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チュートンリアル騎士団

「おお、すっげえ! マジで現実と区別付かないくらいリアルじゃん!」


「ここから俺の冒険が始まるんだ……。ワクワクするな」


 周囲から私と同じ初心者たちの歓喜の声が聞こえてくる。

 初心者同士で談笑する者も居れば、一人で黙々と操作感を確かめる者もいる。

 私はそのどちらでもなく、周囲を観察する。


 アイン・エルフ・無職・レベル1

 スキル:手当レベル4


 フリード・ヒューマン・無職・レベル1

 スキル:投薬レベル3


 ジャックナイフ・ドワーフ・無職・レベル1

 スキル:偽客レベル8


 そう、この観察眼レベル3のスキルを試すためだ。

 なんだかやばそうなスキル持った奴がちらほらいるようだから、その辺りを敵に回さないように気を付けよう。

 ちなみに私のステータスはこんなものだ。


 カテキン・シーエルフ・無職・レベル1

 スキル:観察眼レベル3


 シーエルフという種族は褐色のエルフだ。

作品によってはダークエルフと呼ばれるような姿だが、このゲームではダークエルフはまた別の姿で、黒か灰色の肌色をしているらしい。

 しかし何人かのスキルを確認したが、汎用性が高かったり、レベルが高かったりするスキルを持った奴は少ない。

 そう考えるとこの観察眼というスキルは相当当たりなんだろうと思う。

 ヴァルキュリアのシグルーンは珍しいだけのしょうもないスキルと言っていたが、彼女が褒めていたスキルは剣技、剛力などのスキルだった。

 一方で貶していたスキルが奇襲、毒調合などのスキルだったことから、単純に搦め手が嫌いなだけだろう。

 そんな事を考えながら周りを観察していると、一人、初心者ではない人がいた。


 ジャステス・トレント・外道騎士・レベル48

 スキル:正義レベル4・嫉妬レベル10・統率レベル4・拷問レベル6・解錠レベル3・奇襲レベル5・翻訳レベル9・剣技レベル5・威圧レベル4・精神汚染レベル9・気配察知レベル7・捕縛レベル5・生存レベル15・狩猟レベル7


 これは、やばい。

 何がやばいって、レベルが高いことじゃない。

 習熟度の高いスキルの内容がやばい。

 ここで観察を始めてかれこれ二時間、当然初心者以外のプレイヤーも見た。

 レベルの高い者も居たが、スキルがここまで充実している奴も、こんなやばそうなスキル持った奴もいなかった。

 その、やばい奴がいつの間にかこちらを見ていた。

 焦った時には時すでに遅く、そのやばい奴は私に向かって話かけてきた。


「やあ、君は初心者かな? 僕はジャステス。君たちみたいな初心者にこのゲームをより楽しむためのチュートリアルを教える為のクラン……ああ、他のゲームで言うギルドとかみたいなプレイヤーの集団の事なんだけど、そのクランのリーダーを務めているんだ。良かったら僕のクラン、チュートンリアル騎士団に仮入団しないかい?」


 種族がトレントにも関わらず、よく見ると肌が木目っぽい以外は普通の人間と変わらない優男風の男性、ジャステスは周りにいる他の初心者には目もくれず、一直線に私に話しかけてきた。

 新手の詐欺か初心者狩りあたりだろうか。


「え、いや、しょ、初心者ならたくさんいるじゃないですか。なんで俺に?」


「君がこっちを見ていたからだよ。勿論他の人たちにも声をかけるとも。この教会の入り口でクランメンバーがビラ持って待ってるから、別に僕が直接声をかける必要なんてないんだけど。やっぱり有望そうな新人には本入団して欲しくてね。少しは特別扱いするとも」


 私の中の何かが警鐘を鳴らす。

 今すぐ逃げろと本能が訴えかけてくる。

 こんな感覚は今までも何度か経験した。

 この感覚を覚える相手には出来るだけ関わりたくない。

 何せ過去に同じように感じた相手は何人か見たが、どれも世間一般で言う、関わったら最後、碌な最期を迎えないと言われるような人間しかいなかった。


「い、いや、有望そうなんて、どうやって見るんですか」


「簡単だよ。……僕を見て一目で逃げようとするやつは有望だ。直感に優れてるか、スキルが優秀かのどちらかだからね」


 ――私、終わった。




 終わったと思ったが、このジャステスさんはやばい人の割にはいい人だった。

 他のチュートンリアル騎士団のクランメンバーもにこやかに私たち初心者に非常に丁寧にこのゲームの事を教えてくれる。

 例えば、魔物を倒すと経験値が得られてレベルが上がるだけじゃなくて、素材が冒険者ギルドで売却できるから、課金を抑えたいなら出来るだけ素材集めを頑張ればいいとか。

 素材の剥ぎ取り方はびっくりするほど、手動だった。

 ボタン一つで出来る普通のゲームとはわけが違う。

 おかげさまでやたらグロいし、キツイ。

 普段から肉だの魚だのを一から調理したりする経験があれば多少耐性があるかもしれない。

 もしくはスプラッタムービーの常連なら喜んでやるかもしれない。

 それが性に合わないなら素材集め以外の方法でも金策は出来るから無理はしないでいいとも教えてくれた。

 チュートンリアル騎士団のメンバーは多く、全員とは会ったことはないが基本的にみんな初心者に妙に親切だった。

 そして、全員口をそろえてこう言うのだ。


「まず、このゲームの公用語、セフィロティア共通語を覚えてほしい。その上で、この世界を見てほしいんだ。もしその時、君の中に熱く煮え滾る何かがあったなら、このクランに手を貸してほしい」


 普通、こういう時って熱く燃え滾るもの、じゃないだろうか。

 そう思って聞いてみたこともあったが、皆一様に自分の目で確かめろとしか言わなかった。


 その意味を理解したのは、ゲーム開始から一月ほど経ち、セフィロティア共通語を覚え始めた頃だった。

 私が目にしたのは、ガラの悪い男たちが、少女を裏路地に連れ込もうとしている場面だった。

 少女は通行人に助けを求めるが、誰一人それを止める者はいない。

 それどころか見ないふりをして目をそらすものしかいない。

 ゲームでこんな胸糞の悪いものを見るとは思わず、驚いた。

 そして、そのガラの悪い男の一人が、近くにいた騎士っぽい男に硬貨を渡していたのだ。


『へっへっへ、これで今日の酒代にゃあ困らないな。異常無し、だ』


 騎士っぽい男がそう言って離れていった。

 その背中には確かにこの国の、アルメナ王国の紋章が描かれていた。

 私は慌ててその裏路地に駆け出した。


『おい、何をしてる!』


 路地裏には、ガラの悪い体格のいい男五人と、チンピラ風のチビが一人、少女に乱暴を働こうとしていた。

 ガラの悪い男に腕を掴まれ、服を乱暴に引き裂かれた少女が、私を信じられないものを見るような目で見ていた。

 そう、助けが来ることなどありえないと思っていた、そして来ても助からないと目が語っていた。


『おいおい、俺たちはお楽しみ中なんだよ。邪魔すんじゃねえよ』


 ガラの悪い男が、ナイフを抜きながらこちらを威圧してくる。

 すかさずステータスを確認して、私は驚愕した。


 ブギ・フューマン・傭兵・レベル3

 スキル:恐喝レベル1・威圧レベル1・剣技レベル1


 どう見ても、弱い。

 他の奴を見てもほとんど大差なかった。

 勿論、こうして数字で見えるだけが強さじゃないのはわかっている。

 それで油断して痛い目を見たのだって、一度や二度じゃない。

 だが、このゲームを始めてからの一月で私だってずいぶん成長した。

 そんな私のステータスはこんな状態だ。


 カテキン・シーエルフ・舞剣士・レベル34

 スキル:観察眼レベル7・剣技レベル6・指揮レベル2・空間把握レベル8・狩猟レベル2


 負ける気がしない。

 というか負けても失う物なんて無い。

 死んだところで教会で復活するだけだし、何だったら蘇生珠だってまだ五個もある。

 諦めなければ絶対にどうとでもなる状況だ。


『お前たちは悪だ。生きる資格が無い』


 私はインベントリから剣を取り出して一番近い傭兵に斬りかかる。

 傭兵は慌てて剣を抜くが、抜身の剣をすぐに取り出せた私と鞘から抜かなければならない傭兵たちでは初動の差は歴然だ。

 ましてこのレベル差だ。

レベルが上がるとキャラクターの速度も速くなっていく傾向にあり、私の分析が正しければレベルが1上がることで向上する速度はおよそ1%。

 つまり、初期値のバラつきを度外視すれば単純計算で相手が102の速度に対して、こちらの速度は133ということになる。

 そして、プレイヤーキャラクターであるアインヘリアルは基本スペックが高く設定されている為、相手が余程速度重視で無いならば、単純に1.3倍以上速く動けると思っていい。

 一人目は剣に手をかける直前に、続く二人目も剣を抜く前に斬り捨てた。

 ようやく剣を抜いた一人が斬りかかってくるが、それは何というか、とんでもなくお粗末な剣技だった。

 辛うじて刃が相手を向いているだけで、技らしい技も無い。

 軽く剣でそらしてそのまま斬り付ける。

 まるで抵抗を感じないほど、すっぱりと三人目の体が真っ二つになる。

 そして、そのまま驚愕する残る三人の首を刎ねた。

 地面にへたり込んで呆然とする少女に手を差し伸べて私は微笑んだ。


『俺はチュートンリアル騎士団のカテキン。君を助けに来たよ』


 少女は私の手を握ると泣きながら感謝の言葉を述べた。

 私は少女を連れてチュートンリアル騎士団のメンバーが拠点にしている宿へと向かった。

 少女を女性の先輩団員に預けて、団長であるジャステスさんに報告に向かった。


「そうか、お前もとうとう見たか。そしてその傭兵たちを殺してしまった、と」


「はい……。あの時は頭に血が上ってたのか。何の躊躇いもなく、そうするのが当たり前に思えたんです……」


 そう、まるでそうすることが当たり前のように感じた。

 あれは多分、良くない兆候だ。


「大丈夫だ。このチュートンリアル騎士団の正規団員は全員が通った道さ。あいつらは自分たちが強いと本気で思ってる。そして、強ければなにしたっていいと思ってるんだよ。なら、より強い俺たちに何をされたって文句を言える立場じゃない」


 団長の発言はどう聞いても過激な思想だったが、今の私とっておかしいのは団長ではなくこの国、そしてこの世界だった。


「俺たちはそんなクズをこの世界から一掃するために、まずはこの国を変えるんだ。一緒に来ないか?」


 これは悪魔の囁きだ。

 正義という大義名分の下で気に入らない相手を排除しようという法も秩序もない暴力への誘い。

 そうとわかっていながら、私はその手を取ってしまった。



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