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明日への目標

 高校に入学して、初めは定まらなかった目標が、迷っていたある日何か心を熱くするものに触れて、その時”これだー!”って突然決まってしまったって経験ないですか?青春の真っただ中のそんな日々の話です。

 「君、なかなかやるじゃん。」陸上部の体験入部で、走り幅跳びにチャレンジさせてもらった時5メートル近く跳んで、先輩男子部員に褒めてもらった。僕は小学校の低学年の頃から、いや幼稚園の頃からかもしれないが、何故か幅跳びが得意だったんだ。他の子よりも跳べたことで得意になって、もっとよく跳べるようになりたいと思うあまりに、砂場に誰もいない時とかよく跳んでいたし、スクワットとかのトレーニングとかもして、大腿部がちょっと太めでジャンプ力が付いていた。だから、走ることや投げることは得意じゃなかったけど、高校では幅跳びやってみようかなと、少し思っていた。

 「わ、すげえ、150も余裕じゃん。」先輩部員の誰かのちょっと興奮気味の声に、僕は近くで走り高跳びをやってる女子部員の方に目をやった。

 「さすが、関東中学2位だけのことはあるね。」女子の先輩部員らしき人にそう言われているのがかすかに聴こえた。その150センチのバーを跳び越えたらしい女子がマットの近くで笑いながら何やら答えていた。はっきり聴き取れなかったけど、そのそぶりや雰囲気から、謙遜しているように見えた。その時初めて気付いたんだけど、教室で見たことがあるような顔だった。特に可愛い訳でも美形でもないせいか、まだ憶え切ってないクラスメートの中にいたような曖昧な記憶だ。

 「気になるか?おまえと同じ1年だぞ。中学で関東大会出てた期待の星。」

 「あ、はい、まあ。」そう、この時が気に成り始めた原点だったと思う。


ーーー翌朝、1年B組の教室ーーー

 「おはよう。」登校して来て鞄を自分の席に置いたところへ、僕の前に回り込むようにして笑顔で挨拶して来たのは、紛れもなくハイジャンプの星だった。

 「あ、おはようございます。」僕はかなり慌てていた。まさか、話したこともない女子からそうやって声をかけられたのはほんの幼い頃を除いては初めてだったと思う。それも、陸上界では有名人らしい人にだ。まじ焦ってた。

 「なんだ、なんだ。私は先輩じゃないぞ、坂下君。」びっくりだ。もう僕の名前をちゃんと認識してた。それと、日に焼けたその笑顔が、その時はどきっとするほど可愛く見えた。髪はちょっと長めで、部活の時はポニーテールみたいにゴムで一くくりしてたのを、教室では自然になびかせていた。

 「う、うん、同じクラスだったんだ。」

 「なんだ、気付いてなかったの。こんなに女子らしくしてるのにさ。」

 「え、女子だと分かってたけど。」”女子らしく”の言葉の意味にとまどい、咄嗟に訳の分からない受け答えをしてしまった感があった。

 「もう、まあいいけどさ。私、月岡真奈美つきおかまなみ、よろしくね。」

 「うん、こちらこそ。」僕も、自然と笑顔で返せていた。

 「坂下君は、陸上部に入るの?」”も、”じゃなくて”は、”って?

 「月岡さんはもう陸上部員じゃないの?」

 「坂下君と同じ体験入部なんだ。実は、今日は別のとこ体験しに行くの。」

 「え、走り高跳びの期待の星なんじゃあ?」

 「へえ、そんなことだけはもう伝わってんだ。でもね、それ忘れて。どうせ過去の栄光なんだ。それに栄光でもないしね。」

 「じゃあ、陸上部には入らないの?」

 「坂下君は、幅跳び頑張ればいい線行くと思うよ。私幅跳びもそこそこ分かるんで、よかったらアドバイスするし、何でも聞いてね。じゃあ、頑張って。」それだけ言うと、彼女は教室内の別の輪の方に行ってしまった。時々後を追って見ていると、彼女は他のたくさんのクラスメートと気さくに話しているようだった。それも同性に限らず、男子ともだ。”何だ、僕が特別じゃないんだ。”ちょっとがっかりする自分に気付いた。


ーーーその日の放課後ーーー

 僕は迷っていた。”明日も待ってるからな。一緒に陸上やろうぜ。”と言ってくれた先輩部員の言葉と、真奈美さんに言われた言葉が、頭の中で巡っていた。選択肢は一応4つ。陸上部に決めるか、空手部、応援部、パワーリフティング部のどれかに行ってみるかだ。でも実際、空手部と応援部は、噂で聞いた部の雰囲気があまりよくない。ある程度の上下関係の厳しさは仕方ないことだけど、この2つの部は上級生による過激なしごきで、特に応援部はその体質が問題になって部の存続も怪しいらしかった。だから、選択肢は実質既に2つになっていたんだ。もう1つのパワーリフティング部は、オープンスクールで興味を持ち、入学後のクラブ紹介でも好印象だった部で、重量挙げ(ウェートリフティング)みたいにバーベルを持ち上げる競技部だ。しかし、その競技スタイルはウェートリフティングみたいに頭上に持ち上げるものではなく、スクワット、ベンチプレス、デッドリフトの3種目の合計を争うものだ。スクワットは、その名の通り、バーベルを両肩に乗せたまま屈伸スクワットするもの。ベンチプレスは、専用のベンチ台に仰向けになって、胸の上で腕を伸ばした状態からバーベルを一旦胸まで下ろして、元の腕を伸ばした状態に持ち上げるもの。デッドリフトは、床の上のバーベルを膝の上まで持ち上げるものだ。頭上に持ち上げなければいけないウェートリフティングと比べて、デッドリフトは当然かなり重いバーベルを上げなければ勝てない。又、その2つの類似競技の決定的な違いとして挙げられるのが、主に使う筋肉の違いだそうだ。ウェートリフティングが頭上に上げる際に強い瞬発力を要するのに対し、パワーリフティングにおいて最も重要なのは、筋持久力と云われている。競技内容は地味と云えば地味ではあるが、確実に筋力を付けることによって強くなっていける、地道な努力が報われる競技だということ。僕にはそれが魅力的だった。更に、もう1つ興味を持った点として、全国大会で優勝すれば世界大会にも出場出来るというもの。実際、大宮学園高校パワーリフティング部は名門で、毎年世界大会出場者を出していた。だから、僕は例え違う選択肢を選ぶにしても、1度は体験入部してみたいと思っていたんだ。真奈美さんとの出会いで一時的にそれを忘れていたが、彼女が陸上部に入らないなら、僕も陸上部の入部を保留にして、パワー部への体験入部をしてみることにした。まさか、それが運命だとも知らずに。


 「今日、体験入部させて頂きます、坂下優馬です。よろしくお願いします。」

 「おう、よろしくな、頑張ってくれ。」と答えてくれたのは、背は僕より5センチほど高い177センチくらいだが、体重が90キロくらいあるでかい人だった。

 「ははは、頑張ってくれたまえ。」と、何がおかしいのか女子部員の人には笑いながら云われた。

 「君、からかわれてるんだよ。春樹はるき志津代しずよも、君と同じ1年で、この前入ったばっかだよ。と云ううちも1年A組の元田百花もとだももか。さっきの2人はD組。A組からは他2人いるけど、又後で教えてやるよ。」

又、やっちゃった気分だった。何故かどこ行ってもみんな先輩に見えてしまう自分って、かなりおどおどしてるなって思って、

 「あの、君も元田さんと同じA組?」と、別の小柄な男子部員に声をかけてみたが、

 「いきなりため語かよ。」と苦笑いされて、その直後、

 「おいおい、君は天然か?」と、元田さんに爆笑された。

 「今の人は先輩だったんですか?」すると余計笑われ、

 「君最高、どうすりゃそんだけボケかませるんだよ。でかいから先輩で、小柄だから新入部員てさあ。うちに対しても”ですか?”はないだろ。」もう、恥ずかしくて何も云えなくなって固まってしまった。そこへ、明らか?に今度こそ間違いなく先輩部員だと分かる人が来て、

 「君が、体験入部希望の坂下君か。」と声をかけられた。

 「はい、よろしくお願いします。」

 「俺は、体験入部者案内を任された2年の藤堂龍二とうどうりゅうじだ。今日はよかったら、スクワット、ベンチ、デッドの3種目一通り体験してみてくれ。ちょうど今日はもう一人いて、先にあっちで準備してるから、君も加わって一緒に準備体操をしてくれ。」そう云われて、ちょっと奥の方に案内されて、少し先に来てたらしいもう一人の体験入部者が、一人で準備体操しているところへ行ってみたら・・・そこには、

 「あああ、坂下君じゃない。」と、それはまさに真奈美さんだった。

 「月岡さんが行くって云ってた別の体験入部って・・。」

 「へええ、凄い偶然!え、何でえ?陸上部はやめたの?」

 「いや、まだはっきり決めた訳じゃなくて、こっちも体験してから決めようと思って。でも、まさか月岡さんも。」

 「え、そうだったんだ。ねえ、よかったら一緒にここで頑張ろう。私はもうここで、世界目指そうって決めたんだ。」何か、凄くギラギラしてた。1度目標をこうと決めたらまっしぐらって、そんなキラキラした目だった。そんな気さくで快活な彼女に、僕はいつの間にかときめいていたんだ。そんな気持ちの中、僕たちはしっかり準備運動をした後、3種目の実技体験をさせてもらった。

 「女子でいきなり70キロあっさり上げるとはな。」と藤堂さんに、デッドの結果を褒められていた横で、同じ70キロに僕は苦戦していた。女子の真奈美さんが上げたのに、男子の僕が上げないとカッコつかないと必死だったけど、

 「無理したら腰傷めるぞ。フォームがまだ出来てないから、尚更今無理したら傷めるだけだ。」と云われて、少しだけ浮かせただけでそれ以上頑張るのはやめて、バーベルを床に置いて離した。女子に負けた自分のふがいなさに思わず涙がこみ上げて来て、それを必死で抑えた。又次のベンチプレスでは、真奈美さんと同じ30キロ上げられたのでちょっとほっとしていた。ここまでの合計は、僕が60+30の90キロで、真奈美さんは70+30の100キロで、完全に負けていた。だから、最後のスクワットだけは男子らしく勝ちたかったんだ。ところが、真奈美さんは50キロをあっさり上げ、僕はそれを上げるのにそれほどの余裕がなかった。つづく60キロも真奈美さんはまだ余裕があったので、僕はもう必死で何とかそれを上げたんだ。だけど真奈美さんときたら70キロまで上げて、僕はその重さに、屈んだ時点でもう崩れてしまったんだ。

 「しょぼいね。同じくらいの体格の女子に負けて、パワー無理なんじゃない。」補助をしてくれた先輩がその場を離れてから、代わりに近づいて来た他の女子部員に鼻で笑われたんだ。すると、

 「ちょっと、それ坂下君に失礼でしょ。」真奈美さんが、僕を庇ってくれた。

 「ふん、デッドやベンチもあっちから見てたけど、全然じゃない。おまけにその負けた女子に庇ってもらってさあ。まじ恥い。」

 「貴方、確かC組の子だよね。それ以上云ったら、私何するか分からないよ。」真奈美さんがまじで怒ってくれていて、正直びっくりした。

 「駄目だよ、樫木かしきさん。ごめんね、B組の月岡さんだよね。」又別の女子が出て来て、慌てて一触即発の真奈美さんと樫木とかいう子の間に入った。

 「月岡?え、もしかして、月岡真奈美?」

 「だったらどうなん。」

 「まじかよ。」そう云うと、樫木はさっさと引き下がって行った。

 「あの、私はA組の前島園香まえじまそのか。で、さっきの子が樫木七海かしきななみさん。女子新入部員の中では断トツの実力なんだけど、一言多い人でさ。」と苦笑い。

 「私の名前って、そんなに有名かな。」真奈美さんはまだまじ顔だった。

 「体育の授業で名前見て知ってただけよ。」A組とB組は一緒に体育の授業を受けていたから、その時胸に付けていた名札で憶えたみたいだ。

 「なあんだ、そうだったんだ。」真奈美さんの顔が急に緩んで、元の気さくな彼女に戻った。

 「よかったら、よろしくね。私もこの前入部したばっかだから。」

 「うん、さっきの人も云ってたけど、私は月岡真奈美。3年間よろしくね。」

 「庇ってくれて、ありがとう。」2人が握手した後、真奈美さんがこっちを振り返って笑ってくれたので、素直に云えた。

 「はは、何か恥ずかしいとこ見られちゃったな。でも気にしないで。それと、私に負けたとか思う必要ないからね。私中学で陸上やってる時からウェートトレーニングやってたから、持てるの当然だし、坂下君はこれからだからね。」その言葉がやけに嬉しくて、僕はこの時パワーリフティング部への正式入部を決めた。


 体験入部の翌日から、僕のパワーリフティング部での歩みが本格的に始まった。

 「三日坊主にならなきゃいいけどね。」と云う妹はともかく、父も母も快く僕にエールを贈ってくれて、さっそくユニフォームの購入とかに応じてくれた。本格的に始まったトレーニングは徐々にきつくなって来て、筋肉痛に苦しむ毎日が始まったが、応援してくれる両親に応える意味でも、生意気な妹を見返してやる意味でも負けられないと思った。そんな中、新入部員歓迎会が催されることになり、僕の心は躍った。何故なら、正式に入部してから真奈美さんとは教室で1度だけ、

 「坂下君もパワー部に決めたんだね。一緒に頑張ろうね。」と云ってくれて返事した以外は、「おはよう。」くらいしか言葉を交わしていなかったからだ。所詮彼女は僕に限らず誰にでも気さくで、みんなと快活に仲良くしようとしていたし、そんな彼女に周りも応え、ただ一人を除いては彼女と仲良くしているようだった。ただ彼女は何よりもパワーリフティングそのものに一生懸命で、それについて何のアドバイスも出来ない僕は、自然と彼女と話す機会がなくなっていたんだ。

 歓迎会は4月30日の放課後、その日の練習はなしにして、家庭科室を借り切って行われた。4つのテーブルに軽食と飲み物が用意されていて、僕たち8人の新入部員は、準備の為に先に来ていた先輩方に案内されて着席し、残念ながら僕の着いたテーブルは男子ばかりで、真奈美さんとは席が離れてしまった。顧問の30代の男性体育教師の滝先生を含め総勢24名。部に在籍の先輩部員も全員参加していたようだ。そのうち女子は3年生の3人と新入部員の5人だけで、2年生の女子は1人もいなかった。そのせいか、多くの先輩部員の意向で久しぶりに華やいだ部の歓迎会が企画されたそうだ。特に2年生部員が、5人の女子新入部員の周りに陣取っていたように見えた。

 「えー、只今から新入部員歓迎会を開きます。本日はみなさん、お集まり頂き、ありがとうございます。クラブ紹介の時とダブりますが、我が部は滝先生の熱いご指導の元、5年連続で世界大会へ選手を送り出している実績あるクラブです。そして、今年も将来性豊かな新人を大勢迎え入れることが出来ました。新入部員の皆さん、我がパワーリフティング部へようこそ。共に全国大会、世界大会を目指し、互いに切磋琢磨していきたいと思います。今日はそんな明日への健闘を誓うと共に、楽しいひとときを過ごしましょう。」入部当時のキャプテン村井さんの挨拶の後、滝先生のおんどで、ジュースとかで乾杯し、歓迎会が幕を開けました。

 そして、各テーブルでの飲食と雑談が十数分ほど続いた後、

 「ここらで、自己紹介にうつりたいと思います。まず僕は、2年生の藤堂龍二です。75キロ級です。得意種目はスクワットです。3月にあった全国大会では、いい経験をさせて頂きました。来年は世界に出たいと思ってます。」

 「将来の夢とかも入れろよ。」3年の先輩からの注文です。

 「将来は自衛隊に入って、日本を守ろうと思います。よろしくお願いします。」

それに続いて先輩方が次々と自己紹介を終え、次に新入部員の番がきました。まず先陣を切って、体格のいい三田村みたむら君が立ち上がりました。

 「新入部員の三田村じゅんです。上尾から通っています。82.5キロ級になります。得意種目はまだよく分からないんですが、デッドリフトが1番好きです。後、将来の夢ですが、ミュージシャンになることです。よろしくお願いします。」結構落ち着いて、淡々とした自己紹介だった。三田村君が拍手を受けて座ると、彼と僕の間に座っていた巨漢の倉元くらもと君が立ち上がった。いよいよその次が僕の番なので、ドキドキしていた。

 「桶川から来ています倉元春樹です。90キロ級と聞いてます。得意はベンチです。母親がプロレスラーだったので、僕もプロレスラーになりたいです。」そこで歓声がわき、口々に「お母さんのリングネームは?」の声があがった。

 「メデューサ鈴木といいます。」すると再び歓声がわきあがり、「すげー!」とか「まじかよ。」とかいう声がした。鈴木というのは、おそらく倉元君のお母さんの旧姓だと思うが、メデューサ鈴木といえば、見た目の恐ろしさや威圧感で相手を硬直させてしまうという超悪役レスラーだった。

 「今年の新人にすげー大物がいた。」大喝采に交じり先輩の誰かの声を聴いて、そんな奴の後は凄くやりにくいなと思いながら、仕方なく僕は立ち上がった。

 「市内から通ってます、坂下優馬です。60キロ級です。得意は一応スクワットです。とにかく強くなりたいです。よろしくお願いします。」そう言っただけで座ろうとした僕に、まさかと思う声が飛んで来た。

 「将来の夢は?」それはまぎれもなく真奈美さんの声だった。夢といえるほどのものがなかった僕は瞬間凄く混乱して、少しとまどい考え込んでしまった。

 「とにかく強くなること、今はそれしか考えられないんだよな。」助け舟を出してくれたのは、藤堂先輩だった。

 「はい、世界目指して頑張ります。」それで許してもらい、拍手を受け、ほっとして座った。真奈美さんの方をちらっと見たら、にこっとしてたので良かった。

続いて女子の番で、女子同士目を見合わせた後、その真奈美さんが1番に立った。

 「新入部員の月岡真奈美といいます。市内から通っています。56キロ級です。今はまだ得意はありませんが、ベンチプレスだけは苦手なので、努力して克服したいと思います。アニメが大好きなので、得意の英会話を活かして、日本のアニメ文化を世界に広める職業に就くのが将来の夢です。世界の人たちと一杯交流したいので、努力して世界大会を目指しますので、よろしくご指導お願いします。」大きな声で、物怖じすることなく云い終えると、彼女は一段と大きな拍手を受けながら、軽く一礼をして席に着いた。あまりに立派なので、正直自分が恥ずかしくなった。さて、真奈美さんに続いて、その隣の前島さんが立ち上がった。

 「私は、前島園香といいます。音楽の横井よこい先生のめいで、市内から通っています。52キロ級です。私にパワーリフティングが出来るか分かりませんが、滝先生の熱い誘いを受け、入部を決めました。先生の期待を裏切らないように頑張りますので、よろしくお願いします。将来の夢は叔母と同じ教師です。」園香さんが拍手を受けながら席に着くのに替わって、次に元田さんが立った。

 「うちは元田百花いいます。三田村君と同じ上尾の中学から来ました。クラスも三田村君と同じA組です。好きなんはデッドで、将来の夢は三田村君とバンド組むことです。あ、えっと、52級です。」彼女はそれを堂々と宣言し、三田村君は先輩方に冷やかされて照れまくっていた。そんな和んだ雰囲気の中、次は尾瀬おぜさんが立ち上がった。

 「あたしは尾瀬志津代です。岩槻から来てます。56キロ級で、得意はベンチです。将来はプロレスラーのマネージャーなんかがいいなと思ってます。」と、この子は倉元君への想いを込めて、これまたどよめきを生んでいた。そのざわめいた中最後は、樫木さんを残すのみ。彼女は少し間を置いてゆっくり立ち上がり、

 「樫木七海です。56キロ級で、どれも誰にも負けません。ただ口で云うより結果で答えたい。夢は戦える女優です、以上。」拍手を受けながら彼女が着席して、自己紹介は終わった。やっぱり女の子はみんなしっかりしているなと思った。しかも、真奈美さんと園香さんははもうすっかり仲良さそうのにも、羨ましく思った。明るく誰とでも気さくに話し、決めるところでは決める。そんな真奈美さんがまぶしい。僕とは正反対に屈託ない笑顔を見せる彼女に、僕の心はすっかり釘づけになってしまっていた。

 その後、過去の全国大会や、世界遠征の写真のスライドショーがあり、先輩方の雄姿に改めて憧れを抱きつつ、同じ映像に熱い視線を向ける真奈美さんへの想いが募っていく僕だった。そして、

 「坂下君、どっちが先に世界へ行けるか、競争だよ。」会がお開きになった後、片付けをしてる時に声をかけてくれた真奈美さんの言葉は、僕の心を燃え上がらせるには充分過ぎるほど充分だった。

 ここまでお付き合い頂き、誠にありがとうございます。これから、物語はどんどん発展していきますので、どうか今後もよろしくお願い申し上げます。尚、次回は約半月後くらいで投稿したいと思っております。だいたい月2のペースで、完結はだいたい来年の6月を予定してます。尚、この物語はフィクションで、実在の個人、団体とは何ら関係ありません。では、又。

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