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ビリー トールアイズ

 そうして、エルルーンのお勧めしない設定を拾い集め、俺のアインヘリアルは完成した。

 途中途中、へその形と位置とか、血管の浮き具合とか、耳の形が各種族で数十種類以上あったり、馬鹿じゃねえのと思いつつもなんとか数時間程度で済んだ。

 もう先ほどのモブ顔の面影は完全に消滅した。

 どうやら他の種族からパーツだけ持ってくることも可能らしいので、サテュロスという山羊獣人から捻じれた角。

 ハーフミノタウロスの足は通常の人間だったので、足はミノタウロスを採用。

 腕は別に普通でもいいかなと思ったが、爪が物足りなかったので肘から先にウェアウルフ、所謂狼人間の腕を採用。

 尻尾はミノタウロスと同じ牛の尾をそのままに、長く太くした。

 顔は威圧感が足りないと耳をエルフに変更、目をドラゴニアンという二息歩行のドラゴンの物にして、歯をヴァンパイアにした。

 そして肌色を岩のような暗い灰色にして、瞳は赤。

 髪は長く、固い癖のある黒髪。


「あの、すでにハーフミノタウロスの原型がないですよ。普通のミノタウロス以上に禍々しい姿ですが。というよりどう見ても魔物にしか見えません」


 我ながら会心のラストダンジョンモンスターだと感心する。

 まあ、どう見たって友好的には見えないが、そこはほらギャップ狙いだから。

 このビジュアルでいいことすると普通よりもいい人に見えるっていうやつだから。


「このくらい吹っ切った方がかっこいいだろ。まあ、どう見てもラストダンジョンにいるモンスターにしか見えないけど。ま、大丈夫。いざとなったら尻尾巻いて逃げる」


「この外見の相手に下手に手を出す人もいなさそうですけどね……」


「後必要な設定って何があるんだ?」


「後は名前と、初期装備、後はスキルですね。最もスキルは自動で決まるので、確認だけですけど」


「スキル? へえ、ちょっとワクワクする響きだな。で、俺のスキルは?」


 自動で決まるって点に不安を覚えるが、それでもここでワクワクしない男子なんていないだろう。


「はい、確認しますね。……〈逆境レベル3〉? 初めて見るスキルですね。効果は……自身に不利な状況において運気が上がる、だそうです」


 微妙すぎるだろ。

 だいたいランダムで勝手に決まるとかクソ仕様すぎるだろ。

 だからクソゲーとか言われるんだよ。


「チェンジで」


「チェンジできないから確認だけなんですよ。一応言っておきますが、このスキルはどんな方法をとっても変えられませんよ。あなたという人間の魂によって決められたスキルですからね。それに、まだいいスキルですよ。私の知るアインヘリアルにはもっと使えないスキルの人が山ほどいます。〈蓋開けレベル8〉とか〈収穫レベル5〉とか」


「俺すごい恵まれてたわ。感謝しかない」


 なんだ蓋開けって、瓶の蓋開けるのがめっちゃ上手いのか。

 いらな過ぎんだろ。

 収穫はまあ使えるかもしれないが、どう考えても農業向けだ。

 冒険したい奴からすればいらねえな。


「後は、装備と名前か。装備ってどんなのがあるんだ?」


「はい、騎士風、冒険者風、蛮族風、貴族風、村人風など色々用意してありますよ。お勧めは騎士風か冒険者風ですね。防御力が高く、長持ちします。それ以外は何で用意したのかわからないレベルの外見装備ですから実質二択ですよ」


「貴族風にするわ」


 やっぱり偉そうな衣装に身を包んでこそ強キャラ感が出るってもんだろ。

 後、俺テンプレ嫌いなんだよね。


「だから! なんでですか!」


「お前いい加減学習しなよ。俺が素直にお勧め選ぶわけないじゃん」


 全く、これだけ高性能そうな受け答えしておきながら学習機能はないのか?

まあ、そんなことはないだろうからこれはこいつの性格によるもんだろうな。


「……武器を選んでください。ちなみに初心者は大概剣を選びます。見栄えのする大剣あたりは人気ですよ……」


「大剣一択だわ」


 わかりやすいやつめ、顔に剣を選ぶなと書いてあるぞ。


「何でですか! わざわざ人が気を使って選ばないようにしてあげたのに!」


「いや、鎌か斧か大剣で迷ってたから。選んでほしくなさそうなやつにした」


「槍か、せめて鈍器にしましょうよ……。剣なんて習熟に手間のかかる武器が何で人気なんですか……。槍なら突き出すだけだし、鈍器なら殴るだけですよ。いいじゃないですか、簡単で」


 どうやら武器選択に関しては俺以外もエルルーンのおすすめをスルーしたらしいな。

 まあ、どうしてもファンタジーで冒険するとなると一番見栄えがいいのは剣だろうからな。

 下手すると刀とか選ぶやつもいそうだが、剣以上の地雷だろうな。

 だが、俺とて考えなしに剣を選んだわけじゃない。


「大丈夫、この大剣を鈍器として使うから」


 そもそも西洋の剣というのは鈍器としての側面が強い。

 鎧の上から相手を斬るなんて芸当は余程の切れ味と腕がいる。

 それなら圧倒的な質量でぶん殴る方が早いってのは理屈としては真っ当だし、鈍器をお勧めというのは正しい。

 ただ、剣を鈍器として使うという発想がこいつにないだけだ。


「何も大丈夫じゃありませんよ!」


 しばらくぜえぜえと息を切らして疲れた顔を浮かべるエルルーンを観察していると、諦めた顔で「もう好きにしてください」と言われた。

 いいね、出来ればもっと別のシチュエーションで聞きたいセリフだったな。


「で、後は名前か」


「はい、名前に関しての注意事項ですが、他のアインヘリアルと被っても問題なく名乗ることが出来ます。同姓同名なんてよくあることですから。また、名前の変更には手続きが必要で、神殿にて受け付けています」


名前かぁ。……うーん、そういや考えてなかった。

 よし、昨晩食ったもんから取ろう。

 確か、飲みに出かけて、とりあえずビール頼んで……ビール飲んで、ビール頼んで、飲んで、記憶はそこで終わった。

 ビールしか覚えてねえ。


「ビリー トールアイズで」


「とりあい(え)ずビールで、ですか。あなたさては呑兵衛ですね」


 俺の渾身のアナグラムは一瞬で解読された。

 く、悔しくなんてないんだからね。

 どちらかと言うと、ちょっと嬉しい。


「酒は命の水だぞ。酒のない人生なんて賭けのない競馬と同じだ」


「なんというか、貴方という人が分かってきた気がします」


 分かり合えるって素晴らしいことだと思う。

 でもわかった気になられるのは気に入らない。

 そんな複雑な心境だが、ここは折れてやろう。


「まあ、そう思ってられるのも今の内さ」


「うん、いや、もういいです」


 あれ、なんか間違ったかな。

 まあどうでもいいか。


「それではアインヘリアルとしての肉体も完成しましたので、このセフィロティア・オンラインの進め方についてご説明しますね」


 要するにチュートリアルってやつか。

いいね、親切じゃないか。


「では、あなたがこれから降り立つ場所、所謂スタート地点ですが、教会や祠など神をまつる場所です。その中で貴方の希望に一番近い条件の場所から始めることができます。もし、特に希望がない場合はランダムに選ばれます。死亡した場合の蘇生場所も初期位置はそこになります。他の教会や祠に行って祈りを捧げることで蘇生場所を変更できます。また、一度訪れた教会や祠には一瞬で移動できます。なお、死亡して蘇生場所に戻った場合その代償として次のレベルアップまでに必要な経験値の5%相当の経験値を失います」


 なるほど、セーブポイントは一度訪れればワープできると。

それはなかなか便利そうだ。

 確認したところ、NPCを連れての移動もできる様だ。

 ただしNPCが移動に同意し、かつ一度に三人までらしい。

 そしてこういうゲームにありがちなデスペナルティも序盤は気にしなくてよさそうだが、後になるほどに響きそうだ。


「教会や祠に戻らずにその場で蘇生する場合はアイテムの蘇生珠を使用してください。これは始めに10個配布され、月に一度、所持数が10個以下になった時に所持数が10個になるように補充できます。補充は教会で補充したいと祈ってくれれば補充できます。また、課金によって購入することも出来ます。その場合は、100個で3000円です。先に言っておきますが、ばら売りはしていません」


 クソみたいな仕様だな。

 どう考えてもユーザーに喧嘩を売っている設定だ。

 そんなだからクソゲーとか言われるんだ。


「この蘇生珠は他人にも使えますが、NPCやモンスターは蘇生できません」


 つまり間違ってNPCを死亡させてしまったら取り返しがつかない、と。


「NPCやモンスターを蘇生する場合は神命珠というアイテムを使ってください」


蘇生手段あるのかよ。


「これは十個で三万円です。言うまでもないとは思いますが、ばら売りは、ありません」


 高いわ。

 阿呆なんじゃないかと思う価格設定だが、重要NPCを万一死亡させても取り返しが利くってことか。

 なるほど、これは割と買う価値あるアイテムだな。

 ぶっちゃけ金なら余裕あるし、一回くらいなら買ってもいいかもしれん。


「なるほど、ちなみにアイテム課金制って聞いたけど、他にもなんかあんの?」


「もちろんですよ。お代さえいただければ色々ご用意します。チリ紙から家まで。衣服でも楽器でも、もちろん高いですけど。セフィロティアに一般的に存在するものなら大体お金で買えます。」


 要するにオンリーワンな物とか生き物以外は大体リアルマネーで買えるって訳か。

 うん、異世界旅行ゲーとか言われる所以が見えた気がする。

 そして全ての準備が整った俺は、開始場所は特に希望無し、完全運任せでスタートすることを決めた。


「さて、それじゃあ行くとするか」


「それでは、いってらっしゃいませ。貴方がこの世界でかけがえのない何かを得られることを祈っております」


 その言葉を最後に、俺の視界が白く染まり、そして暗転した。


 ビリートールアイズ・ハーフミノタウロスのような何か・無職・レベル1

 スキル:逆境レベル3


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