空飛ぶ歓楽街《天空の城》
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません
「おう今日はもう上がっていいぞ」
親方がご機嫌な声で肉団子入りシチューを渡して来た、これ今日の残業パン代わりに俺がパシって買って来たやつだ
「今日は残業じゃないんですか」
「来るんだよ」
「なにがです?」
「今夜空飛ぶ歓楽街天空の城ラピータが来るんだよ」
「なんですかそれ」
知らないから聞いたのに、親方は心底落胆した顔になった
「あーお前はガキだったな、それなら知らなくてもしょうが無いか」
「ガキじゃないですこの前成人しました(尚この世界の成人年齢)」
「そういう所がガキなんだよ、いいかラピータってのは1年に1回、世界中の主要都市を巡ってやって来る空飛ぶ城だ!」
「城が空飛ぶわけ無いじゃないですか」
「夜になったら分かるさ」
ニヤニヤしながらそう言うと、親方は去って行った
灯り代が勿体ないから夜になったら皆寝るのが常識だ、でも今夜は日が沈んだのに空を眺めている
ふと西の空が明るくなった、いや光を放って何かが近付いて来る
俺はなけなしの全財産を握りしめると駆けだした、西へと
光を放って近付いて来てたのは空飛ぶ巨大なお椀だった、お椀に街や城が乗っていた
「ラピータは本当にあったんだ!」
西へと駆けるに従って人が増えていく、男も女もこの街中の人間が集まったかのような賑わいだ
凄い凄い凄い!なんだこれ!本当に空を飛んでる!
俺はもう有頂天だった、興奮が止まらない、鳥肌が止まらない、ワクワクが止まらない!
もっと近くで見たい、だから俺は人を掻き分け最前列へと進んだ
そして見知った人を見つけた俺は、今の興奮を伝えたくて駆け寄った
「親方!」
俺を見るなり眼を見張ったが、すぐに大笑いする
「わははははははは、読める読めるぞ今のお前の考えが、凄すぎてワクワクしすぎてもうどうしようもないいんだろ!」
「はい!」
俺は全力で頷く、きっと親方もそうだったんだ、いやみんなそうだったんだ、だってこれ見てワクワクしない人なんて居ないんだから
人でごった返す中俺と親方はなんとか最前列を確保していた、これ以上前は手の長いロボット達がが両手を広げてトウセンボしてるから行けないのだ
「まるで人が海のようですね」
「娯楽がない街だからな、ほとんどの大人が来てるんじゃないか?」
「そういや毎年子守のバイトが多い日がありましたっけ……」
「そういうこった」
なんで一か所に集めて子守かと思ってたけど、子供にこれを知らせない為か
「おっそろそろか」
言って親方はお椀の横を指さす、何かがお椀から出てゆっくりと降りてくる……あれは
「親方!空から女の子が降って来た!」
「おおっ!オープニングセレモニーの始まりだ!」
まるでその言葉が合図かのように女の子達が光り出す、そして背中から透明な羽を出すと舞いだした
「すごい……」
妖精のダンスのように空中で舞い踊る女の子達、手を振るう度、足を振るう度に光の鱗粉が夜空を飾る
透き通る音色が辺りを包む、鼓動を加速させるように激しく、そしてそれに彼女たちの歌声が合わさる
熱狂が爆発する、今皆がこの瞬間に熱狂していた
次第に音楽はスローテンポになり、女の子たちは一か所に集まった
音楽が止まり鎮まる群衆へ、待ち望んでた声が響く
「「「これを持ちましてオープニングセレモニーは終了です、只今より開園いたします!!」」」
「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」」」
歓声が響き渡る!もちろん俺も叫んでいる、ただ訳も分からず熱にうなされて
誰かが俺の腕を引いてる
「何をボサっとしてやがる、行くぞ!」
親方が俺の腕を引いてる、いつの間にか女の子達の先にタラップが下りている
「あっ……でも俺……金が……」
成人したての給料などたかが知れてる、更に俺は一人暮らしだ、こんな凄い歓楽街なら俺の全財産なんてはした金にもならないんじゃ……
「安心しろ安くて美味い店もわんさかある、それに足りなかったら俺が奢ってやる」
「いやでもそれは……」
「俺も昔先輩に奢って貰ったんだ、だからお前が気に病むなら、後輩が出来た時に奢ってやれ……40秒考える時間をやる、行くか?行かないか?」
「行きます!」
「即答かよ」
嬉しそうに歪む顔の親方に引っ張られてタラップを登る、きっと今の話は嘘だ、でも、それでも今できた伝統を引き継ごうと思う、金を貯めて後輩が出来たら言ってやろうと思う、力強く手を引きタラップを駆けながら
「いい顔になったな、男の顔だ」
「そりゃこの前成人してますから」
「わはははははは、そうだなもう大人だ、なら最初の店はあそこだ」
「?」
「飯も酒も女も美味い総合店パレス」
「パレス?」
「そうだ、合言葉はパレス」
「なんですかそれ」
俺は可笑しくて楽しくて笑う、そしてタラップを駆けあがる
「さあ行くぞー」
「「パレス!!」」
一回書き上げた後に間違って消えた時の絶望感は半端なかった