瓦礫の教会
始めに目に入ったのは朽ちかけた石像だった。
それはどうにも女神像だったのかもしれないと推測できる程度には原型を保ってはいたが、全体的に煤と埃にまみれ、右腕は折れてしまっている。
見上げれば、ステンドグラスが割れた窓から日の光が差している。
リアル時間では現在は深夜だから、ちょうど昼夜が逆転しているらしい。
振り向けばかつては広く立派だっただろう聖堂の成れの果てが映る。
壁は見るに堪えないほど朽ち、ボロボロの長椅子が並び、扉は倒れて木片と化している。
「これはひょっとして」
期待と不安を胸に携えて廃教会を出た俺を出迎えてくれたのは、どう見ても人が住んでいない廃墟が数棟あるだけの山と森に囲まれたド田舎だった。
人の気配がまるで存在しねぇ。
何かないかと廃墟を見て回っていると視界の端で何かが動いた。
「第一動くもの発見!」
俺が初めて見つけた動体は虫だった。
人の頭ほどの大きさの甲虫がギチギチと音を立てながらこちらを威嚇していた。
正直に言うと虫けら如きにやられるはずがないと油断してた。
大剣を構えて甲虫目掛けて特攻し、気が付けば死んでいた。
どうやら甲虫は数十匹いたらしく、斬りかかった瞬間に四方から飛び出してきた。
仕方なしに教会にて復活する。
どうやら復活すると服も綺麗になるようだ。
さっき虫どもの体液でひどいことになった服がピカピカだ。
さて、適当に振るった大剣によって何匹かは倒せたらしくレベルが上がった。
一応このゲームのレベルアップの仕様くらいは流石に調べてある。
打たれ強くなって力が強くなって速くなる。
以上だ。
でもそれを実感するには、実際に動いてみるしかない。
何せステータス画面がこんなだ。
ビリー・トールアイズ・ハーフミノタウロスのような何か・無職・レベル3
スキル:逆境レベル3
レベルとスキル以外はステータスというよりプロフィールと呼んだ方が適切なレベルだ。
今の俺は3mの巨躯のせいで初期装備にもらった大剣が普通の剣に見えるが、この剣とて決して軽くはないはずだ。
これが振り回せる力は十分強いだろう。
このゲームの他の生き物の強さがいまいちわからないから断言はできないが、おそらくプレイヤーは初期値からそこそこ強い存在っぽい。
だが、それを操作するのはずぶの素人。
言ってしまえば、ペーパードライバーに戦車を運転させているみたいな状態だ。
しかし、ステータスの種族おかしいだろ。
なんだ「のような何か」って。
ちゃんとハーフミノタウロスで指定しただろ。
あ、その後の変更で原形留めてないからか、納得。
さて、そんなことはさておき、このままレベリングを続けよう。
廃屋のドアを蹴破ってダイナミックお邪魔しますしながら大剣を振り回す。
「オラァ!」
虫どもが緑色の体液をまき散らしながら散っていく様は若干グロテスクだが、この程度は見慣れたものだ。
今どき人間大の虫の手足がちぎれて飛んでいく光景なんて別に珍しくないってなぁ。
いやぁ、嫌な世の中になったもんだぜ。
まあ、そんなことはどうでもいいんだ。
やはり数の暴力は恐ろしい。
気が付いたら部屋を埋め尽くすほどの数の虫に囲まれていた。
これは、死んだなと悟ったのと虫どもが俺に殺到するのは同時だった。
うん、ひょっとしなくてもこれは適正レベルの狩場じゃないな?
さて、死に戻りした事で落ち着いてレベルを確認できるという訳だ。
ビリー・トールアイズ・ハーフミノタウロスのような何か・虫の餌・レベル5
スキル:逆境レベル3
おい、職業欄ふざけろ、こら。
この俺を虫の餌呼ばわりとはふざけた話だ。
いい度胸だ。
逆に虫を餌にしてやるよこの畜生!!
結果、百回くらい虫の餌になった。