其の六 唸れ!必殺気功術
ドタドタドタ…慌ただしく鬼姫の部屋に入って来る家臣がおりました。「申し上げます!先程、道願寺家の軍勢が高取領内に攻め込んで参りました。その数、約5000」鬼姫は不敵な笑みを浮かべ、全軍に出陣の命を出しました。「この高取領内に進軍するとはこしゃくな。今こそわらわが会得した技を見せてくれるわ」
それは今から数ヶ月前の事でした。――――
鬼姫はいつものように隆之介の居る西側の館を訪ねました。
中には唐国の書物が散乱しておりました。隆之介は世界の国々を周り、その国の様子を鬼姫に語って聞かせていたのです。
「姫!拙者は唐国にて、気功術なるものを見て参りました」目を輝かせて語る隆之介。
「気功とな。それはどのようなものじゃ?」興味津々な表情で尋ねる鬼姫。
「それは気という物を身体より発し、相手に浴びせる技でございます。この気を自由に操ることが出来れば、百千億なる軍勢や城も物の数ではございませぬ」「それは面白そうじゃ!わらわも是非会得したいものじゃ」隆之介は気功術の書物を読み聞かせながら鬼姫に気功術のやり方を教えました。精神を集中し、両手の掌を手前に向けて…「やぁーっ」ボムッ…大きな岩は姫の気の力によって粉々に砕けてしまいました。「お見事っ!この技を会得しますれば何者も恐れることはございませぬぞ」本来は数十年かかると言われる気功術をわずか数ヶ月足らずで会得した鬼姫に隆之介は感動しました。
――――
鬼姫は愛馬百鬼丸に跨がり、軍を率いて道願寺家の軍勢を目指しました。
ブォォォ…ブォォォ…「鬼姫の軍勢じゃ!かかれぇー」敵の総大将・道願寺剣心の号令で弓矢や鉄砲が一斉に放たれました。ヒュン ヒュン…パパパァァン…鬼姫側の長槍隊数十人が倒されました。「ひるむな〜!突っ込め〜」隆之介が騎馬隊を率いて敵陣に突っ込んで行きました。パバァァン…「うぐっ」敵が放った鉄砲が隆之介の肩を貫通したのです。落馬する隆之介。道願寺は鉄砲三段撃ちを会得していたのです。次々に銃弾や弓矢に倒される鬼姫側の軍勢。
「おのれ道願寺!よくも隆之介を…」鬼姫は怒りの表情をあらわにして巨大化を始めました。ズズゥゥン!鬼姫は手始めに足元の弓矢隊を踏み潰していきました。白い足袋と白い草履に包まれた足が次々と弓矢隊をミンチにしていきました。グチャリ、ブチャリ…手前に鉄砲隊の陣地が見えてきました。「隆之介を撃ったのはあやつらか。ようし、ここで気功術を試してみようぞ」鬼姫は両手をゆっくりと上げ、掌を鉄砲隊の陣地に向けて精神を集中しました。頭の中で、鉄砲隊の身体が砕け散り、陣地が跡形もなく吹き飛ぶ様をイメージして「くらえいっ!やぁーっ」バッコォォン…ブチッ、グチャリ、ボキボキ…陣地は跡形もなく吹き飛び、鉄砲隊の肉片や骨などが散らばっておりました。「鬼姫の必殺技しかと見たか!次はいよいよ本陣じゃ」高々に宣言すると、敵の足軽達を踏み潰し、蹴り飛ばしながら本陣を目指していきました。「親方様!鬼姫が大女になってこちらへやって来ます」ドズゥゥン、ドズゥゥン…巨大な鬼姫を見て真っ青になる剣心。「者ども退けぇぇい」剣心は他の家臣を置き去りにして1人で逃げようとしておりました。しかし、巨大化した鬼姫から逃げられる
訳はなく、巨大な右手で鷲掴みにされてしまいました。
「家臣を置き去りにし、己だけ逃げようとは武士の風上にも置けん!わらわの気功術、今一度見せてくれるわ」剣心を睨みつける鬼姫。
「ひぃぃぃっ」鬼姫は空いている手を剣心の頭にそっと当て、精神を集中して…「いやぁぁぁっ」メリメリメリ、ドクチャァァァ…「ぐぎゃぁぁぁ」掌から発した気によって剣心の頭蓋は押し潰され、粉々に砕けてしまいました。
「わらわが居るからには何者と言えど、この高取領内に足を踏み入れさせぬわ!ホホホホホ…」あわれな姿と化した道願寺家の軍勢の亡骸が散乱する大地に鬼姫の勝ち誇った笑い声がいつまでも響き渡っていました。