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明日に向かって再始動

 予定より随分遅くなってしまったなと反省しております。先が長いだけにどんどん進めないと、まだまだ起承転結の”起”の半ばなんです。まあ、とりあえずこの第5話ご愛読頂ければ幸いです。


 大震災から1カ月が経った。計画停電があったり、放射能汚染の問題が解決しなかったり、更に余震の心配もあったが、それでも何とか普段の暮らしを取り戻しつつあった。そんな中での新年度の1学期始業式を、期待と不安の入り混じった複雑な気持ちで迎えた。それというのも、あの大震災以降、真奈美さんが1度もパワー部に顔を見せなかったからだ。余震の頻度が高いということで、バーベルを扱うパワー部は危険とされ、トレーニングがなかったり、あっても一切の器具を使わずないで、腕立て伏せや腹筋体操などで、軽めに終わることが多くなっていた。それでも、春休みになって余震の頻度が少し減ったという判断で、様々な対策がとられ、少しだけ通常のトレーニングが再開された。僕はその全てに参加したのだが、真奈美さんの音沙汰すら聞けなかったのだ。果して、久しぶりに彼女の元気な顔を見ることが出来るのだろうか。まさか、もうパワーリフティング部を辞めるつもりではないか?考え事をしながら校門を入ると、

 「優馬。」後ろから肩をポンと叩かれたと同時に、聴き慣れた声がした。親友の健だ。

 「何だよ、考え事なんかして、恋でもしてんのか?」

 「何で分かった?」

 「え、的中?何、どストライクかよ。優馬って、相変わらず分かりやすいヤツだな。で、相手は誰?パワーの子か?」あまりの図星に、返事に困ったその時だ。

 「おはよう、坂下君。あー、間に合って良かった。寝坊したから、始業式早々遅刻したらどうしようかと思ったよ。」ま、まさかの真奈美さん本人だ!うわー、どうしよう!何、このタイミング。でも、何か意外と元気そうで良かった。

 「あ、おはよう。も、もう大丈夫?」

 「うん、ごめんね。心配かけちゃったね。又、一緒に頑張ろうね。それと、クラスも又一緒になれたらいいね。」それだけ云うと、彼女は僕たちを追い越して先に校舎の中に消えて行った。

 「おい、やるじゃん、優馬。朝から見せつけてくれるじゃんか。そうか、あの子か。」

 「いや、あの子とは云ってないから。」

 「はい、却下。もうばればれ。そんなに大きく顔に彼女ですと書いといて、それは通じねえよ。この、この、やるじゃないか。で、ちゅーしたのか?」

 「してないよ。まだ、告白もしてないのに。」

 「まだー!何で?あれはいける。ありありだって、旬を逃すんじゃねえよ。」

 「旬て何?」

 「今が告るチャンスだっちゅうの。」

 「無理だよ。真奈美さんは誰にでもあーなんだ。」

 「他のやつらにもそうってことか?」

 「そうだよ。俺にだけ特別じゃないんだ。部活のみんなは全員仲間なんだって。だから他の男子部員にもあんな風に接してるんだ。」

 「仲間か。はーん、そういうのも有りか。でも、あの感じ、優馬のこと結構上位に見てるな、絶対。」

 「そうかな、俺はまだ全然自信ないよ。もっと強くなってからじゃないと。」

 「そんなこと云ってると取られちまうぞ。」

 「いいんだって、本当に。まだこのままで、、いいんだよ。」

 「このままで、か。まあ頑張れや。」

 「ところで、地震大丈夫だったか?」そう言えば、クラスが違った為か、健とは大震災以来初めてだった。

 「あー、大変だったよ。墓石は倒れるわ、ろうそくの火から火事になりかけるわでさ。」

 「えー、それどうなったんだよ?」

 「親父がすぐ消したみたい。ちょっとだけ畳焦げてたけどな。どうせ、俺もその時吹奏楽練習終わって、千里と遊んでたからな。」

 「そうか、大変だったんだな。」

 「そう云う優馬とこは?」

 「俺んとこは平気だけど、それより千里は?」

 「あいつは大丈夫。相変わらず元気そのもんだよ。でも、あいつの親父は大変だったみたいだけどな。」

 「何かあったのか?」

 「いや、あいつんとこ、税理士じゃん。あの時期は忙しいみたいなんよ。」

 「あ、なるほどな。」

 「さあ、クラスはどうなってるかな?」と、新クラス割りの掲示を見て、

 「おー、優馬、今度は一緒じゃん。又よろしくな。」2人ともB組だ。

 「ああ、こちらこそ。あ、千里も一緒なんだ。」

 「ああ、あいつとは中3ん時から3年連続だぜ、もう。」

 「いやなのか?」

 「うるさいからな。」

 「誰がうるさいって。」振り返ると、その千里がいた。

 「何で、女って、こう勘よく現れるんだよ。」

 「健あんまり遅いから、迎えに来てやったんだよ。」

 「そうかよ、ありがとな。」そう云って健は、千里の肩を掴んで抱き寄せた。

 「もう、ダーリンたら、くっ付き過ぎ、学校だよー。」

 「何だ、相変わらず仲いいんじゃん。」

 「そうだよ、うちらはラブラブ。優馬も早く彼女作れよ。」

 「ちゃんと目付けてんのはいるんだぞ、こいつにも。」

 「えー、誰誰?」

 「同じパワー部の子でな、結構いい線いってるんだ、それが。」

 「おい、声大きい。聞こえるだろ。それにいい線なんていってないだろ。」

 「何だ、まだしてないのか。そんで、その子のクラスはどうなん?」

 「あ、A組だ。そうか進学コースなんだ。あーあ。」正直ショックだった。

 「あー、可哀そ。でも、落ち込むなよ。」

 「何だよ、千里まで、人の恋に干渉すんなよ。」何か面白くなかった。


 放課後、パワー部は久し振りに部員全員が集まった。

 「ご心配おかけして、すみませんでした。これ、父からです。」真奈美さんが滝先生にそう云って手紙を渡しているところに出くわした。

 「もう大丈夫なのか?本当に、無理はするなよ。」

 「大丈夫です。今日から又、世界に向けてよろしくお願いします。」

 「そうか。」そう云うと、滝先生は手紙に目を通して、

 「分かった。お父さんによろしく云っておいてくれるか。」

 「はい、必ず伝えます。」

 「よし、じゃあ頑張ろうな。」

 「はい。」真奈美さんは、笑顔で大きく返事をしていた。きっと、休んでいる間に彼女の中でいろいろあったのだろう。それを見ていたお父さんも心配しながら見守ってたんだろうなと想ったりしたが、実際のところを知るよしもなかった。

 「真奈、今日からか?」続いて、2年C組になった春樹が声をかけた。

 「倉元君、心配かけてごめんね。今日から又よろしくね。」

 「ああ、任しとけ。俺が守ってやるから、安心して世界目指せよ。」

 「ありがとう!凄く嬉しい。倉元君、本当に頼りになるね。やだ、嬉し過ぎて、涙出て来ちゃった。」涙ぐむ真奈美さんを、僕は複雑な気持ちで見ていた。

 その日のトレーニングは、新学期初日ということもあって、ほとんど器具は使わずに行われたが、真奈美さんのたっての希望で、失敗しても1回限定という条件の元、85キロのスクワットが行われた。滝先生と藤堂主将と、名乗り出た春樹の補助で、真奈美さんはぐっと引き締まった顔で、それを危なげなくクリアした。

 「よく上がったな。とてもブランクがあるとは思えない。」と滝先生。

 「家で出来ることはやってましたから。夢叶えたいですから。」彼女の意志の強さを改めてひしひしと感じた瞬間だった。そして、僕も負けていられないと気持ちが引き締まる瞬間でもあった。


 「なあ、優馬。今日俺んち遊びに来ないか?」トーレーニングが終わって、ロッカールームに入ろうとした時、春樹が声をかけて来た。

 「急にどうしたんだよ。」

 「前から、うちの母ちゃんが、一度クラブの友達連れて来いってうるせんだ。」

 「倉元君のお母さんて、あのメデューサじゃあ・・・。」

 「そう、そのメデューサがさ、何か俺の友達に興味持ってるんだ。」

 「なんで?」

 「さあ、何でか知らねえけど、もてなしたいって云うんだよ。」

 「三田村君は来るのかい?」

 「それが、今日は用事があるんだと。」

 「じゃあ、月岡さんや前島さんは?」

 「真奈は、園香が行くなら来るってんだけど、園香は用事があるんだと。」

 「ということは、俺1人なのか。又の機会にしないか?」

 「まあ、そう云うな。優馬1人でも大歓迎だからさ。」

 そんな訳で僕は、桶川の春樹の家に招待された。春樹の家は3階建ての、いかにも有名人の立派な住宅だ。その玄関で、いきなりメデューサに遭遇した。

 「ただいま、こいつ、パワー部の坂下優馬。」

 「春樹!”彼が坂下優馬君”だろうが、ちゃんとした口の利き方憶えな。」と一喝したかと思うと、すぐに向き直って、

 「よく来てくれたね。うちの春樹がいつもお世話になっちゃって、すまないねえ。」確かに迫力あったけど、テレビで見た印象とは違い優しそうだったのでほっとした。

 「さあさ、上がってくれよ。」

 「ゆっくりしっててねえ。夕飯も用意してあるから。」

 「あ、どうもお世話になります。」

 玄関は普通の金持ちの家という感じでしかなかったけど、リビングに通されて、さすがメデューサの家という感じで圧倒された。トロフィーや表彰、チャンピオンベルトのようなベルト、コスチューム、マント、リング上での雄姿の写真、大きなシャンデリアに豪華なソファ、50型はある大画面のテレビ、もちろんブルーレイ付き。

 「みんなも来ればよかったのにな。」

 「しょうがねえよ。みんな、それぞれ用事あんだからな。特に、三田村と園香はだいたい予想ついてたしな。」

 「何でだ?」

 「あの2人付き合ってるな、多分。」

 「えー!三田村君と前島さんがか!?全然そんな風な感じじゃないじゃん。」

 「そこがあいつららしいとこなんだ。他のみんなに悟られないように、普通にクラブの仲間みたいにしてるけど、俺から見るとちょっと違うんだよな。」

 「むしろよそよそしかったり、トレーニング中も離れてることが多くないか?」

 「それなんだよ。そこが妙に不自然なんだ。くっ付きかけると、わざとらしく離れてみたり、園香の補助は、必ず先輩任せにするとこなんか、何か隠そう隠そうとしてるみたいじゃねえか?」

 「そうかな、考え過ぎなんじゃないの?それに何の為にすんだよ。」

 「仲間の輪を大事にしたいとか、気を使われるのが嫌だとか、みんなにからかわれるのが恥ずかしいとか、まあいろいろあんじゃねえ?」

 「それで、2人で約束ごとみたいに知らぬそぶりしてるってか。」

 「そういうこと。それと決定的なのは、三田村が部活の後携帯かけるのは、決まって園香が部活休んだ時だけなんだな、これが。」

 「えー!まじ!で、何でそんなの気が付くんだよ?名探偵みたい。」

 「まあな。それに三田村が休んだ時の園香はいつもと違うんだよ。」

 「そうなのか?」

 「正確に云うと、その時の園香が本来の自然の園香なんだ。去年の春の園香がいつもあんなんだったからな。」

 「凄い!倉元君、探偵目指してるのか?」

 「いや、俺はプロレスラーだって。この観察はただの趣味なんだ。」

 「そういう倉元君は彼女いないのか?」

 「いねえよ。俺に彼女なんか出来たら、母ちゃんがうるせえだろ、どう考えてもよ。それとな、俺のことは”春樹”でいいよ。何か堅苦しいんだよ。」

 「分かった。じゃあ春樹に彼女出来たら、喜んでくれるんじゃないか。」

 「俺兄弟いなくてな、母ちゃんの愛情一身に受けてるんだ。それはそれで、大変なんだよ。」

 「そうか。じゃ月岡さんのことは、何とも思ってないのか?」

 「出たな、真奈の話。気があるんだろ、優馬は真奈に。」

 「分かるか、やっぱり。」

 「注意して見てたら何となく分かるな。優馬の視線を追えば、いつもそこに真奈がいる。」

 「えー!そうなのか。そんなに見てるか?」

 「ああ、よく見てるな。」

 「ということは、月岡さんにもばれてるかな?」

 「それは大丈夫だろう。真奈はそういうのはっきり云われない限り気付かない、鈍いタイプだからな。」

 「よかった。で、春樹はどうなんだよ?」

 「心配するな。仲間とは思ってるけど、それ以上の感情はねえよ。優馬も同じ仲間だし、取ったりしねえから、安心しろ。」

 「それと、このことは内緒な。」

 「ああ、分かってるよ。俺は口が堅いんだ。」

 「三田村君と前島さんの話は?」

 「三田村や園香と約束した訳じゃねえし、優馬のことはまだ誰にも云ったことねえし、優馬と真奈のことは、今約束するから大丈夫だ。」

 「約束だからな、絶対!」

 「男と男の約束破る奴は許せねえって、メデューサから睨みの教育受けてるから、絶対に大丈夫だよ。」

 「お母さん、やっぱり恐いか?」

 「そりゃあ、あの迫力だし、怒ったらメデューサそのもんだぜ。」

 そんな感じで話は弾み、その後巨大画面テレビを使ってゲームをやったり、夕食をご馳走になったりしてから、家路についた。帰りの電車の中でぼうっと窓に映る自分の顔を見ながら、改めて真奈美さんとクラスが分かれた寂しさを噛みしめていた。


 ***** 補足1・・・クラス割(1年時&2年時) *****


1年時

     A組

 三田村淳みたむらじゅん M・・・パワー部員

 前島園香まえじまそのか F・・・パワー部員で横井先生の姪

 高田琴美たかだことみ F・・・帰宅部の美少女

 戸倉弥生とくらやよい F・・・バレー部のエース

 元田百花もとだももか F・・・パワー部→退部

 葛城かつらぎアリサ F・・・バスケ部マネージャー

 庄司和明しょうじかずあき M・・・野球部員

 梶木基樹かじきもとき M・・・バスケ部員でアリサの彼氏


     B組

 坂下優馬さかしたゆうま M・・・主人公のパワー部員

 月岡真奈美つきおかまなみ F・・・ヒロインのパワー部員

 友原健太郎ともはらけんたろう M・・・野球部員

 篠田しのだリン F・・・野球部マネージャー


     C組

 佐伯美野里さえきみのり F・・・謎の裏主人公

 入間健いるまたけし M・・・優馬の親友の吹奏楽部員

 貝沢千里かいさわちさと F・・・健の彼女の吹奏楽部員

 国島直人くにしまなおと M・・・野球部員

 樫木七海かしきななみ F・・・パワー部員


     D組

 荻野太平おぎのたいへい M・・・バスケ部員の超イケメン

 飯岡優菜いいおかゆうな F・・・バスケ部マネージャー

 倉元春樹くらもとはるき M・・・パワー部員

 山野茜やまのあかね F・・・吹奏楽部員

 尾瀬志津代おぜしづよ F・・・パワー部→退部

 田嶋果菜たじまかな F・・・ゴシップ好き

 渡瀬芽繰わたせめぐる F・・・ゴシップ好き


2年時


     A組=特別進学コース

 月岡真奈美・・・ヒロインのパワー部員

 三田村淳・・・パワー部で2学期より主将

 前島園香・・・パワー部員で、実は淳の彼女


     B組

 坂下優馬・・・主人公のパワー部員

 佐伯美野里・・・謎の裏主人公

 高田琴美・・・美野里の親友

 荻野太平・・・バスケ部員の超イケメン

 入間健・・・優馬の親友の吹奏楽部員

 貝沢千里・・・健の彼女の吹奏楽部員

 国島直人・・・野球部の主砲

 山野茜・・・吹奏楽部→野球部マネージャー

 城崎舞じょうさきまいF・・・2学期より転入

 田嶋果菜・・・ゴシップ好き

 渡瀬芽繰・・・ゴシップ好き

 庄司和明・・・野球部員

 友原健太郎・・・野球部員

 篠田リン・・・健太郎の彼女で同部マネージャー


     C組

 飯岡優菜・・・バスケ部マネージャー

 倉元春樹・・・パワー部員

 戸倉弥生・・・バレー部のエース

 葛城アリサ・・・優菜の親友でバスケ部マネージャー


     D組

 元田百花・・・元パワー部員

 尾瀬志津代・・・元パワー部員

 梶木基樹・・・バスケ部員

 ありがとうございました。読んで頂き、ただただ感謝です。この物語はこんな感じで、現実の2011年を土台に進行させてもらいつつ、架空のキャラが展開させて行きます。かなり現実に近い場面も有りますが、物語自体はあくまでもフィクションです。現実の個人、もしくは団体とは一切関係ありません。尚、2015年7月5日に、主人公達の1年時と2年時のクラス割を補足しました。3年時のクラス割は、第32部助けて!荻野君の最後に補足します。

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