美野里からの告白
男の人には、女性の体がどう大変なのか分からないですよね。無かったら、無かったで問題ですし、不規則なら、大事な予定を立てにくかったりするんですが、毎月の様にやって来るものは、男性には分からない厄介なものです。と云っても、個人差はあって、「どうってことないよ。慣れたら、平気、平気。」って子もいますね。それが重いと毎回大変なんです。お腹痛いし、頭も痛くなります。その辛さはどうしたらいいもんでしょうね?そんな繊細な女性の体は、勿論男性のおもちゃではありません。基本労りの心のない人とは関わりたくないものです。
2学期も中間テストが終わり、季節は晩秋の11月に移っていた。9月の体育祭もそうだったが、11月初めの文化祭もクラスの盛り上げりは今一で、その分これと云った事件もなく、何となく過ぎて行った。まあ強いて云えば、野球部の舞沢さんがドラフト3位でプロ球団に指名されて、文化祭はそれをお祝いするムード一色で、直人がほっとしていることくらいだ。しかし、12月中旬に控えている修学旅行の話題になると、俄然盛り上がった。何と云っても、3泊5日のハワイ旅行だから、みんなのテンションが異様に高かった。僕にとってみても、真奈美さんと藤堂さんの仲がどれくらいに進んでいるのか?疑心暗鬼の部活のことより、修学旅行がいい気分転換になりそうな期待すら持っていた。一方健の回復にはまだ時間がかかるみたいで、果して修学旅行に行けるかどうかは微妙な情勢だった。千里も、健が行けない場合はパスするそうで、そのことが、修学旅行の班分けに意外な影響を与えた。修学旅行の班は基本男女3人づつの6人で、2年B組は男女18人と、6つの班に丁度振り分けられる数だった。しかし、実際は仲好しグループが4人とか5人だったりして、もめたり、悩んだりしていた。特に、琴美と美野里の2人は、いつも2人だけでいるせいか、他のみんなから敬遠されていた。そんな2人と同じ班になりたいと自ら名乗りを挙げる奴が現れた。バスケ部エースの太平だ。太平は、勉強こそあまり出来なかったが、イケメンで背が高くてかっこよく、スポーツ万能で、その上優しく、女子からの人気は断トツで、クラスの女子のほとんどが同じ班を希望していた。しかし、太平自身はそんな女子達のラブコールに対して冷めていた。「俺にとってのストライクは、高田琴美唯一人だ。」と公言するに至り、それが余計琴美を他の女子達のジェラシーの対象として孤立させていた。当の琴美はそれをどう捉えているのか、今一分からない子だ。まあ僕は、みんなの様に美野里と琴美のことを毛嫌いしてる訳でもなく、太平から誘われたのもあって、彼女らと同じ班になった。そして、残りの男女1人づつは、修学旅行を諦めムードの健と千里が、とりあえず名前だけはめ込まれていた。正直、これで絶対に健達は来ないなと思った。
「あのう、本当に私達と一緒でいいんでしょうか?」珍しく美野里が、遠慮ぎみに話しかけて来た。健達のことを意識しているかどうかは分からないが、
「もちろん、全然平気だよ。楽しい修学旅行にしようね。」笑顔で応えた。考えてみれば、この子も以前と比べて随分可愛くなっていた。本心で、全然嫌じゃなかった。
「はい、ありがとうございます。よろしくお願いします。」彼女は、もう溢れんばかりの満面の笑みで答えた。正直余計可愛く見えた。一方琴美はと云えば、太平の方をちらっと見るぐらいで、常に美野里の様子を見守ってるという感じだった。実際美野里が話しかけて来た時なんか、琴美の視線を強く感じた。実はもう1人、鋭い視線を投げかけている子がいたのだが、その頃の僕はそれに全く気付いていなかった。
班分けが確定してから、太平も含め、彼女ら2人と話す機会がみるみる増えて行った。そんな中、千里が修学旅行の欠席を決めた。
「うちらはやっぱり止めとくわ。健の体のこと考えると無理しちゃ駄目だし、私ももう修学旅行どうでもいいしね。今は、健が生きて居てくれてる、それだけで充分なの。ハワイは、結婚してから2人で行くわ。」健はまだ入院中だった。
「そっか、じゃあお土産買って来るよ。」
「ありがとう。けど安いのでいいからね。優馬は、思い存分楽しんで来てね。」それによって、僕達の班は4人で行くことが決まった。そして、それから僕達4人はどんどん他のクラスメートから隔離され、4人グループになっていった。その中で、琴美は次第に太平と打ち解けつつあり、僕は美野里とよく喋る様になった。まあ、話す内容はほとんど修学旅行の下調べとか、準備についてだったが・・。
一方、その間パワー部の方はと云えば、相変わらず真奈美さんは僕を含むみんなと仲間として接し、ハワイでは世界大会のカナダ以来の友達に会えるとはしゃいだりしていた。そんな彼女をやっぱり相変わらず憧れの目で見ていた。藤堂さんとは別れたらしいとも聞いたが、定かではなく、それを確認する気力も、再び真奈美さんに近付こうという勇気もなかった。きっと、その頃の僕にとっては、クラスの班のことが凄く身近になっていたのだと思う。日増しに話しが弾む様になっていたのだ。
そうするうちに月日は流れ、期末テストが終わり、僕らを乗せた飛行機が12月中旬の夜成田空港を飛び立った。琴美は小学生の時に家族で沖縄に行った際飛行機を経験していたが、美野里は初めてらしく、離陸時怖いからと、琴美に手を繋いでもらっていた。通路を隔てて隣の僕も初めての飛行機でびびっていたが、太平が気分を楽にしてくれていた。そういう太平も初飛行らしいが、度胸あるのか随分落ち着いていた。
「俺、絶叫マシンとか大好きだから、こんなのどってことねえよ。」
「いや、飛行機と絶叫マシンは違うだろう。」僕が突っ込んでみたが、
「同じだよ。どっちも気楽に身を任しときゃいんだから。」
「おまえ、ほんとに楽しそうだな。」太平のもう片側の隣に座っていた直人だ。
「そりゃあ、あいつとハワイに行けるからな。」窓際の琴美を左の親指で指しながら、太平は満面の笑みで答えていた。
「おまえ、いつからあいつのこと好きなんだよ。」
「2年なってすぐかな。あいつ大人しいから、1年ん時は気付かなかったけど、クラス一緒になってから、こんなイケてるのがいるとは、もう衝撃だったよ。」
「まあ、まぶいほど面がいいことは認めるけど、あれだけ取っ付きにくいとなあ。」
「成せば、成るよ。やってやれないことはない。」
「やるのかよ。」
「やらねえよ。まじで好きな女っていうのは、そういうんじゃねえよ。」
「じゃあ、飯岡とはやったのか?」
「やってねえよ。あいつとやったらもう終わりだよ。絶対離れられなくなるからな。そうじゃなくても、健の輸血のことで恩着せて来て困ってんだからさ。」
「だよなあ。あーいう慣れ慣れしい女って、質悪いよな。」
「直人も誰かに付きまとわれてるのか?」
「茜がさ、夏の大会でちょっとがっかりしたけど、最近見直したとか勝手に云って、すぐに寄って来るんだよ。吹奏楽止めて、野球部のマネージャーなろうかとか云ってんだぜ。まいっちゃうよな。」
「良かったじゃねえか。班も一緒だし、直人もOKなんだろ、ほんとは?」
「よく云ってくれるぜ。根負けしただけで、俺はあいつのことは気楽なダチくらいしか思えねえよ。」ちなみに直人の班は、同じ野球部の庄司と友原と、その友原の彼女の篠田という子と茜と転校生の舞の6人だ。
「そっか。その件に関しては、お互い大変てことで、寝ないか?」
「寝ないよ。おまえ眠いのか?」
「嬉しくってさ、昨夜眠れなかったから、さっきから眠くて限界。」
「機内食どうすんだよ。」
「俺腹減ってないし、直人と優馬で適当に分けて食っといてくれよ。じゃな、おやすみ。」太平は速攻で寝息を立てていた。
「まじ、もう寝やがった。」寝ている太平を挟んで直人と僕では対して話しも弾まなかった。適当に機内食を食べてと思ったけど、琴美と美野里は小食で、2人で1つしか食べず、結局、直人と僕がそれぞれ2人分食べて、ちょっと食べ過ぎたかなと思ってるうちに、満腹で満足したせいかしばらくして寝てしまった。
「うわー、海真っ青で凄くやばいよ!」多分茜の声だと思うが、やけに感動に満ちた絶叫に近い声に起こされた。それから、あちこちからまちまちに「綺麗!」とか「やばい!」とか歓声が上がった。そのほとんどは女子だった。女子が優先的に窓際の席に座っていたせいだろう。
「島見えて来たよ。」美野里の声だ。
「うん、あの島でいい思い出作ろうね。」琴美の声に、僕は頷き、起きたばかりの太平も又頷いていた。そんなそれぞれの想いを乗せて、飛行機はホノルル空港へ降り立った。
ハワイでの初日は班単位の希望によって、ワイキキのサーフィン体験と、マウイ島観光と、ハワイ島観光に分かれた。僕達の班はマウイ島観光を選んでいたが、クラスの大半と真奈美さんはサーフィン体験だった。同じマウイ島に来ていたのは、C組の春樹と、その同じ班になっていた優菜だった。優菜は自分の班を無視して、再三太平にくっ付いて来ていたが、
「おい、優菜、おまえの班はあっちだろ。自分の班に帰れよ。」
「嫌よ。せっかくハワイ来たんだから、ちょっとでも太平の傍にいたいよ。」
「じゃあ、写真撮ってくれよ。俺達並ぶからさ。」
「どうして私がシャッターなのよ。太平と2人で撮ってもらおうよ。」
「じゃあ、シャッター押しましょうか?」琴美が気を利かせたが、
「いや、高田さんはそんなことしなくていいんだよ。おい、優菜、おまえ厚かましいんだよ。いい加減にしろよ。」
「そんなこと云ったげたら、可哀そうじゃないですか。私押しますから、一緒に写ってあげればいいじゃないですか。」
「そうだよ。せっかく云ってくれてるんだから、撮ってもらおうよ。」
「いちいち人の恋路の邪魔すんなよ。」
「何でよ?太平の恋人は私でしょ。」
「俺がいつ優菜の彼氏になったんだよ?」
「入間君の事故の時、こんな時頼れるのはおまえだけだって云ったのは誰よ?」
「又それかよ。親友助けたいのは当たり前だろ。」
「大切な人の役に立ちたいと思うのも当たり前でしょ。」
「あ、それはありがとな。けど、おまえが俺のことどう思ってても、俺が本当に好きなのは彼女なんだよ。」その瞬間、優菜の顔が激しく歪んで、
「大平の馬鹿!」あろうことか、持っていたカメラを至近距離の太平に向かって投げつけた。カメラは太平の体をかすめて地面に落ちた。
「何てことすんだよ!」太平は、咄嗟に優菜の頬を引っ叩いていた。優菜はその頬を抑えて、泣きながらその場を去って行った。
「酷い!最低!」琴美が恐い顔をして、太平を睨みつけていた。元は優菜が悪くて咄嗟だったにせよ、太平もまずいことをしてしまったと、俯いて唇を噛んで立ち尽くしていた。普段女子には優しく紳士で通っている太平にしては、らしくない行為に違いなかった。
「引っ叩くのはよくないけど、荻野君だって仕方なかったんだよね。」フォローのつもりだったが、
「何がどう仕方ないんですか?どんな理由があっても、女の子に暴力振るう人って最低じゃあないですか!」琴美がこんな強い口調で云うのは初めて見た。
「高田さんの云う通りだよ。俺一体何してんだよ。」
「もう私のことは放っておいて、飯岡さんにちゃんと謝って来て下さい。」
「解ったよ。ちょっと行って来る。」太平は優菜の去った方へ行ってしまい、僕は落ちたカメラを拾い上げ、壊れていないかチェックした。幸い、カメラの方は大丈夫みたいだ。問題はみんなの心の方だ。僕は女子2人の心のケアをしようとしたが、美野里の様子がおかしかった。さっきからずっと大人し過ぎたから、どうしたのか気にはなっていたんだ。
「佐伯さん、大丈夫?」
「美野里ちゃん、苦しいの?」
「ごめんなさい。お腹が痛いの。琴ちゃん、始まっちゃったみたい。せっかくハワイ来たのに、ごめんなさい。」
「お腹って、冷えたのかな。」
「ごめんなさい。私達ちょっとレストハウスに戻ってます。美野里ちゃん、気にしなくても大丈夫だから、ちょっと休も。」楽しみにしていた修学旅行だったが、いきなりのアクシデントに班はばらばらになってしまった。それからしばらくして太平が戻って来て、事態の説明をしたが、太平は自分のせいだと云って落ち込んでしまった。結局その日は二つに割れたまま、オアフ島にある大宮学園の提携姉妹校にやって来た。その日の宿泊は、その高校の生徒の家庭に1~2人に分かれてのプチホームステイだった。美野里と琴美は一緒に、現地の女子高生宅に、太平と僕は同じく男子生徒宅にお世話になった。僕達は2人共英会話が苦手な上、太平が落ち込んでいたので余計苦労した。まあそれでも、美野里や琴美と特訓した英会話研修会が少しは足しになっていた。ところで、
「荻野君、元気出しなよ。佐伯さんが体調悪くなったのは本当だし、荻野君だけのせいじゃないよ。」
「けど、高田さんに嫌われたのは確かだからな。俺、軽く見られてるけど、あいつにはまじなんだ。ちぇっ、この旅行に懸けて来たのに、こんなはずじゃなかったのに。」いつも自信に満ちている太平の、こんな落ち込んだ姿は初めて見た。何故かそれまでなかったことが、ここのところ多過ぎだ。それに対処出来るだけの器量が、僕にはまだなかった。だから、翌日風が変わることを期待して、その夜は寝ることにした。慣れない外国の住宅のベッドだったが、意外と良く眠れた。
ハワイでの2日目は、全員合流のオアフ島観光だった。もうこの日の班は意味がなく、体調の悪い美野里と、機嫌の悪い琴美が以前の様に2人だけでくっ付いていて、太平も僕も入り込める余地がなかった。まあ、それは美野里の本意ではなかった様だが、よほど体調が悪いのだろう。琴美は、そんな美野里の体を気遣ってばかりいたみたいだ。太平はすっかり元気をなくし、直人達にからかわれても、上の空って感じだった。僕もつい、班のことを忘れて、遠くから真奈美さんの姿を目で追っていた。しかし、真奈美さんの方は自分の班で、自分の描いたままの修学旅行を満喫しているという感じだった。正直云ってここまでは、とても期待外れの修学旅行だったことは否めない。だけど、3日目は終日班行動だ。自分達で調べた観光地や交通手段で、オアフ島内を自由に散策する日だ。その日の為に、僕達は一緒に調べたり、意見を出し合ったりして、計画を立てて来たんだ。連泊するホテルに着いて、部屋で少し休憩した後、夕食のテーブルの席でやっと再び4人顔を合わせることが出来た。
「せっかく同じ班にしてもらったのに、心配かけてごめんなさい。けど、もう大丈夫です。明日はよろしくお願いします。」美野里が涙ぐんで云った。
「体調が悪かったんだし、気になんかしなくて大丈夫だよ。明日は楽しく行こうね。」
「あの、俺も謝らなきゃ。昨日は雰囲気壊して、ほんとにごめん。どうか許して下さい。明日は目一杯盛り上げるから、坂下と同じ、楽しく行きたい!」
「分かりました。けど、もう乱暴なことはしないで下さいね。私、乱暴な男の人がとっても怖いんです。お願いします。」
「それじゃあ、これで全員仲直りだね。」
「あの、私達は別に喧嘩してた訳じゃないんですけど・・」
「あ、そうだね。僕らはずっと仲良しだよね。」
「ずっと、仲良し。」僕と同じ言葉を噛みしめる様に呟きながら、頬に涙を残したままで、美野里は満面の笑みを浮かべた。すると琴美も笑い、太平にも笑顔が戻った。その後、僕達は楽しく夕食を摂りながら、翌日の観光計画の確認とかをしてから、男女それぞれの部屋に向けて一旦別れた。ところが、太平が先に部屋に入ったところで、僕は美野里に呼び止められた。
「どうしたの?何か忘れ物?」
「あの、琴ちゃん、荻野君のこと、嫌ってなんかいません。琴ちゃんには、誰にも云えないことあって苦しいけど、荻野君には、琴ちゃんのこと優しく見てあげて下さいって、伝えて下さい。」
「今荻野君呼ぶから、直接云ってやって。」
「いえ、待って下さい。後で伝えて下さい。お願いします。それに、私も・・」
「私もどうしたの?」
「私、私、坂下君に凄く感謝してます。」
「そんなに大袈裟に考えなくて大丈夫だよ。佐伯さんは、僕にとって大切な友達なんだから、もっと気楽にしてくれたらいいよ。」
「うん、そうだよね、そうだよね、あの、・・おやすみなさい。」まだ何か云いたそうだったけど、あれでよかったのかなと思う会話だった。まあ、その後そのことを太平に伝えたら、すっかり元気を取り戻した。
翌日のハワイ3日目の班行動の観光は最高だった。すっかり元気を取り戻した太平がリーダーシップをとって、2人の女子を優しくサポートして、琴美もとても楽しそうだった。こんなに楽しそうに笑っている琴美を見るのは初めてって感じで、とびっきり可愛く見えた。太平が夢中になるのも理解出来た。美野里も女の子らしく、ちゃんと身だしなみさえすれば、可愛くいい子だ。みんなが嫌がってるのは、気が知れなかった。この班にして正解だった。たくさん歩き周り、たくさん見て、たくさん笑い、たくさん写真も撮り、たくさん思い出を眼や心に焼き付けた。そうするうちに、僕達4人は夕方が迫るにつれ、2人づつに分かれて行った。それは同性同士ではなく、2組のカップルの様に・・。
「大平っていうのは、この太平洋から来てるんだ。海からは遠いのにさ、海が好きだからって、この大きな海みたいに広い心になる様にって、親が付けてくれたんだ。」離れて行く2人の会話がまだ少し聞こえていた。
「いい名前ですね。私もいつかそんな広い心に包まれたいな。」そんな会話に、僕達2人も顔を見合わせ、何かお互い赤くなった。
「高田琴美さん、俺、琴美さんのこと・」そこで、琴美が遮った様だ。
「分かってます。荻野君の気持ち、本当はずっと前からよく分かってるつもりです。けど、もう少し待って下さい。もう少しまだ、このまま友達でいて下さい。」
「何か深い訳があるんだな。」
「ごめんなさい。それもいつか、素直に何でも云える様になるまで待って、お願い!」
「分かったよ。琴美さんに本当に信頼してもらえる男になる様に努力するよ。」
「ありがとう。」2人の会話が聞こえたのはせいぜいそこまでで、2人の女子は意識的に少しづつ2組に分かれようとしている様だった。その後はすっかり美野里と2人きりになった。
「荻野君と、琴ちゃん、仲良くなれて良かった。」
「佐伯さん、優しいんだね。2人の為に気を利かして・・」
「そう2人の為にだよ。でも、本当はあの2人の為にじゃないんです。」ワイキキの夕日に赤く染まった顔で、美野里は更に続けた。
「私、この日の、この瞬間が来るのずっと待ってたんです。」
「それって、昨日ホテルの部屋の前で云いかけてたこと?」その問いに頷いて、
「私、坂下君のこと、好きです。ずっと前から好きです、大好きなんです。」彼女は、しっかり僕の眼を見て告げて来たのだ。その突然の告白に驚き、圧倒されていた。けど、何か返事しなくてはいけない。
「ありがとう。正直女子からそんなこと云ってもらえるの、初めてだから、嬉しくって、嬉し過ぎて何て云っていいか分からない。」
「坂下君に別に好きな人がいるの知ってます。知っててこんな告白するの、きっと変な子と思われるかもしれないけど、私どうしようもなく坂下君、大好きなんです。もっともっと綺麗になる様に努力します。もっともっと素敵な女の子になる様に頑張ります。だから、付き合って下さい。」どきどきしていた。
「ごめん、すぐ答えられない。でも、僕で良かったら、1度デートしようか?」断り切ることなんて出来なかった。熱意に押されていたと云い訳?僕は中途半端に受けてしまっていた。
「ありがとう!私の希望が叶うなら、クリスマスイブ、会って下さい。」
「うん、約束するよ。イブのデートだね。」どきどきが収まらなかった。真奈美さんのこと好きなはずなのに、彼女の気持ちを捉え切れないでもやもやして過ごす日が続いていたから、正直心が躍っていた。僕も、美野里のこと決して嫌いじゃないし、むしろいつの間にか好感持っていたから、本心嬉しかったんだ。僕達は、満面の笑みで見つめ合っていた。そして、握手した、それも強く。
翌日、午後の飛行機で、僕等は日本に向けて飛び立った。2つの恋の蕾を付けた想い出の修学旅行だった。
ご愛読頂きまして、ありがとうございました。正直のところ、書き始める前のあらすじの段階から”起”くらいまでは、もう少し緩い展開を予定しておりました。しかし、登場人物の心の動きを追っかけているうちに、その想いに押される様に展開が過激化していきました。生きてる人を描く醍醐味を感じながら、物語を進めております。次回は、いよいよ1つの目の盛り上がり点に達します。では、イブにお会いしましょう。尚、この物語はフィクションであり、実在の個人及び団体等とは一切関係ありません。




