リーパーのクラス転移
俺は石橋刀哉、冴えない高校生でありながら、リーパーでもある合計四十年半ばの男性だ。
リーパーって何ぞ?という質問が続出だろうから説明しよう。
世界には、能力者というものが意外と多くいるのは皆知っていると思う。その中でもリーパーというのは、時間軸の流れを無視して、自分の魂を未来や過去にいる自身に跳ばす能力を持った能力者のことだ。
ちなみに、俺は同業者のリーパーに何度か会ったことがあるのだが、次のリープをした時には会えなくなってしまった。唯一再び会えた者も、リーパーでは無くなっていたりした。リープの原理が解明されていないため、仕方ないのである。
それはつまり、リープのベテランでもリーパーの組織を作るのは出来ないということ。ということが分かったわけで、リープ能力発覚後に行った合計三十年弱の調査を終了。なんだかんだ言って人生初の高校生活に入った。
…その途端だ。
異世界ってヤツ?来ちゃった。。
「ようこそいらっしゃいました、貴方達は勇者として…」
「は?ここドコよ。次の時間英語の単語テストなんやけど…」
「zzz…」
「………」
休み時間に起こった謎現象に混乱するクラスメート達。ああ、一人じゃなくてクラスで来たんだ。
進学校故か、冷めた感想を漏らすヤツが居る。寝てるヤツも多いし。
俺も異世界転移は想定外だ。そもそも異世界自体、過去にルーパーが『そういう事件があった』という世間話でしか聞いたことが無かった。一笑に付す、なんて冷たい対応せずに真面目に聞くんだった。
だってその事件の現場、確か俺の高校だったし。過去形なところが変に感じられる。
異世界は流石にファンタジーの世界だよな…クラス転移も想定外だ
とはいっても、トイレ休憩に行ってたヤツはここにいない。教室を出ていれば転移に巻き込まれないということか。まあなんだ。異世界はまた次の機会ということにして…リープで戻ろうか!
…リープて異世界でも適応されるんかね?
∽
結論から言うと、異世界でも問題なく時間を遡ることができた。
そして転移の一つ前の授業が終わった教室についた。また、無事転移回避。向こうに行ったヤツらには捜索願が出された。
異世界転移がリープしても行われるのだから、リーパーは異世界転移に関わってないようだ。
ああ、俺以外のな?
∽
というようなことが昔あったなあ…
今は…大体合計三百五十年位?
人生に飽きてきたからサブカルチャーに入り浸っている今日この頃。異世界転移(クラス転移)の存在を思い出した。
「母さん、俺高嶺花高校行くわ」
「何言ってんの?トーヤに高嶺花高校なんて、名前の通り手が届く訳無いじゃないの」
高嶺花高校は偏差値六十後半の進学校だ。だがな、それでも行けんだよ。
俺リーパーだし。
「ようこそいらっしゃ(略)」
中学校の内申がゼロでありながら高嶺花高校新学生になった俺は、勉強をほっぽりだして毎時間寝た。雨の日も、風の日も、テストの日も…意欲がないと怒られるんだな、これが。
やたら当てられる。それでもリーパーだから答えられるんですが何か?
うん、脇道に逸れすぎた。例の挨拶から分かるように、来ましたよ。異世界。
チートあるかな?ほら、よくラノベであるやつ。
ズルは嫌いなんだけど、リープでズルしている俺が言えたことじゃないしな…だからチートを、諸手を挙げて歓迎しよう。
「貴方はやってくれますか?」
気付いたらようこそお姉さんが顔を覗き込んでいた。焦ったような表情だ。だが、覗き込むな。驚いてしまっただろ!!
「まあ、チートがあるなら何でもしましょう」
「ちーと?」
おわっ、ようこそお姉さん目茶苦茶綺麗な人だった。
そしてクラスメート達はその女気に当てられることなくようこそさんの依頼を蹴った、と。
みんな、カッコイイぜ!
漢のなかの漢じゃねえか!!
「あ、やっぱチートあってもお断りします」
ようこそさんは崩れ落ちた。あれ、ショックのあまり倒れたんじゃなくて、どうやら可笑しすぎて崩れ落ちたようだ。
…何が可笑しい。
「貴方の仲間の何人かは勇者になってくれたのですから、一人位いなくても大丈夫なんですよ?」
そして噴き出すよろしくお姉さん。目にも留まらぬスピードでシナリオは進み、俺はその場で処刑されるという流れになる…
「私、グランデウス王国の王女グランディアの名において、貴方を処刑…」
∽
予定だった。ようこそさんが王女だなんて、聞いてないぜ。
ま、説明聞き流していましたからね〜
で、リープしてきましたよ。
リープで戻ってきたのは転移前の教室。
よろしくお姉さんから聞いた話だが、俺が思考の海から帰ってくるまでに、数少ない例外以外はみんな「帰せ」コールしていたのが原因で殺されたらしい。
だから、通達してやろうかな?と。
「みんなちょっとこっちの話聞いて〜」
教壇に立って手を叩くことでこちらを注目させる。だが残念、こちらを一瞥しただけですぐに他の方を向いてしまう。
「俺って人徳無いのな…」
何故だ!?善意で通達してやろうと思ったのに!
肩に手が置かれる。
「大きいことをするにはもう遅過ぎたのさ…君、僕たちの『乗り遅れ連合』に加わらないかい?」
どぅぁれが加わるか!(誰が加わるか)
∽
と、言う訳で人徳、集めに来ました。
いや、もう集めました。
内申ゼロの満点王、眠れる全能神とは俺のことよ。あ、ネタな?
「みんな、ちょっといいか?」
「おー、全能神のお目覚めや〜」
「あいつ内申ゼロだったらしいぜ。高校で目覚めるってある意味浪漫だよな」
「いや、ヤツは未だ本気の百分の一も出しちゃいない…」
うるせぇ、話をさせろよ。
そして最後のヤツ、当たりだ!
「ようこ…」
「え?全能神、あのはなしマジだったの?」
通達後、クラスメート達は一斉にトイレに駆け込んで行った。絞り込みは完璧(?)だ。
残ったのは三人、俺を入れれば四人だ。
「異世界に行ってみたいヤツは残るが良い」って言ったら隣のクラスから二人来たのは計算外といえ。
つまりクラスメートで残ったのはこいつ、『乗り遅れ連合』の芝一豊だけだ。しかし…ノリで生きて行くようなヤツが何故に乗り遅れたんだろう?
「間違っても『帰せ』なんて言うなよ?処刑される」
「処刑?怖ー!」
一豊に耳打ちしてやる。凄く堂々と。
「あの、それで貴方達は…」
「ああ、勇者的な何かなんだろ?王女様」
驚愕に彩られるようこそさんの顔。巻き込んだ三人は話について行けず、思考停止している。
…かのように見えた。
「勇者?王女!?これはこれは、ラノベの読みすぎで、トチ狂いましたか?石橋君」
「石橋の全能性については聞き及んでいるが、異世界転移なんてものの予兆を感じ取れたなど…有り得ませんね(笑)」
展開を急ぎ過ぎたようだ。
∽
あの後リープしまして例の言葉、
「ようこ…」
「え?全能(略)」
ここから変えるぞ
「マジか、ここどこぞ?」
特技、《惚ける》!
「せ、説明をさせていただきます!」
ーー《説明タイム》ーー
なーる、魔王が出たのね?
オーソドックス!!!
オーソドックス!!!
オーソドックス!!!
大事かもしれないことだから三回言いました!
テンプレって言っても良いぐらいだ。
で、行き着いた先がこの勇者召喚と。安直だな。
召喚した勇者を即処刑するのが実に狂ってやがるが(人権的な意味と実利的な意味の両方で)、「国が滅んでも誇りは捨てない」主義なのだろう。
なら勇者召喚せずに滅べ!いや、暇潰しの源無くなって困るの俺だけど。
「なら勇者ってのをやってみるわ。何すんの?」
「ありがとうございます。勇者のすることは只一つ…」
…ニエ、だった。いけにえな。
は?勇者ってそう使うの?へぇ…
「あ、これは全能神の独断ってことで。僕は関係ないからな!」
乗り遅れ連合!白じらしいわ!
∽
リープで軽く跳びまして、説明終了時にちょうど着いた。
「魔王倒せば良いのでは?」
「いや、国軍ぶつけてダメだったんですよ?」
しらねぇよ。それなら尚のこと、勇者を活用しようとしろよ。
「勇者?貴方達がこのロザイムに決闘で勝てたら考えましょう」
そして、動く巨大鎧が近づいてきた…!!
待て待て、決闘という名の処刑だよね?
∽
ソードアーチェリー 612「…ということがあったのさ」
ダイアモンド 613「ああ、例の高嶺花高校集団失踪事件ね。異世界へ行った、なんて真実があったなどと言ったところで真に受けるヤツいないってww」
ソードアーチェリー 616「いや、俺リーパーだし。しかも転移経験者だし。」
ダイアモンド 617「俺もリーパーさ、未だ合計千年も経っちゃいないひよっこだがな。というか実際に転移経験者てワロタ」
気軽な気持ちで『リーパー』と検索したら、掲示板があった。「リーパーの愉快な仲間達」という掲示板だ。そして俺はソードアーチェリーという名前で気軽に投稿中。
あれから転移の前日の今日に俺は跳んできた。そして異世界転移経験者として話題の提供をした。他のリーパーに転移関係の先輩が居ればなー、なんて下心を俺は隠しもしていない。
リーパー以外の投稿者が「お前ら厨二かよw」と言うのを見てから少し時間が経った時、新情報が来た。
人生リセット鬼 916「ああ、なんかその事件を解決したリーパーに私、会ったことがありますよ?」
ソードアーチェリー 917「詳細カモン!!」
人生リセット鬼 919「リーパーのリープって良く分かりませんよね…時間軸が無いことまでは理解出来るんですが、あなたがカズトさんだとすれば順序がごっちゃですよね?
本題に入りましょう、貴方があちらの世界で会う…」
カズトさん?俺トーヤだし…と、思いながらも読み進めた。
結論から言おう。盛大なネタバレだった。詳し過ぎて逆に疑わしかったが、あの世界で見たことと彼が言ったこととの矛盾点が無かったことでいやがおうでも納得せざるを得なかった。
だが、方針は立った。あとは実行だ。
∽
ふぅ、ようやく最低条件だけでも揃った。
ある程度の武術を習得し、それが扱えるだけの強靭さをもった身体をつくる。戦闘を行うためだ。
さらに顔の何処かに裂傷傷を作り、不良っぽい雰囲気を醸し出す。威圧しなければならないからだ。
更に高嶺花高校に入って『全能神』と呼ばれる位に良い成績を示す。これは異世界に転移するためと、威圧が成績を伴っていたらプライドの高いヤツもカバーできるかな?という風な、最低条件の中でも最も重要なもの。
それらが最低条件。全て揃った。
「お前ら、悪いがこの教室から、この休み時間の間だけ出ておいてくれ」
「み、みんな。魔王が理不尽を言ってる。だが俺達には為す術が無い!早く行こう!」
そして誰もいなくなった。
計画通り……!!
「ようこそいらっしゃいました…?貴方一人、ですか?」
「ああ、そうだよ魔国の王女さん」
あ、つい言っちゃった。やべ…
殺気が…
∽
「ようこそ(略)」
「ああ!?何が起こりやがった!」
「あの、質問に答えてください」
「俺が知ってると思うのか?その訳を!ってかここマジ何処だ!?」
先手必勝。惚けてやる。
「っ…まあ良いでしょう」
良いんだ。
「ここはグランデウス王国、五十年前に出来たばかりの新興国です。」
『魔』王国な?
「そして魔王が…」
説明聞くの面倒になった。だから『魔国の』王女を観察しようじゃないか。
赤を含んだ銀髪で金色の瞳、これだけで現地の人は魔族最強の「ルミナス種」と認識する。
身長は目測で一メートル半、変身みたいなことしてるだろうから実際はもっと高いかな?
っと、説明が終わったようだ。
「それ、魔王をどうにかすれば良いじゃん」
「国軍(略)」
嘘発見!国軍なんて持っちゃいねえだろ!
「いや、だからこそ勇者召喚したんだろ?」
「勇者?(略)」
対ロザイム戦の始まりだ。
「え、俺の武器は?」
「…ロザイム」
ロザイムが俺に渋々大剣を投げてきた。大剣かぁ…ちょっと、危なくないですかね?
まあ、良いけど。
「ロザイム、並びに勇者。準備は宜しいか?」
何処からか現れた審判が準備は良いかと聞いてくる。
あ、号令が掛かるまではロザイム、攻撃してこないんだ。
「勇者といえガキ。降参は認めてやる」
「お、なら死なないように手加減してくれると有り難い」
ロザイムと決闘前に言葉を交わし、大剣を構える。
死んだらリープ出来なくなるし。たとえ見下しての発言だとしても、安心できる。
「ほざけ、ここは決闘ぞ。準備完了!」
「ま、どうせ死ぬなら、ニエとしてじゃなくて決闘の敗者としての方が良いか?準備完了〜」
「うむ、では…殺り合え!」
いや、合図怖えよ。
∽
「む、ガキのくせにやるな!」
ロザイムはあんなことを言ったわりに手加減してくれたようで、俺は瀕死になる→リープで決闘開始時に戻る→また瀕死になる…を繰り返して、なんとか対峙出来るようになってきた。
そのせいか、俺は心の中でロザイムのことを師匠と呼び始めていた。
∽
そして弟子が師匠を越えるとき!
「ほう。俺を倒す、か。」
「…相手をさせて頂き、ありがとうございました」
巨体を倒し、兜を飛ばされ、素顔を曝したロザイムは死を覚悟していたとでもいうのか、俺の言葉に目を瞬いた。
「ここは決闘ぞ?情けは無用だ」
「いや、こっちがされて嫌なことはするべきじゃ無いっしょ?」
ま、最低限の要求は叶うように仕向けるがな。
「降参しねぇの?」
「…はは、それでこそ勇者。もう真実を彼に話されても宜しいでしょう、王女様」
そしてシナリオは進む。俺が待ち望んでいた方向へ。
「そうですね…彼程の強さだと足手まといには決してなりませんね」
「足手まとい?」
「言葉足らずでしたか。それとも常識が足りていない…?」
「え、だって勇者って先陣切って戦うヤツだろ?」
「実は、ですね…」
勇者召喚を行った回数は一度じゃ無かった。そう言われて混乱する俺に、よろしくさんは百聞は一見にしかずということで「勇者寮」に案内しようとする。
で、行ってみました。勇者寮。
「あ、また石橋だ」
「今度のはヤンキーみたいになってる」
…俺が九人いたんですが、何故?
「俺は合計四十年弱人生を送っていたんだが…」
推定一度目に異世界へ来た俺に…
「決闘で負けたんだ♪」
決闘という名の処刑で生き残ったらしき俺。
「「この二人が意味不明なことをいつも言ってるんだが、お前は分かるか?」」
二人以外のリーパーでない(推定)俺達。
「あれ?おまえら二人してリープ使わねぇの?」
「それがな、あの時以来何故か使えないんだ」
…何があった?
で、不安になった俺はリープの確認をしてみた。
∽
「あ、問題無いな」
大丈夫だった。
「でも何で複数の俺がいるのだろうか?」
そもそもどういう原理で転移したのか知らない。だから思考停止した。
「お、石橋十世。浮かない顔してどうした?」
「いや、只俺が何人もいるのが慣れなくてな」
「慣れてたら逆に怖いよ」
極普通に「十世」扱いされているのがまた、おかしな感じだ。
「そういえば、お前以外にも複数いるヤツがいてな」
「は?誰が複数いるんだ?」
「芝一豊っていう五月蝿いヤツさ」
ああ、あいつ乗り遅れ連合に入っていたからな。いや、それ関係ないか。
ん?「カズト」?
夜風に吹かれて勇者寮の庭的な所を歩いていると、向こう側から足音が聞こえはじめた。
「感じるぞ… 同種 の匂いを!」
向こうから現れたのは、何処かノリノリな雰囲気を纏っている男だった。
「芝一豊か、どうした?俺は探索している所だ。」
「魔王を倒すのは非常に面倒臭いにも係わらず、よくぞ来た、 同業者 よ!」
会話が成立たねぇ…というか、、、
「芝一豊、お前もか」
リーパー発見。だが、何故?
他にリーパーがいないことは確定していた筈。
「そうさ、君はリープのことを知らない僕三人を連れてきた。勇者としての僕をね」
「つまりお前は、自分がリープを知らない勇者な俺を八人連れてきた、とでも言うのか?」
俺は十人いるのに、こいつは五人しかいない。五人でもでも同じヤツがいるのは気持ち悪いが、二倍の差があるのは何処となく不気味だ。
「人数の差は実験の結果さ。とはいえ僕の前にこの寮にたどり着いていた君の一人がリープと呟いた時は驚きに目を見張ったよ」
「ほう、俺もだ。今お前がリーパーだと自白した時から混乱している」
「はは、その表情で?」
さあ、世間話は終わりだ。
「俺の持ってきたお前はリープについて知らなかったヤツ、お前の持ってきた俺もリープを知らないというていで話をするぞ」
「あ、この会話二度目だから結論を伝えておくよ。召喚される順番は僕達リーパーの歳の合計さ」
「ほう、二度目か」
「ああそうさ。召喚された僕達だけが互いに人数が多いのは、食べた物とかのレベルの、身体を構成する物質の違いからだよ」
つまり連合加盟を促してきた時と、全能神全能神五月蝿かった時のこいつは、物質的な意味で別人だったということか。
俺も十人いるが、それの全てが別人だということか?
…本題が一瞬で終わった…長話になると思ったんだがな…
「こっちの本題はこれからさ」
その一言に首を傾げる。
「ん?挨拶程度で今日は済ますんじゃないのか?」
「明日が対魔王戦なのに何呑気なことを言ってるのさ」
明日か、召喚の翌日ですな。
待った。俺不利過ぎるだろ。しかし…無謀も無謀、まあだからこそ俺達は『勇者』なんて呼ばれているのだろうが。
もしリーパーじゃなければやってられねぇな。
「そうか。通達、感謝する」
「いや、今度はあんな理不尽なことをされたくないからね」
「?」
魔王とやらの何かを知っているのか?
「魔王はあの王女…」
「王女が魔族なのはしってるぞ」
「早とちりするなよ、王女は魔族の長、魔王さ」
まさか王女は魔王の娘じゃなくて魔王だったと!?
「おーい、ここで呆然とするのは早過ぎるぞー」
「はっ、あいつが魔王だった、だと?」
目の前で手を振られていたのが妙に癪に障ったので、手首を捻りながら聞いてみる。
「痛たたたた…」
睨まれたら深追いはせずに手を離す。手負いの獣は危険だと、よく聞くだろう?
「ああ、王女が魔王だったのさ。更に俺達が持っているような能力を奪う能力を持っている。」
よりによって『略奪』ときたか…
「おーい、だから呆然とするなって」
「目の前で手を振るな」
リーパー同士の情報交換は、ほんの一時間ほどで終わった。
夜が明けた。魔王との対決の日だ。
寮にいる勇者は全員で四十人ちょうど。その全員が食堂に集まっていた。
「今日は目標であった『真の勇者』四十人が集まった翌日だ。よって、魔王討伐に行くぞ」
ロザイムが厳かに言い、俺達に戦闘準備を促す。ロザイムは俺の師匠(仮)でありながら魔王の側近である巨人族だ。その体躯は威圧を放っており、勇者達は逆らうことなく準備を始める。
俺は魔王との戦闘に、弓を持って征くことにした
「同志よ、しくじるなよ?」
「しくじっても俺とお前のどちらかがリープすれば良い」
「しくじって殺されるのは避けたい。それだけが言いたかったのさ」
芝一豊がこっそり話し掛けてくる。
ま、殺される気など無い。忘れているかもしれないが、これは只の暇潰しなのだ。
「抜かる訳が無い。リープが無くなろうと戦う覚悟は出来ている」
「覚悟はどうでもいいよ。只、魔王がリープを使って過去の僕達を殺したりしたら、未来にいる僕達も死ぬかもしれない」
そういう理由があるなら納得できる。リープを渡す気なんぞ、最初から無いんだがな。
「王女様の加護を得てくると良い」
ロザイムは俺達を、魔王のいる玉座の間に案内した。
「勇者様方、四十人も召喚に応じて頂き、今一度感謝を述べます」
述べると言っただけで、「ありがとう」とは言わなくて良いんだよね、この構文。
「では、加護を与えましょう。」
目を閉じて、何やら唱えはじめた魔王に、俺が矢を放った。
目を閉じていたよろしくさんはその矢に気づくことなく…胸に突き刺さった。続いてリープ経験のある俺二人が放った二本の矢が弧を描いて魔王に突き刺す…ことはなかった。
「キャハハハ!!私の『略奪』を見切るなんて、見た目ほど愚鈍では無かったのね」
よろしくさん改め魔王は、俺達が矢を放ったのだと分かった途端に本性を顕した。巨大化した異形の身体、その身体の上のほうに申し訳程度の大きさの顔が付いていた。
「魔王だ。けどなんでここに…」
勇者の誰かが呟いた。こいつもクラスメートの一人だった。例の単語テストの。
恐らく魔王を実際に見たことはないだろう。だが、それでも魔王を魔王と本能的に『魔王』だと感じたのだろう。
外れていたら不敬ってものじゃないぞ。まあ当たっているけど。
「魔王、俺達を何のために殺す?」
俺が発した疑問は答えられることなく…魔王による勇者の虐殺が始まった。シナリオを理解するには相手の動機を聞くのが一番だと思ったんだが、答える気が無いなら仕方ない。殺し合うだけだ。
殺し合いが始まった訳だが、魔王が吠えれば謎の力で吹き飛ばされ、地を叩けば地面から生えてきた石の剣に身体を切り刻まれ…勇者である皆は集団で、とはいえロザイムと闘った経験がある。立ちすくむという状態の者はいないが、それでも魔王との戦力差は絶望的だった。
そのような状況を見ながらも俺は諦めない。策を練って、天井に向かって矢を射た。
落ちてこい!!シャンデリア!!魔王の上に!
あ、ミスった…
∽
「ギャアアアァァァ!!」
よし、上手くいった。魔王はシャンデリアの下だ。
このシャンデリア、やたらでかいんだよね。家ほどの大きさがある。危ないよな?どう考えても。
次々と矢を番え、動けなくなった魔王の顔(?)に放っていく。
そして……
魔王は断末魔を上げて死んだ。勝った、のか?はいフラグ!!でもフラグ回収は無し!
魔王の死体が横たわる玉座の間。そこの扉が音を立てて開けられた。あ、ロザイムだ。
「…魔王様?どう、なされたのですか?」
フラフラと魔王の下へ歩いていくロザイム。なんだか脇が空いていたので、そこを射てみた。で、深々と突き刺さった。
鎧の隙間を狙ったんだぜ?俺、凄くね?
「ぐわああぁぁ!!!」
呆気なくロザイムが死んだ。魔王の後に戦ってみると、本当に呆気ない。
勇者達、つまりはクラスメートな訳だが、残ったのは合わせて十五人、ちなみに俺は七人死んだ。残り俺×3!
ふざけるのは止めて、戦利品発表といこう。
魔王の持っていた恐ろしい雰囲気を纏っているしゃべこうべ。そして同じく魔王の持っていた鍵束。
聞いていいか?王女だった魔王が何処にしゃべこうべを入れていたんだ?ポケットのなか、ということはなさそうだが、一体何処へ……イッツ、ア、ホラー
次にロザイムが持っていたもの。彼は巨体だけあって、持っているもの全てが巨大だった。あるもの以外は。
「この水晶は普通の大きさだな」
大きな水晶というものも想像できないが、それでも気になった。
なんだ、これ?
手に持ってみると、それが輝いて一筋の光をつくった。
本当に、何だ?これ。
しかもその光、玉座の間から出たところで直角に折れ曲がっている。ふっしぎー
で、どうやらその光は道を示しているようだった。
謎の水晶が示した方へ従っていくと、広間に行き着いた。そこで光が途切れたのだ。
「勇者らよ」
突如声が降ってきた。何の変哲も無い広間だった所が、謎の神々しさに溢れていく。
「異世界の勇者らよ、よくぞここに来た。魔王を倒してくれたことを『神』であるわしが感謝しよう」
呆然としてしまったので、一度リープで戻って何を言っていたのかを聞き直さなければならなかった。
∽
「異世界の勇者らよ、(略)」
「死者が両方に出た戦いだった。勝てたのは運が良かっただけだな」
二度目なだけあって、即座に返答出来た。
それから色々あって、元の世界に帰ることが出来た。
この異世界転移によって俺は、退屈な人生で久々に楽しめた気がした。俺はリーパーの中ではひよっこの合計五百歳。それでも、人生の大切さが分かったから暁幸だ。自殺という終わり方は暫く取らないだろう。
だから、万一死にたくなったらもう一度あの狂った異世界に行って、生きることへの執着心を思い出そうと思う。
一リーパーとして、あの異世界を探索し切りたいという夢もあるから。
俺は今日もリープを行う。
(完)
テンプレっぽいのが出来た