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死なないで!

 やっとの思いで、”転”に突入することが出来ました。そのいきなりですが、このサブタイトルです。誰の身に何が起こるのか、それはまだ伏せておきましょう。読者様が読み進まれますうちに、少しづつ予感して味わって頂く為に・・・

 9月9日、僕はそわそわしていた。何故なら、7日に世界大会のカナダから帰国した真奈美さんが、帰国後初登校して来る日だったんだ。結果は既に情報が入っていて、真奈美さんの自己ベストのトータル295キロで、4位だったそうだ。

 僕は早めに登校して鞄を机の上に置くと、隣のクラスと部室を覗いてみたが、真奈美さんはまだ来ていないようだった。

 「何してんの?坂下。」教室の前でそわそわしていると、新キャプテンの三田村君が声をかけて来た。世界大会出発直前に、藤堂さんはバトンを渡したんだ。

 「月岡さん、まだ来てないみたいだね。」

 「あー、まだ来てないな。車渋滞してんのかな。」

 「車って、家の人に送ってもらって来るのかい?」

 「いや、藤堂さんとこに送ってもらうって云ってたからな。荷物多いみたいだから、校門まで迎えに行こうか?」僕たちは校門に向かった。

 「帰ってからの月岡さんと会ったのかい?」

 「メールで聞いただけだよ。俺からメールしたんだ。部員のことを気にかけるのは、キャプテンの勤めだからさ。」そう云われて、何か納得した。

 「今着いたんだ。」校門に行ってみたら、たくさんの荷物を抱えた真奈美さんと藤堂先輩がいて、真奈美さんは送ってもらった車に手を振っていた。先輩のお兄さんがハンドルを持っていた片手を離して応えて、帰って行った。

 「ただいま!ありがとう、出迎えに来てくれたんだ。」真奈美さんは以前通り元気そうだ。満面の笑みが眩しかった。

 「お疲れ様です、藤堂先輩、月岡さん。」

 「御苦労、新キャプテン。あーやっぱり、世界はレベルが違うな。メダル狙っていったけど、力不足だったよ。」藤堂さんもトータル4位だった。

 「運ばせて頂きます。」僕達は手分けして、荷物を運ぼうとした。

 「俺はいいから、月岡の運んでやってくれ。」そう云うと、藤堂さんはさっさと3年の教室の方へ行ってしまった。それからは教室に着くまで、真奈美さんの土産話しのオンパレードだった。

 「お土産たくさんあるからどうしようかと思ってたの、ありがとう。ちょっと待って、今お土産渡すから。」そう云って大きな紙袋の中から、メープルシロップとクッキーを出してくれた。

 「ありがとう。あ、時差ぼけとか、大丈夫?」

 「そうなの。早く目が覚めるから、きっと後で眠くなるよ。じゃあ、後は放課後ね。お土産配りもあるし、顔は出すから。」真奈美さんと三田村君は隣の教室に入って行った。出発前の見送りは2人きりだったから、正直のところ、帰って来たら又すぐに2人で話せると期待していたけど、ちょっとがっかりだった。それでも希望を捨てずに放課後部活に行ってみたが、真奈美さんはひたすらみんなの輪の中でカナダでの写真を公開しながら、土産話しに花を咲かせていた。英語を話せることで、日本のアニメ好きな外国の友達がたくさん出来たことに、とてもはしゃいで話していた。結局この日は最後まで2人で話せる機会がなく、何か又ふりだしに戻った感じだった。僕にとっては、少し期待はずれのちょっと寂しい出迎えの日になってしまった。ただ、お土産のクッキーの箱に小さな袋がくっ付けてあって、帰ってから気付いて開けてみると、可愛い携帯ストラップと、『私とお揃いなの。付けてね。』のメッセージの書かれたメモが入っていたのが、せめてもの慰めだった。

 その後も、真奈美さんとのことはまるで半年くらい前の雰囲気に戻った様に、仲間の1人という感じで、何の進展もないまま月日は流れた。1度盛り上がりかけていただけに、僕にとってはテンションを下げずにいることが精一杯で、彼女に対して何のモーションをかける勇気もなく、以前の様にただ練習に打ち込む様にしていた。真奈美さんも以前通り明るく接してくれるし、練習も同様頑張っていた。そんな姿を眩しく思い、過ごす日々に戻って行ったんだ。少しづつ、これでいいんだ、と思う様にもなっていった。そんな中、あの日が来た。

 それは、10月だというのに少し汗ばむ、3連休の中日のことだった。この日はパワー部の練習がなかったので、その代わりにトレーニングとして、僕は朝食後自宅からウォーキングに出かけた。

 「優馬ー!」公園の前を通りかかった時、聞き覚えのある女子の声がした。

 「千里?」手を振る彼女に、僕はトレーニングを中断して近付いた。

 「それもトレーニングなの?」確かに千里だった。

 「そうだけど、こんなところで何してるの?」千里はブランコの前にいた。

 「さっきまで、健と一緒だったんだ。」泣いてた様な顔だった。彼女の泣き顔なんて1度も見たことがなかったから、少しびっくりした。

 「喧嘩でもしたのか?」2人共ブランコに腰掛けた。

 「そんなんじゃないけど、最近さ、健凄く忙しくてあまりかまってくれないんだよね。今朝も呼び出したら来てくれたけど、10分だよ、たったの10分。お寺の手伝いあるから、又夜なって、振り向きもしないで帰るんだよ。」そういえば、健の家のお寺から割と近かった。

 「夜又会うんだろ?」

 「そうだけどさ。私としてはこの3連休バイトも入れず、友達とも約束しないで時間空けといたんだよね。なのに、寺には寺の事情があるから理解しろって。もう少し他に云い方あると思うでしょ。」千里の頬に一筋見えてしまった。

 「ごめん、千里が泣いてるの見るの初めてだから、何て云っていいか分からないんだ。僕でもよければ話しくらいは聞けるけど・・」

 「そうだよね。優馬にこんな顔見せたことないしね。ねえ、優馬から見てさあ、私って強い子に見える?」

 「強いかどうか分からないけど、いつでも楽観的だとは思う。何があっても、何とかなるよって、泣き顔なんてないくらい明るいって云うか。」

 「違うよ。私だって、こんな風に泣くことだってあるし、落ち込む時もあるの。

ただ今までは、そうなる前に健が傍にいてくれた。」

 「僕は経験ないんだよな。僕なんかそういうとこ全然子供で、女の子の気持ちきっと何1つ分かってない。やっぱり経験て大事だよね。」

 「優馬は月岡さんとどうなの?」

 「平行線ていうか、駄目にもならないけど、進展もないんだ。」

 「そうなんだ。けどさ、優馬は優しいよ。きっと1度彼女出来たら、凄くその子のこと大切に出来る人だよ。」

 「そうかな、女性の気持ちが分からない僕が大切に出来るかな。」

 「女性の気持ちって云うけど、1人1人みんな違うんだよ。私には私の個性があるし、健はそんな私をちゃんと理解してくれてるの。私も健のことしっかり見てるし、理解してるつもり。」

 「羨ましいな。理解し合ってるなんて。」

 「これでもほんとは一杯あったんだけどね。今もちょっとだけすれ違ってるしさあ。」

 「それはもう仲良過ぎてのことじゃないのか?」

 「まあ、今はそうだけど、こうなるまでにはいろいろあったんだよ。」

 「元々のきっかけはどっちからだったの?」

 「健からに決まってるじゃない。あいつさ、凄い気さくじゃん。健と出会うまでの私って、今よりずっと神経質で、こんなに誰とでも話せる様になったのもあいつの御蔭なの。健は、いいこと一杯与えてくれるっていうか、健さえいてくれたら強くいられるんだ。」

 「いい奴だよね。」

 「ほんとにいい奴だよ。友達思いだしさ。」

 「国島君が立ち直ったのも、健がかなり励ましたって、荻野君から聞いたことあるな。」

 「そうだよ。直人さ、あの試合以来全然自信無くして、すっかり荒れてさ。それ本来同じ野球部員が励ましてやれっていうのに、クラスの庄司しょうじ友原ともはらなんか、腫れ物に触るみたいにびびってさ。」

 「どうして、同じ部の仲間なのに?」

 「まあ、直人も悪いっちゃ、悪いんだけどね。あれだけ今まで高飛だと、反感を買ってもしょうがないかなあとも思うわ。」

 「部では意外と孤立してるってこと?」

 「だね。それでもいい時はいいけど、スランプなった時は悲惨だね。」

 「野球はチームプレイだからな。」

 「そうなんよ。本来直人が頼りの4番で、しかも内野の要じゃん。それが、新チームなってからのチームワーク最悪で、秋季大会も県大会前の1次戦敗退で、ますますテンションがた落ちで、以前の自信持ってた直人はどっか行っちゃってさ。」

 「そう云えば、始業式の日、いきなり休んでたな。」

 「そうなのよ。あの日練習場所の都合で吹奏楽部はないって聞いてたから、健とカラオケ行くことになってたんだよ。けど健は、直人が心配だからって云って、太平もバスケ部休んで、わざわざ直人の実家まで行ったんだよ。あの3人は1年の時から仲良かったから、御蔭でカラオケは女子会になったって訳よ。」

 「そうだったんだ。健、いいとこあるな。」

 「当り前でしょ、私のダーリンなんだから。あ、でも何でさ、優馬最近健とあまり話さないのさ?健、優馬に話しかけてもつれないって、寂しがってたよ。親友じゃなかったの?」

 「それは、健が虐めをしたりするからかな。それは千里だって同じだけどな。こっちから見てると、どうして虐めるのかなって思うけど、どうしてかこっちが聞きたいよ。」

 「それって、佐伯さんのことだよね。」

 「そうだよ。あの子が何か健や千里にしたのかって?」

 「別に虐めてる訳じゃないよ。健もそう。生理的に無理って云うかさ。虐めるつもりはないけど、近寄りたくないの、まじであの子だけは嫌。」

 「生理的ってどういう意味だよ?」

 「私ら、1年からあの子と同じクラスなんだけど、一言で云って不潔。鼻水くらいそりゃ誰だって垂れるけど、緑色の鼻垂れてんの見た時はさすがに引いたよ。小さな子なら兎も角、女子高生があれはあり得ないね。しかも、それをいつも制服の袖で拭くから、袖の色変わってぱりぱりになってんだよ。ティシューとかハンカチとかほとんど使ってないし、授業中に鼻ほじるし、口はぼうっと開けてるし、頭はぼさぼさでふけだらけで、近付くと臭ったし、1年C組ではみんなあの子避けてたんだよ。健も直人もあの子が傍に来ると何度も気分悪くなってたし、私も吐きそうになるの。」

 「でも、今は綺麗にしてると思うけどな。」

 「高田さんが、あの子の面倒見てるからだよ。」

 「仲いいみたいだね、あの2人。」

 「それも限度越えてるね。あの高田さんも変わってるわ。顔は凄い美人なのに、どうしてあの子とくっ付いてるのか、初めは訳分からなかったけど、完全に出来てるよ。」

 「出来てるって?」

 「体育でさ、バスケやった時とかパスなんか手渡しだし、授業中以外はいつも手繋いでるんだよ。おまけにトイレまで一緒に個室入ってたこともあるんだよ。」

 「そう云えば、いつも一緒にいるな。」だからどうだとは何も思わなかった。

 「もう完全に百合だね。」

 「百合って、女子同士の友情だったっけ?」

 「いやあ、それ以上だね。レズに間違いないって噂だしね。何でも2人だけの世界だし、もうあの子達だけは無理過ぎなの。」

 「もういいよ。千里や健の云うこともよく分かった。」そのまま聞いていると、洗脳されて、僕まで彼女たちを変な眼で見てしまいそうな気がした。

 「けど、優馬はあの子達の肩を持ちたいんでしょ。」

 「肩を持ちたいって云うか、あの2人には彼女達なりの事情があるんじゃないのかな?」

 「どんな事情か知らないけど、そんな事情わざわざ理解しなきゃいけない訳?」

 「別に千里達は嫌ならもういいと思うけど、僕はそれじゃいけない気がする。」

 「優馬が何こだわってるのか分からないけど、優馬って真面目過ぎ。優し過ぎ。がちがち過ぎって感じだね。そこが優馬らしさなのかもしれないけど、苦しくならない様にね。」

 「何か褒められてるのか、けなされてるのか分からないけど、ありがとう。」

 「褒めたんだよお。ところでさ、優馬って確か一人称”俺”にしたんじゃなかったっけ?」

 「男同士の時は”俺”にしてるよ。女子と話す時は何か”僕”の方がいい気がしてさ。」

 「ふーん、優馬ってやっぱり面白いわ。」

 「どこがだよ。ま、いいけど。」

 「ああ、何か優馬と喋ってるうちに気分がすっきりしたし、私もう行くわ。ごめんね、練習の邪魔して。」

 「いや、そんなの別に。あ、じゃあ。」

 「うん、話してくれてありがとね。じゃ練習頑張ってね。」彼女は、手を振って公園を出て行った。僕もその後すぐ公園を出て、千里とは逆方向へウォーキングを再開した。お互い、まさかその夜あんな形で又会うことになるとも知らずに・・。

 その日の夜、自宅のリビングでテレビのニュースを見ていた。すると、

 『今入って来たニュースです。今日の午後7時50分頃、さいたま市浦和区の路上で、ミニバイクが歩道を歩いていた男女2人に衝突し、バイクを運転していた男性は転倒して頭を強く打ち死亡、歩行者の男性も全身を強打し、意識不明の重体となっています。』

 「恐いわねえ、交通事故は・・」居合わせた母が云いました。

 「ほんと、災難てどこに転がってるか分からないね。」そこまで云ったところで、僕ははっとしてニュースに集中した。

 『大宮学園高校2年の入間健さんが病院に運ばれましたが、意識不明の重体。入間さんの友人の女子生徒は軽傷を負い、手当を受けています。』愕然とした。そして、次の瞬間携帯の着うたが鳴り響いた。”千里”だ。

 「優馬ー、助けて!健が、健が・・」

 「今ニュース見た。どこ?病院どこ?」

 「赤十字病院、優馬、来てくれる?」その後何返事したか憶えていない。僕は、財布を持ってすぐに家を飛び出し、大通りまで走って出て、すぐにタクシーをひろった。涙が溢れ出て、震えが止まらなかった。病院に着いてすぐに玄関口から飛び込んで、受付付近にいた職員の人に、

 「すみません、大宮学園高校の入間健君は・・」

 「おい、坂下、こっち。」太平が呼んでくれた。

 「健は?千里はどうしてる?」

 「落ち着け、俺も今着いたとこで、病棟聞いたけどまだ会ってないんだ。千里は動揺してるから、俺達はしっかりしないと・・」黙って太平に付いて行った。

 「太平、優馬、・・」僕達の顔を見るなり、千里が駆け寄って来て、もう泣きじゃくるばかりだった。

 「ごめんね、健の為に、こんな時間に・・」健のお母さんが気遣ってくれた。

 「私のせいで、私が無理云ったから、私をかばって、ごめんなさい。」

 「千里ちゃん、お願いだから、もう自分を責めるのは止めて、今は健の生きようとする力を信じて、ね。」健のお母さんは、千里の頭を撫でていた。

 「あ゛あ゛あ゛」間もなくして、けたたましく泣き叫ぶ声が廊下に響いた。

 「落ち着けよ、山野。お前が泣いてどうすんだよ。」茜と直人が来たみたいだ。

茜は激しく泣いていた。

 「入間君が死んじゃうなんて、信じられないよ。」少し動揺した。

 「今、手術中なの。縁起でもないこと云わないで。」千里がまじぎれした。

 「だって、お坊さんがいるから、あたし・・」

 「入間のお父さんだろが。入間んち、お寺だって聞いてなかったか?」直人がなだめていた。

 「紛らわしくて、悪かったね。檀家さんのお通夜の帰りだったから、着替える間なく飛んで来たもんだから。」お母さんもだが、お父さんも気丈だった。

 「あ、あの、すみませんでした。」茜が小さくなっていた。

 「どうなんですか?入間の具合?」直人が聞いていた。

 「頭を強く打ったみたいなの。他にもぶつけてて・・」云いかけて、千里が又激しく泣き出した。その右肘辺りに巻かれた包帯に少し血が滲んでいた。

 「入間健さんの関係者の方で、血液型がO型の方いらっしゃいませんか?腹部の内出血が思ったより酷く、今後血液の不足が予想されます。出来れば、大至急採血のご協力頂きたいのですが。」看護師さんからの要望だ。

 「私A型なの。どうすることも出来ない。嫌だよ、死んじゃ。」千里は必死だ。

 「大丈夫だ、絶対死なせたりしない。俺O型です。俺の使って下さい。」太平が名乗り出た。

 「俺もO型です。俺の血いくら使ってもらっても構いません。絶対入間助けて下さい。」直人も必死だった。

 「大平、遅くなってごめん。私もO型です。」バスケ部マネージャーの優菜だ。

 「ありがとな、優菜。」この2人の関係はよく分からない。

 「太平の親友だもん。放っておける訳ないじゃん。」3人はすぐに採血室に入って行った。

 「ごめん、僕もA型だから、役に立てない。」

 「そんなことないよ、優馬。きっと優馬や私の気持ち届くよ。そうでしょ。そう信じよう。」千里が僕の手を握って、泣きながら噛みしめる様な云い方だった。

 「そうだね、健は絶対笑顔で帰って来るよ。」僕も涙を堪え切れなかった。そして、健との出会いを思い出していた。健は、中学になって吹奏楽部に入部したての引っ込み思案の僕に気さくに声をかけてくれて、すぐに友達になってくれて、元気のない時は決まって励ましてくれて、何でも誘ってくれて、他の人達との輪にも仲間に入れてくれて、「入間っていうのは、入れよ仲間にの略だぜ。」って笑っていた。もう、溢れ出た涙が止まらなかった。

 「絶対死んじゃ嫌だよ。絶対嫌だよ。」を繰り返し、祈り続ける千里。

 「ねえ、あれ城崎さんじゃないの?」茜が云う方を見ると、僕達から少し離れたところに健の弟や妹と一緒に女の子が座っていたのだが、少しうす暗かったのもあって、それまではてっきり従姉妹とかの親戚の子だとばかり思っていた。そう云えば、健の兄妹達と話している様子はなかったので、よく見てみると、確かに2学期から転校して来た城崎舞だった。ずっと俯いて大人しく座っていたので、気が付かなかったのだ。

 「そうだよ。、舞の家と横井先生の家がすぐ近所らしくて、先生の車で一緒に来てくれたんだよ。」

 「横井先生はどうしたの?」

 「初めの採血の時、採血に行ってから見てないけど、先生のことだから携帯使えるところで、何か連絡取ってるんだと思う。」それからそれほど経たないうちに、採血に行った太平達や横井先生が戻って来て、しばらくはがやがやしていたが、そのうちみんな静かになった。僕は舞の所へ歩み寄って、みんなのいる所へ来るように誘おうとしたが、彼女の表情を見て自重した。舞は、とても友達としてまだ日が浅い子とは思えない様な真顔で、小刻みに震えながら、声を出さずに両頬をびっしょり濡らしていたのだ。この事態にしても、それは何か異様な気がした。僕はすぐにみんなの所へ戻った。そちらでは相変わらず千里が、泣きながらひたすら祈り続けていた。それから僕達は、果てしなく永く重苦しい時間を過ごした。夜明け前、ついには泣き疲れた千里が、僕の肩にもたれて眠っていた。手の甲には、眠りながらも溢れ出た千里の涙が、一粒、二粒落ちて来た。

 大きく話しが動いた途端、いきなり重苦しい展開にお付き合い下さいまして、誠にありがとうございます。実はこの展開、キャラクターを考えたすぐ後に、物語のおおまかな流れを組み立てた時点ではっきり決めていました。それだけ、”転”の発端の意味あいが強い出来事であり、今後の展開に必要な通り道です。果して命は救われるのか?も含めて、今後この出来事がどの様に登場人物達に影響して、どの様に展開をして行くのか?気にかけて頂ければ幸いです。尚、この物語はフィクションであり、実在の個人及び団体等とは一切関係ありません。

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