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建国なんて言ったもん勝ち

 マルクトの南東にある小国、アルメナ王国は隣国であるスヴェント王国へと宣戦布告を行った。

 スヴェント王国はアルメナ王国同様小国ではあるが、戦争となるとスヴェント王国の国としての規模は全く当てにならない。

 何故ならスヴェント王国は第二王子の婚約者が個人で一個大隊に匹敵すると言われるような化物だったり、第一王子の側近に純粋な筋力のみで強力な幻獣であるキマイラを打ち倒す“魔術師”がいたり、王城にシムルグという名の巨大な鳥型の幻獣がおり、一度だけだが近衛部隊の男がそれに乗って戦場を蹂躙したりする敵に回すのが馬鹿らしくなる危険な国だ。

 それに対してアルメナ王国のとった対策は単純にして明快だった。

 金で人数を集めて数の暴力によって圧倒するという作戦だ。

 当然戦費は国庫だけでは賄えず、それは国民への重税という形で集められた。

 そうしてアルメナ王国民は重税を課された上に、逃亡すればスパイの容疑で即処刑というあまりにも理不尽な状況に立たされた。


 スヴェント王国と隣接するアルメナ王国東部にある貴族領、クィエス領はこの宣戦布告に対して抗議した。

 数を揃えるだけで勝てるならそもそもあんな危険な国、とうに大国が滅ぼしている。

 ただでさえ小さいながらも潤沢な鉱山資源、肥沃な大地、希少な魔物が多く生息する森を有するスヴェント王国は多少無理をしてでも手に入れたい魅力的な土地だ。

 だが、前述のとおりスヴェント王国は魔境である。

 そこに攻め込むなど狂気の沙汰とクィエス領主ガイナス・クィエスは宣戦布告の撤回を要求したのだが、それに対して返ってきた返事は、クィエス家は謀反の疑いがある為、一族郎党処刑するという理不尽な物だった。

 ただし、長女のフィーリナはエルヴァン公爵家領主、ピグマイヤー・エルヴァンの許婚として扱い、処刑を免除するという訳の分からない勝手な話までついていた。

 クィエス領軍は余りにもふざけたその返答に徹底抗戦を決めたが、戦争に向けて戦力を数倍にも膨れ上がらせた国軍相手には明らかに戦力が足りず、このままでは蹂躙されて終わるのは明らかだった。

 フィーリナは独断で王家にいる真っ当な感性の持ち主である友人、アンネマリー・アルメナに協力を要請するため、単身王都へと向かった。

 結果は察して知るべし、という有様であったが。


 そんな希望を摘み取られ、もうスヴェント王国領を自分から名乗ったらいいのではないかという案が可決する寸前の事だった。

化け物のような容姿の獣の四肢を持つ大男が一人の少女を連れてクィエス領へとやってきた。

 その少女は民たちが良く知る者だった。

 クィエス侯爵家の長女、フィーリナである。

 彼女をはじめとしたクィエス家は民あっての国、貴族とは民を守るためにあり、その代償として民は貴族に仕えるのだと主張する珍しい貴族だ。

 勿論、その主張には領民の支持を集め、反乱を防ぎ、統治を円滑に行うための方便としての意味が強い。

 だが、それを本気で信じ、そして実行しようとしたのがフィーリナだ。

 前王の妹を母に持つために王家の血を継いでいる上、神託によって聖女のスキルを得たとされるフィーリナが国政を批判すれば、それは大きな影響を及ぼす。

 そうなれば国の頭が挿げ変わるのはもはや時間の問題だった。

 それ故にその前に潰してしまおうというのがアルメナ王国側の事情だ。

 そんなフィーリナが無事帰ってきたと知り、父親であるガイナスは仕事も放り出してフィーリナの元へと向かった。

 幸いにしてフィーリナが現れたのは領主の館の前の広場で、来るだけならば容易かった。

 フィーリナの隣に控えた大男が広場にて、フィーリナをどこからともなく出してきた真新しい椅子に座らせてこう宣言した。


『諸君、クィエス侯爵家はこれまで忠義を尽くしてきた王家に、この国に裏切られ、斬り捨てられた! 全てを奪われたのだ! クィエス家の代表として王都に赴いたフィーリナ様も、あわや誅殺される所を命辛々逃げ延びたのだ!』


『だが、悪逆非道なるアルメナ王国はもはや風前の灯火! アルメナ王国滅亡はもはや時間の問題だ! このままでは周辺諸国によってこの地は蹂躙され、民草は再び苦しむこととなっただろう! だが、安心してほしい! フィーリナ様は王家の血も継いでおられる! 心清らかなる聖女たるフィーリナ様は民草を見捨てはしない!』


『ここに新たなる国家、クィエス聖王国の建国を宣言し、新女王フィーリナ様の戴冠式を執り行う!』


 当然、そんな話はクィエス侯爵家現当主たるガイナスは全く知らない。

 そもそも今喋っている大男自体、見たことすらない。

 本来、この領の主たるガイナスが完全に蚊帳の外で何が起こっているのかと混乱する中、フィーリナの前に現れたのは質素で、言ってしまえば地味な王冠を持った神官だった。

 その王冠を見た民草は王冠とはもっと派手なものではないかと訝しんだ。

 フィーリナの頭に王冠を乗せた神官が集まった民に向けて語りかけた。


『この王冠は、本来潤沢な宝石と金を用いて装飾される予定でした。それをフィーリナ陛下が貧困に苦しむ民を一人でも多く救うために炊き出し費用として教会に寄進されました。この装飾のない王冠は民を第一に想う陛下のお心そのものなのです』


 そう、フィーリナは少しでも貧困に喘ぐ民を救いたいと自身に贅沢は不要と断じた。

 本来は準備期間を設けてから領主の館を改築して城を作り、盛大に豪華絢爛な戴冠式を行うことで圧倒的な国力を諸外国に見せつける予定だった。

 なお、ガイナスには全く相談していない。

しかしそれはフィーリナによって却下され、民の救済こそが急務というフィーリナの主張により、早急に質素で分かりやすい戴冠式が行われた。


『これで圧政から解放されるんだ! もう苦しむことも無いんだ! フィーリナ陛下万歳! クィエス聖王国に栄光あれ!』


 民衆の中から真っ先にそう叫んだのは、全身を黒で統一した冒険者風の男だった。

 彼の名はジャックナイフ、得意なのは偽客、所謂サクラだ。

 どう見ても民衆ではないが、その姿を見える者は大量に集まった群衆の中でも僅かな範囲だ。

 だが、声だけは広範囲に響き渡っており、段々とそれに同調する声が広がっていく。


『『フィーリナ陛下万歳!! クィエス聖王国に栄光あれ!!』』


 ここに新たなる国、クィエス聖王国が誕生した。

 このマルクト南方の一領地であったクィエスによる革命は、後にこの世界全体へと影響していくこととなる。

 なお、ガイナスはこの新国家に全く絡んでいない。


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