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フローリア国境、そのとき。(セイの箱)

 夢で最愛の妹・美祈から幼なじみの一人であるウララの危機を伝えられ、セイがフローリアを発つ準備をしていた頃。

 箱の中のサーデインのもとにエデュッサがやってきた・・・


一章終わり、二章手前辺りです。

※サーデイン視点です。


 箱の中からこんにちは。

 私は『古の語り部』サーデイン・L・フローリアと申します。

 箱の中とはどういう意味か? ああ、やはり気になりますよね。

 私は紆余曲折ありまして、異世界の魔導師である主殿、『悪魔(デビル)』のセイ様に仕える盟友(ユニット)の一人でして。

 詳しいことは主殿にお聞きください。

 私は今、少しばかり面白、いえ、厄介な頼み事を引き受けていますので。


 ◆◆◆


「あたい、ご主人様に冷たくあしらわれるのが堪らなく好きなんです」

 私の前に来るなりそんなことを言い出したのはこの中の面々では比較的最近入ったばかりの『女盗賊頭』エデュッサさん。主殿と戦って、何かに目覚めたようなのですが、そこは触れないでおきましょう。「触らぬ神に祟りなし」っていうでしょう? 後ろから刺さってくるイアネメリラさんの視線が痛いですし。

 私は正直障壁を張りたい気分ですが、まあ、傍観する分には面白いので、話を聞くだけ聞いているわけですが。

 エデュッサさんは続けます。

「でも、ご主人様のあの堪らない視線も、ご主人様が呼んでくださらなければ堪能できない・・・。最近、ご無沙汰なので、何か、ご主人様の気を引ける手立てがないか、サーデインさんのお知恵をお借りしたいのです!!」

「そういうことでしたか」

 私は努めてにこやかに答えましたが、とりあえず、ここからの逃走を決意しました。

 イアネメリラさんに殺されたくないので。

「何か、考えておきましょう。思いついたら、お知らせしますよ。ちょっとジェスキスさんにお聞きしたいことがあったので、一旦失礼しますね」

 私は視界の片隅に捉えたジェスキスさんをだしに使い、その場から立ち去りました。もちろん、イアネメリラさんとは逆方向ですよ?


「ジェスキスさん、プレズントさん、お疲れ様です」

「ああ、サーデインか」

「やあ、元気?」

 ジェスキスさんは静かに顔を上げ、プレズントさんはいつもの好青年スマイル。

 好青年スマイルだけれど、手の中で小さな火玉をぱちんぱちんと弾けさせているのは何なのでしょうね?

「おかげさまで。ときにジェスキスさん」

「何だ?」

 ジェスキスさんが縫い付けられた目をこちらへ向けました。

「主殿の動向を知りませんか? 先日、呼ばれていたようですが」

「わからないな。『絶滅』を使ったから、すぐ戻ってきてしまった。すまないな」

「いえいえ、ありがとうございます」

 私とジェスキスさんの会話を聞いていたプレズントさんがそこで口を開きました。

「そういうのはイアネメリラに訊いた方がいいんじゃないの? 彼女が今回一番長くいたわけだし」

「あはは・・・それもそうですね」

 思わず乾いた笑いをこぼしてしまいます。

 はて、障壁なしであの視線に耐えられるでしょうか?

「む、サーデイン殿、主の行き先が気になるのであるか?」

 暗がりからとすとすと歩いてきたのは、赤い目を持つ黒い狼『幻獣王』ロカさんです。

「はい。私はなかなか呼ばれることがないでしょうから、人づてで外の状況を把握しておきたいと思いまして」

 これはもちろん本音です。防御主体の私は火力としては少々心許ないので。しかし、いざ呼ばれたときに現状がわからないのでは困りますから。

 言うと、ロカさんのその前足でたしたしと私の肩を叩きます。

「それは確かに重要である。放っておくと、主は無茶をするのである!」

 狼ですが、同志を得たというような表情をしていました。器用ですね。

「それでだがな、我輩も主が無茶をしていないか探ろうと、箱の外の声に注意を払っていたのだが、どうも、フローリアを出るらしいのである・・・」

「それは興味深いですね。それで、主殿はどこへ向かうと?」

 「うむ」と一つ頷いた後、ロカさんは告げました。

「『天空の聖域』シャングリラである」

 瞬間、その場の空気が凍りつきました。ロカさんを除く全員に緊張が走ります。

「シャングリラ・・・ですか」

 ジェスキスさんもプレズントさんもそれぞれ思うところは異なるのでしょうが、あの国にはあまり良い印象を抱いていないようです。

 私も、あまり良くは思いません。色々と元を正せば、自分の死んだ原因にも繋がる国ですから。

「何でも、主の友人が危険だとか・・・と、サーデイン殿? 聞いているのであるか?」

「ええ、はい。その理由なら納得です」

 相変わらずの主殿に少し清々しい思いがしました。

 ならばまず、あの国の危険さを伝えなくては。

 とはいえ、先程も言ったとおり、通常の方法では私が呼ばれることはない。

「僕が行こうか?」

 プレズントさんが火玉をぱちぱちさせるのをやめて訊いてきましたが、首を横に振りました。

「主殿の戦い方の性質上、目的地に着くまでは目立たない方がいいでしょう」

「まあ・・・そうだね」

 言外に含んだあなたは目立ってしまうというメッセージを正しく受け取ったようで、プレズントさんは苦々しい面持ちです。

「イアネメリラは・・・駄目か」

「残念ですが」

 かの国は天使の統べる国。堕天使であるイアネメリラさんや明らかに魔族の方々は以ての外です。

 ・・・ん? ということは。

 私はぴん、と思いつきました。主殿たちなら「!」が出せそうなくらい、と表現するでしょう。

「私が行きましょう」

「何かいい案でも?」

 プレズントさんが火玉遊びを再開しながら言います。

「はい。あとは主殿が私を引くかどうかですが。ついでにあの人も」

 私がちら、と見やった先を見て、プレズントさんは軽く目を見開き、それからクスリと笑いました。

「メリラに殺されるよ? 嫉妬深いから」

「いやいや、それはあの人の方でしょう。それに、主殿のためですから」

 後半の言葉にその場の一同が頷きます。

「ま、引きの方は大丈夫でしょ」

 プレズントさんが言い切ります。

「なんだかんだでマスターはデビルドローだから」


「ええっ!? 本当ですか!?」

「はい」

 私は今、再びエデュッサさんと対面していました。

 主殿はたぶんおそらくきっとそろそろあなたを呼びますよ、という、らしくない出任せを言ってみたところ、案の定大喜びで。

 え? イアネメリラさんですか? 前もって今回の事情をお話ししておきましたよ。こんなところを見られたら視線のついでに魔力塊を飛ばされそうですから。

「なので、これに着替えてみてください」

 私は豹柄のバニースーツを渡します。受け取りながら、エデュッサさんは首を傾げます。

「これは?」

「主殿の気を引くためのアイテムです。使い古された手ではありますが、服装の変化で、印象も変わることもあると思いましたので」

 バニースーツを広げ、エデュッサさんはぽっと頬を染めます。

「ろ、露出が多いんじゃありませんか?」

 今と変わりないじゃありませんか、と言いたいところですが、それは主殿の担当です。

 私は言葉を紡ぎます。

「男性は露出された肌の艶かしさにも惹かれたりするんじゃないですかね? まあ、逆が好みの方もいるでしょうけれど」

 自分の発言に今はドン引きしたいですが。

 エデュッサさんが私の言葉に納得したようで、早々と着替えてウキウキと召喚のときを待ちます。

 やがて、主殿の唱える理が聞こえてきました。


「砂漠の瞳の後継者、冷蔑を湛えて微笑む者、我と共に!」


 エデュッサさんの理です。エデュッサさんは小躍りしながら箱の外へと出て行きました。

 その前に主殿が何度か悪態をついているのが聞こえたので、本意ではないのは明らかです。

 問題はこの後ですが・・・

「サーデインさん! ご主人様は露出少な目を脱がす事に、興奮するみたいですよ!」

 エデュッサさんの顔が天から覗き、私に言いました。「何!?」という主殿の声。その後、「魔導書(グリモア)」の声が聞こえたところで、エデュッサさんがすたっと降りてきました。

「ご主人様はサーデインさんの言っていた逆の方の方だったんですね。何か別のものを着た方がいいでしょうか?」

「そうですね、ではこれなんかどうでしょう?」

 私は適当に給仕服を渡しました。どういうわけか、ほぼ一瞬で着替え終わっています。

 ちょうど、主殿の新たな理が聞こえてきました。


「言葉の精霊統べる者、古の物語を受け継ぐ者、我と共に!」


 作戦どおり、私が呼ばれました。さすがは主殿。見事な引きです。

 ・・・と、心で褒め称えつつも、その傍らで後悔が渦巻いていました。

 箱の中からでもわかる、並々ならぬ怒気。イアネメリラさんの視線に比べれば、と自分に言い聞かせましたが、少々笑みが引きつってしまいました。

 ともあれ、主殿のためであることには違いないのです。

 他の皆さんとは違う形でも主殿のために尽力しましょう。



お読みくださり、ありがとうございましたm(_ _)m


まめに修正しています。



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