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セフィロティア・オンライン

 セフィロティア・オンライン。

 それは、クソゲーである。

 期待の新作VRMMORPGとして世に送り出されたこのゲームは、とんでもない問題作だった。

 ゲームのジャンルは本格派幻想世界体験。

 スクリーンショット数枚とそのジャンル名、そしてやたら長い規約によって邪推しか生まなかったこのゲームは、発売前の時点で見えている地雷原と言われる始末だった。

 このゲームはこれまでの他のVRゲームとは違い、オンラインゲームを自称する癖にネットワーク環境を必要としない自称独自回線によってゲームにログインする。

 安全性に問題はないのかとの声が上がったが、仕様を逸脱しない限りどんなゲームよりも安全だとコメントが帰ってきた。

 つまり仕様を逸脱した場合は安全を保障しないらしい。

 曰く「電子レンジの中に人を入れてスイッチを入れたら死んだ、どうしてくれると言われても困る。それと同じ」らしい。

 また、ゲームの発表時の制作プロデューサーのコメントが「このゲームはアインヘリアルというアバターを創造し、安全に幻想世界セフィロティアを体験していただくものです。何をするも自由です。貴方のなしたいことをなして、おもいっきり楽しんでください。自己責任で」と、不穏でしかない。

 価格は一万八千円、アイテム課金制で、月額料金はない。

 そして、発売から半年が経過した今、このゲームの評価はこうだ。


「ゲームとしてじゃなく、旅行としてみれば最高。ゲームとしてはクソゲー」


 友人から進められつつも何かと忙しかった俺はそれを流し続けていた。

 だが大学が夏休みに入り、立て込んでいた案件も片付いた事で暇になってとうとう始めてしまった。

 ゲーム中に何が起ころうがどんな不利益を被ろうが、一切責任を取りませんよという事をオブラートに過剰包装した規約が長々と続き、未成年者の場合はゲーム中不適切な場面はモザイクが入り、一部特定操作の禁止、及び一部スキルの習得制限があるとの警告が入った。

 現在二十歳の俺ならこのゲームで特に制限はかからないが、制限の内容次第では評価が落ちそうな話だ。

 やたら長く、それでいてよく発売出来たなと感心するほどに無責任な規約が終わり、同意してログインするというボタンと、同意しないというボタンが現れた。

 当然、同意してログインした。

そうして今、何もない真っ白な空間で、鎧姿に翼の生えた美少女に迎えられた。


「ようこそ、セフィロティアの世界へ。ここはあなたたちクリフォティアの住人に、アインヘリアルとしての仮の肉体を授けるための神域です。私はあなたのサポートを担当するヴァルキュリアのエルルーンです」


 色々とツッコミたいが、まずクリフォティアについて。

 おそらくセフィロティアの語源、セフィロトと対となるクリフォトを元とした言葉なのだろう。

 クリフォトっていうのは悪の概念で、そこから来た存在って悪魔とかの類じゃないか?

 まあ、でも現実って地獄みたいなもんだし、間違ってないか。

 で、次にこいつ、エルルーン。

「なんだそのマイナー戦乙女、知らんわ。せめてブリュンヒルデとかその辺り来いよ」


「……すみませんね、マイナーで」


 おっと、口に出してたみたいだ。

 エルルーンはやさぐれたような表情でそっぽを向いてしまった。

 ……随分反応がリアルだな。

 一般的なVRMMOではここまで人間らしい反応を返すNPCの思考ルーチンは開発されていない。

 精々特定単語に反応して対応したセリフを言う程度だ。

 エルルーンはため息を一息つくと、説明を再開してくれた。


「アインヘリアルにはサポート担当として、ヴァルキュリアが付きます。一人のヴァルキュリアが担当する人数は大体5人前後ですが、当然アインヘリアルの数は膨大です。なので、担当するヴァルキュリアも人数が多いんですよ。もちろん、ブリュンヒルデさんもいます。日本人の人口比の鈴木さんくらいの割合で」


わかるような、わからないような微妙な例え持ってきやがる。


「そんなにいっぱいいるのに、マイナー引いたのか、俺」


「逆にレアなの引いたと思ってくださいよ。我那覇さんくらい珍しいですからね、私」


「沖縄行ったらそこそこいるじゃねえか」


「まあ、私のことなんていいじゃないですか。それよりも早くアインヘリアルの作成にとりかかりましょうよ。私の担当、あなたで5人目なのでこれが終われば大きな仕事はしばらくありませんからね」


「そういうのって言っていいのか?」


 普通はそういう情報はプレイヤーに隠すものだろう。

 流石は規約で何の責任も負わないと言ってのけるだけはある。


「他のヴァルキュリアはもっと自由ですよ……。私なんて真面目な方なんですからね? 言ってしまえば当たりです。ひどいと寝転がってせんべい食べながら対応したなんて話もあるんですから」


「それ本当にひどい。モチベーション下がりまくるわ」


 これからいざファンタジーな世界で冒険だ、と意気込んだ先で、休日の冴えないおっさんみたいな態度の美少女におざなりに送り出される……特殊な趣味の奴なら喜びそうだが、俺なら確実にそいつの顔面でサッカーを始めるな。


「一応仮にも仕事なんですけどね……別に給料も出ませんからしょうがないのかもしれませんけど」


「え、マジで? 超ブラックじゃん」


 労働基準法など知ったことかという


「まあ、衣食住は思うまま与えられますから、給料なんていらないってだけなんですけど」


「超ホワイトじゃん」


「ちなみに仕事しても全く仕事しなくても待遇が変わりません」


「俺なら全力でサボるわ」


「私の希少さが理解できましたね?」


 まあ、なるほどと納得はした。

 ただそれを自分で主張するのはちょっとどうかと思うがな、謙虚さが足りない。


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