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謎の転校生

 ベタなサブタイトルですが、その内容は???ですよ。まあ、そのバリエーションも様々で、それ故転校生ネタは後を絶たないのでしょう。”承”もいよいよ大詰めです。ここで登場する人物は、続く”転”でどんな働きをするのか、乞うご期待!です。まずは、琴美視点で転校生を迎えます。

 9月1日、今日から2学期です。夏休みの間も美野里ちゃんとちょくちょく会って、その度お泊りしてもらってましたが、この10日程は会ってなかったので、楽しみです。美野里ちゃんとはすっかり仲良くなって、口の悪い人達は私達2人のことをレズとか云いますが、気にしていません。云いたい人には云わせておこうと思っています。私達は確かに深い絆で結ばれていますが、それは友情に違いないんです。それに私、本当は荻野君のこと嫌いじゃないんです。嫌いだったら、どんなに誘われても、一緒にカラオケに行ったりしません。美野里ちゃんにはあんなことを云ったんですけど、私の心の中では、荻野君の優しさに実は少し期待しているんです。私の脳裏に焼き付いている、”男の人は恐い”という気持ちを振り払ってくれることを。でも今はまだ無理です。やっぱり恐いという気持ちがとても強いから。だから、美野里ちゃんといると落ち着くんです。美野里ちゃんはとっても優しいから。

 「おはよう、琴ちゃん。」美野里ちゃんは、私より少し後に教室に入って来て、笑って云いました。見ると、随分たくさんの荷物です。

 「あ、おはよう。元気にしてた?」

 「うん、毎日ゲームばかりやってたよ。」治療の甲斐あって、すっかり鼻がすっきりした美野里ちゃんは、以前より随分明るくなっていました。

 「私は、会えなくて寂しかったんだよ。美野里ちゃん、メールもなかなかくれないしさ。」

 「ごめん、ゲームに熱中して、周り見えなかったの。琴ちゃんの御蔭で鼻治って凄く集中出来る様になったから、一杯クリア出来て、楽しくって。」

 「もう、しょうがないなあ。」

 「琴ちゃんは何してたの?」

 「私は本ばかり読んでたかな。たまに琴弾いたりもしたけど。」

 「又、琴ちゃんのお琴聴きたいな。」

 「今日、うち来る?」

 「いいの?」凄く嬉しそうです。

 「だって、そのつもりで明日の教科書とか、泊りの準備して来たんでしょ。」

 「お見通しだね。」もうすっかり当たり前の様に泊りに来るようになっていて、お互い慣れっこでした。

 「そうだ美野里ちゃん、ちょっと癖毛になってるから、梳いて可愛くしてあげるから、ここ座って。」私は時々、美野里ちゃんの髪を梳いてあげるんです。彼女は素直に座りました。私は鞄から櫛を取り出して、いつも通り梳き始めました。梳きながらちらっと顔を見ると、気持ち良さそうに黙ってにこにこしています。私はそれを見ては満足して、輪ゴムとか使って目一杯可愛い髪形に仕上げてあげます。そして、始業のベルが鳴るのと同時くらいに出来上がると、手鏡を見せてあげて、お互い満面の笑顔になりました。丁度そこへ担任の横井先生が、見慣れない女子生徒を連れて、教室へ入って来ました。私達は隣同士の席に着きました。

 「転校生なのかな?うちみたいな私立に珍しいね。」そう云って美野里ちゃんの方を向くと、彼女はもう笑っていませんでした。

 「起立、礼、着席。」

 「転校生を紹介します。」そう云いながら、先生は黒板に『城崎舞』、送り仮名『じょうさきまい』と書きました。その時美野里ちゃんの顔は、今まで見たことのない恐い形相で、その転校生を凝視していました。又、そんな彼女に気が付いたのか、転校生の城崎さんも美野里ちゃんの顔を見て、みるみる表情が険しくなっていくのが分かりました。それは何か怯えている様にも見え、只ならぬ雰囲気を感じました。

 「城崎さんは、お父さんのお仕事の都合で、山形の姉妹校から転校して来られました。」そして、自己紹介を促す仕草をされました。

 「あ、あの、城崎舞です。よろしくお願いします。」明らかに、動揺してあがっている様子です。一方、美野里ちゃんの表情は相変わらず強張ったままでした。その今まで見たことのない彼女の形相に、私は何も云えませんでした。でも美野里ちゃんの異変に気が付いているのは、城崎さんを除いて、きっと私だけでしょう。みんなは転校生に注目していて、城崎さんの様子を、さぞ変に思っていたことでしょう。周りは随分ざわついています。

 「城崎さんの席は、貝沢さんの隣が空いてますね。」

 「こっちだよ。」窓際の貝沢さんが手招きしています。ちなみに私達の席は、教室の丁度真ん中辺りです。

 「初めは慣れなくて大変だろうけど、すぐに慣れるよ。私、貝沢千里、よろしくね。」

 「あの、城崎舞です。こちらこそよろしくお願いします。」

 「名前はよく分かったけど、趣味とかあるの?」

 「カラオケが好きです。」

 「わあ、私もカラオケ大好きなんだよね。ねえ、よかったら今日早速転入歓迎会ってことで、行かない?他にも何人か来ると思うからさ。」

 「えぇ、他にどんな人が来るんですか?」

 「みんな楽しい奴ばっかだよ。変なのは呼ばないから安心して。」

 「変な人って、いるんですか?」

 「ちょっと耳貸して。」貝沢さんは早速城崎さんに何やら耳打ちしています。それって、どうせ私達のことを云ってるに違いありません。その様子を、美野里ちゃんが食い入る様に見ています。

 「行きます。ありがとうございます。」城崎さんの表情は少し緩んでいました。

 「はい、それくらいにして、静かにして下さい。」横井先生が云われると、意外とみんな素直に静かになり、簡単なホームルームがあって、それから体育館での始業式の後、午前中だけ授業がありました。その間、美野里ちゃんはずっと憂鬱そうでした。まるで元の美野里ちゃんに戻ってしまった様でした。

 放課後、部活動に残る人達を残し、私達はさっさと下校しました。

 「ちょっと持ってあげようか?」

 「いいよ、自分の荷物だから。」

 「元気ないね。」少ししてから私が云いました。

 「琴ちゃんは、私を信じてくれるよね。」更に少し行ってから云ってきました。

 「どうしたの?今日の美野里ちゃん変だよ。知ってるの、あの子?」

 「うん、中学の時の同級生なの。もう2度と会いたくなかった。」

 「何があったか、聞いちゃいけないの?」それに対して、美野里ちゃんは何も答えませんでした。ただ俯いて黙り込んで、何か考えている風でした。

 「マクド行かない?」沈黙は、私が破りました。

 「うん。」結局、それだけで何も会話が続かないまま、私達はファーストフードのお店に入って、お昼を食べました。

 「美味しいね。」

 「うん。」

 「ねえ、どうして何も喋らないの?」

 「ここじゃ、喋りたくないの。」

 「分かった。早く食べて、帰ろう。」それにも、黙って頷くだけの美野里ちゃんでした。私達は、本当にさっさと食べて店を出、まっすぐ私の家に帰りました。

 「あ、美野里ちゃん、久し振り!」弟の太平も、すっかり彼女に慣れています。

 「お邪魔します。」

 「美野里ちゃん、何か元気ないね。」

 「そうだよ。ちょっと今日はそっとしといてあげないと駄目だからね。」

 「うん、分かった。」

 「パパとママは、寝てるの?」両親は、午前の診療時間と夕方の診療時間の間に昼寝することが日課になっていました。私達はとりあえず私の部屋に行きました。

 「疲れたから寝ていい?」美野里ちゃんが云いました。

 「そうだね。私達も昼寝しようか。」まだお昼なのに、お蒲団敷いて横になりました。でも、ちっとも眠れません。

 「ねえ、ここでなら聞いていい?」そう聞いてみた時には既に、美野里ちゃんは寝息を立てていました。仕方なく私はその間ずっと読書に没頭しました。結局、美野里ちゃんは夕飯まで寝てたので、弟と3人で夕食を食べてる時は何かぼうっとしてる様子で、私と弟の会話にろくによっても来ません。それに、ずっと寝ていた為かお腹空いてないみたいで、あまり食べないうちに私の部屋に先に戻ってしまいました。

 「美野里ちゃん、どうしちゃったの?」

 「転校生が来たんだけど、それが美野里ちゃんの中学の同級生だったみたい。その子の顔見てから急におかしくなっちゃって、何が何だかさっぱり。」

 「虐められてたんじゃないの?」

 「それにしてはちょっと変なの。」

 「ふーん。」

 「ごめん、後、片付けといて。お姉ちゃん、ちょっと気になるから。」弟に頼んで、私も部屋に戻りました。

 「シャワーする?」

 「琴ちゃんも一緒に入ろう。」今度は、一転して甘えん坊の美野里ちゃんになっていました。

 「駄目だよ。今まだあれだから、美野里ちゃん先に浴びて来て。」もう終わりかけだったんですが、やっぱりそれは嫌でした。美野里ちゃんは渋々納得して、1人で先にシャワーして、その後私が続いてシャワーしました。それから、美野里ちゃんのリクエストに応えてお琴を弾いてあげましたが、この日の美野里ちゃんはほとんど笑いません。私はつまらなくなって、弾くのを止めました。

 「どうして止めちゃうの?」

 「だって、美野里ちゃん全然楽しそうじゃないじゃない。」

 「あの子がいけないんだよ。」城崎さんのことです。

 「そんなに悪い子には見えなかったけど、そんなに酷いの?」

 「嘘つきなの。嘘ばかり云って、私のこと、みんなから仲間はずれにするの。」

 「どういうこと?」

 「兎に角、琴ちゃんは私のこと信じてくれたらいいんだよ。」

 「私が城崎さんと話してみちゃ駄目かな?」

 「駄目だよ。絶対駄目!そんなことしたら、・・・」美野里ちゃんは急に黙ってしまいました。そして、ついには泣き出して、それも徐々に激しくなって行くんです。

 「そんなに辛いなら、私に打ち明けてくれないの?何があったのか、聞いてもいけないの?」それでも、美野里ちゃんは泣き続けていました。

 「分かったよ。ごめんね。親友の私が分かってあげなくちゃ、どうしようもないんだよね。気が済むまで泣いていいよ。それで楽になるんだったら、いいよ。」云いながら、私は美野里ちゃんの背中を肩越しに撫でてあげました。すると、美野里ちゃんは私に抱き付いて来ました。

 「琴ちゃん、大好きだよ。琴ちゃんだけだよ。琴ちゃんだけは、ずっと友達でいて!」そう云って私の胸で泣きじゃくる美野里ちゃん。私はそのまま、今度はしばらく頭を撫でてあげました。撫でながら、いきものくらぶの『泣かないよ』を唄いました。心を込めて優しく唄ってあげました。繰り返し、繰り返し唄っていると、美野里ちゃんも泣きながら小さな声で一緒に唄い出しました。

 「少しは元気になった?」

 「ごめん、琴ちゃん、この体勢疲れるね。」

 「正直、ちょっと疲れちゃった。早いけど、明日も学校あるし、寝よ。」蒲団は昼寝の時から敷きっ放しで、シャワーの後は私だけパジャマ着てたので、すぐにそのままごろんと横になりました。

 「トイレ行って来るからちょっと待ってて。」私は昼寝してなかったので、美野里ちゃんがトイレから戻って来た時には、既にうとうとしていました。美野里ちゃんはそれからパジャマに着替えていたので、彼女が蒲団に入って来た時は1度寝てしまっていたみたいです。後ろから抱き付かれた感じで起こされました。正直、ちょっとうざかったです。でも考えてみれば、美野里ちゃんは一杯昼寝してたので、眠くないのは当然ですよね。そう思ったから、うじゃうじゃ云っている彼女の相手をしばらくはしてたんですが、私だって睡魔に負けることあります。この時は本当に眠かったんです。

 「琴ちゃん、キスして。」

 「1度だけだよ。したら、寝させてね。」1度だけ唇を合わせてあげました。きっと、こんなの人に知られたら、やっぱりレズだと云われそうですが、キスだけです。私達の友情の証に過ぎないんです。でも、この夜の美野里ちゃんはそれだけではすみませんでした。執拗に抱き付いて来るんです。

 「もう止めてよ。どうしてこんなにべたべたするの?」

 「琴ちゃんのこと、好きだから。」

 「美野里ちゃんは友達だよ。でもね、もういい加減寝かせて。」

 「冷たくしないでよお、琴ちゃーん。」猫なで声でしつこいです。私は限界だったので、もう無視して寝ました。すると、彼女はすぐ横で、しくしく泣いていました。その声もいつしか分からなくなって、私は完全に眠っていました。

 2人の人間の仲が急激に深まる最も大きな要素は、他の誰も分かってくれないことを唯一分かってくれる人だと認め合い、信じ合うことじゃないかと思います。その信頼関係が脅かされるんじゃないかと不安を感じた時、どうすればいいんでしょうね。次回は更に、それぞれの秘密にまつわる話しへと発展します。ではこの辺で。ありがとうございました。尚、この物語はフィクションであり、実在の個人及び団体等とは一切関係ありません。

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