*拾弐
▼扇
まさか、こんなにすぐに駿河を見つけられるだなんて、思ってなかった。
「…駿河さーん、あいつって駿河さんの知り合い?」
「いや、少なくとも岸波扇ってやつのことは聞いたこともないけど、でも――どこかであった気がする」
明かしてやりたい、という気持ちはある。自分が圧迫していた奴が、まるっきり違う姿になって復讐しに来たんだ。驚くに決まってる――でも、まだ早すぎる。ここから思いっきり差をつけて、追いつけなくなったところで明かしたほうが、彼女はきっと打撃を受ける。
「扇ちゃん、バイトとかしないの?」
「バイトかー…いいや、してないよ。する暇もないし」
「えー、岸波ちゃんカフェのバイトとかめちゃくちゃ似合いそうなのにー」
「それはない。…私は、やりたいことが別にあるから。その為に、朝葉原に来たの」
陽菜の発言はスルーして、訳を説明する。
「どんなこと?」
「うーん……結構直球な言い方をしちゃうと…復讐ってところかな」
「そうなんだ…って――え?」
案の定、私を除いた五人は面食らっていた。
「…あー、無能力者だから迫害されてたんだ!私もだよー」
そういう神楽も、無能力者だ。
「よくあるよねー、自分をいじめた奴に復讐するの。その為に来たんだ?」
「そう、それが私の生きる目的。だから私の戦場は、ここしかない――それ以外は、ない」
「そんなに命懸けなんだねー…私はそんな、相手に強く出れるような性格じゃないし。あーあ、もっと前に岸波ちゃんに出会っていれば、私もやり返すくらいは出来たのかな?」
「やっぱり扇ちゃんって、かっこいいなあ…」
「…復讐なんて、別に言うほどかっこいいものじゃないよ。けどね」
「けど?」
「人生というものは、生きる目的を手に入れたとき、手に入れる前よりも遥かに強い輝きを放つものだと、私は信じてる。それを生きる者が異形であっても、無能力者であっても」
たまたま私の目的が復讐だっただけであり、本質は他の種族とそう変わらないのだ。
「本当、岸波さん見習いたいよね」
「なんで扇ちゃんって、こういう冷静なものの捉え方ができるんだろ…」
冷静?――どうなのだろう?私は復讐のことしか考える余裕がないだけだから、厳密には違うのかもしれない。
***
▼パトリシア
私はパトリシア・ファーレンハイト。忘れていないとは思うが、一応アクロバティックサラサラという種族だ。
「え、礼麻のクラスに転校生が?」
彼女は瀬田礼麻。八尺様の末裔で、彼女も中学三年生にしては背が高い。
「そうそう。雪女なんだって。金髪のボブカットで、頭には雪の結晶の髪飾りをつけてたような」
「雪女かー…そいつって強いやつ?」
「わかんない。まだどういう奴だか…あ、いつも日傘持ってたな」
「それは仕方ないんじゃね?体温上がると能力が使いづらくなるだろうから」
金髪のボブカットに傘――私は、このヒントからある答えを導き出した。
――あの日、“通り魔”の側にいた金髪ボブカットの奴は、そいつなんじゃないか。そして、そいつに聞けば“通り魔”のことも聞けるんじゃないか。
「あとA組とC組にも来てたって。A組のやつが無能力者らしいんだけど、能力以外は完璧な優等生だって。C組には妖狐が来たとか」
無能力者と、妖狐か――
「そいつらは礼麻達のこと、敵視してたか?」
「別に?でも、無能力者の方には一度会ったことがあるかもしれないって、駿河さんが言ってた」
「駿河…?」
「…あー、わかんないか。駿河ってのは、うちの学校の中等部の生徒会長。ハスターなの」
「なるほどな。その、駿河ってのは、“通り魔”のこと、知ってそうか?」
「さあ…」
ハスターか…黄衣の王か。風の神性の首領とされるくらいだから、強大な力を持っていることが見て取れる。まあ“通り魔”でも、そいつでも、どちらが私の方に向かって来てもいいけれど――頼むから、退屈だけはさせないでくれと願うのだった。