*拾肆
▼忍
あの二人って、本当は一体どんな関係なのだろう。扇ちゃんは幼馴染だって、言ってたけど…。
「…ねえ、早苗ちゃん!」
「はい、何でしょうか」
「扇ちゃんと駿河さんって、本当に“ただの幼馴染”なのかなあ?」
「さあ…よくわかりません。幼馴染というよりは、昔、自分をいじめていた人に、再会したような…そんな表情でしたね、岸波さん」
昔、自分をいじめていた人に再会した?――それにしては、「うわ、転校したらまたこいつに会っちゃったよ。前みたいにいじめられちゃうのかなあ…」といった感じの絶望感などは感じられず、むしろ嬉々として復讐を企んでいるようだ。確かに昨日扇ちゃんは、「復讐が生きる目的だ」みたいなことを言っていたし。
「…あ!扇ちゃんが復讐したい人って!」
「やっぱり、そうでしたか…その為に、駿河さんがこの学校にいることを知った上で…!」
「もし本当にそうなら、どうする?」
「多分、岸波さんに同調すると思います。…間宮さんも?」
「私もかなー」
「なんか引っかかるんです。異形と無能力者との間に、まだ線が引かれてるような…」
「偏見受けたりとかね…私は偏見なんて受けたことも、こっちが持ったこともないから、よくわからないけど」
「それもどうせ印象操作でしょう。でも岸波さんは、平等を掲げているわけではなさそうですね」
「うん…正義感というよりは、個人的な怨恨に近いのかな?」
「でしょうね。でも、岸波さんは悪い人ではないと思うんです。復讐のために無関係な人々を巻き込む事はないでしょう」
「だよねー…でもさ、周りがどうであろうと自分に従うという生き方って素敵じゃない?自分のアイデンティティを奪われて平気な人なんて、いる訳がないもん」
二人の間に何があったのかはよくわからないが、とりあえず私は扇ちゃんを信じよう。
***
「ねえ皆、今度夕食に行かない?」
提案したのは穂香ちゃん。
「いいけど?」
「『肉バル 肉ソン大統領』ってところなんだけどさ、毎月二十九日になんかのメニューが半額になるんだよ」
「…あっ!確か、なんかのテレビ番組のコーナーで紹介されてたとこ?」
「そうそう、そこ!」
鶏の一枚肉を贅沢に使用したレトルトカレー「肉デカチキンカリー」や、北海道の地形をドットに見立てた「北海ドット」など、話題の商品を次々と生み出しているとか。
「それで、どんなお店なんですか?」
「えーっと、『さまざまなタイプの個室を完備する店内は、デートにも利用できる。肉の盛り合わせ、タンドリーチキン、ステーキなどが味わえる』だって。営業時間は十六時から、二十三時半」
穂香ちゃんが、スマートフォンの画面を見ながら答える。
「それ結構条件良くね?」
「もう、神楽ちゃんってばー…」
「合コンや女子会とかのプライベート利用に最適なボックス席は六名までOKなんだって!」
「それ最高じゃない?私と、穂香ちゃんと、間宮ちゃんと、岸波ちゃんと、時坂ちゃんと千石ちゃんでちょうど六人だし」
「あっ、そっか!扇ちゃんの歓迎会と称して、行っちゃわない?」
「遅っ!もう六月になっちゃうよ!」
そう、五月も後半になっている。
「四月さ、バタバタしてたじゃない?だから仕方ないよー」
「もうそれでいいじゃん!えっと、岸波さん空いてる?」
「うん、大丈夫だよ」
「間宮さんは?」
「大丈夫」
「千石さん」
「私も、平気です」
「陽菜ちゃん」
「空いてるよー」
「時坂さん」
「二十九日?大丈夫!」
「私も空いてる、よし決定!」
かくして私たちは、来たる五月二十九日に「肉バル 肉ソン大統領」にて扇ちゃんの歓迎会をすることになったのだった。
(協力:肉バル 肉ソン大統領 様)