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新生活応援キャンペーン

 ゲームからログアウトした俺は、とりあえず適当な食事で腹を満たし、セフィロティア・オンラインのホームページを立ち上げる。

 課金の方法を確認するためだ。

 課金方法は簡単だった。

 コンビニなどで買える金額の定まったカードを購入してゲームの端末にかざすだけだ。

 早速コンビニに行って、ある程度纏まった額を購入した。


「さて、俺の欲しいものは買えるかな」


 金額が足りなかったら素直に諦めるとしよう。

 そう思いつつ再びログインして女神像の前で祈る。

 しばらく祈ると聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「課金するの早くないですか?」


 エルルーンだ。

 運営側の奴に課金について咎められたくはない。


「とりあえず服と大工道具、掃除道具、火打石以外の火をつける道具が欲しいんだが」


「火打石使えませんよね。あれ、使いこなしてる人見たことないです。でもご提供できる着火道具はそれ以外ですとレンズくらいです。マッチとかライターなんて開発されてませんから」


 そう思うなら基本セットに入れておくのやめろよとも思ったが、多分あれを設定しているのは別の奴なんだろう。

 しかし、火が起こせないのは困る。

 鎧どものスプラッタ劇場は燃やすのが早いと思ったが、とりあえずこのまま埋めとくしかなさそうだ。


「ならいいや、諦めとく。それで服なんだが、俺のじゃない。女性用の修道服を何着か買いたい」


「あの、誘拐は出来れば止めてくださいよ。モラルって大事です」


 失礼な奴だ。

 こんな紳士的で文化的な知識人を捕まえてまるで野蛮な未開の原住民みたいな扱いしやがって、こいつが野郎だったら拷問、ギロチン、晒し首のコースだぞ。

 まあ、現実じゃあ出来ないから実際にやるのは弱みを握る、増やす、晒すのコースだけどな。


「いや、野蛮な男に襲われている可憐な乙女を颯爽と救っただけだぞ」


「その外見でですか?」


 人を見た目で判断するのは良くないことだ。

 まあ、こんな外見にしたのは俺だし、そもそも見た目で判断するなっていう奴は文句を言う前に見た目を整える努力しろとも思うが。


「文化人らしく紳士的に歌いながら引きちぎってやったよ」


「魔物より恐ろしい怪物として語られそうですね。でも人助けとは素晴らしいです」


 エルルーンがいいことを言った。

 そう、人助けはいいことだ。

 巡り巡って自分のためになるからな。


「ああ、せっかくの教会にシスターがいないなんて物足りなかったからちょうどよかった。美少女シスターとしてここでニコニコ笑って過ごしてもらおうと思う」


「……お家に帰してあげないんですか?」


「え? 勿体ないし、せっかくの美少女を堪能したい」


 俺専属のマスコットキャラクターとして今後も俺の目を楽しませてくれる予定だ。

 本人の意思は確認していないけど、死ぬよりは幸せだろう。


「……その方は、今どちらに?」


「近くの部屋で毛布にくるんである。なんせベッドの一つもありゃしないからな」


「不憫なっ! 追手に追われ逃げ延びた先で悪魔の如き化物にこき使われて、満足な寝床も無いなんて!」


 人聞きの悪い言い方だな。

 同情するなら居住環境とメシをくれ。

 結果として新生活応援セットという、生活用品を一括にまとめたよくわからないセット販売を独断で始めたエルルーンが後日上司に怒られたらしい。

 知ったこっちゃないが。

 後、無駄に高い神命珠とかいうのも買っておいた。

 どうせしばらくはこのゲームで遊ぶ以外何もする気がないしな。

 パーッと行こう、パーッと。

 この際なのでエルルーンにこのゲームの仕様や、スキルについてとにかく思いつく限り聞いてみた。

 このヴァルキュリアは余程真面目らしく、分からない時は別のヴァルキュリアに問い合わせてまで回答をくれた。

 おかげで他のプレイヤーの個人を特定しない範囲での情報は結構集まった。

 一応この近隣にもアインヘリアル、つまりプレイヤーキャラクターはいるらしい。

 徒歩で何時間とかの距離ではなく、馬車で何日間のレベルの範囲を近隣と呼んでいいならだが。

 そうやってエルルーンから情報を引き出していると、目が覚めたらしい少女が礼拝堂にやってきた。

 死体こそ片付けたが、至る所に付着した芸術性の欠片も無い赤い染みからここで何があったのかおおよそ察したらしい少女は怯えた様子で俺に頭を下げた。

 何やら言っているが、何を言っているかはよくわからない。


「何を言っているかわからない」


 試しに普通に話してみると、どうやら言葉が通じないことは理解できたらしい。

 すごい困った顔で悩み始めた。

 そして、少女の怒涛のジェスチャーが火を噴いた。

 正直ほとんど分からなかったが、旅に出て襲われて逃げた、までは理解した。

 後、少女の名前はフィーリナ・クィエスというらしい。

 多分貴族っぽいからクィエス家という貴族の家の娘さんなんだろう。

 所要時間、実に四時間である。

 言語習得は急務だわ、これ。

 そして、そうこうやり取りをしていると、突如として女神像の前に眩い光が生まれ、段々と人の形を成していく。

 そして、光が少しずつ収まり、一人のエルフっぽい少女が現れた。


「ここが、セフィロティアの世界……。すごい、まるで本当に異世界に来たみた……え?」


 エルフ娘の顔が、戸惑いから喜びに代わり、あたりを見渡して、此方に気が付いたことで自失に代わる。


「え?」


 エルフ娘が目を擦り、目の前の現実が受け入れられないと、言外に訴えていた。

 俺はそんなエルフ娘にサービスしてやることにした。


「くっくっく、よくぞここまで辿り着いたな。だが、ここが貴様の終焉の地よ。我が腕に抱かれ、ヴァルハラへと還るがよい」


「なんかラスボスみたいなのがいるー!」


 エルフ娘は逃げ出した。


「しかし、回り込まれてしまった」


「いやぁあ!!」


 エルフ娘が手に持った剣で殴り掛かってくる。

 うん、斬るという動きではない。


「勇者の攻撃。0点のダメージ」


 そんなんじゃあ攻撃にもならんわ。

 魔物にぶっ殺される前に一匹くらい狩れないとレベル上がんないぞ。

 突如現れたエルフ娘が俺に攻撃を加えているのを見て、止めるべきかとおろおろしているフィーリナがちょっと面白い。


「なんなの?! バグ?! 助けてアルヴィトさーん!」


「勇者は叫んだ。しかし、何も起きなかった」


 エルフ娘の動きが止まって、油をさしていない歯車みたいなぎこちない動きで俺の顔を見た。

 その瞳に浮かぶ感情が恐怖から、不安、そして不振へと変わった。


「……ひょっとして、プレイヤー?」


「気が付くの、遅くね?」


 全力で膝を蹴られた。

 いや、痛いし。

 ダメージ入ったんだけど。


「何? 初心者相手に嫌がらせする為に教会にいるわけ? 暇なの?」


「いやいやいや、俺も始めたばっかりだから初心者だ。まだ二日目なんでな。教会を拠点に活動してる」


「あ、そうなの。なら言っておくけど、初対面の相手にああいう質の悪い冗談を言うのはネトゲでもマナー違反よ。ゲームだからって、なんでも許されると思ったら大間違いなのよ? 今時完全に一人用のゲームなんて少ないくらいなんだからそのくらいの常識は身につけておかないとゲームをやる資格はないわよ」


 長い長い、半分くらいしか聞いてなかったわ。

 とりあえずこいつが結構ガチのゲーマーだってことは何となくわかった。

 どっちかというと質の悪い、自分の正義を疑わない委員長タイプか、こういう奴は大抵独善的で、排他的だ。

 俺はこういう奴が……大好きだ。

 こいつの心折れた姿を想像するだけでご飯三杯いけるわ。

 最高の玩具のプレゼントをありがとう。

 フィーリナといい、こいつといい、クリスマスなんてまだまだだってのに、どうしてこう俺をこんなにわくわくさせてくれるんだよ。

 おっと、ちょっとテンションが上がりすぎたな、顔に出るところだった。

 いやはや、童心に帰るってのはこういう事を言うのかね。


「ああ、すまんな。まさかここに他のプレイヤーが来るとは思わなかったんでな。ついテンションが降り切れちまったんだ」


「ああ、ランダムで来たけど、ここやっぱりはずれなのね……。あなたもランダムで選んで後悔した口って訳ね。全く、しょうがないわね。以後気を付けなさい!」


 適当な言い訳で取り繕う。

 嬉しくてとか、喜んでほしくてとか、お前の為を思ってとか、便利な言葉だよな。

 大概のことはそれで許されるんだからな、マジちょろい。


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