表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

サンタワークス

作者: るーるー

メリクリ!

 十二月二十四日。

 その日、最も忙しいのは皆さんご存知サンタクロースである。

 最近のサンタクロースはすごい。

 サーフィンをしたりスケートをしたり山を登ったりするのだから。

 まさにガチャピ◯顔負けのトナカイいらずの超人なのです。


 では、そんなサンタクロースが戦場である十二月二十四日にどう過ごしているかを私達、サンタクロース視点からお送りしましょう。




 新人サンタクロースである私、ロミナの朝は早い。

 日の上がらない五時である。なにせ世界を股にかけるサンタクロースである。そして新人ならばやらなければいけないことが山ほどある。


「おはよーございまーす」


 職場に着いたらまずは大きな声で挨拶。これは基本だ。

 それぞれが適当に挨拶を返してきてくれるが皆眼は真剣である。

 サンタクロースである彼等、彼女等は装備の準備、手入れも一切怠らない。もちろん私も怠らない。自分のデスクに座ると自分の仕事用具を机の上に取り出す。

 サンタクロースのトレードマークである赤い服、帽子、プレゼントを入れる袋とを取り出すと机に備え付けられているミシンや針を使いほつれなどを素早く直していく。


「ほっほ、ロミ坊、お先に」

「あ、はい」


 そう言い、サンタ服にサンタ帽、さらにはプレゼント用の袋を担いだおじさんが白くて長い髭を揺らしながら先のフロアに進んでいきました。


「いいなぁ、私も早くあの白くて長い髭をつけたいなぁ」


 トレードマークである白く長い付け髭はサンタ業界で言うところのエリートです。

 あらゆるサンタ技能を収めた者、というところでしょうか。


「私は裁縫苦手だからなぁ」


 毎回裁縫で手間取ります、

 もっと早く作ればいいのにという私の言葉を聞いたサンタクロースの一人が笑いながら言った


「サンタクロースは一年に一回しか働かないんだ。いわば副業だからな。そうそう人が集められないんだよ」


 なかなかに世知辛い事情です。

 サンタクロースだけでは食べてはいけないのです。私も普段はOLですし、エリートサンタになればサンタ業だけで食べていけると噂ですがまだまだ先は長そうです。

 ようやく服や帽子のほつれなどの修繕が終わった私はいそいそと服、帽子を着込むとプレゼントを入れる袋を担ぎ、次のエリアに向かいます。

 次のエリアには黙々と何かをみがくサンタクロースの一団がありました。

 私も働き始めた時に作った物をテーブルの上に出すとクロスを取り出し、磨き始めます。

 手に置いたのは鍵束のようにいくつもある細長いものだ。


 いわゆる魔法の鍵です。

 これがないとサンタ業は行えません。

 入りたての時に私が先輩に尋ねると、


魔法の鍵(ピッキングツール)さ。子供達の夢を家に入れる時に必要不可欠なものさ」


 と答えられました。

 なるほど確かに魔法の鍵です。

 働き始めた当初は黙々と魔法の鍵(ピッキングツール)を磨くサンタクロースの集団というのもなかなかシュールな光景だと思っていましたが人間慣れるというもので今では特になにも思わずに魔法の鍵(ピッキングツール)を磨いています。

 そもそもピッキングツールを使うのは犯罪なのではないのだろうか? と先輩に尋ねたことがりましたが、


「我々に開けられない窓があってはならない。なぜなら夢見る子どもたちは窓の内側にいるのだから」


 そう語ったのは何故か右目に眼帯をしたいかにも歴戦の勇者のようないかつい体をしたサンタクロースだったなぁ。あの人はサンタ帽よりベレー帽の方が似合っていたといまでも思います。

 しかし、なるほどと同時に思いましたね。子供の夢を守るためなら犯罪すらグレーゾーンになるということをわたしは知りましたね。

 やがてピッキングツールが輝き始めたのを確認するとそれを丁寧にしまい、次の仕事場へと向かいます。


 次にやってきたところは大きなベルトコンベアがある区画です

 こちらはプレゼントの仕分け場になります。ここで手紙に書かれた住所と氏名を確認して送るプレゼントを袋に詰めていきます。

 仕事場に入るとまずは担当分の手紙の束を渡されます。

 そこに書かれているプレゼントをベルトコンベアからとり、袋に入れ入れていかないといけないわけです。

 ベルトコンベア上には包装紙に包まれた様々な形をした物が流れていきます。

 手慣れたサンタは素早く手紙に付与されている写真とコンベアを流れていくプレゼントを見比べ、合致するものを手早く袋に詰め込んでいきます。

 さすがはプロ。もたもたしている私とは大違いです。


 ただ、時折そのままどのサンタクロースも手に取らずに流されていくプレゼントもあるります。

 あれは手紙に名前と住所が書かれていないもの、そして十八歳以上の人が出してきた手紙のプレゼントです。


 十八歳にもなってプレゼントがまだ欲しいとは社会を舐めているとしか思えませんね。

 怒りながらも私も仕事をしていきます。

 手紙を確認していくと今年の私の担当分にはバツ印が付けられている手紙がかなりありました。


「おや、ロミ坊、今年は当たりが多いじゃないか」

「当たりですかねぇ」


 にやにやとした顔を浮かべながらエリートサンタが私の持っている手紙を覗き込んできます。

 手紙にバツが付いているもの。これはプレゼントをあげれない子供達を表すサインです。

 なぜプレゼントをあげられないのか?

 それはよく言いませんか? 『いい子にしてしていないとサンタさんがプレゼントをくれませんよ』って。

 あれです。

 つまり、バツ印が付いているのは今年一年を良い子に過ごせなかった子供達です。

 子供には早い因果応報というやつね。


「もちろん何もないというわけではないからのぅ。ちゃんとふさわしいプレゼントが準備されておるわけだし」

「まぁ、そうですが……」


 あんまり気の進まないプレゼントなんですがね。

 気を取り直し配達用のプレゼントを探し、袋に入れていきます。


 プレゼントを袋に詰め込むとベテランサンタ達は小休止していますが新人はそうはいきません。というか私は鈍臭いので早め早めで行動します。

 大きく膨らんだプレゼント袋を担ぎえっちらおっちらと歩き、最終目的地にたどり着きます。

 目的地はソリ置き場。

 新人とはいえプレゼントの配達はしますのでソリは万全の状態にしていなければなりません。あとトナカイもです。

 しかし、この時期のトナカイは皆さんテンションが低いのです。

 某真っ赤なお鼻の歌のせいで変なイメージを持たれたトナカイさん達はこの時期になると強制的に鼻を真っ赤にさらてしまうという羞恥イベントにさらされるからです。

 そのせいでトナカイさん達のテンションは今が一番低いと言えるでしょう。


 そんなげんなりしているトナカイさん達には悪いですがソリに繋げていきます。大体一つのソリに対して二体のトナカイさんが付くのでなかなか豪勢に見えるのです。

 繋げたソリにプレゼントの袋を置き、汗をぬぐいます。


「ふぅ、これでよし」


 トナカイさんが『重いんですけど?』と言わんばかりの目をこちらに向けてきますが我慢してもらうしか他ありません。

 あとは出発を待つだけです。


 十二月二十四日

 二十三時


 この地区担当のサンタクロースが新人、ベテラン 勢揃いで並んでいます。

 この地区担当だけでもおそらくは百人はいることでしょう。

 そんなサンタクロースがずらりと並んでいる所にやたらと迫力のあるサンタクロースがミニスカサンタを引き連れ現れました。


「気をつけ!」


 迫力あるサンタクロース、通称大佐の掛け声でその場にいるサンタクロースはビシッと背筋を伸ばし直立の姿勢をとります。

 大佐のサンタ服はなぜか戦場を渡り歩いたかのようにボロボロでした。


「今年も、今年もこの日がやってきた。リア充達の祭典が!」

『ウォォォォォォォオ!』


 大佐の言葉にその場のサンタクロース達が雄叫びを上げます。


「恵まれない子供に愛の手を!」

『愛の手をぉぉぉぉ!』


「悪さをするガキには……」

『……』

「鉄槌を!」

『鉄槌ぉぉぉぉぉ!』


 ここだけ聞くとサンタクロースの発言には絶対聞こえませんね。


「フィンランド本社のサンタクロース代わり我らがサンタクロースを全うするのだ!」

『サンタ! サンタ! サンタ!』

「総員搭乗!」

『ウォォォォォォォオ!』


 再び雄叫びを上げながら並んでいたサンタクロース達がトナカイに繋がるソリに乗り込み、空に飛び立っていきます。

 私も遅れてソリに乗り、宙へ飛び出します。


 〈じんぐるべーるじんぐるべーるすずがなるー〉


 ソリが飛び立つと自然と流れるBGMを聞きながら私は手綱を握り担当地区へと向かっていきます。

 ハガキを取り出し、住所を確認すると手綱を操りトナカイさんをそちらに向けます。


 目的地の家に到着。

 窓に手をかけますがやはり鍵がかかっていますね。こういう時は先程手入れした魔法の鍵(ピッキングツール)でちょいちょいとやれば……


 カチン


 窓の鍵が開きあら不思議。

 スルスルと窓が開きます。すかさずプレゼントを中に入れると窓を閉めます。


「メリークリスマス」


 そういうと再び手綱を操り宙へとトナカイさんを躍らせます。

 さてどんどん行きましょう。

 二軒目に到着。

 高層マンションなので、やたらと寒いです。

 しかもこのマンション。鍵が外から絶対開かないタイプですね。

 仕方ありません。


 私はソリの道具箱からガムテープ、ガスバーナー、水鉄砲、ハンマーをとりま出します。


 まずはガムテープをガラスに円を描くように貼り付け、その円の中心をガスバーナーで熱します。大半のガラスならこれで破れるのですがこのガラスはだめのようですね。仕方ないのである程度熱を貯めこんだところに冷たい水の入った水鉄砲の引き金を引き、冷水を放出。


 するとなんということでしょう。()が行ったことで熱衝撃が起こり、ガラスにびっしりとヒビが入りました。すかさずそこにハンマーをたたき込みガラス割るとそこから手を入れ鍵を開けます。

 あら不思議、窓がスルスルと開きました!

 再び素早くプレゼントを入れると空いた穴にダンボールを貼り付けアフターケアーをした後に素早く現場から立ち去ります。


「メリークリスマス!」


 さてさて次の手紙はと、取り出した手紙を見ると大きなバツ印。これは特別プレゼントですね。手綱から一時的に手を離し、真っ赤なサンタ服を裏返します。サンタ服を裏返すとサンタ服はリバーシブルになっており、真っ黒なサンタ服に早変わりします。サンタ帽もリバーシブルなので真っ黒帽に変わります。最後に鬼の形を模したお面を被り準備完了です。

 目的の家に到着すると鍵を開ける動作を見せることなくガラスにハンマーを叩きつけます。

 けたたましい音を響かせながら割れたガラスを踏みながら家の中に入ります。


「な、なんだ!」


 布団から跳ね起きた人影が見えました。

 おそらくは手紙をくれた子でしょう。

 その子供に向かい鬼のお面が一番強くなるような角度で睨みつけます。


「ひぃ!」


 思わず悲鳴を上げた子供に対してお面の下でにやりと笑います。


「お前がわるいこあかぁぁぁぁぁ!」

「わぁぁぁぁぁぁ! ブラックサンタだぁぁぁぁ!」


 バタバタと逃げようとした子供をつかみ、お尻を高く上げさすと容赦なく手で叩きます。


 バチィーン! バチィーン!


「痛い! 痛い!」

「お前がわるいこあかぁぁぁぁぁ!」


 悲鳴を上げますがひたすらに叩きます。

 ブラックサンタはわるいこにはお仕置きするのがルールなのです。

 やがて泣き噦るようになると叩くのを止めます。


「来年は良い子にするんだよ?」

「わがりばじだ」


 良い子にしないとプレゼント貰えないからね。


「メリークリスマス」


 そういうと泣き噦る子供にアメをひとつ渡すとソリに乗り立ち去ります。


 こうしてクリスマスには良い子にサンタクロースがプレゼントを悪い子にはブラックサンタがお仕置き持ってくるのです。


 みんなのとこにはどっちがくるかな?

どっちのサンタがくるかなケケケ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 一人称視点で書かれており、とても分かりやすかったです。トナカイさんが可愛い! また、発想がユニークで、悪い子にはプレゼントがないというのにクスリと笑えました! [気になる点] 特にないです…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ