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立ちはだかる言語の壁

 はっきり言って、何の教材もなしに短期間での言語の習得は無理だ。

 それがはっきりと解ったのは、フィーリナに何か使命があって旅をしている事を確認するのに三時間かかってからだった。

 一応この世界の言語は一部の単語は聞き覚えのある物があり、どうやら英語や仏語、独語、羅語などが混ざっているようだが、混ざりすぎて逆にわかりずらいし、そもそも英語以外はほとんど覚えてない。

 その上、文法も英語とは異なるようで解読はより困難を極めた。

 その間にユズハはレベルを上げに行き、レベル20までは上がったらしい。

 だが、それ以上はなかなか上がらないらしい。

 多分、あの虫ども相手じゃあそこらが限界なんだろう。

 俺もレベル28以降のレベル上げがスムーズだったのは、相手がそこそこ強かったおかげらしい。

 一応フィーリナから読み取れる限りでは、あの鎧どもは訓練された兵士だったらしいからな。

 それならそこまで雑魚のはずも無いし、経験値的にも美味しかったんだろう。

 昨日、ユズハのログアウト後にレベル上げを行ったが、全然上がらなかった。

 幸いにして、金色の虫を五匹ほど仕留めたので、一応38までは上がったがそれ以上は無理だった。

 そんなことを考えていると突如、頭の中に声が響いた。


「アインヘリアルに通達します。新しいアイテムが実装しました。最寄りの教会、祠、神像にて担当ヴァルキュリアとコンタクトし、受領してください」


「新アイテム? 何かしら。でもタダで貰えるんだし。貰える物は貰っとくべきよね」


 それに関してはちょっと同意しかねるな。

 タダだろうがゴミはいらねえ。


「ま、何にせよ聞いてみないとな」


 俺はフィーリナにちょっと待つようにハンドサインで伝えるとフィーリナは朽ちかけた長椅子にお行儀よく座った。

 お人形さんみたいな可愛さがあるよな。

うん、やっぱこれは手放しがたい。

 それは一先ず置いといて、早速女神像に向けて祈りを捧げるとエルルーンが興奮した様子で話しかけてきた。

 そのテンションやめろ、鬱陶しい。


「ビリーさん! やばいですよ! とうとう来ましたよ!」


「いや、何がよ。いいからはよ要件言えって。フィーリナ待たせてんだよ」


「つれませんねえ。まあいいでしょう。新アイテムが何かを聞いてもそんな態度が取れますかねえ。見ものですよ!」


 ウッゼ。

 マジで殺意が湧いてきたぞ。


「なあ、エルルーン。お前ってこっち来れないのか? お前なんか知らんけど後光的なので光ってるし、照明家具として置いとくには丁度良いと思うんだ。その羽根もさ、いい布団作れそうだよなぁ」


 そう、調度品として丁度良い……ダメですかそうですか。

 まあダジャレは滑ったが、エルルーンに俺のイライラは伝わったらしい。

 声から焦りと緊張が伝わってきた。

 ……なるほど、ヴァルキュリアをこっちに引きずり出す術はあるらしい。


「はい、今回のアイテムなんですが辞典です。セフィロティア共通語の単語の日本語訳と発音が載ってます」


「……本当に驚いたぞ。そりゃあ欲しい。ちょうど今、まさに欲しかったもんを用意するなんて。どうした、担当者がとうとう降ろされたのか?」


 いや、マジでそうとしか思えないレベルで素晴らしいアイテムだ。

 初期装備に火打石ぶっこんできた奴と同じとは思えない。


「あ、いえ、担当は変わっていませんよ? だから……その、文法とかは載っていません」


いや、基本的な単語と動詞、形容詞が分かれば習得難易度は格段に下がるだろう。

文法なんてよほど特殊じゃない限りパターンはそう多くないから慣れりゃわかるだろ。

最悪単語だけでも不格好ではあるが会話にはなるだろう。


「それくらいは許容範囲だ」


「では、手持ちに送っておきますね」


 いや、それが出来るならこの会話いる?

 まあ、一応説明は必要か。

 さて、祈りを終えてみると、ユズハはまだ祈っていた。

 しょうがないので、ユズハを放置してフィーリナの隣に腰かけて辞典を開く。

 そしてフィーリナに指さしで単語を見せて発音の確認をしていく。


『あ、あるがっとう?』


『違う、ありがとう』


 発音がおかしかったらしく、苦笑しつつ訂正を入れてくれる。

 友好的な現地人がいるって本当に便利だわ。


『ありがっとう?』


『あ・り・が・と・う』


 根気よく丁寧に発音してくれる。

 辞典だと発音がカタカナ表記でいまいちわかりにくいが、これならわかりやすい。


『ありがとう』


『上手い』


『ありがとう』


 しっかり出来たら褒める、なるほど、教えることに慣れているな。

 弟か妹でもいるんだろうか。

 しばらくそんなやり取りで言語を学んでいると、ようやくユズハが帰ってきた。

 もうかれこれ二時間くらい話していただろうが、そんなに何を話してたんだか。


「あら、もう読んでるのそれ。どう、わかりそう?」


「ああ、簡単な会話くらいなら難しくなさそうだ」


 現にユズハが帰ってくる数分前にはフィーリナと雑談してたくらいだ。

 フィーリナは貧乏な貴族家の長女で、妹と弟が一人ずついるらしい。

 貧乏ながら、爵位と土地だけは大きく、それを負担にも思っているらしい。

 今回の旅はなんでも謀反の疑いをかけられ、その弁明を行うべく王都に向かっていたらしい。

 本来、行くべき領主本人は病気療養中、妹も弟もまだ幼く母は数年前に他界。

 そして、護衛が他の貴族家の兵士に襲われて今に至る、と。

 いやはや、話してみてわかったがフィーリナは素晴らしい。

 何が素晴らしいって、出来る限り自分の境遇を哀れに語って見せることだ。

 それでいて助けを求めることはしない。

 弱く見せながらも、弱味は出来るだけ見せないように慎重に選んで情報を出している。

 同情させてこちらから手助けを申し出れば、そこまで大きな報酬を用意しなくても済むし、そういう可哀そうな相手を裏切ったり、投げ出したり出来る奴は少ない。

経験不足ゆえに、意図的に隠している情報もちょっと質問を捻ればおおよそ察しがついてしまうし相手の観察が足りない。

 俺はどちらかというと哀れな奴を助けるより、必死に足掻いている奴をギリギリに助ける方が好きだ。

 まあ、これもなかなか乙なものだし、助けてやるとしよう。


「ここから馬車で二日ほどの場所に王都があるらしい。そこまでこのフィーリナを護衛するのがこのクエストの目的って感じだな。王都には他のプレイヤーもいるだろうし、行ってみる価値はありそうだ」


「馬車で二日って、まあ実際に二日かかる訳でもないんでしょうけど、結構な距離よね……」


 何言ってるんだこいつ。

 どう考えても馬車で二日の距離が徒歩で実時間二日以内にたどり着けるわけないだろ。

 馬鹿なのか。


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