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×2 少女の秘密  作者: 有栖川優悟
2/8

*拾

未練がましいことをしているとは思わないで下さい。私は復讐がしたいのだ。

――フリードリヒ・フォン・シラー『旅』 

しのぶ

 真夜中のビルの屋上。そこで私は“あるもの”を見た。それは美しい少女で、正しく“黒い天使”と呼ぶに相応ふさわしい。

 黒い半袖のワンピースと、二つに結われた黒髪と、黒い厚底の靴。それを彩るのは血のような赤。手袋がはめられた手には、銃が握られていた。

 ――ああ、この人なら、私を救済ころしてくださるのでしょうか。



***



「今日は委員会を決めてもらうぞ」

 嶋村しまむら先生が、黒板に文字を書いてゆく。

「えーと、じゃあ学級委員やりたい奴~」

「…はい」

 まっすぐに手を挙げたのは早苗ちゃん…千石せんごく早苗ちゃん。どこか涼しげな雰囲気を漂わせるセイレーンで、周りにいる人物に対して命じることで従わせることができ、それは命令口調で言うことで発動される。

「あと一人~」

 誰も、いない。そもそも学級委員なんて、好んでやるものではない。

「――岸波きしなみ、やってみるか?」

 先生は、おうぎちゃんに問うた。岸波扇ちゃんは、この間編入してきたばかりの、無能力者ブランカーの少女だ。

「あ、はい。やったことあるので、できます」

「じゃあ、学級委員は千石と岸波なー」

「はーい」

 反論もなく、満場一致だった。


「黒い天使を見た…?間宮まみやさんってば何言ってるの?」

「本当だよ、穂香ほのかちゃん!」

「それ“ベルセルク”のことじゃない?」

「ベルセルクさんっていうの?」

「本名ではないらしいけど。二年くらい前から朝葉原ともはばらで目撃されるようになったんだって」

「その人は私を救済してくれるといいんだけど…」

「もしそういう系の人だったら、それって前世の因果じゃない?」

「穂香ちゃん、それはないんじゃ…」

 もし前世があったら、私は一回死んでることになるし。

「なるほど、昨夜ゆうべに黒い人を見た、と」

 振り返れば、先程学級委員になったばかりの早苗ちゃん。

「早苗ちゃんの知り合いなの?」

「違います。むしろ、こちらが情報提供を願いたいところです」

「…そっかあ」

「ねえ、何の話?」

 その声は、もしかしたら。

「扇ちゃん!昨日、なんか全身黒い女の子を見たんだけど、何か知ってる?」

「さあね?…少しくらいなら」

 少しくらいなら、か。明日、訊いてみよう。――わずかな望みでも、けてみよう。



***



▼扇

 気づかれたか。しかも転校早々、クラスメイトに――

『昨日、なんか全身黒い女の子を見たんだけど、何か知ってる?』

 あれは間違いなく私の、“ベルセルク”のことだろう。どこまで正体明かしていいんだっけ…。

「あのー、すめらぎさん?」

「どうした?」

「私が“ベルセルク”だと言っていいのは、どの辺まででしょうかね」

「まず条件として、“こちら”に関わっていなさそうな奴。とりあえず銀庭ぎんてい学園中等部三年A組は安全と見た。B組はやめておけ、駿河するががいる」

 確かB組は、しきみが編入していたな。

「そして、巻き込まれても大抵のことは何とかできる体質の者が望ましい」

「勘付いたのは間宮忍イモータルなんですけど、彼女なら安全ですか?」

「イモータルか…イモータルなら安全だな。この種族は死ぬこともないし、傷を負うこともない。ただし、不死身であるが故に殺されたがりだ。時に、それを頼んでくることもあるだろう。…大丈夫か?」

「大丈夫です。適当にはぐらかすつもりでいます」

「それならいいが」


 放課後になったら、早速忍に声をかける。

「忍、この後はいてる?」

「もちろん、だよ?」

「じゃあ…空き教室か何かってある?」

「なんか二年生のクラスが一つ減って、そこなら…」

「そう。連れてって貰える?」

「…いいよ!」

「間宮さーん、今日は岸波さんと?」

「うん、そうなの…ごめんね?」

「じゃあ、また明日!」

 忍に誘導され、空き教室――看板には『二年D組』と書いてあり、元はそのクラスの教室だったことが見受けられる。

「ここでいいの?」

「そう、だね」

 あとは、本題だ。

「昨日さ、黒い女の子に会った――って、言ってたよね?どんな子だった?」

「黒い半袖のワンピースを着てたんだけど、襟元に赤いリボンを結んでてね、黒い厚底の靴も履いてたなあ。それで黒い髪を赤いリボンで二つ結びにしてて…あと、なんだっけ。確か手袋をはめてて、銃を持ってたような」

 やっぱり、勘付かれていたのか。

「そいつは“ベルセルク”だよ。朝葉原の殺人鬼」

「穂香ちゃんもそうかもしれないって言ってた…けど、本当に合ってるの?」

「本当にそうだね。間違いない」

「やっぱり、そうなんだ…」

「君はそいつに殺されでもされたいの?」

「まあね…信じられないだろうけど、私イモータルだからさ」

 忍がイモータルなのは、本当だったか。

「ずっと救済されるのを、待ち望んでるの」

「そう…じゃあ忍、もしもだよ?」

 前置きした上で、続ける。

「もしもその“ベルセルク”の正体が私だと知ったら――君はどんな反応をするの?」

 自分の声が、ひどく遠くで響いたような気がした。

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