気が付いたら魔王の息子でした
書きたいものをいろいろ詰め込みました。書いていて楽しかったです。
もしかしたら続くかもしれません。
俺は平凡な学生だったと言える。
成績も普通。身体能力も普通。顔も特徴が無い普通の顔で友達もそこそこ居た。
クラスのイケメンや可愛い女の子を見ると俺は漫画や小説で言う名前も書かれていない生徒の一人、モブ何だろうなと自分でも思う。
けど、俺自身目立ちたいとか主人公になりたいとかそういった願望は特に無いので、その位置には結構満足している。面倒事が嫌いな俺は校則もキチンと守り、けど時々破りつつも、何ら変わらない生徒の一人として生きてきた。
しかし、いきなり突然に俺の平凡モブライフが終わった。
その日はいつものように夕飯を食べて風呂に入って、寝る前に携帯をいじりながら横になり、寝てしまったんだろう。別にここまでは特に変わったことは無かった。
何の夢を見ていたのかは覚えていないが、いい夢だったに違いない。と言うのも、起きた時にもっと夢を見ていたいと言う感情に襲われたからだ。
辺りはまだ暗い、明日は土曜日だし良いかと思い俺は二度寝した。
この時、寝ぼけていたこともあって、俺は自分がいつも寝ている固いベットではなく、ふかふかの布団に寝ていることに気が付かなかったのは、不幸中の幸いと言える。
何故なら次に目を開けた時には俺の体は動かなくなっていたからだ。
窓から太陽の光が差し込み、鳥の鳴き声が朝を告げる。
俺は眩しさに布団の中に入り込もうとしたが、っ動かない?!?!
俺は驚いて、今までに無いくらい早く目を開けただろう。効果音を付けるとすれば、『カッ!!』だ。
目に飛び込んできたのは知らない天井。
白く高い天井に、部屋の中央にはシャンデリアが見える。
……まだ夢を見ているのか???
再び寝に入ろうと瞼を閉じようとした時、左側から女の人の悲鳴のような声と、何かを落としたような音が聞こえた。
チラリと瞳だけ動かし声の元を見ると、丈の長いシンプルなメイド服を来た女の人が手を口元に当てて俺の事を穴が開くほど見ていた。
俺は、ヤバイ!!!と咄嗟に思った。誰だって侵入者が布団で寝ていたらビックリする。
警察を呼ばれたらたまったもんじゃない。俺は自分の意思でここで寝ているわけじゃないし、むしろ俺も被害者だ。
しかし、説明しようにも声が出ない。口をパクパクと動かせるだけで、喉からは乾いた空気のようなものだけが出る。
なんとか頑張って声を出して状況を説明しようと奮闘する俺、しかし無常にもメイド服を着た女の人はドアを開け、誰かを呼びに行ってしまった。
終わった……俺の人生終わった……
頭を抱えたかったがもちろん腕は動かない。
一体どうなってるんだ俺の体は!!!怒りが湧いてくるがそれをぶつける術もない。
拘束はされて無さそうなのだが、動かないというのは不安で、もしかして俺は一生このままなのか?と嫌な考えが頭に過ぎる。
もしかして寝てる間に何かあって俺はここに運ばれたのか?
見るからに病院という雰囲気ではないが、何せ何も情報がない俺はただことの成り行きを見守るしかなかった。
暫らくするとドアの向こう側からバタバタと大勢の足音がこちらに向かってくるのが聞こえる。
もう考えることも面倒くさくなった俺はただジッと、ドアを見ていた。
バンッ、と音をたてて開くドア。音にも驚いたが、一番驚いたのは、真っ先に部屋に入ってきて泣きながら俺に抱きついた女の人にだ。
俺に覆い被さるようにして泣いている女の人を俺は知らない。いや、こんな綺麗な人に会っていたら忘れるはずが無い。
緑色の腰まで伸びた髪、金色の瞳に左目に泣き黒子が一つ。可愛いというより美しく妖艶な雰囲気のその女の人は俺の記憶を漁っても出てこない。
わんわんと泣いている女の人は「良かった」だの「ずっと目を覚まさないのかと思った」だのと言っている。
もしかして誰かと間違えてないか?
しかし、俺にはそう言いたくても声が出ず、体も動かせずにされるがままになっていた。
奥様、と呼ばれたその女の人は弱々しく俺から離れ、俺の横に立っていた黒い長い髪、赤い瞳で角を生やした男の人の腕に抱かれる。
……角???何だこの人達は、コスプレか?映画かドラマの撮影か何かか????
女の人と入れ替わるように俺に近づいたのは白衣を着た医者と思われる、白い髭を生やしたおじいちゃん。
優しい笑みを浮かべて、俺の体を検査すると、先ほどの女の人に「坊ちゃんは至って健康です」と報告した。
何がなんだか分からない俺におじいちゃん先生は優しく説明してくれた。
話をまとめると、俺は産まれてすぐに原因不明の昏睡状態に陥っていたらしい。その年数、実に200年。
まずここで驚いた。いや、誰だって200年も眠ってました、なんて言われたら驚くだろう。普通に死ぬわ。
そして、先ほどの女の人は俺の母親だと言うこと、そしてその女の人の肩を抱いている角の生えた黒髪の人は父親だということ。
今日、いつも俺の身の回りのことをしてくれるメイドが、俺が目を覚ましたと呼びに来たこと。にわかに信じ難い話だが、おじいちゃん先生の瞳は真剣そのもので、周りにいる兵隊のような人も、メイドさん達も俺のことを心配そうに見ていた。
何より、女の人と角の生えた黒髪の人を見ていると何だか自分自身でもよく分からないような何とも言えない感覚に襲われる。心が温まるような、安心するような不思議な感覚だ。
俺はまだ夢を見ているのだろうか。
しかし、その日から始まったリハビリで、少しずつ動かせるようになった体、出るようになった声。そして何度寝ても夢から冷めないことから、これが現実なのだと日増しに強くなった。
どのくらいの日数が経ったのだろうか。
俺は遂に自分の足で歩けるようになり、声も前と同じくらい話せるようになった。
ほっぺをつねってみれば痛みが走る。ああ、夢じゃない。最初は前の家族や友達のことを思って泣いた日が続いた。しかし、いくら泣いても前の自分には戻れないし、ここにも俺を愛してくれる家族が居ると実感が湧いてきて、俺はともう抗うことなくこの世界で生きていく覚悟を決めた。
ちなみに、俺がこの世界ではない世界で生きていたと言うことは誰にも話していない。
話せば面倒な事になるのが目に見えるからだ。それに、そんなことを話せば俺のために泣いてくれた母親に申し訳ない。別の記憶がありますだなんて言ったら母親はどんな思いをするのだろうか。
俺はこの事は誰にも話さないで墓場まで持っていくことにした。
勉強も次第に始まり、家庭教師と思われる眼鏡をかけた女の人が俺に色々と教えてくれた。
計算は足し算、引き算、割り算、掛け算など小学生がやるような問題。まぁ、長い眠りから覚めたばっかりだから、基本問題からだろう。
不思議と文字は日本語だった。こんな外国のような場所、外人のような人たちが日本語を使うのは変に思えたが、これは有難かった。今更別の文字を覚えますよと言われても覚えることなんてできないだろう。英語だって赤点ギリギリなのにまた、別の文字を一からとか正直やる気が起きない。
勉強も特に問題なく進めることが出来たのだが、問題は歴史だった。
こればっかりはさっぱりわからないので丸暗記しかない。しかも、その中で非常に俺を困らせる事が書かれてあった。
現在の魔王というページだ。
そこにはアルドヘルム=カルヴァートと書かれてあり、肖像画が書かれているのだが、これがどっからどう見ても俺の父親にしか見えない。
そしたらやっぱりそう、家庭教師の人から説明されて俺の考えは間違ってないと証明された。
現在の魔王は俺の父親でした
そして、俺は魔王の息子でした。
何という死亡フラグ!!!!
ゲームでは勇者にやられる存在の魔王が俺の父親!!!俺はその息子!!!つまり、俺はもしかしたら勇者が来たら殺されてしまうかもしれない存在だということ!!!!
なんてこった!!!!こんなことがあってたまるか!!!!せっかくこの世界で生きていく覚悟を決めたというのに!!!!!
俺は泣きそうになるのを堪え、その日の授業を乗り越えた。
教科書にはバッチリと勇者の文字もあった。何代か前の魔王は勇者の手によって殺されたらしく、その時はその家族も全員殺されたと書かれていた。
まぁ、その時の魔王が私利私欲の為、人間の土地にちょっかい出したからなんだけど!!!今では人間とは仲いい関係を築いているけど!!!俺の不安は収まらない。
しかも俺には弟一人、妹が二人、しかも双子で、顔は数回しか見た事がないがとても可愛くて優しいいい子な弟妹が居る。俺の大事な大事な弟と妹達を殺されるだなんてそんな事にはなって欲しくない。そして何より、俺も死にたくない!!!
例え父親が前の魔王のようにならなくとも、逆に人間がこっちの土地を狙って戦争をふっかけてくるかもしれない。
前世の記憶から、戦争が起こらない事はない、と言うことはテレビのニュース何かでのよく知っている。
何事にも最悪の場合を考えろ。前の世界の父親がよく俺に言っていた。
戦争が起こらないように、戦争が起こったとしたら、と考え俺は思いついた。
なるようになれ、だ。
俺がどうこうしたからと言って、戦争を止めるだの出来るという可能性は低い。こんなずっと眠っていた息子に何か言われても、父親は俺の言葉を聞いてはくれないだろう。
だからその時はその時。俺は死なないように自分に出来ることをすればいい。
その為には家族を守る力が必要だ。
そう思い立ったら俺の行動は早かった。
俺は皆を守りたいから力が欲しいと素直に母親にお願いし、先生を付けてもらった。
結果、俺は一つわかったことがある。
俺はこの世界でも平凡だった。全てに関して平均だったということ。
だけど、一つだけ平凡ではないものを持っていた。
この世界では生まれながらにして、前世で言う守護霊の様なものが存在する。
しかし、前世と違うのはその守護霊の様なもの、『魂霊』と呼ばれるそれは、実体化出来るということ。
そして、俺の魂霊はチートだったということだった。
俺に魂霊を教えてくれた先生が、熊サイズの狼だったとする。それに対し、俺の魂霊はそれを超す、二階建てマンション程の大きさの、人だった。
灰色の肌に、はち切れんばかりの筋肉は様々な傷跡が付いており、腰にはボロボロの腰布を巻き。首と両手足には、首輪手枷足枷が付けられそこから長さのまばらな鎖が繋がっている。
顔は鉄で出来た全体を覆う程の仮面のような物がつけられていて、どんな顔なのかは分からない。
声は「あ゛ぁあ゛……お゛ぉ……」等と地を這うような低い声。
うん、正直引いた。
先生も引いていた。
しかもこの魂霊、俺が敵だと見なす存在を勝手に排除してくれる。
修行の一環で森に入り魔物退治をしていたのだが、俺が剣で倒そうとしても先に動き仕留める。
遠くに魔物が居たら鎖を鞭のように使い仕留める。
俺はその間間抜けに突っ立ってただけだ。
しかも、その日から俺を見る先生が、恐怖に怯えたような顔をするようになったのは気のせいではないだろう。
俺だってこんな化物が居たら怖いよな。気持ちはもの凄くわかるよ。だって俺だって怖いもん。
だから、俺は魂霊は出さないようにしているが、先生が父に報告し、そこからいろんな人に伝わり皆の俺に対する行動がよそよそしくなった。
べ、別に泣いてなんかいないんだからね!!!
嘘ですちょっと泣きました。
だが、俺はその時知らなかった。
実は長い眠りから覚めたのに、文字や計算が直ぐに習得できたと、家庭教師から言われ皆から神童と呼ばれていたこと。
魂霊が歴代最強と謳われた父親と同じ程の力を持っていて、次期魔王にふさわしいと言われていたこと。
そして、顔は両親に似て美しい容姿に、あまり口数が多くない為ミステリアスでかっこいいと騒がれ、俺を主人公にした本が出版されていること。
色々と勘違いされている事。
それに気付いたのはまだまだ先の話。