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×2 少女の秘密  作者: 有栖川優悟
7/8

*拾伍

おうぎ

 今日は私の歓迎会と称して「肉バル 肉ソン大統領だいとうりょう」に夕食を食べに来ている。

 ホワイトハウスをイメージした白一色の店にある団体用の大テーブルは、もう他の客が何人かいた。カウンターを除きメインフロアは禁煙なので、まだ未成年の私達にも安心だ。

 店員の名札を見る。 …リンカーン?

「リンカーンって、確かアメリカの初代大統領だった気がするけど…」

「店員さんの名札には歴代大統領の名前が、女性店員さんはファーストレディの名前がそれぞれ書いてあるんだって!店の名前もそうじゃん!」

「あー、確かにニクソンも、アメリカの大統領の名前だったね」

「そうだね。あ、飲み物頼もう!レモンスカッシュでっ!」

「私は…いちごミルクは流石にないか。じゃあアセロラソーダで!」

「ジャスミン茶でお願いします」

「三ツ矢サイダーかなー。間宮まみやさんは?」

「えっと、カルピスソーダで」

岸波きしなみちゃん何にするー?」

「私はペプシ・コーラで」

 ――なんなんだ、この状況は。

 私は半分冷静になりかけた頭で、今の状況の意味を考えてみる。確か歓迎会を開くとか言っていたな――なぜ私はここまで手厚く歓迎されるのだろうか。

 無能力者ブランカーです、なんて言ったら歓迎されないのが普通だと思っていたし、そのような状況にしか当たってこなかった。だから私は無能力者であることをカミングアウトするのを、頭の何処かで恐れていたのに。ここまで温かい異形もいたものなのか。

 頼んだ飲み物が肉コースターに乗せられて、肉まみれなパッケージに包まれたお通しとともに運ばれてくる。お通しは鶏出汁入りでほんのり甘くちょっと固めの豆腐だった。

穂香ほのかちゃん!」

「はーい。じゃあ、岸波さんの歓迎会を始めます!ただの食事会だけど…乾杯!」

「乾杯!」

「ねえ、何頼むー?」

「とりあえず肉ソン・レバーペーストを全員分でいいかな」

「いいよー」

 肉の文字が刻印されたバケットにレバーペーストをつけ、どのような技術でバケットに「肉」と刻印したのだろうかという疑問は無視して食べる。旨みの強い、濃いめの味がする。

「しっかしさー、驚いたよねー!いきなり凄い美人が来たと思ったら勉強も運動もできる完璧超人ってさ、なんかラノベとかにありそうな展開じゃない?」

「あー、わっかる~!」

「誰のこと言ってるのそれ」

「え、わかんないの?岸波ちゃんのことだよー!」

 ああ、そうか。今日は私の歓迎会だから、盛ってるのか。だとしても完璧超人って、いくらなんでも美化しすぎではなかろうか。

「じゃあ次はアレ頼む?」

「今日半額の、アレですね?」

「そうそう。肉ソン・肉肉肉盛り合わせ、お願いします!」

「それでさ――」


「わぁ、やっと来たね!」

 話し込んでいたら、肉肉肉盛り合わせが運ばれてきた。

「総重量は二・九キログラムなんだってー!」

 二・九キログラム――六人分だと考えたら一人あたり四八三キロだろうか。おそらく雛鳥ひなどりの丸ごとロースト、骨付きラムのショルダーロースト等の骨の部分も含んでの重量なのだろう。

 雛鳥の丸ごとローストは中に野菜を詰めて蒸し焼きにしているらしく、 中にはダイスカットされたじゃがいもや人参などが詰められていた。

「ねえ、肉ばっかりってのもアレだからさ、大根ステーキでも頼まない?」

「いいね!そうしよう?」

「大根ステーキ、お願いします」


「岸波ちゃんってクールだけど、どういう経緯でああいう性格になったか聞きたくない?」

 ああいう性格って、どういうことだろうか。考え方とかが、という意味なのか。

「それ聞いたって、多分面白くないよ」

「え、なんで?」

「別に私は望んでこうなった訳じゃない。復讐が全てなんて、昔の私ならそんなことは考えてなかった」

「そうなんだ。でも、私は今の扇ちゃんのほうがかっこいいと思うよ?昔はどうだか知らないけどさ」

 忍が言う。

「…そう」

「だから、私は扇ちゃんみたいになりたいの」

「忍。…どうしてそうなるかな」

「ならないほうが、いい?」

「うん。私は忍や、皆が思ってるほど綺麗じゃないし、皆よりずっとけがれてるんだと思う。――だから、私みたいになってはいけないよ」


 大根ステーキは例に漏れずかまで焼いてあって、どこか甘かった。

 ――そろそろじゃないか。

 手元にあるピンク色のスマートフォンで、時刻を確認する。…六時五十分か。

「先に言っていい?」

「ん?何、岸波ちゃん」

「私、八時までには帰らないといけないんだけど…それ、着く前に伝えておくべきだったね。ごめんね」

「大丈夫、大丈夫!…あ、じゃあさ!シメはカレーにしよっか!肉ソン・特製肉玉カレー六人分、お願いしまーすっ!」

 運ばれたのは、とろとろの卵と肉が載ったカレーだった。特製というのもわかる気がする。スプーンに乗せて口の中に入れれば、まっすぐな痛みが喉の奥を貫く。

「ねえ、扇ちゃん」

「なに?」

「この学校に編入してよかった?」

「もちろんだよ。昔の私に見せてあげたいくらい」

 今の私はこれ程までに幸せだということを。


RRRRRR…RRRRRR…

 私のスマートフォンが振動し、電話がかかったということを伝える。

「ちょっと電話してくるね」

「あ、親に?はーい」


 店の外で、皇さんからの電話を受け取る。

「はい、もしもし岸波です」

『もうすぐか?』

「今、朝葉原の飲食店にいます。これからデザート食べるところなので、もうあと三十分ほどで向かえます。八時ぐらいかと」

『了解した』

 皇さんからの電話を切り、戻る。


「ただいま。私、もう直ぐ帰るね」

「あー、親かあ。りょーかい!じゃあ最後にフルーツ頼む?」

「そうしましょう」

 パイナップル、バナナ、マシュマロなどを窯で焼いたものが来た。窯で焼くのは肉や野菜だけではないのだろう。皮ごと焼かれたフルーツは濃厚な味わいになっている。

 総評すると、店名通りの肉へのこだわりが感じられる店だった。



***



 解散より一足早く、私は自分の分を払って店を出、物陰に隠れて扇子を――“ミセリコルデ”を放り投げる。

 ――さあ、行動開始だ。


 協力:肉バル 肉ソン大統領

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