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神様は救わない  作者: 闇月
始まりの時
9/10

発見

大ムカデを討伐した夜。瑩我は疲労から早々に寝たふりをした。

勿論、「ふり」だ。あの程度、瑩我は何の疲労も感じていない。しかし、周囲は初めての戦闘に疲労したという瑩我の言葉をあっさりと信じ、早々に離れに引っ込んだ瑩我を引き止める者はいなかった。また、明日は特に予定もないから、誰にも邪魔はされないだろう。あたりが暗くなると、瑩我は1つの術を使用した。


「玉の緒よ絶えなば絶えね 永らえば忍ぶることの弱りもぞする」


本来は必要のない詠唱を今回は使用する。繊細な術だし、余裕があるときは用心するにこしたことはない。


静かに詠唱すると、瑩我の体からうっすらと光る筋が漂う。その筋はふらふらと空中をさ迷い、揺れている。その状態で、瑩我は更に次の術を使用する。


「瀬をはやみ岩にせかるる滝川の 割れても末に逢わんとぞ思う」


瑩我の隣に不定形の光る塊が現れると、瑩我から伸びた光る筋がその塊に向かって伸びた。

次の瞬間には、瑩我は二人になっていた。オリジナルの方は布団に寝ているが不定形の塊だった方は立ち上がり、体の動きを確める様に腕を振った。


この術は、使用者の魂魄を切り離し実体のある分身を創る。分身の方も実体があるので、触ったり触られたり出来るが、致命傷を負えば消える。魂のない本体は表面的には普段とかわりなく過ごすことが出来るうえ分身が体験したことや、記憶を共有できる。

便利だが、高度なこの術は小学生のとき忍び込んだ本家の蔵で読んだ術書で覚えたものだ。これを利用することで瑩我は常人の何倍もの速度で学ぶことが出来た。


本来は二人になるだけでも魂の疲労が酷く、精神的な負荷の為長時間の活動はできない術であるが、瑩我は神の精神を持っているからか、最大で五人になることが出来るし、最大で一ヶ月ほどは分身を維持することが出来る。

今回はそんなに人数はいらないので稼働時間を重視して二人になった。わざわざ呪文を唱えたのもクオリティ重視だ。分身の方は自由に姿を変えることが出来る。

瑩我の分身は大きな特徴である長髪を何処にでもいる今どきの若者のような髪形にし、真っ黒な色も僅かに茶色がかった色合いに変化させている。顔の造作もいじっているから瑩我と同一人物と判る者はいないだろう。

その顔は確かに非常に整ってはいるが、特徴がない。全てのパーツが理想的で平均値であるが故に極端に印象が薄く、例えばモンタージュを作ろうとすれば、人によってまったく違う顔になってしまうだろう。目の前に実物があれば別だが、人混みに紛れてしまえば発見するのは困難を極める。とても便利なので、分身にはいつもこの顔を使っている。



本体を離れに残し、分身は外へと出掛けた。猫のような身のこなしで誰に気付かれることもなく、水上の敷地を出て夜の街へと溶けた。


夜の街には昼とはちがう場所への入り口が開いている事がある。それを知るものには入り口からは独特の空気を感じるものだが、本能の壊れてしまった若者は時々迷いこむ事がある。そんな若者は暗闇に食べられて、それで終り。そうならなかった僅かな者は自ら飛び込んだ者と共に暗闇で生きていくことになる。


瑩我が入った古いバーもそんな入り口の1つだ。変化した瑩我は裏の世界では都市伝説の様なあつかいの情報屋兼暗殺者だった。その実在を知ることが裏での地位の証明に成るほどの。


重厚な木目の美しいカウンターで年配のバーテンにカクテルを注文する。


「アンラッキー」


それに店の隅に一人で座っていたスーツの男が僅かに反応する。裏の人間なのだろうその男は表情は全く変わらないが、一瞬こちらを窺うと俺の声が聞こえないように俺からより離れた席へと移動した。

道理をわきまえた奴だ。世の中には聞いただけで、いや聞いていたかもしれないだけで命を奪われる事がある。用心するにこしたことはない。あいつは裏でもそこそこ長生きできるだろう。



「凶。久しぶり。」


ドアが開く音と共に、新たに入店した若い男が声をかけてくる。一見何処にでもいる今時のチャラ男だが、まあまぁ優秀な情報屋だ。瑩我のパソコンにメールをよこした男だった。


「あぁ。仁。色々あってな。」


俺もこいつも勿論偽名を名乗っている。俺の裏の名前は「八神(やがみ) (きょう)」こいつは「里見(さとみ) (じん)


にやにやと軽薄そうな笑みを浮かべて仁は言った。

「随分面白い事になったよね。」

それなりに付き合いのあるこいつは俺の正体もある程度は知っている。全てではないにしても、水上の中で起こった出来事も把握しているのだろう。そしてその情報の扱いも心得ている。誰にも知られてはいけない。それは瑩我を敵に回す行為だと。


お互いに会話は店のBGMに紛れてたとえ隣に座ったとしても聞こえないようにしている。バーテンは既にカウンターの奥に引っ込んだ。


「まぁ、な。多少動きづらい事になった。しばらくはあっちが忙しいそうだ。」

「だろうね。まぁ良かったんじゃない?事態が動いたってことでしょ。上手くやれば終わった時には前より動けるかもよ?」

「面倒くさいが。まぁへまはしないさ。」

「だよね!楽しみだなあ。どれくらいかかりそうなの?」

「長くて3ヶ月ってとこだな。もう少し短くする予定だが。」

「ふーん。ま、精々怪我しないようにね。」

「おい。世間話の為にわざわざ呼び出したのか?」

「たまにはいいじゃない。せっかちな男はもてないよ?…面白い噂を聞いたからさ。凶にも聞かせてやろうと思って。」

「ほぅ。」

「風の一族に男がいるらしい。3年くらい前からかな?今まで一切表に出てこなかったけど、奥さん…一族の女と一緒にこのまえ「狩り」に出たんだって。子供達も優秀だけど、その男は風の術を使ってたらしいけど水の術の方も相当使えたらしいよ。四十前半くらいの年齢だって。それでさぁその男はとっても綺麗な顔なんだって。なんだか水上の本家の人達と似てるね。」


「ほぅ。それは面白いな。いいことを聞いた。礼だ。一週間後、横浜の六番倉庫に行ってみろ。興味深いぞ。」

「まじか!」

「俺はもう帰る。しばらく出て来ないが、また面白い話を聞かせてくれ。」

「勿論!楽しみにしててよ!」

「じゃあな。」



まるで心臓が耳元にあるようだ。血が逆流する音がする。十年前に見たあの女の髪が風に靡いていたのを思い出す。今水上があいつを追っていないのは、何らかの取引の結果だろうが、そんなのは知ったこっちゃない。十年前、あいつが切り捨てた。なら俺が切り捨てても文句ないだろう。何に不敬を働いたのか、おもいしってもらう。


それもこの茶番が終わってからだ。楽しみが1つ増えたな、と瑩我は暗い悦びを覚えながら檻の中へと戻るのだった。

えらく間があいてしまいました。月日のたつのは早いものです。

また間があいてしまうとは思いますが、書き続けたいと思います。

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