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僕達に出来ること

 以前に予告させて頂いていたように、ここから起承転結の”承”に入ります。承とは、受け継ぐという意味で、起を受け継いだ話しの展開です。やがて訪れる物語の大きな転回に向けての、いろいろなことがじわじわと進んで行きます。

 5月30日月曜日。放課後のパワーリフティング部の練習の前に、主将の藤堂先輩が大事な話しがあると、部員全員を集合させた。

 「大事な話が2つある。まずその1つ目は、昨日関西大会があり、月岡の最後のライバル、京都酪農高校の竹宮しずかが競技した。結果はトータル280キロ。」その途端、どよめきと歓声が上がった。しずかのそれまでの記録を大幅に上回っていて、真奈美さんの285キロに急接近していたことへのどよめきと、例えぎりぎりであっても振り切っていて、真奈美さんの世界大会出場が事実上決定したことへの歓声だった。真奈美さんは小さくガッツポーズをして、全員からの拍手を受けていた。

 「これにより月岡の世界大会出場権が正式に決まったこと。そしてもう一つは、みんなも知っての通り今東北地方では、復興に向けての震災の後片付けに多くの人手を必要としている。これは俺の独断だが、我がパワー部も微力ながらボランティアに参加しようと思う。賛否両論あると思う。個人的強制はしない。俺に付いて来る奴だけでいい。尚、日程とか、場所とか、宿泊とか、移動手段とか、まだ何も決めてはいないが、だいたい金曜の放課後から日曜の2泊3日が妥当と思う。早ければ6月10日、遅くても24日には実行したいと思っている。」

 「それって、学校とか、先生の許可はどうなんだよ。」3年生の先輩だ。

 「それは大丈夫だ。滝先生には相談済みだし、最低でも先生と俺の参加は決定している。手続きは先生がほとんど全部してくれる。」

 「怪我したりした時の保障とかは大丈夫なのか。」又同じ先輩だ。

 「部費で3日間の移動中も含めた保険に入ることになってる。」

 「何も決まってなくて、あてあるのか?」別の先輩の突っ込みだ。

 「車は滝先生の8人乗りのワゴン車があるが、いろいろ荷物があるから、せいぜい5人しか乗れないと思う。人数増えた場合は、先生と俺とで応援をあたるけど、1番の候補は俺の実家の15人乗りのマイクロバスと兄貴の運転という手がある。場所と宿泊はこれから調べて、俺らの力がより発揮出来るところを見つけるつもりだ。」

 「あの、藤堂先輩、その宿泊なんですが、」僕が思いつきで手を挙げた。

 「何かいいあてあるのか?」

 「帰って親に聞いてみないと分からないんですが、僕の親戚で仙台の近くで旅館やってるとこがあって、震災の為に一部使えない部屋とかあるって聞いたことあります。」

 「おう、それはありがたい。是非、聞いておいてくれ。」

 「もし、期待はずれだったらすみません。」

 「その時は又考えればいい。さて、他にないか?」

 「女子でもいいんですか?」真奈美さんが手を挙げた。

 「もちろん強制はしないが、望めば拒みもしない。ただ、月岡は今云った通り世界大会がある。滝先生とも相談して、無理をさせる訳にはいかない。」

 「世界大会行くのなら、藤堂先輩も同じではないですか?」

 「分かった。御家族とよく相談した上で申し込んでくれ。」

 「分かりました。今日親に相談します。」

 「他にないか?」

 「よし、ないみたいだし、それくらいでいいだろう。」いつの間にか滝先生が来られていて、藤堂先輩に代わって、話しを続けられた。

 「藤堂の説明通りなんだが、これは学校行事でもなければ、先生サイドの強制も全くない。藤堂が云いだした、いわば自主性の問題だ。だから、もちろんそれに賛同する者だけでいいし、参加しないからといって誰に咎められることもないし、それを苦にすることもない。ただ、黙って行かせる訳にもいかない。おまえらに決して危険なことをさせる訳にはいかない。こっちも出来る限りのバックアップをさせてもらうので、それらを理解した上で参加か否かを決めてくれ。以上だ。遅くなったが、月岡、おめでとう!さあ、準備運動の準備だ。」真奈美さんがそれに応え、再度拍手があってから、いつも通りのトレーニングへと移っていった。


 その日家に帰ってから、僕は早速母に相談した。

 「お母さん、仙台の旅館は今どうなってるの?」

 「どうして?何か用があるの?」そこで僕は、その日の藤堂先輩の話しをした。

 「それなら、丁度いい部屋がいくつか空いてると思うわ。電話で聞いてあげるから、待ってなさい。」早速母は実家に電話をかけてくれた。電話はだいたい十数分で終わった。

 「大丈夫だって。2、3人でも、2、30人でも使ってくれたらいいって、どうせ、別館の方は当面旅館として使えないから、6月中ならいつでも来いって。爺ちゃんも、お姉ちゃんも、そういうことなら大歓迎だって。」という訳で、話しはとんとん拍子に進んだ。

 6月10日金曜日の放課後、真奈美さんや園香や三田村君や春樹も含む総勢11人の復興支援チームは、藤堂先輩のお兄さんの運転の実家のマイクロバスで、被災地に向け出発した。そして、その日の夜遅く、母の実家の旅館に着いた。暗くて目で見た様子は分からなかったが、けっしてテレビでは感じられない、津波で打ち上げられた魚の腐ったような臭いが鼻をついた。

 翌朝、男性9人は再びマイクロバスに乗り、作業予定地に向かった。被災地の惨状は行くまでの想像を遥かに超え、果てしなく広大な範囲に及び目を覆いたくなるものばかりだった。そこで僕らは、筋力を活かした力作業を任された。

 男性陣が現場作業をしている頃、真奈美さんと園香は旅館に留まり、お礼の旅館の手伝いを含む、主にみんなの食事の準備などをしていた。

 「いろいろお世話になってすみません。」と真奈美さんが手伝いながら云った。

 「とんでもね。本当によく来てくれて、お礼云うのはこっちの方だ。」と伯母。

 「あの、ここん処はこれでいいでしょうか?」

 「充分だあ。あんた、本当に呑み込みいいねえ。どっかでこういうアルバイトしたことあるのかい?」

 「いいえ、ここへ来て初めてです。」

 「へー!本当に筋がいいと云うか、将来うち来てくれないかね?どうもうちの子は旅館継ぐ気ないみたいだし、甥の優馬を養子にとって継いでもらおうかと思ってたとこなんだけど、優馬どうだい?」真奈美さんは意外な話しの展開に、返事に困った。

 「真奈美、赤くなってるよ。」そこを園香が突っ込んだ。

 「え、やだ、坂下君とはそういうんじゃなくって。えー、赤くなったりしてないよー。もう、園香。」

 「それにしては、その慌てようは怪しい。」

 「怪しくなんかない。坂下君は、三田村君や倉元君らと同じ、みんな仲間だからね。」

 「ごめんねえ、変なこと云って。」

 「いえ、全然。褒めて頂いてとても嬉しいです。」

 「ふーん、私の見た感じでは真奈美気があるように見えるし、坂下君だって、真奈美に気があるよ、絶対。」

 「坂下君が私に?」

 「うん、あれは間違いないな。坂下君、よく真奈美の方見てるよ。」

 「えー、そうなの?坂下君そんなこと全然云わないよ。」

 「鈍いなあ、真奈美は。云う訳ないよ。坂下君めちゃくちゃシャイだもん。」

 「へーでも、えー、どうしよう。お願い、今の話し内緒にして。園香が私に云ったことも全部内緒だよ。」

 「うん、いいよ。真奈美がそこまで云うなら。」そんな会話がされていたとは僕は全く知らず、ひたすらがれきの後片付けのお手伝いをしていた。それを後で聞かされたのは、かなりして、伯母から母へと伝わってからのことだった。

 それはさておき、その日の午後のこと、僕は作業中がれきの中に隠れていた硝子の破片で左腕を少し切ってしまった。血が少し出たが、大騒ぎされるのがいやだったので、こっそり自分で救急箱から消毒液を出して応急処置をし、持って来ていた白いハンカチで傷口を覆って作業を続けた。夕方旅館に戻って、ちゃんと処置しておこうと再度傷口をみてみると、不思議なことにはっきり切れたと思っていた傷口が、まるでかなり前の傷のようにふさがっていて、白いハンカチを染めているはずの赤い色もほんのわずかしかなかった。

 翌日、僕らは午前中だけ作業して、その後は怪我とかすることなく無事予定を終え、旅館で昼食を摂ってから、被災地を後にした。

 まずは、ご愛読ありがとうございます。さて、この物語は、初めに登場人物の設定から着手しました。主人公から設定し、その関係から、名前、性格、親の職業、兄弟姉妹、特技、趣味など、結構一通り細かく設定しました。その基盤の上で物語を進行させたんです。その初めの登場人物の設定を崩すことなく、その範囲の無理のない進行を心がけました。すると、奇跡ともいうべき様々な不思議なことが起こりました。その1つが、主人公優馬の母の実家の親の職業を東北地方の旅館の経営にしていたことです。それが、物語の進行に偶然使えたんです。他にも一杯あって、名前の妙とか、琴美の親の職業とかは、実に自分でもびっくりの偶然で、見事に話しをつなげることが出来ました。もう筆者自身が、登場人物の1人歩きに驚きの展開を見せられた感じで、書いててもわくわくしました。尚、この物語はフィクションであり、実在の個人及び団体等とは一切関係ありません。

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