もまた、見慣れたものだ。

 美化0%、驚きの素材そのまま、自称俺の前世の妹にして自称恋人、合法ロリ、外見だけ中学生。

 我が友人、28歳ゴスロリ厨二病OL、夜神冥やがみめいがそこにいた。


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