地球警備員イルカ
僕はイルカだが、世界を守り続けている。
イルカショーという舞台で、僕が何年も前から、鼻先で突っつき続けているあのボール――。
あれは実は、この地球の均衡を保つための、唯一絶対に重要な品なのだ。
あれに僕が定期的に触れることにより、世界の安定が保たれるようになっているのだ。
当然、愚か極まりない人間どもは、そんなことには気付いていない。
だから僕は、奴らに従うふりをしながら唯一人、世界を守り続けている。
見世物というくだらない役目を演じるのも、世界の均衡を保ち続ける機会を無くさないようにするためだ。
僕がこの役目を投げ出してしまったら、世界が崩壊してしまうからだ。
だいたい、この高尚な役目が無ければ、僕のように崇高な生物が、どうして人間のような愚か極まりない生き物に従うだろう。
すべては、この地球のため――そう、この星のためなのだ。
だから僕は今日も、僕が生かしてやっているとも気付かない愚かな調教師のバカげた指示に従うふりをしながら、高く飛び上がってボールを突っつくのだ。
「あ、館長。この間はどうもありがとうございます」
「うん、変わらない様子で良かったよ。彼はイルカたちの中でも特に頑張り屋だものね。ヘソを曲げたりしたらどうしようかと不安だったんだが」
「はい。先日館長が新調してくれたボールも、あの子気に入ってくれてるみたいですよ。今まで通りに頑張ってくれてます」
「やあ、何よりだ。このボールは違う、なんてそっぽを向かれないで良かったよ」