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正義を持つ少女

「あら、気が付かなかった。もう一人いたのね。そっちのあなたも初心者?」


 エルフ娘がフィーリナに気が付いて声をかけるが、フィーリナはまるで何を言われているのかわからない為、挙動不審になりながら頑張ってジェスチャーを始めた。

 どうやら言葉が分からないので、何を言っているか分からないと伝えたいらしい。

が、全く伝わっていなかった。


「え? 何? どうしたのこの子?」


 怪訝な顔でこちらに訪ねてくるエルフ娘はどうやら察しの悪い子らしい。

 ますますこれからが楽しみだ、神様ありがとう。


「言葉が通じないんだよ。この娘はフィーリナっていうらしいんだが、どうやらNPCらしくてな。なんかガラの悪いのに襲われていたのを助けた。多分なんか護衛イベント的なものだ」


「え、NPCなの? とてもそうは見えないけど……。本当に人間みたいな反応よね……。あのヴァルキュリアといいこの子といい。本当にこれ、ゲームなのかしら……」


 その気持ちはわかる。

 どう考えても普通じゃない。

だが、結局はどうでもいいことだ。

 ここがゲームだろうが、実は異世界だろうが、俺がやることなんぞ変わりはしない。

 好きにやるとも、それが出来る環境があってそれが許される力があるんだからな。


「別にNPCでも普通の人と同じに接すればいいと思うぞ。それで不利になることはないだろ。それよりそろそろ自己紹介くらいしておきたいな」


「そうね、私はユズハ。本当に始めたばかりだからレベルは1だけど、初期スキルは当たりを引いたわよ! その名も正義レベル5! 効果は不明って言われたけど、裏を返せばそれだけ珍しいってことだし、名前からしてマイナス効果ってことはないでしょ」


 なるほど、まあぴったりと言えばぴったりだろうな。

 しかし、まさか馬鹿正直にスキルまで明かすなんて舐めてるのか?

 いや、単純に疑うということを知らないんだろう。

 余程温い環境で育ってきたんだろうな、憐れみさえ覚えるわぁ。


「俺はビリーだ。スキルはまあ、ハズレっぽいちゃちな奴でな。清掃レベル1だ」


 フルネームとか名乗る意味もないが、ぶっちゃけ本名すら名乗る必要がない。

 何せこのゲーム、相手のステータスを見るにはそれ専用のスキル、観察眼が必要でそれを持ってる奴もそう多くはないとエルルーンが言っていた。

 そして初期スキルが正義なら観察眼は持ってない。

 もし、正義に嘘を見抜く効果があったとしても全く問題無い。

 清掃が初期スキルとは一言も言ってないし、苗字を名乗ってないだけだ。

 嘘じゃない、ちょっと言葉が足りないかもしれないが嘘はついてない。


「それは……本当にハズレね。何? リセマラは基本じゃない?」


 あ、こいつ説明聞いてねーな。

 あれか、ゲーム始める時説明書読まないタイプか。

 マジでダメなゲーマーの基本押さえすぎておかしくって腹痛いわー。


「この初期スキルってどうしたって変えられないって言われたぞ? 流石にハズレスキル渡されたら多少粘るさ。無駄だったけどな」


 初期スキルは変更できない。

 さらに言うなら、大体の初期スキルは割と簡単に習得できる。

 例えばこいつの正義、これだって珍しいとは言っていたが取れない事はないだろう。

 要するに条件さえわかればスキルなんてどうとでもなる。

 俺の現在のスキルはこんな感じだ。


 ビリートールアイズ・デーモン・殺人鬼・レベル34

 スキル:逆境レベル5・清掃レベル1・歌唱レベル8・威圧レベル5・嗜虐レベル3・傲慢レベル1


 なんか種族がとんでもないものに変わってるが今はスルーだ。

 重要なのは嗜虐と威圧と傲慢だ。

 まあ、嗜虐はちょっとSっ気がある自覚はあるのでまだわかるが、威圧と傲慢なんてとんでもないことだ。

 他人を威圧した覚えなんて無いし、傲慢なんて謙虚な俺から最も縁遠い言葉だ。

 つまりこれらは俺の自己評価に関係なく、他者評価によって与えられていると見るべきだ。

 そこから導き出される答えは他人から見て正義だと思える行動をすれば、正義スキルを手に入れられるということだ。


「そういえばあなたレベルは? 二日目ってことは多少なりとも上げたんでしょ?」


 ええい、人が考え事してる時に喧しい奴め。

 そんなもんどうでもいいだろ。


「レベルなら今三十ちょっとだ。この教会を出て、そこら辺の建物に突撃するとすぐにレベルが上げられるだけの獲物に出会えるぞ」


 その代わりレベル30までに百回以上死ぬけどな。

 しかも巨大な虫に体を食われながら死ぬから、人によっちゃあトラウマになるかもな。

 俺はほら、虫は慣れてるからな。

 何せよくプレゼントされるからな、勿論俺からも倍にして送り返すから余計慣れたよ。


「へえ、噂じゃあレベル上げるのにすごい苦労するって聞いてたけど、ひょっとして穴場スポットなのかしら、ここ。だとしたらこれは始まっちゃうかもしれないわね、私の伝説が!」


 この楽しそうな顔がこれから虫どもに蹂躙されるのかと思うと堪らない。

 そして数時間後、案の定入り口から出て行ったユズハは女神像の前から還ってきた。

 先ほどまでの元気の良さは一体どこに行ったのやら、まるで死んだ魚みたいな目で虚空を見つめている。

 口は開きっぱなしで、その場にへたり込んだまま全く動かない。

 流石にここで壊れるのは早すぎる、どうにかしないとな。


「おい、どうした。ほら、ちょっとはレベル上がっただろ? それ続けてりゃあ一日もすれば俺に追いつくぞ」


 声をかけると、目がこちらを見る。

 こちらを認識した途端、正気に戻ったらしく、立ち上がって俺の胸倉を掴みかかってきた。

 おいおい、やめろし、服が乱れるじゃねーか。


「……馬鹿じゃないの? ねえ、馬鹿なんじゃないの? ねえ、ふざけてんの? ありえないでしょ、ありえないでしょ!! 何あれ?! 建物入った瞬間に虫に襲われて! 慌てて倒したらどんどん出てきて! 倒しても、倒しても終わらなくて……ああああああああぁぁ!!!!」


 うるっせ。

 だがこいつ興味深いことを口走ったぞ?

 倒しても倒しても、だと?


「なあ、レベルどんくらい上がった?」


「ちょっとは謝るなりしなさいよ! レベル?! ちょっと確認するから待ちなさいよ!!えーっと、12よ!……上がりすぎじゃない?」


 なんだそれ、俺が五十回くらい死んでようやっとレベル15だぞ。

 理不尽過ぎない?

 これがガチゲーマーの実力ってやつなのか、もしそうなら危険すぎる。

 これは下手するとあのまま壊した方が良かったのか?

 いや、ダメだ面白くない。

 うん、なんとかうまく利用する方向で考えよう。

 それに実力と決まったわけじゃない。


「いや、すまんな。そんなに虫が苦手とは思わなかったよ。ほら、俺は全然平気だったからさ。本気で親切のつもりだったんだよ。そうだよな、女の子だもんな。いや、本当に配慮が足りなかった」


 とりあえず女ってやつは女の子扱いが好きだ。

 女扱いされるのが嫌いだとか抜かす奴もいるが、そんなもん大概は建前だ。

 褒められたい、特別扱いされたい、チヤホヤされたい、そんな欲がない奴はどっかがぶっ壊れちまってるだけだ。

 そして、そういうぶっ壊れた奴はどんな理屈も通じないからそもそも会話なんぞ無意味だ。


「わ、分かればよろしい! で、あんた二日目って言ってたけど、ひょっとしてまだそんなに戦ってないの? それともここからの必要経験値が高いとか?」


「いや、俺は実はもう百回以上死ぬくらい戦ってるし、レベルの上がり方を見ても急に必要経験値が上がった様子もなかった。おそらくだが、君が戦った相手に経験値が特別高い個体がいたか、もしくは正義スキルの効果じゃないかな」


 もし、スキルの効果だとしたら厄介だ。

 だが、そうではなく偶然獲得経験値の高い個体を撃破しただけなら、別にこいつ自体の脅威度はほぼなくなる。

 末永く玩具として遊びたい俺としては危険が無い方が助かるんだが。


「そういえば、最初に斬った一匹が色違いだったわ。金色っぽい感じの。あれがそうなのかしら」


 間違いない、それだ。

 俺が狩った虫の中に金色の奴はいなかった。

 だが、実はそいつを見たことだけはある。

 他の虫と戦闘中だったから諦めたが、一匹だけ俺に向かってこないで逃げる様は特別仕様ですと宣言しているようなものだったからな。

 その一回以降、全く見なかったから忘れてたがな。


「私は疲れたし、今日はもうログアウトするわ。明日もログインするつもりだけど、あんたは?」


「俺はまだしばらくほとんどログインしっぱなしになりそうだ。飯と風呂以外は多分ずっといると思うぞ」


 何せこのゲームやってる限り睡眠いらんからな。

 飯と風呂に起きて、トイレをそこで済ませりゃあずっと続けられる。

 ……これ、絶対そのまま死ぬ奴出そうだけど、対策とかあんのかね。

 そして、まあ当然のようにフレンド機能とかそんな便利なシステムは無い。

 会いたきゃ現実のネットでも何でも使って連絡取れって事らしい。


「じゃ、また明日ね」


「ああ、またな」


 まずはレベル上げと情報収集だ。

 フィーリナは急ぎのようだが、数日の猶予はあるようだ。

 さて、果たしてどこまでやれるかな。


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