表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巨大鬼姫物語  作者: 小人解説者
8/8

其の八 時をかける琵琶法師

高取領内は長い長い梅雨の季節に入っておりました。鬼姫と隆之介は御忍びで城下町を視察している途中で雨に降られ、慌てて近くの古びた寺に飛び込みました。「全くよう降りまするなぁ」隆之介はそう嘆きながら鬼姫の姿を眺めていました。雨で濡れた鬼姫の顔は露草のようにキラキラと輝いており、着ている着物の梅の絵柄はまるで水を得た魚のように生き生きとしついるように見えたのです。

ベン、ベベン…その時、2人の背後から琵琶の音色が聞こえてきました。

この世の物とは思えぬ神秘的で、まるで宇宙の果てからでも聞こえてくるような音色に2人はうっとりとしながら聞き入っていました。

「見事な音色じゃ!御老人、名は何と申す?いずこへ行かれるのじゃ?」鬼姫は目を輝かせながら琵琶法師に尋ねました。

「私は琵琶法師の芳一(ほういち)と申します。この琵琶を奏でながらあちこちを旅しております故、あてはございませぬ」「巷では時を操る琵琶法師と呼ぶ輩もございますが」

「何と!時を操るとな」鬼姫は以前、隆之介から時の流れを旅する話を聞かされたことを思い出したのです。「されば芳一のその琵琶を奏でて我らにも時の旅をさせてたもれ」身を乗り出して芳一に頼む鬼姫。「されどいずこの時かはわかりかねますが、よろしいかな?」不安そうに尋ねる芳一に不敵な笑みで応える鬼姫。

ベベン、ベベン…しばらくすると鬼姫と隆之介の周りの景色が歪み始め、強烈な光が彼らを包みました。

シュワワワ…ドッゴォーン!物凄い衝撃音と共に、彼らの姿は寺の中から消えたのです。

―――

ここは西暦1939年頃のフランスとドイツの境界線であるマジノ要塞。鬼姫と隆之介は互いに顔を見つめ、呆然としておりました。ゴォォン ゴォォン…その時彼方から無数の航空機が飛んできたのです。そう、ドイツ軍がアルデンヌの森を突破し、フランスを占領する瞬間だったのでした。

マジノ要塞に爆弾の雨を降らすドイツ爆撃機。ヒュルルル、ドゴォォン、ズガァァン…鬼姫達も爆風に吹き飛ばされてしまいました。「おのれ!わらわを高取城の鬼姫と知ってのことか。もう勘弁ならぬ」鬼のような形相でドイツ空軍機を睨むと巨大化を始めました。ドズゥゥン ドズゥゥン…数歩歩いた後、鬼姫は両手を空軍機に向け、得意の気功をお見舞いしました。「エーイッ」ボン ボン…気功をくらった空軍機は次々に爆発していきました。鬼姫の顔の近くを飛んでいた戦闘機を右手でがしっと捕まえると、コクピットを覗きこみ「わらわの美しさにひれ伏すがよい」鬼姫に見つめられた者は、即座に戦意を消失し、見とれているうちに捻り潰されてしまうのです。ミシミシミシ…グシャァァッ!鬼姫は戦闘機を持った手を強く握りしめたのです。

それを見た他の戦闘機は反転して逃げて行きました。「まだまだ暴れ足りぬ」しかしその時、またあの琵琶の音色が聞こえてきました。ベベン、ベベン…気がつくと寺の中に戻っていたのです。「時の旅、堪能されたでしょうか?」観音様のような慈愛に満ちた笑みを浮かべる芳一。「そなたの琵琶の腕前、あっぱれの一字に尽きる」パニックに陥りそうな気持ちを押し殺して痩せ我慢をしながら答える鬼姫。

やがて雨は上がり、芳一はまたいずこへと旅立って行ったのです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ