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神様は救わない  作者: 闇月
始まりの時
1/10

プロローグ(背景説明)

プロローグです。まずは主人公の背景・環境を説明します。

そこは水神の支配する地。青々とした緑が延々と広がる山岳地帯。

むせかえるような草の匂いを爽やかな風が散らしていく。


山々の中に点々と立派な日本家屋や洋館が建っている。山の下には街があり、結構な人口を誇るその街は常に繁栄を続けている。


街の名を「水波」といい、街の至るところに水神を祀る祠がある。この街は水神を崇める一族が興した街なのだ。何千年だかの歴史を持つその一族は街をいまだに支配し続け、日本は元より世界のある分野において知らぬもの等いない程の力を持っている。


一族は姓を「水上」と名乗る本家筋と数多の分家によって構成されている。本家の権力は絶対的で、特に水波においては皇帝のような存在である。


彼らはその名の通り水を操る力を持っている。その力は本家に近い程強く、全ての水上の血を持つ者は水神に愛されて水の中で呼吸することができた。


ただ一人、「水上みなかみ 瑩我えいが」を除いて。



瑩我は神である。


何言ってんだと言われるかもしれないが真実だ。


しかも焔の神なのだ。水神を祀る一族に生まれた焔の神。


水中に置かれた焔はどうなるか?瑩我は狂った神・祟り神として扱われている。


瑩我は封じられている。たった一人、山中の社に。詣でる者等誰もいない神社の御神体として、神として目覚めたあの日からずっと。


水上の一族の屋敷はどれも立派なものだ。一族は水を操り世に蔓延る怪異を狩ることを生業としているが、同時に幾つもの会社を所有してもいる。広大な土地も、数え切れない程の不動産も持っている。日本で有数の財閥でもあるのだ。


その中でも最も広大で、歴史ある屋敷が水上本家の住む屋敷である。鎌倉時代に建てられた屋敷は重厚な日本家屋で、増改築を繰り返し、百畳はあろうかという大座敷や大小様々な和室・洋室からなる複雑な造りになっている。

本家の者達と常時数十人はいる使用人が暮らす屋敷にはこれまた広大な庭がある。屋敷本体より広い庭の端に隠された石段があるのだ。植木に埋もれるように存在するその石段は人一人通る程の幅しかない。所々痛みがあるものの途切れる事なく屋敷の裏山へと続いている。


その石段の先に瑩我を祀る社がある。


本家の屋敷から1.5キロ程離れた山頂。屋敷は木々に埋もれて見えないが、屋敷を見下ろす高さに造られた日本家屋だ。元は本家の誰かの別荘だったその家は一人で暮らすには十分な大きさで、使う者もいなくなっていた。


石段を登りきった場所に後から建てられた黒い鳥居があり、それだけが唯一の社っぽさと言える。石段から家の入り口迄続く石畳は滑らかで雑草等も生えていないが、それ以外はただの山林だ。瑩我自身が特に気にしていない事もあり、手入れが行き届いているとは言えない。

瑩我が7歳の頃から10年間一人で暮らす家は、そんな家だった。


瑩我は一応義務教育までは受けていたが、中学卒業と同時に本格的な軟禁生活に突入し、現在はプロの自宅警備員・ニートとも言う状態だ。もちろん望んでそうなった訳でもないが。そして、友達もおらず収入もなく、社の敷地から出る事もできず、大した力も持っていない疫病神、水上の温情で生かされているだけの役立たず・・・と一族の大半には認識されている。


その瑩我の社に近付く人影があった。


若い二人の女性である。どちらも艶やかな黒髪を、片方は肩まで片方は腰の位置で切り揃えている。肩までの髪をした方は小柄で、藤色の和服を着こなした落ちついた雰囲気の女性である。恐らく実年齢より上に見られるであろう涼やかな目元に、赤い唇が近より難い凛とした印象を与える。

もう片方は活動的な洋服で、キュロットスカートが似合う健康的な脚線美を誇っている。雰囲気も対象的で、元気・健康と言った言葉が似合い、和服の女性よりも少し背が高いが大きな瞳が印象的な童顔である。


二人は共に15歳で、今年高校生になったばかりだった。まだ三ヶ月程しか経っていない。和服の方が水上茉莉みなかみ まつり。洋服の方が水上真湖みなかみ まこ。水上本家の人間で従姉妹同士である。二人は瑩我に会いにきた。水上に封じられた焔の神に。


真湖が先になって石段を登り始める。しばらく行くと石段の両側にしめ縄を巻いた檜の巨木がそびえていた。大人が二人手を繋いでも足りない程の幹は何百年もの月日を重ね、岩のように硬くなっている。その木肌にうっすらと色の異なる刀傷がはしっているのを茉莉だけが僅かの間見つめ、すぐに目を反らした。

この檜を境に、瑩我の神域となる。水上によって張られた瑩我を、その神の力を封じる結界はこの先半径一キロ程のドーム状で、社のある山にすっぽりと被せられている。


檜から一歩進むと、水の気配に満ちた水波の地とは異なる渇いた風が吹いていた。


空気が、変わる。


そこはもう、水波であって水波ではない。


瑩我という神の支配する土地だった。

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