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カラオケに行こう

 私は小説を書くこと以外に、カラオケも趣味です。そのせいか、この物語のあちこちでカラオケの場面が出てきます。まあ、現代の高校生でカラオケに行かない子の方が少数派と思うので、ごく自然な成り行きとして、それらの場面を描いております。今回は、前回とは違った目線でのカラオケ風景です。

 それは6月17日金曜日の昼休みのことだった。この日はグラウンドの除染作業の都合で授業が終わるのが3時前で、放課後のクラブ活動も禁止、全員3時強制下校の日となっていた。

 「優馬、久し振りにカラオケに行かねえか?」健が誘って来た。

 「どうして、俺をカラオケに誘うんだよ?」

 「そう云うなよ。優馬、まじで最近つれないじゃん。今日ならお互い部活もないし、いい機会だと思ってな。千里と茜も来るんだ。来いよ。」

 「健らとカラオケなんて、もう真っ平だ。クリスマスの夜に、新宿で1人残された俺の気も知らないで、よく又誘えるよな。」

 「おい、2年も前のことだろ。」

 「1年半だよ。」

 「細かいな。どっちでもいいけど、茜は楓とは違って正真正銘のシングルなんだぜ。それに、あの時一緒に行った楓はプロデビューして今や人気歌手。その人気歌手とカラオケ出来たなんて、誰のおかげだと思ってんだよ。」

 「どうでもいいよ、楓のことなんて。だいたい俺はカラオケなんて興味ない。」

 「おい、入間。今云ってた楓って、もしかして”絆”のボーカルのカエデのことかよ?」健の言葉を聞きつけた太平が興味を示して来た。

 「そうだけど、知ってるのか?」

 「知ってるよ。馬鹿にすんな。俺もカラオケ大好きなんだ。そんでもって、絆の歌も唄えんだっつうの。そう云えば、カエデって俺達と同じ高校2年生だよな。」

 「中学の時の同級生だぜ。」

 「まじかよ。羨ましいぜー!そんで、カエデも来るのか?」

 「何聞いてんだよ。来ねえよ。でも、よかったら荻野来る?」

 「行く、行く。実は俺も丁度唄いたいなと思ってたとこなんだよ。」

 「じゃあ、私も行く。」突然現れた見慣れない子だ。

 「優菜ゆうな、いつの間に来たんだよ。おまえのクラスはあっちだろ。」

 「誰?」健も知らないらしい。

 「太平のフィアンセの2年C組飯岡いいおか優菜といいます。いつもダーリンがお世話になってます。」

 「フィアンセでも、ダーリンでもねえっつうの。」

 「もう、ダーリンたら照れちゃって。」

 「いや、照れてもいないし。で、どうしてクラスの違うおまえが来るんだよ。」

 「いいじゃねえか。彼女も来いよ、大歓迎だぜ。多い方が楽しいからな。一緒に盛り上がろうぜ。」

 「貴方、話し分かるー!」

 「おい、入間。こいつを甘やかさないでくれねえ。だいたい彼女じゃねえし、勘違いするだろ。」

 「まあまあまあ、楽しく行こうぜ。」健になだめられて、太平が次の言葉を見つけられずにいると、優菜はちゃっかり健と待ち合わせの約束をして、

 「じゃあ、そういうことで、ダーリン放課後ねー!お邪魔しました。」隣のクラスへ帰って行った。

 「あの子もバスケ部なのか?」

 「マネージャーだよ。1年ん時クラス一緒だったんだけど、俺を追っかけてバスケ部のマネージャーになったんだ。しつこくってたまんねえよ。」

 「荻野もまんざらでもないんじゃねえの。」

 「んな訳ねえだろ。」

 「はは、冗談だよ、荻野も大変だな。」

 「なあ、口直しに高田も誘っていいか?」

 「え、あの大人しい高田がカラオケなんか行くかな。」

 「いや、それが意外なんだけど、前に部の奴らとカラオケ行った時、偶然バレー部の戸倉とくらと来てたところに会ったんだよ。」

 「コラボしたのか?」

 「してねえけど、部屋の前通ったら、滅茶苦茶上手いんだよ、これが。」

 「戸倉じゃなかったのか?」

 「戸倉は前に一緒に行ったことあるけど、あいつは下手なアニソンしか唄わないし、声ですぐ分かる。そんでもって、受付と部屋に入って行くところで会ってるから、その2人に間違いない。」

 「そんなに上手いのか?」

 「あー、凄くな。な、入間も聴いてみたいだろ。」

 「そりゃあ、そんなに上手いんなら。あいつ大人しいけど、凄い美人だしな。」

 「では早速、誘って来るとしようか。」太平の目標の琴美は、もしかしたら健との話しの成り行きが聴こえてるのではないかと思うくらい比較的近くで、背を向けて美野里と喋っていた。

 「話し中ちょっといいかな?」それに振り向いて、

 「何でしょうか?」

 「聴こえてたかもしれないけど、今日みんなでカラオケ行くんだ。高田さんも一緒にどうかなと思って。」

 「みんなって、他はどんな人が行くんですか?」あっさり断ると思っていたら、少しは興味あるのか意外な返事だ。

 「入間と、貝沢と、山野と、C組でバスケ部マネージャーの飯岡優菜って奴だけど、嫌かな。」

 「あの人達って、ちょっと意地悪っぽいのが気になるんですけど。」

 「それなら、俺からよく云っとくし、何があっても俺が全力で守るから来て欲しいんだけど、駄目かな。」

 「もう1つ条件があります。」

 「な、何、何でも云って下さい。何とかするから。」太平の奴、琴美のことがよほど好きみたいだ。

 「佐伯さんも一緒に行っていいなら、行きます。」正直、この返事にはちょっと驚いた。太平も、少し戸惑ったか?その前に、当の美野里も、

 「琴ちゃん、私。」琴美の後ろから、随分慌てていた。

 「大丈夫、美野里ちゃん。荻野君なら、信用出来るから。」琴美は、太平からの誘いをずっと待っていたのか、意外と積極的だ。しかも、この一言は凄い。

 「あー、俺がいたら全然平気だから、2人共おいでよ。楽しく行こう。」太平の奴、琴美に「信用出来る」と云われたことがよほど嬉しかったみたいだ。

 「ねえ、私歌下手だよ。それに家遠いから。」

 「今日うちに泊って欲しいの。」

 「琴ちゃんのうちに、いいの?でも、着替えとか何も準備してないし。」

 「それなら大丈夫。ちゃんと用意してあるから。」

 「え、でも急に悪いし。」

 「それも大丈夫なの、パパもママも大歓迎だから。実はね、前から誘おうと思ってたんだけど、うち耳鼻科なの。美野里ちゃんのことパパに云ってみたら、それ鼻炎じゃないかって。機会があれば一度連れておいでって。美野里ちゃんさえ嫌じゃなきゃ、診てあげるって。」

 「でも、今日は保険証とか持ってないよ。」

 「そんなの平気。家族と同じ扱いで何とかなるから。」

 「え、いいの、本当に?」

 「いいの、いいの。て云うか、私が来て欲しいの。」

 「ありがとう。凄く嬉しい。」

 「じゃあ決まりだね。」どうやらそれで話しがまとまったみたいだ。まあ僕には関係ないことだ。少なくとも、この頃はまだそう思っていた。あの子の視線に気付かずに・・・。だから、僕が知っているのはせいぜいそこまでで、後の展開は全く知らない。正直、先週の東北行きの疲れがまだ残っていたせいか、放課後僕だけさっさと帰宅した。


 ***********

 バーベル馬鹿が帰った後は、この国島直人の出番です。俺が教室を離れている間にカラオケの話しが進んでるとは全く知らず放課後を迎え、バラバラと帰り始めたので、俺も仕方なく、学校の隣にある寮に戻った。内心、カラオケでも行きたいなと思っていた。実は俺、野球の次にカラオケが好きなんだけど、部の奴らときたらみんな音痴ばかりで、正直つまらなかった。有田先生からは、今日くらい体を休めた方がいいと云われていたので、どうしようかと思っていたその時だ。携帯の着うたが鳴り響いた。「山野茜」吹奏楽部のでぶか。でも、確かこいつ大宮公園球場の近くのコンビニの娘で、春の大会の時その店の前で偶然会って、成り行きでこいつを含む数人でカラオケ行ったことあった。結構ノリのいい奴で、又機会があったら行きたいとかで、メール交換とかしたんだっけ。そういえばクラスも同じの気がしたけど、でぶだからあまり興味なかったな。そんでも、たまにカラオケ行くくらいなら盛り上げて面白いやつなので、ちょっと期待して出てみた。

 「国島君、あたし山野茜です。分かりますか?」

 「ああ、前にカラオケ行ったことある茜だろ。」

 「憶えていてくれて嬉しいです。今クラスのみんなとカラオケ来たんですけど、国島君もよかったら来ませんか?」来たー!って感じで、二つ返事でOKして、すぐに着替えて出かけた。

 カラオケ店に着いてみんなのいる部屋へ入ってみると、丁度もめている真っ最中だった。俺も正直「うざ」と思った。何故か、あの鼻垂れブスも来ていたんだ。

 「ほら、国島君が来たよ。どうすんのよ。」貝沢が騒いでいた。

 「どうして、このメンバーなんだ?」つい聞いてしまった。

 「ほんと、無神経よね。せっかく国島君来てくれたのに、まさかこんなのまで来るとは聞いてなかったしい。」茜はパニクってるみたいに喚いてるし、

 「まさか、こんな余分なのがくっ付いて来るとは、甘かったな。」と、入間は頭を掻いていた。すると、

 「大丈夫、気にしなくていいからね。」高田があのブスに小声で云っていた。

 「おい、おまえらさ、そういう云い方ないだろ。」今度は荻野の奴がブスを庇っていた。何故か、バスケ部のマネージャーの飯岡が荻野にくっ付いてやがる。せっかく久し振りにすかっと出来ると思って楽しみにしてたのに、何かいきなり不愉快だった。でも、あんなブスの為に、虐めだとかけち付けられて大事な夢壊されるの嫌だったから、俺は折れることにして、ある提案をした。それは、

 「まあ、いいじゃんか。嫌だったら嫌で、好きなもん同士チーム分けして、紅白戦にでもすれば。」我ながら名案。

 「しゃあねえなあ。まあ、それでもいいか。」入間も一応賛成した。早速、

 「じゃあ、国島君と私ら吹奏楽チーム対それ以外ということでいいね。」貝沢があっさりチーム分けしてしまった。まあ、他には考えられなかったが・・・。

 「はい、そっちの2人、私のダーリンから離れてね。」飯岡が云い、

 「おまえが仕切るな。」荻野が叫んでた。もう仲間割れか?でも、高田達はどうやらそれでほっとしてるようで、飯岡の云いなりになっていた。しかし、あのブスは相変わらず汚なっぽいし、口開けて馬鹿っぽかった。口出して云えば又何云われるか分からなかったから黙ってたけど、見るのもおぞましいので、1番離れて座った。入間も同じ考えらしく、俺の隣に座った。見ていて滑稽だったのは、荻野の奴よほど高田に気があるらしく、やたらと気を遣ってやがったし、その一方で飯岡が荻野に絡みまくっていて、それを荻野が必死で避け続けてたのには一層笑えたし、そういう意味では案外楽しかった。ただ、紅白戦は様子が違った。

 自動的に両チームの合計点が加算されて行く紅白戦用の採点機能を使っての勝負で、やる前は我がチームの圧勝だと思っていたのが、俺も入間も貝沢も、盛り上げ役の茜までもが不調で、点が伸び悩んだ。それに対し、荻野は絶好調みたいだし、飯岡もまあまあで、あのブスも意外と歌はそこそこ唄ってやがった。それに、高田の上手さには圧倒された。大人しいのでなめていたが、声も出てたし、音程なんか絶対音感かと思うほど完璧で、すっかり主役になっていた。結局、悔しかったが、やればやるほど差を広げられ、大差で負けた。

 「どうだ、高田の上手さはよう。」と、荻野はまるで自分がプロデュースしたように、どや顔してたのは印象的だった。更に、

 「あのブスがじろじろ見るから気持ち悪かった。」

 「あの子、やっぱり変よ。人の顔じろじろ見るの。」と、入間と貝沢が口々に云ったのは、あのブスへの気持ち悪さを余計かきたてた。

 「又来ようね。」と、どんどん馴れ馴れしくなった茜は逆に段々うざくなってきた。

 「ダーリン、ダーリン。」と、飯岡は荻野しか見てないし、高田と鼻垂れブスは俺の顔を見ないように避けっ放しだったのは、むしろ妙に不愉快だった。確かにこっちもあのブス見たくなかったけど、あの態度は何かうざい!

 結局俺達は延長もして、3時間カラオケしてから解散した。

 高田琴美の父親が耳鼻科の開業医であるという設定は、初め深い考えなしに、1人くらい医者の子にしておけばいいかなくらいに適当でした。それも、何科にするかはちょっと珍しい設定にしようみたいなノリに過ぎなかったんですよ。美野里の鼻炎や鼻水も、虐めの動機にふと思いついたのを取り入れたに過ぎません。よだれをネタにしたアニメの存在はその設定の後に知りました。又書き進むうちに、琴美の家の耳鼻科が使えることに気付き、自分でもちょっとびっくりでした。いい加減で適当な設定が次々に物語を展開させた点で、こんな奇跡的なものは2度と書けないだろうし、他の誰にも書けないだろうと、ちょっと自負しております。この物語で又皆様にお会い出来ることを楽しみにしております。ありがとうございました。尚、この物語はフィクションであり、実在の個人及び団体等とは一切関係ありません。

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