*拾壱
▼扇
「…え、扇ちゃんなの?」
忍は案の定、驚きを隠せないようだ。
「そうだけど…どうしたの?」
「大丈夫。私はただ驚いただけ、だから…」
「で、どうするの?私に殺されようとでもするつもり?」
肯定されても、今動いてしまえば私の立場が危うくなってしまうので、願い下げる前提で訊く。
「…うん、そのつもり」
「残念だけど、それはできないよ」
「やっぱり、そうなんだ…」
「別に、それを願うのをやめろとは言ってない。説得しようなんて、思ってないよ。…説得したところで、私は忍に対して責任を取れるとでも思うの?」
そう、中途半端な正義感なんて、かえって他人を苦しめるだけだ。
「じゃあ何で…」
「私に都合が悪いから。編入したばかりの生徒が同級生を殺した、なんてニュースに上がったら取り返しのつかないことになる。結局誰だって自分が一番可愛くて、一番大事なんだよ」
「そう、なんだね…」
「まだ帰らなくていいの?」
「あ…そうだね、帰ろっか。またね」
「うん、また明日」
***
翌日
「岸波さん、昨日は間宮さんと何話してたの?」
登校して即、穂香に声をかけられる。
「…何って、秘密」
「そっかぁ。聞いちゃってごめんね」
「いや、聞きたがるのもよくわかる。そりゃ編入生側が在校生に話しかけてたら驚くよね…でも、勘違いしないで。私はあの子に忠告をしただけ」
「そうなんだ…」
「あ、穂香と岸波ちゃんだ!」
後ろから陽菜と神楽がやってくる。
「岸波ちゃんおっはよー!もうここには馴染めちゃったりする?」
「…まあね」
「ほんっとに岸波ちゃんって、そのポーカーフェイス崩れないのかな!」
「そんなの、私の知ったことじゃないよ」
学校が見えてくると、黄色い腕章を巻いた生徒たちに出会う。その中に、私はある人影を見つけた。
――駿河?
恐らく他の生徒も、私が小学生時代の頃、駿河の周りを囲んでいた異形たちだ。八尺様の末裔、皿屋敷を営む家に住む少女、眼鏡を掛けた腐女子のグール、紫ババアの孫。彼女らは異形としての能力も、人間としてのステータスも高い。
「…あいつら」
「扇ちゃん、あの人達は生徒会の役員さんなの。今の生徒会長さんが、駿河東香さん」
「駿河さんの種族はハスター、“黄衣の王”とも呼ばれているんだ。だから生徒会の腕章は黄色なんだよ」
「…って、あれ?岸波ちゃんの知り合い?」
向こう側に知られると厄介なので、ぼかした上で答える。
「まあね。あいつと私は――ただの幼馴染だよ」
そう、あいつにとって私がどう見えているかなど知ったことではないが、少なくとも私にとっては幼馴染だ。
――私が見返すべき、幼馴染だ。