男らしくなりたい
やっと第2回を投稿することが出来ました。一応1度完結しているんですが、起承転結の”起”以外はそこそこ自信があっても、この”起”だけは自信がありません。自分で読みなおしてみても、”承”以降の盛り上がりと比べて”起”だけが、何かくだらないんです。だから、少しでも読者の皆様を惹きつけられるようにテコ入れが必要と考えました。果して、上手く行くかどうかは分かりませんが、兎に角頑張りますので、よろしくお願い申し上げます。
僕の名前は、坂下優馬。中学を卒業したばかりの、高校入学を控えた草食系男子だ。中学では3年間吹奏楽部で金管楽器を吹いていた訳だが、高校に入ったら自分を変えたいので、脱文化系して体育系の部に挑戦したいと思っている。というのも、たった一人の兄妹である妹に馬鹿にされる自分が情けなかったからだ。実は、先日その決定的な事件が起こってしまった。
それは、
「ただいま。」日頃からひ弱さを馬鹿にされていたので、春休みにちょっと体力を付けようと、近所をジョギングして帰宅した時のことだ。
「おかえり。」キッチンの方からお母さんの声がしたが、直接顔を合わせないまま、着替えを大きめのレジ袋に用意した後一直線に風呂場へ向かった。汗をかいたので、ちょっとシャワーを浴びたかったんだ。脱衣所の扉は閉まっていたが、中で洗濯機の回る音がしていたので、僕は何のためらいもなく普段通りにがらがらっと戸を開けた。何故なら洗濯機の音がうるさいので、洗濯中は戸が閉まっているのが普通だったからだ。ところが、
「きゃー!」中に入ると同時にレジ袋を落とすように置き、Tシャツを脱ぎかけて首を通してる最中に間近で聴こえた妹の悲鳴。その意味するものを咄嗟に頭で思い描いて、慌ててそのシャツを放って扉の外へ飛び出して、
「見てないから、何も見えなかったから。」15歳になったばかりの僕が、学年で2つ差の13歳と8カ月の妹の裸を見てしまってはいけない訳で、つまり兎に角めちゃくちゃ焦っていた訳で、風呂場の扉が閉じかけた一瞬の映像を記憶から必死でかき消していた。
「もう、一体何の騒ぎ?」
「優のドすけべに覗かれた。それにやだ、お母さん、私の着替え持って来て。」
「着替え用意してたんじゃないの?」
「優の臭いシャツが、もろに私の下着の上にかぶさってるの。気持ち悪くて着れないよ。」もちろんわざとじゃない。偶然そこに行ってしまったんだ。上半身裸の僕を見たお母さんは、事の次第を飲み込めたようで、
「しょうがないわね。ちょっと待ってなさい。」妹の要求に応じて着替えを取りに行った。
「ごめん。まさかもう帰ってるとは思わなかったんだ。」
「最低。最悪。ひ弱で、馬鹿で、ドジで、変態で、臭くてもうたまんない。」
「ほんとにわざとじゃないんだ。それに何も見えてないし、」
「もういいから、あっち行ってて。」扉越しに酷く苛立ち怒っていることは明らかだった。まだ裸のままみたいだから当然だと思い、僕はキッチンに向かった。
「上、何も着ないの?」少しして、お母さんが戻って来た。
「ここなら寒くないし、風香が出てきたらすぐ入るから。」
「風香もすっかり女らしくなったでしょう。」
「いや、見てないから。胸見えそうになってすぐに目逸らしたから。」
「優馬は真面目ね。風香にも言っといたわよ。しっかり見られた訳じゃないんだから、気にしない、気にしないって。」
「しっかり見られてないからって、いいってもんじゃないよ。」妹の怒りは収まってはいないようだ。どたばたとキッチンに入って来ると、
「優さあ、いい加減に脱いだ服を私のと一緒にするの止めてくんない。優の臭いとか菌が移ったらやなの。もう知的レベルから云っても、生理的に云っても無理なんよ。兄妹だから仕方なく一緒に住んでるけど、もう嫌で嫌でしょうがないの。もう何でこんな人が私の兄なんだろうって、ぎりぎりで我慢してんだよ。」と云う妹は、僕と違って頭がよくて成績もいいし、運動神経がよくて運動部からは引っ張り凧だし、顔も可愛いし男子からも人気があるらしい。でも、だからと云っていくら何でも云い過ぎだと思ったし、さすがに悔しかった。
「わざとじゃないし、何もそこまで云うことないじゃないか。」
「それ以前の問題よ。ひ弱なくせに、デリカシーがないじゃない。野性的な持ち味の男ならともかくさ、弱かったらその分繊細な気配りってもんが必要でしょ。体弱いのに、頭悪いじゃない。その上気が利かないし、どじだし、愚図だし、音痴だし、足臭いし、冴えないし、高校生にもなるのに、彼女どころか全くもてたこともない。糞男子以外の何物でもないよ。くそくその実でも食べたの?」
「風香、それは云い過ぎね。優馬だって、一生懸命やってるんだし、頑張って高校受かったんだし、やる時はやる子よ。」お母さんがかばってくれた。
「あんな3流高校受かったからって、何の自慢になるの?」
「3流は酷いな。2流かもしれないけど、偏差値だって55あるんだぞ。」
「どうせまぐれでしょ。授業に付いて行けるかどうだか。勉強がやっとで、帰宅部になるか、中学みたいに下手な楽器吹いてるのが精一杯でしょ。だいたい頼りにならないじゃない。私の周りのお兄ちゃんいる子は、みんなお兄ちゃん頼りにしてるんだよ。でもうちのときたら、勉強の1つだって教われるレベルじゃないし、ましていざとなったら頼りどころか、お荷物そうじゃない。やだよ、将来出来の悪い兄の面倒なんか真っ平だからね。」
「風香、お互いたった一人の兄妹なんだよ。」
「こんなんだったら一人っ子の方がよっぽどよかったよ。きっと、優が死んだとしても、私泣かないからね。」
「もういいよ。それ以上云うなよ。」
「やだ、優、泣いてるの?」
「だって、そこまで云うのってあんまりだろ。」
「もう最低。妹に泣かされる兄ってどうなのよ。」
「風香、いい加減にしなさい。もうそれだけ云ったら気が済んだでしょう。」
「はいはい、ところでさあお母さん、今日又告られたんだよ。」
「今度はどんな子だったの?」
「はずれだよ。それも今までで1番きもい奴。まるで優みたい。」
「しつこいよ、風香。母さんはね、優馬のことも、風香のことも信じてるの。」
「ふん、お父さんもだけど、お母さんも優に甘過ぎ。これじゃあ、出来すぎる私が不憫だわ。」そんな捨て台詞を吐いてから、風香は自分の部屋に行った。
その夜、僕は考えた。
正直、妹に云われたことはショックだった。特に、死んでも泣かないと云われたこと、凄く傷ついた。僕の価値なんて所詮、ないに等しいのか?僕は、男としては弱すぎるんだ。もっと強くなりたい。男として、兎に角強くなりたい。ただただ、弱くて引っ込み思案の自分が情けなかった。本音を云えば、彼女だって欲しくない訳じゃなかった。ただ、ひ弱な自分にその資格がある気がしなかったんだ。例え女子と付き合えたとしても、もし彼女が危険な目に遭ったりした時、自分がどれだけその子を守れるか考えると、全く自信がなかった。
まあ、そんなありきたり?の理由で、僕は体育系クラブを目指していた。
ーーーそして、入学式の日の朝ーーー
「おい、優馬。」同じ大宮学園に進学した親友の健が声をかけて来た。
「健、これかもよろしくな!」今までと少し口調を変えて言ってみた。
「お、優馬、何か感じ変わってない?」
「そうかな。まあ、高校じゃ頑張りたいから。」
「随分張り切ってるじゃん。で、クラブはどうする?又吹奏楽やるか?」
「いや、僕は体育会系に挑戦しようと思ってる。」
「何かやりたいことあるのか?」
「まだ何するか決めてないけど、一歩踏み出したくってさ。」
「そうか。何かよく分からんが、優ちゃん、心機一転て訳か。でもちょっと残念だねえ。又一緒に吹奏楽やれると思ってたのに。」
「あー、健に優馬もいた。」
「あれ?千里って、公立受かったんじゃなかったか?」
「だろう。びっくりだろ。こいつさ、親説得して、ここ来てんだぜ。」
「もう、健と離れたくなくってさ、来ちゃった。」
「来ちゃったって、よく親許してくれたって云うか、第一公立蹴って来るか、ここ。」
「学費は、自分でバイトして出すからって言ったら、勝手にしろって。」
「まあ、親同士の信頼関係が味方してくれたのも確かだけどな。」千里の父親は税理士で、家がお寺の入間家の帳簿をもう何十年も預かってるらしい。
「つまり、健と千里は親公認の仲ってことだな。」
「そう、いいなずけ。フィアンセとも云う。ラブラブなのうちら♡ところで、優馬さっきから何か変だよね。イメチェン?」
「だろう。これはこれでびっくりだろ。何でも心機一転で、体育会系になるんだってよ。」
「えー!吹奏楽やんないのー。せっかく、又優馬も一緒だと思ってたのにな。」健と千里はそろって、中学から引き続いて吹奏楽部に入り、クラスも仲良く一緒になったが、僕はクラスも彼らと分かれた。そして、僕は宣言通り、体育系のクラブ見学を始めた。
入部したいクラブの候補は5つあった。野球部、陸上部、空手部、応援部、そしてパワーリフティング部だ。
甲子園を目指している野球部は、2年生エースの舞沢さんのピッチングに圧倒された。舞沢さんの球はそう簡単に打てないらしく、夏の全国大会は県内でも有望だそうだ。しかし、野球部には、新入部員の中に凄く嫌な奴がいた。
「俺は、絶対に甲子園行きます。」といきなり宣言したのは、小さい頃から少年野球をやっていて、中学までに残した抜群の実績が評価されてスポーツ特待生としていち早く入部していた国島直人だ。
「入部希望の坂下優馬です。よろしくお願いします。」
「はあ?おまえ聞いてなかったのか?俺もおまえと同じ1年だぜ。それより何だよ、ひょろひょろじゃねえか。おまえ野球経験あんのか?」
「いや、高校で始めてみようと思って。」
「止めてくれよ。野球舐めてんのか、おまえ。俺はな、中学では県内で1番のスラッガーだったんだ。けどよ、チームメートに恵まれなかったから、埼玉の準優勝が最高成績なんだ。全国レベルの俺にぴったりの舞台は甲子園しかない。おまえも見ただろ。舞沢さんの剛球。俺のバットと舞沢さんのあの剛球があれば、甲子園行けるんだよ。だからよ、もうへたくそに足引っ張られるのはごめんだぜ。」正直、妹に云われたのとはまた別の意味で不愉快で、すっかり野球部に入部する気が失せた。そして、次に体験入部した陸上部で僕の運命は大きく動き出すことになるのだった。
ここまでお付き合い頂きありがとうございます。今後の展開の宣伝になるんですが、この物語の命はキャラクターなんです。どのキャラがどう考えどう動くかが見せどころなので、まず登場したキャラクターを憶えて頂き馴染んで頂かないと生きて来ません。どうかキャラクターを可愛がってやって下さい。よろしくお願い申し上げます。尚、この物語はフィクションであり、実在の個人、団体とは何ら関係ありません。